お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第104話 母と子と家族と

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3者別行動となった日の夜。2人とクワンだけになってから各自の成果を報告し合った。

クワンは国内を回り切れたと。
フィーネは古代都市の下の階層で魚人の一人と遭遇して少し話をしたと。

俺は、ラザーリアの地下で汚物を掘り起こそうとしていた集団を発見し全滅させたと。

「…一切話を聞かずに。皆殺しにした」
「仕方ないよ。スタンの警告を無視したんだもん。どんな理由があってもアレは掘り起こしてはいけない物よ」
「クワァ」クワンも同意してくれた。

「それに。疚しい理由が無いなら最初にスタンを訪ねに来るわよ。それが出来ないって事は私たちの敵よ。救う価値も無いわ」

傷の舐め合いでもフィーネの言葉に救われた。
言い訳を並べても殺人には変わり無い。それだけは胸に刻む。あの5人の名と共に。

遺体を鑑定しても名前以外の情報は得られなかった。そこがどうも腑に落ちない。消されていたのか、何か操作されていたのか。

女神様が把握してないなら、新興派でもない全くの別組織の可能性も大いにある。


戦利品の話に移し、俺は墓荒しから奪った相互通信機と転移の手袋を披露した。

「これを俺が。フィーネの小袋に義眼を入れれば2人は任意の場所に飛べるようになる訳だけど…」
「残りの指輪をクワンティが身に付けられればって所ね」
「クワァ…」

身に付けられる場所が無い。指も細くて邪魔にしか成らないし何処に着けても落下の恐れがある。

「小袋は2つと無いし。残りの手袋を手に入れても同じ機能を持ってるか不明」
「指輪はクワンティに預けて一端保留ね」
「クワッ」

次にレシーバーを検証。

指針棒を使っても反応無し。詰り今は圏外の場所。
浮島の笛を使い、相方を探したが別物扱いで脳裏には何も情報は浮かんで来なかった。

「これも保留だな」
「発信器が無いかだけシュルツに鑑定して貰おう」

「フィーネさん良い勘してるぅ」
「苦しゅうないぞ、スタン君」

自宅が狙われるのは厄介だと。早速箱に仕舞い直して収納した。別に使えなかったからって困らない。行く行くは逆探知に使えるかもってだけだ。

ジャミングのような阻害道具は、ベルさんの大全集最終巻に期待しよう。




---------------

ロロシュ氏の視察団とノイツェ率いる憲兵隊の出発日当日の朝。

今日は私がお弁当作ると鯨肉の唐揚げを揚げ始めたフィーネに聞いてみた。
「今日フィーネどうする?遺跡かラフドッグか」
「どうしよっかなぁ。陛下には出来れば行けって言われたけど…。私たちが一緒に居ると問題が大きくなる気がするのは私だけ?」

「無きにしも非ずですな」
「でしょ。ご家族の問題に赤の他人が口出しちゃ駄目だし。私は遺跡に行くわ。義眼持ってれば外に出てお弁当も食べられるし。外に出たらスマホで連絡入れる」

「ラジャー。クワンは今日初日だけシュルツの傍に居てやって欲しいな」
「クワッ!」

問題有れば連絡して飛び回ると返信があった。

「お弁当はシュルツには内緒ね。初日に食べさせると毎日出前要求されちゃうから」
「クワッ」

行業中の苦労を経験するのも視察の一環だと心を鬼にして割り切る。


カーネギは邸内の警備が3割減った分。負担が増えるが仕事内容は変わらないと平気な顔をしていた。

ソプランたちも視察団が居ない間は半常駐。俺たちが連れ出す以外は邸内に張り付け状態。

急場はカメノス邸に救援依頼を出す手筈。




---------------

城内に向かうと憲兵隊の準備は整い何時でも出発出来る状態には在った。がしかし。

「私も行くと何度申せば良いのですか!」
ライラが上官のノイちゃんの胸倉を掴んでいた。

「身重の状態で何を言っているんだ。自分の身を労れ。連れて行く事は出来ん」

男としての意見はノイちゃんが正しいと思うのだが…どうなんでしょう。

ライラの後ろでゴンザが必死で説得を試みていたが、余り効果は無い様子。聞く耳持たず。

「まあまあ。連れて行くだけ連れて行きましょう。これ以上押し問答してても時間の無駄だし。何よりお腹に悪い。
ライラ。君も家族で当事者の1人だが。これは陛下からの勅命だ。俺と同じ見届け役で手は出せない」
「承知してます!」

