お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第254話 南東大陸への初航路

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休息日を挟んでもギリングス、ミリータリア間の商船開通のお知らせ以外のご案内は届いていなかった。

フィーネが宣言。
「追加の返事は私共の確認後に。既に届いた西部国の案内には予め返事を出したいと考えます。
まず外交官として呼ぼうと勇者隊として呼ぼうとも。従者や配下商人に至るまで誰の前でも膝は屈しないと。
それは歴代勇者の立場と宗教に囚われない聖剣カタリデの意思を尊重する物であり。何ら無作法ではないと予告致します。
内状を述べれば吸血姫を同行させる手前。膝を着けと言うのが不可能であるからです。
加えて毎回同じ事を繰り返し説明するのも面倒。勇者を迎えた歴史を持つ国ならば。カタリデの意向は既知の筈」
「うむ…。元々国交も無かった大陸だ。その点は好きにカタリデ様のご意向を反映すれば良い」

メルシャンの心配。
「ねえフィー。本当に。本当に貴女が全部前に出るの?」
「心配しないでメル。スターレンの補佐官であり妻でも有る私が前に出るのは自然。何より夫は多忙と討伐で疲弊し疲れが溜まり思考も低下中。
とまでは言い過ぎですが。多少粗い私の方が多方面に押し通し易い。
過度な色仕掛けで迫るとか。矢鱈酒席に美女を揃えるだとか裸同然の衣装で並ぶ等。それらの色物を排除し。
深い迷宮の探索や都合良く湧き出たゴッズを討伐せよだとかの依頼も握り潰せる。
スターレンは頼まれたら断れない性格故に」
「うん…解ったわ。閉鎖的な南東ではかなり刺激が強いと思うけど。色々考えると妻が上位の方が何かと都合が良いわね」
「でしょ」

「話は理解した。予告もカタリデ様の意向と全ての案件はフィーネを通せと付け加える。他には」
「そうですね…。先方国内での転移具多用許可。立ち寄り先は王都首都近隣2つの町までをこちら指定で。
買い物は自由に出来るよう下町を静めて置け。
貧富格差が激しいのに絢爛豪華な貴族宮廷料理で持て成すならば今後の外交は断念すると軽く脅し文句を付け加えましょう」
「成程名案だ。交易はギリングスとサンタギーナ経由とするも南東窓口であるミリータリアだけは外せん。商業ギルド本部が在るレンブラントも。
その点に留意して外事交渉を進めてくれ」
「「御意に」」

俺からも。
「この後か明日。ギリングスのプリメラ様と出港予定等の擦り合わせをします。何か伝言等は有りますでしょうか」
「私からは特に無い」
ミラン様も。
「私も特に。私的な親書の遣り取り内容も復興具合を知らせる物で。胸を張って招けるよう頑張ると。
とは別にスターレン用に準備した物が有るとか。それは忘れず尋ね為さい」
「はい」
俺用って何だろ。


それが気に成り午前に早速カルツェルク城へ飛びました。

転移着と同時に固まる兵士たち。
走り出す人。少々お待ちをと唱える人。予想通りの展開。

出迎えはお馴染みのサイラス隊。
「この度は御目出度う御座います。こう言ってはあれですが女王以下平民に至るまで予想通りに。
貴方様が勇者で良かったと皆喜んで居ります。直接救って頂けた私共も鼻が高い。等と浮かれてはいませんのでご安心を」
「良かった」
「普通が一番よ。何処も騒がしい野次馬がごった返して懲り懲りなの」

「でしょうな。無理も無し。お二人を知る者なら尚。今回からご案内しますのは通常の応接室へ変更されました。
女王も王女もお二人とカタリデ様を首を長くしてお待ちです。最初だけとお許しを」
「初回はね」
「如何してもねぇ」

面倒なのでカタリデを背中に張り付け赤ラインを跨いだ。
場に居合わせた全員が響めき拍手した。
「お姿を拝見出来ただけで感無量。ではこちらへ」

通された応接室で待つ2人も取り乱しつつも何とか平静を取り戻し。
「心臓の鼓動が収まりませんが私情は挟まずに。本日はカートロッドの件で良いですね」
「はい。何やらご用意をされているとか」
「ミラン様から伺いまして」

