お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第105話 南方への視察03

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昨日の夕方にハイネの財団宿舎に居たシュルツに眼鏡を返却し、城にノイツェの隊と捕虜を送り届けて今回の任務は完遂した。

押収した道具類は全て国庫に納められ、何か欲しい物はあるかと問われたが特に目に留まる物は無かった。

「昨日は骨折り損だったなぁ」
「偶には何も得られない日もあるよ。私も魚人さんたちとお話して来ただけだし。2層の鯱からは歯のオブジェ。3層のクラーケンなんて空っぽだよ。魔石すら出さなかったんだよ」

「まあいいじゃないの。魚人さんから貴重なお土産貰ったんだし」
「まあね。上位の氷魔石は中々手に入らないしね。でも魚人さんの常識が違い過ぎてビックリ。遺品の魔石を物物交換でヒョイとくれたりして」

「水巫女の人徳の賜さ。色々と検証してみたいけどそれはシュルツが工房に帰って来てからにして。本日は1日何しますかね?」
「遺跡探索は明日以降かな。溜まって来た魔石類を合成で纏めようと思います」

「なら俺は梅の実とフカヒレの天日干しを始めるのと。ララードの種の栽培を裏庭の空き花壇で始めるよ」

早速二手に分かれ作業を開始。

俺は裏庭。フィーネは寝室。クワンは俺たちを交互に眺めるそうだ。

照り付ける太陽の下。干し物をするには絶好の季節。
干し網台を設置して漬け鍋から梅の実を取出し並べ。隣の網では下処理済みのフカヒレを干した。

台の外周に蠅や害虫避けの蚊帳を配置。


鍋に残った梅酢をベースに。人参、胡瓜、大根の浅漬けの開始と。フィーネが作ってくれた鯨肉の唐揚げに掛ける、梅酢の野菜餡掛けを作成した。

両方共鍋に蓋をしてお休みさせる。

それが終わると裏庭に引き返し、花壇に種を5つ間隔を空けて植えてみた。養生中の札を立ててと。

植え込み作業が終わった頃。アローマとミランダが揃って現われた。
「スターレン様。トーラス商会よりお手紙が届いておりますが」
「何を植えられているのですか?」

お、フローラさんの新作のお知らせかな。

手紙を受け取り、2人に花壇の説明と日々の水遣りの依頼をした。3人の侍女の内誰かは邸内に居る筈だと。

「フィーネは寝室で作業中だから邪魔しないであげて」
「「畏まりました」」

焼き台のメンテナンスをしてバスタブを給水口近くに置き鰻を入れた。

「夕方に焼こうと思って。人も少ないし。今日は忘れずプリタも呼ぼう」
「それは良い考えです。プリタも喜ぶでしょう」

ミランダが干し網台を指し。
「こちらは何を干しているのですか?」

序でに梅干しとフカヒレの説明。

「鮫の背鰭の皮を剥くとこれになる。これを天日干しでからからにして煮込み直すと極上のフワトロ食感の美食が出来るのさ」

喉を鳴らす2人に口外無用を唱えた。
「港じゃ塵として捨てられてる部位だからさ。俺たちで独占したいなぁって考え中」
「承知しました。広めなければ安価で手に入りますからね」
「でもお二人が購入している所を目撃されてしまうと忽ち人気商品となってしまいます。納入ルートは二次を立てるのが宜しいかと存じます」

