お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第83話 成果報告と婚礼準備

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休暇明けのトレーニングで汗を流し、朝食後に登城。

地下通路は大変便利。
これだけでも邸内に住んでて良かったと思える。
有り難や有り難や。

陛下と後宮で会い、サーペントとジャンガリカワウソの討伐報告。

両方驚かれたが。特にカワウソ。
「その様な魔物は聞いた事がない」

「私も知りませんでした。大滝の観光を楽しんでいたら突然南から接近してきて。

初見で倒せたのは奇跡です。

ライザー殿下と擦れ違ったのは謝罪しますが、
我らも休暇中で他に用事もあった為、
そこはお許し頂きたいです。

その件と被っていたのも僥倖ですね」

「決して無視した訳ではなく。
普通に気付きませんでした。申し訳ありません」

「ライザーの件はまあ良い。
その魔物の遺骸を見たいのだが」

「ここでは無理です。
何も無い広間になら出せます。床が盛大に汚れますが」

ヘルメンは暫く考え。
「騎士団の訓練所を空ける。あそこなら水も流せる。
若い者の教育にもなるからな。
若さ故の無知で君らの強さを疑う者も居るだろうしな」

実物で教材とするのか。
「悪くはないですが。お時間はどれ位掛かりますか。
長時間なら改めますが」

「いや1時間程度で準備出来る」

「では私たちはミラン様にお伺いして中庭の散策でもさせて頂きます」

「うむ」

ヘルメンは衛兵を呼び、各部への指示を与えた。

俺たちは近室に居たミラン様に声を掛けてお散歩。


変わらず青系の花が神々しい中庭。

「紫陽花ですか」
「綺麗だね」

「よくご存じで。小さな花弁が房になって開く様が可愛くて毎年の楽しみなのです。ヘルメンは殆ど無関心で。
ハァ…」

「忙しいだけですよ」
「その責任の一端は私たちにも在りますしね」

「責任など。
下臣となる貴方たちの責を取るのが王足る宿命です。
気にせずお進みなさい」

「「はい」」

後からメルシャン様も早足で。
「どうして私も誘って下さらないの。
酷いわフィーネさん」

「い、忙しいかなぁと」

「あらあら私は暇だとでも?」

「そんな滅相もない」

女性3人でお喋りを始めてしまった。

俺は少し離れて庭を回った。
そこで珍しい薔薇を見付けた。

紫の薔薇か…。日本でも完全に青色は開発されていなかった。

こちらの世界ではどうだろう。

ミラン様の花なので触れられはしないが。
呼ばれるまでその前にしゃがみ込んで眺めた。


態々女性陣も後ろに回って来てお喋りを継続…。
嫌ではないが姦しい。


後ろの声は気にせず観賞を続けていると。

「スターレン様。ご準備が整いました」

「はい。今行きます」

「何のご準備ですの?」メルシャン様が興味津々。

「休暇中に討伐した大型の魔物を陛下にお披露目をするんです」

「「私も!」」仲が大変宜しいようで。

「余り見ても楽しいものでは…」
「血塗れで…少々匂いますよ?」

「構いません」
「私もオーク以外の魔物は文献で拝見するだけで
実物にはお目に掛かれませんから。単に見たいのです」

「解りました。陛下には説明して下さいよ」

「ご心配無く」


衛兵に連れられ、女性3人と近衛数名で移動。

何だかんだ。訓練所に入るのも初めてか。

新兵たちが毎日血と汗を流す神聖な場所。

王妃と王女も2階の観覧席ではなく1階に同席。

外周を訓練兵や監督官も立ち並ぶ。
最上位を前にガチガチに緊張している。


ヘルメンの号令。
「出せ」ゴーグルを構えながら。

「では遠慮無く」

サーペントの成れの果て3体とジャンガリ溺死体を
並べて置いた。

4体共に体長10m前後の大物。
その邪悪な姿に外周が息を呑んだ。

「サーペントは1体だけピクピクしてますが危険はありません。腐らせたくないのでお早めにどうぞー。

手で直接触れられるのは蛇の外皮だけです。
巨大鼠は手が腐りますのでご注意を」

「あ、あぁ…」
勇気を絞って陛下がゴーグルと肉眼で見比べ
サーペントの外皮を何カ所かぐいぐいと押していた。

度胸あるな。

「うむ。何方も本物だな…」
「念の為手をよく洗って解毒剤を飲んで下さいね」

「う…、そうしよう」

メルシャン様が胴体からはみ出た鮪の頭を見付けて。
「あれは本鮪では?」

「はい。今回も鮪釣りを楽しんでいたらサーペントまで釣れてしまって」
「血抜きする前に2つに割ってしまったので
食べられません。綺麗に燃やして家畜の飼料にするしかないですね」