「念の為ゴンザさんも同行させます。少しでも異常を感じたらカメノス医院に投げ入れるんで。その積もりで」
「はい」
「頼む」

「ノイツェ殿。町の外か浜辺か他か。何処に飛べばいいの」
「…見張りを立てている可能性も有る。浜辺で頼みたい」

「了解。それでは皆さん身体を楽にして。行きますよー」

憲兵隊の30名も含め全員頷いた。


雨期も明けて海水浴客が場所取りしているど真ん中に転移した。

人や障害物が無い平場とはどんな場所?と思っていたら砂浜の空席地帯に出た。

驚いたのは付近でシートを広げていた人々。
唖然呆然。しかし俺の姿を見て。あぁなーんだと皆が場所を移動してくれた。

凄いな俺の知名度。もう顔まで把握されちゃってるよ。

ご婦人方の水着チェック。
皆さん大人しめの格好。誰一人挑戦的なみ
「真面目にやって下さい!行きますよ」
ライラに後頭部をグーで殴られた。痛いよ。

「はいはい。行きますかね」

ノイちゃんの先頭集団に付いて行った。


途中途中でシュルツに借りた眼鏡でチェックしたが特に罠や道具の使用は認められなかった。

辿り着いた場所は町の東端の高台。
海に面したリゾート邸。贅沢ぅ。

余生を過ごすなら最適な立地だ。

これまで商店街は訪問しても住宅街は用事も無いのに立ち入った事は無く。新鮮な感じがした。


大変立派な門構え。これぞ貴族様のお屋敷。
至る所に角が立つ。それは防犯なのかデザイン性なのか最早意味不明。

形ばかりの通せん坊をしていた門番の前に立ち、ノイちゃんが令状を見せ付け読み上げた。

門番の2人が退いた所で憲兵隊が押し入った。

お、シェパードに似たお犬様が居る。それも5匹。
ガルガル五月蠅い。全匹俺のロープで縛り上げ、蛇肉の素焼きを口の中に捻じ込み餌付けを施した。

抵抗は一瞬。尻尾を振り出せば可愛いもんだ。

中が落着くまで俺とライラとゴンザは中庭にパラソルを立て犬と戯れて時間を潰した。

俺だけムツゴロウさん状態で地ベタをお犬たちと一緒にゴロゴロと。

「そんな高級肉で餌付けしてしまっては二度と使い物になりませんよ」
「この犬種は賢いでしょ。なぁお前たち。これからも警備の仕事頑張るんだもんなぁ」
「ワン!」

「頑張らない子には…二度とご褒美あげないぞ」
「クゥ~ン…」可愛いなぁもう。

大筋の合意は得られた。細かい意志の疎通はクワンに頼めば計れる。説得も然り。

犬の首輪に軽度の従属が掛かっていたので全部ぶっ壊してやったぜぇ。

犬を引き連れ邸内を巡回。

怪しげな納屋を発見。犬が唸り警戒を示した。
中に6人の赤が潜伏中。

玄関扉を破壊してフルオープン。
「本日同行した外交官のスターレンだ。大人しく武器を捨てて投降しろ!即決出来ないなら建物毎潰して生き埋めにする!」

速攻で緑に変化して外に飛び出し全員正座した。

「普通の縄で軽く縛る。これ以上妙な抵抗はするな。慣れ親しんだ犬たちにお前らの血の味を覚えさせるぞ」
「はい!」

他にも潜伏中の人員が居ないか尋ねたが邸内には居ないと答えた。
「邸内には?外に何人居る」
「クラリアお嬢様の所に…五人。町の北の街道沿いに十人です」
溜息しか出ない…。