ナイス、ミランダ。
「だよなぁ…。ま、その鮫の生息域と漁獲量を調査してから考えるさ」

梅とフカヒレは4日間。雨天時以外はこの場所で干し続け日毎で返すのを追加でお願い。

タイミング良く降りて来たフィーネとプリタを呼び出し5人で昼食。

梅甘酢餡掛けを食したフィーネが。
「この手があったか!」と驚いてくれた。

「淡泊な肉質ならお酢の餡掛けが一番相性いいかなって。今日は梅酢があったから使ったけど。普通の食酢でも充分美味しい物が作れると思います」
「お見逸れしました」

侍女3人もウンウン頷いていた。

餡掛けは色々と広範囲で使えて外さないから重宝する。

「鰻を焼く前にトーラスさんとこ行こうと思います。フィーネさんの体調は?」

手紙の内容は予想通りフローラさんの新作完成報告。
「いいわね。体調はバッチリ。自分の残量見ながら合成してたから。異種合成はしてないから枯渇はしないよ」
異種合成が一番消費が多いのか…。求める結果を確定させてからじゃないと気軽には頼めないな。

「なら良いですが。枯渇しそうならやるのはここでだけにしてくれよ」
「はーい」

「3人もトーラスさんの店行ってみる?」

「滅相も無い」一番驚いたのはアローマ。
「トーラス様のお店って…」
イメージが浮かばないミランダに対し。
「三区の超高級宝飾店ですよ」と情報通のプリタ。

「過度な施しは侍女長から叱責されますのでご勘弁を。しかしながら…」
「「大変興味はあります!」」

3人娘も見物だけに行きたいと申し出た。結婚式も終わった事だしと。

「スタンさん」
「何でしょうフィーネさん」

「今後は特に。私の許可無くポイポイ高級品を女性にプレゼントするのは許しません。今日のも私が払います」
「俺はただ喜んで貰おうと」
「いい加減自覚してよ。渡された側がどう取るかも解らないのに。気分がいいのはスタンだけ」
「えぇ…」

「そうですよスターレン様。貴方様は国内では知らぬ者が居ない程に高名で、英雄様で、御役人様で、豪遊し続けても大金が湧いて出てしまう大金持ちなのです」
「お相手側が誤解して愛人にでも成れると擦り寄って来てしまったら如何するのですか?お遊びで摘まみ食いでもするお積りで?」
「私は独身でお手付きされても構いませんが。後でフィーネ様に地獄送りにされるのだけはマジ勘弁です…」
「誰もそこまでしようだなんて」

「人に依ってはそう言うのも有り得るって話よ。幾らスタンが真面目に振舞っても駄目。こないだのエドワンドでの出来事を忘れたの?」
あぁ…なるほろ…。
「自重します。贈り物は相談の上で…。こないだサンにバレッタあげちゃったのはどうしよう」

フィーネが額を押えて項垂れた。
「手遅れじゃない。彼女なら勘違いもしないでしょうけど。もう品物や渡す予定は無いわね?」
「無いっす」
「解りまし…。傷心中のクラリアさんに何かあげようだなんて考えてないでしょうね」
「か、考えてました」
「アホなのか!そんなに浮気したいの!!」

「自覚の欠如した垂らし行為が一番危険ですよ」
「お気を付けを」
「もしも私が何か頂いたら。真っ先にフィーネ様にご報告致します!」

異性へのプレゼントって重いんだな…。
「当然です。その様な事態に陥らない様にご注意を。私は労力をそこには注ぎたくないので無視しますが」
ロイドちゃんの放置宣言まで頂いた。


ちょいキレ気味のフィーネを宥めてトーラスさんの店に5人とクワンで向かった。


入店直後に奥の部屋に通されてしまった。

侍女3人は店内巡回。姦しい賑やかな声が遠くから聞こえて来る。

「五月蠅くして済みません」
「後で言って聞かせます」

「いえいえ。優良なお客様が増えるのは良い事です。直ぐにフローラを呼んで参ります」

ミルクティーを自分で運び入れたフローラさんの指先には多くの包帯が見えた。
「火傷?」
「そこまでしてくれたの?」

「いえ。これは製作の合間に気分を変える為、慣れない手料理をしようとした結果。ざっくりと遣りました」
それはそれはと。バッグに手を伸ばし掛けた所でフィーネに叩かれ自分の方から軟膏薬を出した。
「言った傍からやらないの。どうぞ。良かったら使って。カメノス製の傷薬よ。お代から引いてくれてもいいわ」