「そうですか…残念です」


「陛下がご満足なら仕舞いますが」
「そうせよ」


4体収納後。
「陛下はあれらを解体出来る人物をご存じですか?」

「…いや知らんな」

やっぱり知らないか。
「仕方ないですね。因みに裁定待ちのギークって今何処に居るのですか?」

「そこの兵舎隣の宿舎内でリハビリ中だ。
会いたいなら案内させる」

「是非。お願いします」

フィーネが。
「私はお二人にお茶に誘われたから」

「了解。後宮で合流しよう」



衛兵に連れられ宿舎の1室へ移動。

久々のギークは汗だくで腹筋をしていた。
「お久し振りです。汗臭いっすね」

「久しいな。…後で風呂に入る。我慢しろ」

「ちょっと全く別件で聞きたい事があるんですが」

「スターレンには迷惑しか掛けてない身だ。知り得る事なら何でも答えよう」

直球でサーペントと巨大鼠の解体が出来る人物を知らないかと尋ねてみた。

「何方も伝説級の魔物だな。たった二人で倒したのか?」

「ええ。運良く」

「…それは運とは言わないが。
解体か…。俺もだが、デニスにも上位の魔物の解体は無理だろうな」

「そうっすか」

「しかし。東のギルドなら専門の解体屋が複数居る。
それと何処かに魔物の遺骸を解体を可能とする道具があるとか聞いた事はある」

「東に行くか、道具で解体かぁ。
因みにどんな物かはご存じで?」

「確か…。何かの角だったと聞いた気がするな」

何かの角か…。

「解りました。有り難う御座います。
早く釈放されるといいですね」

「釈放されてもモヘッドの下には戻れん。それではまた変な誤解を生むからな。
潔く引退するか。ここの新兵の教育係にも誘われている。

それを受けるかだが…。カーネギに赤子のように捻られた今では自信や誇りなんぞ粉微塵だよ」

愛想笑いをお返し。

「見ていたのか」

「ええ、まあ。離れた場所から」

「羞恥だ…。あのカーネギの実力なら東でも一線級でやって行ける。世界は広いと思い知らされた。

今後の事はゆっくりと考えるさ。手足の調子も前以上に戻して貰った事だしな」

「また自由になったらみんなで飲みましょう。
ご助言有り難う御座いました」

「誘われたら飛んで行く。東に付いて聞きたくなったら聞きに来い。少なくとも数年は王都から出られんし」

「その時は是非」



手汗もびっちょりのギークとの握手は避け、笑顔でお別れした。

後宮に戻った頃には丁度お昼時。
そのまま会食に預かった。

ロロシュ邸に戻り際。
「どうだった?ギークさん」
「上位の解体はギークもデニスさんも無理だって。
他の手段は解体用の道具があるかもって言ってた」

「そっかぁ。それってどんなの?」
「何かの角じゃないかってさ」

「角…。それなら拾ってるかも」
「え!?水没で?」

「そう」

善は急げと。ロロシュ邸内の訓練所を借用。

「もう今日は確認を一気にやってしまおう」
「やっちゃおー」
「クワッ」

初手。水没迷宮産、1層目。

その場で着込める武装をした上で順番に。

名前:剣魚の角
性能:滅菌効果、高耐熱、防水加工
特徴:串物等の料理に最適

「お!」
「お料理に使える!」

階層主産。

名前:剣魚の黄金角
性能:滅菌効果、殺菌処理、高耐熱、防水加工
   先端で触れた魔物の遺骸を即時解体可能
   執行者に対し有用な部品以外は消滅
特徴:うっかり大切な物に触れない事

「「これだ!」」

「金色だったんだ。中では色がよく解らなかったから」
「ふむふむ」

「2層は魔石ばっかり。階層主からはこれが出た」

大小魔石は全て水属性。

名前:暗黙のクリップ
性能:中身の収納物を完全隠蔽
   (真贋の瞳に対してのみ無効)
特徴:書類を挟んだり、
   袋や鞄に取り付けるだけの簡単設計。
   紛失注意