町の外は後回しだ。
憲兵隊に6人を引き渡し、正門の守りを固めろと指示してクラリアの店に飛んだ。

対岸の路地裏から店内の様子を伺う。

証言通り。レジカウンターに座るクラリアを5人が取り囲んでいた。

店の玄関を押し破り、全員捕縛。クラリア以外を強めに。
「スターレン様!」
「これ以上の抵抗は無駄だ。自分たちと老婆の罪を上乗せしてどうするんだ馬鹿共が!!」

一手で沈静化。謝罪の弁は要らん。

「クラリア。何か道具は使われたか」
「いいえ。見張られていただけです」
良かった。

バートハイト家へ飛び、5人を引き渡し海軍本部から増援を20名引っ張り出して北の街道を探った。

抵抗の色を見せたが強引に捻じ伏せた。


衛兵3名にクラリアの店玄関の修理と周辺保安を依頼。
残りと捕虜全員でバートハイト家に戻った。

手分けして捕虜の拘束を終えると、館内からノイツェと憲兵隊の一部が出て来た。

「スターレン殿。外は済まない。済まない序でに少し手を貸して欲しい。老婆が侍女数名を人質に障壁を張って引き籠もってしまった」
「面倒くせえ…」口から溢れた。

「説得に失敗してな…」
「嘘嘘。仕事だから仕方ない」

屋敷の中央階段を上がって正面。
そこがバインカレ・ロモ・バートハイト女史の私室。

何処に壁を張っているかと思えば。広い室内の半分、ベッド側を仕切るようにキューブ状の壁を発動していた。

侍女が3人。首輪で連結されて座らされていた。
奥の壁際にはオマルまで準備した周到さ。執念深さには呆れるばかりだ。

ベッドの上で半身を起こすお婆さんが、唾飛ばしながら何かの人語を吠えていたが聞き流す。俺の記憶容量が勿体ない。

キューブの前四隅、後四隅を見ると底面が床から僅かに浮いていた。正四面体の構造であるのは明らか。

8カ所の角から薄ら細い糸が見え、繋がる先はまーだ吠えている老婆の胸元に繋がっていた。見たくない!

あれはノイちゃんに任せよう。
天罰です。ライラにもクラリアにもやらせん。

障壁は後でいい。問題は連結首輪の方だ。
あれは外そうとすると逆に締まるタイプ。卑劣極まりない粘着女。

首輪に関しては物理的な紐が伸びていて。その先は老婆の右手に行き着いた。

煉獄剣を取り出し、紐を目掛けて障壁毎両断した。
侍女さんを引き取り彫像で呪いを解除。あっさりと首輪が外れて床に落ちた。

老婆が奇声を発して上半身を振り乱していた。

ノイツェ、クラリア、ライラ、ゴンザを残して退出した。
ゴンザにだけ「何かあれば正面玄関前に居るから」
「ああ。直ぐに飛んで行く」

この先は家族の時間。俺は完全に部外者。
終わるまで庭でワンコと戯れた。




---------------

今日の目標は4層の魚人さん居住区。

最下層の構造が真上からだと居住区が邪魔して上手く把握出来ないのです。

入る前に斜め上から覗いてもみたが…。3次元構造体に弱い私。空間認識がやや苦手。

悔しいけれど認めましょう。


それより後日と言ったのに翌日に来てしまった。魚人さん驚かせるかなぁと若干不安。


綺麗になった1層目は鯨。さて2層目は。

郷に入ったら郷に従えと申します。
1層で出会った魚人さんが縦穴から来たなら私もそれに乗っかる。

下穴から降りると2層は鯱の魚群。キルドオルカだった。
知識にある白と黒の2段カラーが逆転していて。黒がお腹側白は背中側。
1匹1匹個性有る紋様を象っていたが黒白は全部反転。

これがこの世界の常識なら否定はしまい。

海の生物の中ではカースト上位の鯱。鯨や海豚の遠い親戚。そして賢く凶暴。空腹時やお食事タイムに近付いちゃいけないと出た。

でもでも目が合っただけで襲って来るんだから無理。命知らずの構ってちゃん。

多分相手にせずに擦り抜けられるタイミングがあると思う…私は知らない。以上、突進!