「それならば。遠慮なく頂きますね。お気遣い有り難う御座います」

「フローラ。お客様をお待たせしない」
「申し訳御座いません。今日は私から商品説明をば」

3つの箱から取り出したのは身に付けるには大きな銀色のアクセサリー。

「こちらはプラチナを加工し易いよう異なる金属を混ぜ込んだ特殊合金をベースに。フィーネ様にお似合いになるのではと探した桔梗と言う青い花を参考に形作りました。

身に付けるアクセサリーでは何方に付けてもお邪魔に成ると思いまして。バッグやポーチ等に付けられる装飾品として立体的に製作。

光の当て方次第では淡い青色に反射色を変える仕様です。如何でしょうか」

嘗ての人前に出るのを避けていた内向的な表情は影を潜め、凜とした職人の眼と揺るぎない自信が窺えた。

人は切っ掛けがあれば変われる。
彼女に取ってそれは呪いの解除だったんだ。

フィーネが天井の照明にオーナメントを翳してウットリしていた。
「私のイメージって桔梗なのね。とっても嬉しいわ」
「桔梗の花言葉は清楚な美姫、ですのでフィーネ様にこそ相応しいと」
「本性はかなりガサツな乱暴者よ」
ウフフと笑い合いながら自虐してる。スルーしとこ。

「スターレン様向けとしまして。
アマリリスを参考に赤色の反射色にしております。花言葉は気高き誇り。勝手ながら選ばせて頂きました」
手に取り上に翳すと確かに赤い。不思議な合金だ。
単なるコーティングともまた違う。
「持ち上げられても何も出ないぜ」特に今は。

「お代を奮発して下さればそれで結構です。そのお代も既に頂いておりますし」
「なら遠慮無く」

「最後にオレンジ色がお好きなシュルツ様向けとしまして。

カザニアと呼ばれる菊科の花を参考に。黄色の反射色で花言葉は豪華絢爛。遠くから垣間見たシュルツ様の笑顔が私の中ではその花と合致しました」
3つの中では一番手が込んでいるデザイン。

「ありがと。シュルツもきっと喜ぶわ。私が、渡すから」
「解ってるって」

「クワンティ様とペリーニャ様の物を鋭意制作中です。ペリーニャ様には直接お会い出来ない身分です故。是非お二人からお渡し頂けないかと」

「全然いいよ。連絡して渡しに行くだけだし。年内は予定無いけど、来年の今頃に立ち寄るのは確定だし」
「急がなくてもいいのよ。納得行く物を作ってね」

「はい」そう答えて笑う彼女の顔は満開だった。


店の玄関前の軒先でがっつり肩を落としていた3人娘を回収して帰宅。
「やはり、お値段が…」
「自力では無理ですね。分割でも何年掛かる事やら」
「次元が違い過ぎますよぉ」