「水没凄えな」
「もう1回行こうかなぁ…。蛸狩りだけ」

早速リュック内に挟み込んだ。
「これで当分は大丈夫だ」
「ペリーニャちゃん以外のスキル持ちには注意だね」

居ない事を祈ろう。居て堪るか。

「3層は同じ魔石と海月の皮。それと主から三つ叉の矛」

名前:水海月の皮
性能:完全防水、完全耐圧、無味無臭
特徴:内縫いでも外縫いでも縫合時に透明化吸着
   食用不適、
   粉で服用時は強力な下剤効果(2日間継続)

「食べたらあかん奴や」
「全部シュルツに渡そう」

名前:ポセラの矛
性能:攻撃力4000(水竜神の加護:絶大)
   知能以外の全能力値+2400
   装備者固定(フィーネ:死亡時解除)
   24時間に一撃のみ任意魔力を攻撃力に上乗せ
特徴:太古の昔。
   水竜の鱗を剥ぎ取れたとの逸話を残す矛
   制作者、素材不明、唯一無二

「「「………」」」

「どうしよう。水竜様を愛してしまいそうです」
「現実に戻って来て下さい」

「はい」

一撃必殺の矛。
この攻撃力があればカワウソを普通に倒せたな。

クリアでピカピカに拭き上げられ、水色の矛はそっとフィーネのポーチに収納された。


ちょっと一息。

「シュルツ呼んじゃう?」
「その前にジャンガリが隠してた人間サイズの小物類が気になる」

その時、後ろから。
「何をされているのですか?」
シュルツ本人がご登場。

序でだからとここまでのアイテム説明。

「これは便利ですね。解体の角もクリップも。
確かにスターレン様の背負い鞄の中身が何も見えません。
私も欲しいです」

逆に今まで上位に丸見えだったんかい。
それはそれで怖いな。

「後5個位欲しいわね。最低5回は通うのかぁ。
でも今は無理。少なくともアッテンハイム後ね」

全員で頷き合う。

「次は素材解体前に、気になった小物類を1つずつ」


鋏。

名前:裁断の裁ち鋏
性能:魔力を込めるとどんな素材でも裁てる
   成立品や人体には全く刃が立たない
   消費魔力:所持する毎に20
   消費魔力:一裁ち毎に2
   攻撃力:80(通常時)
   防錆、防汚、刃毀れ防止機能搭載
特徴:切りすぎ注意

彫刻刀。

名前:破断の彫刻刀
性能:魔力を込めると硬い石でも思いのままに削れる
   組込品や人体には全く刃が立たない
   消費魔力:所持する毎に15
   消費魔力:一削り毎に2
   攻撃力:50(通常時)
   防錆、防汚、刃毀れ防止機能搭載
特徴:これで貴方も工芸職人

裁縫セット。

名前:断絶の裁縫用具
性能:魔力を込めるとどんな物でも針が通る
   人体には決して刺さらない
   縫い直し制限:一カ所10回迄
   消費魔力:所持する毎に30
   攻撃力:30(通常時)
   防錆、防汚、折れ曲り防止機能搭載
特徴:裁縫技能は別物で練習あるのみ

金槌。

名前:断塊の鉄鎚
性能:魔力を込めると
   どんな石でも任意の大きさに砕ける
   人体には不干渉
   消費魔力:所持する毎に25
   消費魔力:一振り毎に2
   攻撃力:90(通常時)
   防錆、防汚、折れ曲り防止機能搭載
特徴:大切な石には使わない事