移動速度が鮫や鯨よりも速い。高速蛇行で捉えるのが難しい。切っ先が分厚いゴム状の皮膚に弾かれる。

手強い。囲まれないように上下を加えて遊泳しながら弱点を探った。

1匹が大口を開いた。…奥歯が段々畑に生えている。
執念の摺下ろし器。噛まれただけでミンチだ。堪えられそうでも試す気には成りません。

不利だ。直接攻撃が困難ならば…魔法を使う。のは勿体ない。個体数は目測で80は居る。全員にスリープは掛けられない。

だったら単純明快に。スタミナ勝負!
私もやる時はやる女。自宅の日課でも全力疾走で1時間は走り続けられる。

水分補給を加え、支柱の隙間を只管に泳ぎ続けた。注意するのは上下左右で後方は気にせず前に進む。

続けていると数匹ずつ脱落して痙攣しながら落ちて行くのが見えた。仕留めに行きたい。しかしまだ後ろに8割以上の魚影。

私は更に加速した。自前でスクリューを作り出す為に。

脱落者も後ろから巻き込み、流れに強制連行。
若干息苦しい。でもまだまだ行ける。呼吸を整え、水を飲みギアを段階的に上げた。

中央の一番太い支柱を軸に回り出す自己発洗濯機。
フリーロールの洗濯板になるのは私の槍です。

スクリューから外れ、外側の支柱の影から矛先を流れの中に忍ばせた。そっと、表皮を剥ぐ洗濯板。

皮が剥げればこっちのもんだ。生きの良い禿げから横腹に突き&即時解体処理。

薄ら朱に染まる水流。これ以上濁ったら視界不良で本日リタイアになってしまう…。それは避けたい。

回転率を上げる。
詰りスクリューを縮小化して密集させる。

再度流れに乗り、周回毎に角度を削った。倍速も上昇。
斜め下ドラム式洗濯板で止めを刺して行く。やがて劇的な変化が訪れた。

私は、鯱に、遠泳で勝利した。彼らは漏れなく、強制過呼吸でお亡くなりになられた…。

目玉は白目に反転。気絶で無く生命活動を停止した。

傍らで水を飲みながらジッと流れが収まるのを待った。
放置してお弁当食べに行こうかな…とも考えたが待て。またしても魚人さんに奪われるではないか。

いかんいかん。放置良くない。

金角でちょこちょこ突いては様子見。掴めたら収納。
何を?肉でも皮でもありません。あの段々畑の歯が戦利品として残ったのです。それ以外全部消えました。

何に使える素材なんだろう…。

半分程度の歯を回収した所で飽きてしまった。
魚人さんたちが欲しいのはお肉に違いない。これ以上は放置に限る。

と言う訳で下から上がって来た魚人の誰かに手を振って転移した。


選んだのは無人島。…動物以外の存在、無し。

浜辺の砂地にパラソルを立て、デッキチェアーを置いた。

虫除けのお香を焚いてお弁当を広げた。
初挑戦の鯨の唐揚げは…独特な味がした。決して不味くはない。しかし美味い!と唸る程でもない。

絶妙な微妙。う~む。初手はやはり旦那様に頼むべきだったかも。

食べ終わり。水袋ドリンクの残量確認。
既に半分以下。今日は3層を見る所までかな。


独りで眺める穏やかな海は、何時にも増して目に眩しく刺さった。

寂しいとも楽しいとも違う。静寂の時間。

こうやって各自の時間を作るのも。長くラブラブな夫婦生活を送る秘訣だと思う。何時も四六時中べったりではいつか飽きる。そうするとスタンが恐れてる倦怠期の始まり。