高級アクセを買い、庶民的な鰻を焼く夕方前。

若干しょんぼりしていたクワンを慰める。
「悄気るなって。今クワンの分も作ってるんだし」
「あの様子なら直ぐに仕上げてくれるわよ」
「クワァ~」

こんな事もあろうかと。
「そんなクワンに。昨日ラフドッグで大好物の蛤買って来たからさ」
「良かったね。沢山あるから皆で食べよう」
「クワッ!」

「今日は時間無いから普通の網焼きだけどな」
「クワ」それでもいいと。

鰻を焼いてる隣に網を敷き、フィーネが醤油オンリーで焼いてくれた。バターが欲しけりゃお好みで。

今日は蜂蜜を使わず黒砂糖。煙が余計に香ばしく。匂いに釣られてソプランとカーネギが寄って来た。

アローマたちは中でスープ作りと麦飯を炊いている。

「鼻がいいねぇ」
「いやこの煙は無理だって」
「無理。本棟の人、抑えるのが精一杯」

「もう直ぐ焼き上がりなんで。中のテーブルの上整えて」

「あいよー」
「解った」


鰻と蛤の焼きが終わった段階で黒石を炭の上から敷き詰めて甘芋を詰めて放置した。

「結構多いけど。それはデザート?」
「それも含めて邸内の居残り組に配る用」
「炭焼きの香りを移して鰻の雰囲気だけでも味わって欲しいと」
「中々の名案だろ」

「悪くないわ。仕上がりが楽しみね」


祈りを捧げて頂きます。

パリパリに仕上げた鰻の皮と麦飯の相性は言葉にせずとも抜群。

蛤の塩気も丁度良い。
添え物の根菜の浅漬けと下ろし山葵でサッパリと。

今日も今日とてシャンパンが美味い!
そろそろモルトビールや芋と麦焼酎でも依頼してみるか。

一通り食べ終え、微酔いのソプランが。
「昨日のスターレンの方の続報。聞くか?」
「良い報告なら。気分が悪くなる様な話なら聞かない」

「どっちとも言えねえな。じゃあ良い方だけ。
昨日回収された押収品の中に、お前が確認してない道具があって。それが結構いいもんらしくてな。
明日見に来いとさ。陛下からの伝言」
「見てない?何かあったかな」

「食事も終わったし。悪い方のお話も聞いておこうよ」
「…フィーネがそう言うなら。聞いてみるか」

「他人からすりゃ大事って程でもないが。
バインカレの婆さんが廃人になった。でもノイツェ様曰くどうも芝居臭いだとさ。捨てられたくないだけだろうってなもんだ。
しかしラフドッグに幽閉決定は覆らず。国の監視下で放置の命が下された。

どうやらスターレンに完全無視されたのが相当堪えたらしいな」

「俺の所為だって言いたいんだろ」
「多分な」

「そう来るだろうと思って無視してやったんだ。
何か人語を叫んでた気がする。上手く聞き取れなくてさ。
汚く唾まで飛ばし捲って。

人質取った時点であいつは終わったよ。完全な自滅なんだからどうしょーもない」

「我が儘な寂しがり屋を拗らせるとそう成るのかな。私も気を付けよ」
「フィーネの我が儘なら何でも聞いちゃうよ」

「甘やかさないで。駄目な所はちゃんと直します」
「お互いにね」

「結局惚気やがって」

にしてもいい魔道具って何だろ。明日行けば解るか。


焼き上がった甘芋をハフハフ。
「炭の香ばしさが相まっていい感じ」
「美味しい♡」

「アローマさん。明日の朝量産するから、鰻が無い代わりのお詫びとして邸内に配って」

「畏まりました」
「皆も喜びます」
「焼き芋がこれ程美味しい物だったなんて…」

甘醤油の煤が芋の皮に張り付いて皮まで美味しい。我ながらヒット作。




---------------

フィーネは今日も合成作業をすると言う。
「陛下の依頼をぶっちしちゃったから。今日はパス。後で見せて」
「フィーネは出来たらって話だったから。そんな気にする程でもないと思うよ。じゃあ行って来まーす」

「行ってらっしゃい」行って来ますのチューをして。


隠されると余計に見たくなるもので。
そうだ。寄った序でに今日こそうっかり謁見の間に。

「止めないか」
今日はノイちゃんに見付かってしまった。
「何故だ。俺にもここへ入る権利が」
「陛下が嫌だと仰っているのに見過ごせる訳が無いだろう」

しゃーないなぁ。
「今回は諦めてあげよう。で、良い物って何さ」
「ずっと諦めてくれ。私にも解らない。君と同じで有用な物は認識出来なかった」
2人して何を見過ごしたんだ。