「断シリーズ…」
「シュルツの為にあるようなシリーズね」
「…理想的です。これがあれば作業が捗ります!」

フィーネは少し考え。
「これらは渡したいけど…。使わない時は隠したい。
私の箪笥に入れて渡すわ。これが狙われたら危険だから」

「良いのですか?」

「新しいクリップが見付かるまでの間だけよ」
「はい!」


シュルツが申し訳無さそうに。
「適切な縫い糸が見付からないので…
もし良かったら、古竜様のお髭の先端を鋏で切らせては貰えませんか?」

「これを伸ばして糸に使うの?」

『それだな。大鼠は素材として欲していたのやも知れぬ』

「成程な。誰かに装備品を作らせる為か。
ならこれも使わない時は箪笥に入れる様にな。

先を標準の太さで伸ばすから切ってみて」

「はい!」

10cm程度伸ばした所。
根元では刃が通らなかったが、手前で切断出来た。

「使い方は…」

あっと言う間に使い熟していた。

「教えるまでもなかった」
「シュルツのセンスが神々しいわ」
「クワッ」

念の為触れてみた。

「そっちのは所有者もシュルツになってて加護までそのままだな」

「標準の延長距離も本体と変わりません」

「緊急時はそれを装備して防御に徹するのも良いわね。
私とクワンティの分も切れないかしら」

試しに伸ばして切ってみたが、何方の延長も力を失い只の硬い紐に成ってしまった。

「能力移行は1回切りだったな」
「そんな美味しい話はなかったか…」



さていよいよ。

「今日のメインそろそろ行きますか」

全員の承諾を得て。

4体横並べ。即座にシュルツが角で突いて回った。

血溜りさえ残さず、部品に分かれて地に降りた。

ポツンと残された割れた本鮪は回収。
フェンリル様が納得してくれればこれで1匹分。

サーペントの血は丸ごと血袋に変換され、肉だけ地べたに並んだ。それだけはこちらで回収。

牙や皮。大魔石。眼球石は全てシュルツへ。

ジャンガリからは赤色の大魔石と猛毒の瓶…だけ?

「あんなに強かったのにこんだけ?」
「しょっぼ…。強いだけで下っ端眷属だったのかな」

「毒瓶はまた何かに使える…かも」


俺たちはこの時。誰も想像していなかった。
この猛毒の瓶こそが、最後の切り札になる事を。



毒瓶はこちらで回収。

その他素材を本棟東側の離れに在る、シュルツの作業場専用工房に運び入れた。

綺麗に整理整頓されている。

大きな作業テーブル。小さめの椅子が5脚。

バイスや標準的な裁縫セットやグローブが片隅に。

工房の奥には資材置き場。

脚立や陳列棚。シンプルイズベスト。

資材置き場に素材を置いて、フィーネが箪笥の中身を入替えて引き渡した。

「作業は何時も1人で?」
「寂しくない?」

「いいえ。作業をする時は侍女長を筆頭に、入れ替わりで見ていてくれて。警備の方々も様子を見に来てくれるので寂しくはないです。時々力仕事をお願いしたり。
脚立にも登らせてくれない過保護振りです」