解ってるなら対処すればいい。その為の時間。

ラフドッグは終わったかなとスタンにメールした。

通話でスタンも丁度お弁当食べてる所だと返事が来た。
声を聞いたら会いたくなるじゃないのさ。メールでいいのにぃ。と文句を返した。

あちらはお昼までに片付いたらしい。

でも最後の結末は家族だけの時間にして確認はしていないとスタンは話した。

家族の時間、か。

昼からも送迎や後処理で帰りはスタンの方が遅くなる見込み。

私もお仕事頑張ろう。


遺跡の2層に戻り、多くの魚人さんたちとすれ違いながら3層へと進んだ。

3層では外界へと繋がる横穴を見付け、どうやら魚人さんは壁際を上手く伝って見付かり辛いルートを泳いでいるようだった。私も参考にしよう。

上で残した鯱を1匹ずつ器用にリレーしていた。

魔物はクラーケン。大王イカの上位種が居た。

1匹だけ群れから離れた個体が岩陰に隠れていたので無理矢理倒してみた。

そう無理矢理。触手は迎撃で切断しても吸盤が絡み付き、胴体部の皮は分厚く軟体で槍が芯まで通らず苦心した。

最後は片眼を貫き、内部から破壊して粉砕した。

大王イカは食用には適さないのは有名。巨大な魔物ならどうだと淡い期待を寄せた。が、ドロップは何も無し。
角で突いたら綺麗さっぱり跡形も無く消え去った。

全ての魔物がアイテムを吐く訳ではないと。良い教訓となった。

欲張るなって話よ。


謙虚な姿勢で横穴を通り外へ出た。

何も無い空間。ライトの照射が届いていない。際限ない暗闇が続いていた。

上を見上げると薄暗い。ここは深海なのだと認識出来た。
きっと奥には普通の深海魚が居て、未知で独自な進化を果たした姿で泳いでいるに違いない。

深淵は闇。地上の人間にはそれは恐怖の対象。未知への恐怖は誰の心にも存在する。見たい、でも見たくない。
興味、果てない探究心、欲望、渇望、やはりそれは人間の業なんだろう。


私は遺跡内部に引き返し、魚人たちの後を追って4層まで降りた。

この遺跡に住み着いた魚人は最大でも私の身の丈の
1.5倍前後に見受けられた。詰まる所、4層は人間の居住区。
地表の大きな建物群は巨人の魔族が住まう街並み。

住み分けをしていたのだと推測した。

どうして海へと沈み、滅びたのか。行き過ぎた文明に溺れたと水竜様は言っていた気がするが、4層の街並みを垣間見ても高度文明の片鱗は見えなかった。

更に下の5から最下層。恐らく過去の遺物はそこに在る。
若しくは魚人さんたちが使ってる。


出来るだけ怖がらせないように数人の魚人に声を掛けた。
お声掛けした人全て。
「昨日振りだな」
「上の探索はもういいのか」
「子供たちが喜んでいたぞ」
「鯱も残してくれて感謝する」

あれか…思念を通して知識の共有が出来るんだ。

確認すると長など居らず、誰に声を掛けても結果は同じだと聞かされた。

個性が無い。争いが起きない。皆ハッピー?
かと思ったが実はそうでもないそうだ。

数が増えすぎると死病が流行るか。口減らしの争いが起きと聞いてしまった。

私的にはかなりの衝撃だった。

食べたい、寄越せと言うから分け与えてしまったが急に余計な施しだったのではと不安に駆られた。

「それが深海の定め。淘汰。自分たちで要求したのだ。
何が起きてもお前を恨みはしない」

良かった…の?