後宮まで引き返し、陛下の私室へ。

「ノイツェ。スターレンの引き取りご苦労。お前はまだ諦めておらんのか!」
「隠す方が悪いのです。開放して楽になりましょうよ」

「口の減らぬ男だ。余が生きて居る内は絶対に入れん」
ぬおぉ余計に入りたいって。

「お話を戻しますが。良い物とはいったい」

「その事なのだがな」
テーブルの上に置いた一つの箱。
「このオルゴールに見覚えはあるかノイツェ」
オルゴールだったのか。

「いいえ。一昨日には気付きませんでした。…特に思い出の品でも無いですね」
「ならば良かった。昨日押収品の整理をしていた時に手元が滑ってこれを床に落としてしまってな」
ヘルメンが箱を引っ繰り返して底板を外した。

「不幸中の幸いなのか。偶然にも板が外れ、中からこの様な物が出て来た」

一見するとそれは半透明のクリスタルオブジェ。

「余の鑑定具では置物と出たが。この細工箱に隠す程の物だ。必ず別の意味が有るのでは無いかとな」

ノイちゃんの蝶眼鏡でも何も出ず。

「シュルツの眼鏡は返却してしまったので。陛下のゴーグルで重ね掛けをしても宜しいでしょうか」
「うむ」

クリスタルを手に取り、ゴーグルで覗いた。

名前:アルカンレディア最下層のクリスタルキー
特徴:世界の何処かに眠る古代都市アルカンレディア
   その最下層に入る為に必要なオブジェクトキー

「…アルカンレディア?陛下はご存じですか?」
「いや…聞いた事も無い。ノイツェは」
「私は…。何処かでその名を…。そうだ。陛下、本家の書庫の蔵書の中でその名を見た記憶が有ります。蔵書も全て押収して来た筈です。その中に」

「気になるな。今直ぐ探し出せ」
「ハッ」

陛下とお茶をしながら待つ事30分。
戻って来たノイちゃんが手に持つ古びた一冊の書物。

「これです」
角が崩れ始めている本をゆっくりと開いた。

~眠れる古代都市アルカンレディア~

太古の昔。人族と巨人族が共生したと言われる巨大都市。

発達し過ぎた文明がとある神の逆鱗に触れ、数多の財宝と共に大陸の一片毎、海底深くに沈んだとされる。

彼らも抗い一矢報いたが無駄な抵抗に終わった。

僅かに生き延びた人族たちが財宝を納めた最下層を封印し、その封印を解く鍵と、神に一撃を加えられた矛を世界の何処かに隠したと口伝を残した。

私は人族の子孫。

先祖の言い伝えが御伽話ではない事を祈り、何時の日か誰かにその場所を見つけ出して欲しいと願い書に記す。



続きがまだあるようだったが紙が崩れてそれ以上は読めなかった。

「私はこれを幼少の頃に読みました。その時は作り話だと信じませんでしたが」
「その鍵が、今目の前に在る」

「父はその御伽話を信じ海で帰らぬ人と成りました。バインカレも信じたのでしょう。その根拠となる物を手に入れてしまったが為に」

古代都市、鍵、矛と来たら…もうアレしかないじゃんよ。
「陛下。俺にそれを預けて貰えませんか」
「構わんが。心当りが有るのか」

「確証は有りません」
めっちゃあるけどね。
「何となく。南西の大陸に手掛かりが在りそうだなと」
大嘘なんですが。

調査しますと約束してクリスタルキーを受け取った。俺は詐欺師になれるかも知れない。

フィーネが調べ尽くした後で報告しよう。どうせフィーネ以外に行けないんだから。




---------------

スターレンが後宮を退出した後の事。

「何か知っている顔だったな、ノイツェ」
「然様で。何かを掴んでいなければ欲しいなどとは言いませんからね。そう言えば最近あの二人はよく別行動を取っていると報告が上がっております」

「仲の良い夫婦と言えど。常にべったりではないだろう。
その点。私やスターレンはお前よりは先駆者だ」
「…矮小な胸が痛みます」

「まあ良い。アルカンレディアがもし本物ならば。
何れ手土産を抱えて帰るだろう。協力を求められたら助力は惜しむな」
「見返りは数多の財宝か。それとも我楽多か。私も楽しみになって参りました」