それは良かった。

「なら安心だ」
「良かった」


時刻は16時過ぎ。

「そろそろ夕飯の支度するか」
「シュルツはどうする?」

「行きます!と言うか空けてあります!本棟もお断りしています…。御爺様も一緒です」

「そりゃ責任重大だ」
「やっぱり自炊も我が家でやるのが一番気が楽。
スタンさん。本日の献立は?」

「とろろ麦飯と魚介天麩羅&野菜掻揚げです!」
「おぉ素晴らしいメニューです」

「また新しいメニューですね。楽しみです」




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今夜のゲストはロロシュ氏、シュルツ、アローマ。

アローマは今日は勉強だけでと言っていたが
途中でお腹が鳴り始め、最後は強引に席に座らせた。

昆布で麦飯を炊き、昆布鰹出汁は自然薯用と天麩羅用に醤油の濃さを切り分け。

シュルツに内緒で滋養酒の隠し味も。

とろろに乗せる生卵は当たる懸念がある為パス。
トッピングは刻みのりだけにした。

野菜掻揚げは人参、牛蒡、玉葱オンリー。

何十年振りの海老天に2人で感動していると。

「何れも美味い。
自然薯もこうすれば食べやすい物なのだな」

「天麩羅も衣がサクサクで付け汁を吸って美味しいです」
よし!と2人でガッツポーズ。

「今日も頂いてしまいました…。
とっても美味しいお料理を」

「どしたのアローマさん」

「いえ…。当主様の前では言い辛いのですが。
侍女仲間から私だけ狡いと言われておりまして」

「内緒にすれば良いだろ」

「ロロシュさんもこう言ってるんですから」
「気にしない気にしない」

「有り難いお言葉ですが。嘘が吐けない性格なもので」

「大丈夫ですって。まだ魚介は無理でも鰹節なら財団経由で最速で入って来るんで。そしたら本棟の料理長にレシピを渡せばいいんです」

「こう考えましょう。何れ本棟で作って貰う為のお勉強と味見だと。
味見しなくちゃ何も伝えられないじゃないですか」

「…そうですね。先を見越したお勉強と実食。
これで胸の支えが下りました。有り難う御座います」


「明日はもっと凄い物に挑戦するんで」
「まだ誰も食材だとは認識していない物で、誰も知らない調理法を」

「それは楽しみだな。明日もまた来よう」
「「楽しみです!」」

「明日は午前に足りない物を購入して。昼過ぎから裏庭で実践するんで、
本棟の料理長にも声を掛けておいて下さいね」

「うむ」


食後にアローマからスマホの返却の申し出があったが
まだ暫く持っていて欲しいとお願いした。

城との連絡はソプランを通した方が早いのもあって。



その夜の就寝前。

「スマホの配布悩むなぁ」
「このまま4はアローマさんでもいい気もするし」

「フィーネも持ってないと気軽に話せないだろ?
女性同士」
「そうなんだよねぇ。でもそうすると何れメルシャン様も欲しがるだろうし」

「うーん。最初は6台もあんのか!と思ってたけど
実際配り始めると足りないもんだな」

「贅沢病だ」

「言えてる。メルシャン様が外務に同伴する様に成ったら予備機を渡すかなぁ」

「悩ましい~」




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朝の日課は欠かさず。

朝市でサルにゴーギャン家に渡しちゃったからと追加で中型冷蔵庫を発注。
外務出発までに間に合わせてくれるらしい。

ペリーニャ欲しがるかなぁ。


武器屋に発注していた鉄球を受け取りに行った。

また内緒だぜえと300の発注が500に上乗せされた。
次も何かカスタムを約束して。


キッチョムさんの店に顔を出したが新たなガードルは見付かってないとの事。

悄気るアリーちゃんの頭を撫で撫でして退店。


雑貨屋数店で昼から使う炭とブロックと速乾糊を購入。
運良く備長炭そのものが手に入ったが
念の為、ポムさんの店で団扇の代用品と横長のまな板と竹炭も購入。

同時にBBQ用の焼き網も。


そんなこんなでもうお昼。

自宅に戻ってアローマに軽食を頼みつつ、裏庭に焼き台を建造。

高さは腰のやや下目狙い。
こっそりリバイブで強度増しの接着剤促進。


昼食後にバスタブを流水路付近に配置して、散水口から分岐してちょろちょろ掛け流し。

鰻は全く元気だった。

人間って残酷だ。

アローマが。
「その様な…。ウネウネと奇っ怪なお魚が…」
初めての鰻との遭遇で怯え。

「大丈夫ですって。失敗しても焦げるだけなんで」
と宥めた。


流水中に漬け塗り用の醤油たれを準備。
ザラメが無かった為、蜂蜜を加えて代用。

味見してフィーネとハイタッチ。

そうしている間に裏庭に続々と人だかりが。

皆バスタブの中を覗いては、えぇ!?と言う反応。


観客の主賓たちの顔が揃った所で調理開始。

「流離いの料理人のスターレンです」
「助手のフィーネです」

「本日は大変お日柄も良く」
「止めましょう」

「本日はまだ誰も遭遇した事のない食材」
「地方名では鰻。
釣り人の間ではイールと呼ばれるこのお魚」

「長さはラフドッグでも見掛ける太刀魚と似ていますが全くの別物」
「今回ご用意した鰻はラフドッグ北の流域で2人で釣って参りました」

「現在流水を掛け流しておりますが。この鰻は手で掴もうとすると逃げる為の粘液を身体中から発します」
「大変ヌルヌルします。刺激し過ぎると身のお味が落ちてしまいますのでご注意を」

「滑りを出させず、掴んでまな板の上に置いた瞬間に目の後ろの頭部を!この太長の釘でぶッ刺して固定します」
「かなりの残酷な光景です。気をしっかり持って備えていて下さい」

フィーネが持ち上げ、乗った瞬間に突き刺した。

端々から軽く悲鳴が聞こえた。

「少々外してしまい…。暴れ狂っておりますが直ぐに大人しくなるので構わず捌きます」
「鮮度が命なので続行です!」

「首の鰓下に中骨まで縦に切れ目を入れます。
間髪入れずに下腹から刃を入れて中骨沿いに、一気に尻尾まで断ち切ります」
「勢い良く一気に!背鰭の皮は残した方が後々便利です」

「次に中骨を外すのですが。腸の中間部にある丸い部分が肝臓でこちらも焼くと美味しい珍味になりますので切り取って水に着けておきます」
「苦みで好みが分かれる部位ですね。私は食べます!」