満足そうに口角を上げる彼ら。ここにはここのルールが在る。それを私の倫理観や固定概念では語れない。
正しいか正しくないかは彼らが決める事。

益々興味が湧いたので少しデリケートな質問を打つけた。
繁殖はどうしているのかと。

返答は。全ての民は雌雄両性。必要な時。必要だと言う心が生まれた瞬間に分離して繁殖行為をすると…。
聞いたこちらが恥ずかしくなった。

凄いな…異文化って。


食料を提供してくれたお礼だと。自分たちの遺体から出たと言われる大きな氷の魔石を沢山頂いた。

彼らの種族名称はクワエ族と説明を加えてくれた。…駄洒落ではありません。

色々と思考が追い付かなかったが。本日の〆として下層へと続くルートを教えて貰い、街並みを一通り拝見した。

大昔に存在したと思われる人間の産物や遺物は知らないかと尋ねると。知らない、自分たちがここへ来た時は建物と粗末な武具が少し転がっていただけだと返って来た。

下に行って自分で調べろって訳ね。

しかも下層には上よりも強い魔物が居て、魚人さんたちは近付かないと。うん。今日はここまで!




---------------

南に向かう馬車の中。

クワンティを隣に。御爺様の対面で完成間近の蛇皮のブーツを眺め、色々な考察を繰り返した。

柔軟性、通気性、防水性、通年使用可能な構造。
寸法の自動調節機能、高い防御性能、歩行走行の補助と促進。求め始めたら切りが無く。全てを揃えるには少し素材が足りない気がした。

今日は眼鏡をスターレン様に貸し出ししている為、妄想以上の考察が難しい。でもこうして解らない、理解出来ない事象に対して頭を使うのは好き。であると同時にとても大切な行為だと思う。考える力を養う為にも。

不意に御爺様から声を掛けられた。
「楽しいか。シュルツ」
「楽しいです!こうして未知を自分の手で作り上げて行く感じがとても」

「わしとしては同じ程度に。外の景色にも興味と楽しみを持って欲しいのだが」
おぉ…そうでしたわ。

折角王都を出たのに何も見ずとは勿体無い。

ブーツは宿場でのお楽しみに取って置いて。小窓から流れる外の景色を眺めた。

基本的に緑と茶色と晴れ渡った空の青しか配色は無い。
それでも自然の景色は広大で優雅で。私の胸を躍らせるには充分だった。

「今日はハイネハイネにお泊りなのですよね」
「そうだ。態々遠回りをしているが」

王都から川下りをしたら数時間で到着する所を、南門から出て東回りの陸路で半日掛かり。今まで苦労して来られた行商人の気持ちを理解する。これも勉強。

「お二人がお嫌いなハイネですね」
「まあ…あれは。ちょっとした手違いだ」

私も単独護衛付きで出歩いたら。同じ様な体験が出来るのだろうか。視察とは無関係な事ばかりに興味が湧いてしまう。

「不思議です。五年前。七歳か八歳の頃なのに。全く記憶に在りません」
「当然だ。あの時は嫌だ、行きたくない、帰りたい、お腹空いた、わしの意地悪だと泣き叫び。疲れ果てて眠っていたからな」

とても恥ずかしい。
「…お二人には絶対に秘密で」
「解っておる」

改めて眺める景色が一層輝いて見えた。

暫く眺めていると。一つの行商隊と擦れ違った。
「御爺様。あれはマッサラ行きの隊列でしょうか」
「…そうだな。昔に比べ国内も平和に成り。宿場だけでなく休憩所も多く増設された。ハイネからだけでなくラフドッグから直通する行商も増えた。衛兵隊の配備も進んでおるし。今後も増えて行くだろう」

「ラフドッグとハイネの間。王都とウィンザートの間。
マッサラとロルーゼ国境迄の間。ラッハマの南北。
宿場から町へ。こうして国は発展して行くのですね」

「うむ。王都の奴隷区開放や人口の増加が伴えば。幾つもの町が増える。夢は広がるがわしは見れぬ。その夢はシュルツやスターレンの世代に託す」
「またその様な悲しい事を…。それらはお亡くなりになる間際に仰って下さい。今は聞きたくありません」

「わしは早く隠居したいだけなんだが」
「それは御爺様が御父様や叔父様の育て方をお間違えになられた所為です。自業自得なのでは」

「…何とも耳が痛いな…」


耳を押え悄気るロロシュの姿。シュルツの目には昔に比べて少し小さく見えた。

それは寂しくも有り、嬉しくも有った。
自分の成長と御爺様も一人の人間なのだと実感出来て。
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