細く醜悪な顔で笑い合う二人。

スターレンは、詐欺師には成れない。
顔に出てしまうタイプだった…。




---------------

自宅でのんびりリビングでお茶をしながらフィーネの作業終わりを待つ時間。

シュルツの現在位置を見てみると。
丸2日で工程の4分の1程度の位置に居た。

辛いなどとの泣き言は入って来ない。頑張ってるな。

輸送馬車の革新。街道の整備。宿場の進化。
何れも急速に発展している。王都からラフドッグまで直行で1週間を切る時代も遠い夢ではなくなって来ている。

野盗は激減。魔物や魔素が消えれば国内の安定も増す。
オークの淘汰も後数年の予定だと聞いた。

残る魔素溜りはジャイアントトードとグエインウルフの2カ所か…。

2つ共、南西部の深い森の中。
欲張っても碌な事は無いが、各所へ連絡して連続討伐をしてみるのもいいかも知れない。

今の武装なら例えゴッズでも負けはしない。
逆にゴッズを連発出来れば魔素の自然浄化も加速する。

失敗すれば大惨事だが悪い面ばかりでもないのだ。

周辺一帯の森は、多少欠落してしまうかも。
魔素を抑え込める道具でも見付かれば考えなくもない。

色々な案件を思い浮かべながら重い腰を上げ、裏庭に向かうと。アローマたちが干し物の返しと花壇の水遣りを終えていた。

お礼を言って焼き台に立ち向かう。

耐熱グローブを装着。黒石と炭の残りを砕いて火の魔石を再配置して整え、甘芋を詰め込んだ。

以上、後は適度に芋を返して待つだけ。

デッキチェアーに腰掛け、栽培図鑑を読み耽る。
「小テーブルとお茶をお運びしましょうか」
「ありがと。お願いします」

「グローブを貸与して頂ければ私共で芋の管理もやりますのに」
「いいよいいよ。日頃の感謝とお礼なんだから」

「甘くて香ばしい良い匂いですぅ。お側で見ていても宜しいですか?」
「ご自由に。でもあんまし近付いたらあかんよ。熱いから」
「はい。心得ました」


山葵を何処に植えるか考察。候補は少ないがクワンに聞いてみるか。
…などと考えを巡らしていたらそのクワンから。
「フィーネ様が枯渇で気絶しました。そして寝室が一面氷漬けに」
何ですと!?

「アローマさん!フィーネが魔法使いすぎて枯渇したらしい。寝室が氷漬けだって」
「それは一大事です」

耐熱装備に着替え突入。
氷の棺に捕われたフィーネを救い出し服を脱がした。

「お風呂の準備。普段よりも熱めで」
「はい!」

「ミランダ。グローブ渡すから焼き台の魔石取出し。魔石は岩場の上に並べて放置」
「了解です」

「プリタ。こっちの部屋は暫く使えない。隣の部屋の準備を頼む」
「畏まり!」

上位同士を掛け合わせたのか。寄りにも寄って氷でやったらいかんだろ。下手すりゃ低体温で死ぬとこだったぞ。

と文句を垂れても、スヤスヤと平和そうに眠るフィーネには聞こえてない。

結局この日は午後から夜通し、暖密の法衣に包まりながらフィーネを抱き締め徹夜で看病となった。

正常な体温を取り戻したのは翌早朝。意識を取り戻したのが昼前。ごめんと謝る彼女の頭を撫で。
「クワンが近くに居て助かったよ。一歩でも遅れたら低体温症で死ぬとこだったぞ。苦ーい生血入りの栄養ドリンク作って来るから待っててな」
「…うん」