「腸を除去したら軽く水洗いし、中骨を外します」
「こちらも一気に」

「綺麗に取れました。鰻の血は焼くと旨味成分に変わりますが、生の状態で摂取してしまうと激しくお腹を壊します」
「手に付いた状態で目を擦ると被れますので止めて下さいね」

「開きが終わり、次は焼き用の串打ちです」
「今日はこの剣魚の角と言うレアアイテムを使いますが
普通に長い竹串や金串でも大丈夫です」

「本日ご用意した鰻はとても長いので…
6本打ちにします。
下側の皮と身の間に串を刺して行きます」
「身が厚めになるように差し込んで下さい」

杭を外して焼き台へと移動。

「串打ちが終わったらいよいよ焼き工程です。
今日は雑貨屋で売っていた備長炭と火の魔石を配置し、
直火に近い温度に設定しております」
「とても熱くなっておりますので水分補給もお忘れなく」

「最初は両面をざっと3分ずつ焼いて、表面に浮き出た血を飛ばします」

脂が垂れて煙りが上がった。

「早くもいい匂いですが。ここから更に」
「料理用の刷毛などで着けだれを塗り込みます」

もくもくと立ち上る煙と甘く香ばしい匂いに、観衆一同の鼻が鳴った。

俺は串から手を離さず、フィーネに汗を拭いて貰いながら団扇で炭を煽った。

「火加減次第ですが、今日の様な高温で焼き上げる場合は片面が大体15分程度になるように何度も返してたれを塗り込んで下さい」
「この煙に耐えながらの作業です。
その隣の空いたスペースで更に香りの暴力を追加します。

焼き網をセットし、先程の肝と。朝から冷蔵庫で寝かせておいた味噌漬け厚切り豚ロース肉を投入です!」

味噌と甘醤油の香りの競演に、そこかしこでお腹が鳴っていた。

「豚肉も鰻も焼き上がりました…。
今日は20人。アローマさん追加のお皿持って来て」
「はい。只今」


ゲストの中には見た目で解る程、お腹の大きくなったサイルベイン夫人、ギャラリアさんの姿も。

「ギャラリアさんも順調そうですね」

「ええ。4ヶ月目に入りました。
夫がご迷惑ばかり掛けているそうで」

「お気遣いされてはお腹に触ります。
ギャラリアさんには鰻を大きめに切りますね」

「そうそう。お仕事上では持ちつ持たれつ。
お互い様です」

「大きな案件を丸ごと貰ってしまった身としては恥ずかしいばかりだが」


皆様大絶賛。中には絶叫してる人まで居た。

主に料理長さんが。
「あのイールが…こんな美味になるなんて!!
スターレン様には負けていられない。
目と鼻と舌に志かと焼き付けましたぞ」

「ロロシュさんに供給ルートを確保して貰うにしても
乱獲は止めて下さいね」

「ハッ。肝に銘じて。
後程着けだれのレシピを教えて下さい。
自分たちで何か代用品が無いか私共でも研究します」

「解りました。後で鰹節と一緒に書いて送ります」

「お願い致します!」


たれ焼きされた肝は泣く泣くフィーネが半分に切り分け
ロロシュ氏とギャラリアさんに配布した。

「「!?」」

絶句しながらモグモグしていた。

「鰻の肝も鉄分一杯なので。きっとお腹の赤ちゃんにもいいですよ」

「有り難う御座います。
年下なのにフィーネさんが聖母様に見えて来ましたよ」

「何を仰いますやら」
社交辞令に照れながら柔らかく笑い合っていた。


久々の鰻の蒲焼きの味にフィーネと固い握手を交し。

「これから残りも一気に焼いてしまいますが。
そちらは婚礼用の贈呈品なので皆さんの分はありません」
「どうかお許しを」

「はい!」


解散となった後も見物者多数の中で鰻を焼いて行った。




---------------

片付けとお風呂の後。

シャンパンを飲みながら、麦飯を炊いて。

殴り込んで来たソプラン、カーネギ、ミランダの分まで蒲焼き丼を用意した。

内緒で2匹を9等分。

「絶対内緒ですよ。自分たちだけで2匹も食べたなんて
漏らしたら批判浴びますからね」

「全員共犯です」

「はい!」

肝焼きも9個を振り分けた。

他が濃い味なので薄味の野菜スープも添えて。


ロロシュ氏が。
「単品でも麦飯に乗せて焼きだれを吸わせても、
大変美味である!食の歴史が変わって行くな」

「あんまり広めないで下さいね。これだけでも結構な商売出来ますけど」
「グルメの拡散は早いですからねぇ」

「うむ。供給と需要は限定化する」


「シュルツはどう?あっさりにも出来る調理法もあるけど」
「大きな身で食べると全然違うでしょ」

「はい!大変美味しいです!肝も大人の味がします」


クワンも満足そうにニコニコで鰻を食べていた。

大分表情が解るようになってきたな。


ソプランが。
「残りの七匹分の配分はどうすんだ」

「それねぇ…。明日明後日で2匹ずつ。
合同は人数が多いから3匹かな」
「ホントは合同は4匹の予定だったのにねぇ」

「悪かったよ」
「ごめん。我慢出来ず」

ミランダも。
「食欲を抑えるのが限界でした。申し訳ありません」

「まあ胃袋に入ってしまった物は仕方ないです。
目減りした分は蛤の甘露煮で補います。
明日の朝一から焼きまくるんで。アローマさんとミランダさんも手伝いに来て下さいね」
「邸内に配布する分まで作るので」

「「はい!」」

「蛤の甘露煮か。それも楽しみにしておこう」


「シュルツも明日は出席だっけ?」

「はい。ミラージュ家の代表者として」

「なら一緒に行けるわね。お風呂で匂い落としてから着替えに行くから本棟で待ってて」

「はい!
私も朝から贈呈品の仕上げがあるので頑張ります。
…内容は内緒です」

「そりゃ楽しみだ」
「楽しみね」




---------------

夕食で解散した後も、残りのシャンパンと葡萄ジュースでオーブンで焼き直した味噌焼きを肴に晩酌。

「忙しいなぁ」
「楽しい忙しさだからいいけど」
「クワァ~」

「鰻はもっとガッツリ食べたかった…」
「それ言わないで。この豚さんに申し訳ないわ」
「クワァ…」


家族の団欒をのんびり過ごしていると。
ロイドちゃんからの連絡が。
「智哉。大変言い難いのですが…
また北から飛んで来ます」
マジかぁ…。いやーな予感はしてたけど。

「フィーネ。またフェンリル様からお手紙届くってさ…」
「え…」
「ク…」


気分台無しで玄関前で座して待った。

上空を南へと通り過ぎる大きな鳥の姿。
「あー。あれガルーダだな。クワンたちの祖先の」
「へぇ。あれが」
「クワァ」

まさかフェンリル様の眷属として現存しているとは。
世の中不思議で一杯だ。

今回は空から包みがストンと落ちて来た。
結構大きい。


包みを開くと。手紙の下に…大きな爪が入っていた。

何の爪だと思いながらもお手紙を。

「本文。

我は大狼フェンリル。
諄いようだが名乗った覚えはない。

そのイール焼きも美味そうだな。
来る時に忘れずに持って来い。小さいから十は欲しい。

また面白い物を見せて貰った礼に生爪を剥いでみた。

心配は要らぬ。直ぐに生えるからな。
しかし痛かった。自分でやった事だから怒りは無い。

お前らのサイズに縮小化もしてやった。大事に使え。

大鼠から奪った装備品の一部にでも使える筈だ。

一昔前にその大鼠が我の前にも来た。
ちょろちょろ嗅ぎ回るから殴ってみたら泣いて帰った。

何をしに来たのかは知らぬ。

素早い大鼠をあんな倒し方をするなど、大いに笑わせて貰った。抱腹絶倒だ。

笑い転げて集落の一部を壊してしまって…
娘たちに怒られたではないか!!

これ以上笑わせるな。気にせずもっとやれ」

「「「………」」」

「どっちだよ!!」
「気にするなって言ってるんだから…気にしないくていいんだと思うよ」
「クワ」大きく頷いた。

「まあいいや。あんな面白い事はそうそう出来ん」


名前:大狼の爪
特徴:装飾品、装備品に使えば大狼の加護:絶大付与
   物理特性変更、形状変更、盗難防止機能
   使い道は多岐に及ぶ


「使い道は今後だな。装備品も調べてないし」
「収納袋にも使えそうだけど。今はまだ渡せないね」
「クワァ」


フェンリル様の貴重な爪はリュックに収納。

「明日も早いしもう寝ますか」
「クワッ」
「…ちょっと、月一来ちゃったから普通にね」

「そっか。辛くはない?」
「元々重くないから大丈夫。今日は鉄分一杯取ったし」

女性の身体は神秘だ。
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