夕方頃に自分で起き出せた。

夕食には麦粥と干したての梅干し。蛇肉と根菜の味噌汁を作り、皆で食べた。

「申し訳ない。調子に乗りました」
「まあ何事も無くて良かった。クワンに感謝だな」
「クワッ」

「有り難うクワンティ。
上級の魔石が出来たから。最上も狙えるんじゃないかと欲張ったのが大失敗。
魔石は砕けるわ、意識は飛ぶわ。最上…嘗めてました」
「これは普段と全く逆ですねぇ」

「言葉が無いです」

「序でに明日。俺も枯渇1回やるよ。最上を目指すのは2人掛かりで。次の探索もお預けです。行く前に渡したい物もあるから」
「…解った…」

「アローマさんたちも。明日のサポート宜しくね」
「「「畏まりました」」」




---------------

2日後の昼。

スタンと仲良くフカヒレの煮付けを作り、邸内の身内5人に振舞った。

枯渇は周囲に多大な迷惑を掛けてしまう。
しかし悪い面ばかりでもない。想定外の枯渇だったが遂に魔力は5桁の大台を突破した。

私の数値は10200。スタンが4900。

私たちのステータスは気付かぬ間に底上げされていた。
魔力以外は特に注視して来なかった為、気付かなかった。

日頃の特訓の成果とも考えられるがどうも腑に落ちない。
最近日課をお休みしている割合の方が多いのだから。

ダラダラと過ごせば筋力や体力は直ぐに落ちる。
改めて見返すと落ちる処か軒並み上昇していた。

考えられるのはたったの1つ。
魔物のお肉をたべているから…。

時々少量食べる程度では変化は無い。
最近この自宅で食べるようになったプリタさんは以前と何も変わっていないから。

毎日のように食べてしまっている私たちと4名は微増が確認出来た。

水竜様。私の推測は正しいのでしょうか。
「概ね正しい。但し種族としての上限は有るし、年齢や体格等の個人差で上げ幅は様々だ。食べ方でも異なる。
際限なく上がり続ける訳ではないから安心せい」
良かったぁ。子供や乳児にも与えてしまったのでとんでもない過ちを犯したのかと。
「我や北の大食い。黒竜も含めた上位種族は魔物の肉を食さない。上限に到達していると逆に下がるからだ。
特にそれで死ぬ訳ではないが、各地の支配領域の均衡が崩れ易くなるからな。予防線と言った所か」
成程…。

「どした、フィーネ。ボーッとして」
花壇の手入れをして戻って来たスタンに声を掛けられ我に返った。
「少し問い合わせをね。でももう解決したから。それより渡したい物って?」

今日明日は完全オフデーにして人払いもした。
裏庭の様子と緊急時の連絡以外は誰も来ない。

おやつ食べながら話をしようと言うので私がお茶を淹れ、席に座った。

スタンがバッグから取り出したのはクリスタルの結晶体。
「何これ。置物…って出てるけど」

「何とこれは。フィーネさんが通っている深海に沈んだ古代都市。アルカンレディアの最下層に入る為の鍵なのですよ!」
「何と!アルカンレディア、とは?」

次に古びたボロの書物を取り出して見せてくれた。

所々文字が掠れて読み辛いが、読み取れる範囲でも確かにあの古代都市を示していた。

「とある神様が水竜様で。私が手に入れた槍とこのクリスタルキーが古代文明の遺物なのね」
「偶然って怖いね」

「怖いですねぇ。…じゃあ、あのまま突き進んでも最下層には入れなかったんだ」
「慌てるな。落着いて行けって事でしょ」

「有り難う御座います。水竜様」
大好きです。
「照れるではないか。我が施せるのは僅かな助言と導きのみだ。暮れ暮れも高望みをするでないぞ」
はい!所で右のお目のお怪我はその時の。
「そうじゃ。当時、我に刃向かう其奴らを根絶やしにしようと考えたが思い留まった。その理由の一つだ」
色々とあったんでしょうねぇ。


深くは聞かずに。旦那様とたっぷり休日を楽しみ、より一層の愛を育んだ。

重ね合う時間。それが何よりも尊い。
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もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

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