「違い有りません」
プリメラ様が黒革のポーチから紙束を取り出して。
「カートロッドの転移指定場所。兵役駐屯所隣のあの空き小屋に変更は無し。二人と従者は当然顔パス。入国手続きは不要。船の発着管理棟で出国手続きを済ませるだけに手配しました」
「おぉ助かります」
「その点をご相談しようかと」

「それは一回使い切りの通行書。二人の一行以外の方に使い為さい。同じ小屋に足跡を付ければ単独でも別枠でも自由に」
「至れり尽くせり」
「ご配慮感謝致します」

「私とマルシュワの署名入りで十枚。そこに二人の何方かの署名を加え小屋の番兵に渡すだけ。出国は商業ギルドを挟めば何ら問題無し」
「擦り合わせが一瞬で終わった」
「終わりましたねぇ」
ホント有り難い。もう少し手子摺ると思ってた。

「足りなくなったら又ここへ来ると良いでしょう」
「「はい」」
これで足りなくなる事はまず無い。

「名残惜しいですが。何やらマルシュワが個人的に話が有るとかで私とサイラスは出ます。後日ゆっくり時間が出来たなら改めて」
「ええ是非」
「是非に」

マルシュワ以外が退出。残った彼女は大緊張。
「どしたの?」
「話って何?時間なら大丈夫よ?」

深呼吸を繰り返し。意を決して俺の手をガッシリ掴み。
「スターレン様!」
「は、はい?」
「嫌な予感…」

「違いますフィーネ様。スターレン様。私にサインジョを譲って下さい!お願いします!」
「「「「え?」」」」
後ろのソプランたちも疑問符。

「ちょっと話が見えないんだけど…」
「スターレン様に刃を向けても許され。刑期を終えたらタイラントへ来いと直接指名。サインジョの刑期も大幅に短縮されて評判は一転鰻登りに。心の準備が整えば直ぐにでも向かってしまわれます」
「は、はぁ」

「率直に申し上げまして。彼を私の夫としたいのです!」
「「あぁ」」
平民に惚れてしまいましたか。

「スターレン様以外で心動いた殿方は彼だけなのです。どうか私に譲って下さい!」
「な、成程ぉ。どうしたらいいですかねフィーネさん」
「困りましたねぇ。ついこの前来いって言ったばかりで急に恋愛は自由だ何て言えないし。ルイダさんのお墓の近くでは失礼でお城へ呼び立てると益々タイラント行きが濃厚に成る」
これは難題だ。自分の言動が招いた事だが。

後ろのアローマが。
「差し出がましいですが。先程マルシュワ様は鰻と仰いましたがこちらの国でも獲れるのですか?」
「はい。ここから直ぐ南の森の小川と湖で」
「マルシュワ様がお好きでしたら鰻釣りに興じるのは如何でしょう。サインジョさんを案内役にサイラス隊から複数護衛に連れ。隣に座り親睦を深めてみる、と言うのは」
「「名案!」」
「ナイスだアローマ」

「凄いですアローマ様。昔から釣りは大好きで。良く川魚を釣りに。時間が有れば海釣りも。
最初は皆様で糸を垂らし。以降は個人的にお誘いして行けば完璧です。
お願いします。初回だけお力添えを」
「早速行こうか。お昼がまだなら軽食も持って」
「綺麗な排水要らずのトイレも3基持ってるし。時間も空けてくれたからそのお礼に。自分たちの釣り竿は持ってるからそちらの準備を」

「有り難う御座います!直ぐに手配を。もう少々ここでお待ちを。お茶も運ばせますので」
「慌てんなよー」

マルシュワは元気良くはいと答えドアを開け放つとサイラスを連呼しながら走り出した。

「恋を見付けた乙女は止まらないわ。私は仕舞って。そのサインジョの気持ちが削がれるから」
「おけ。今日出番無かったわ」

「出なくても済むのが一番。私関係無くてもあんたたちは世界を制覇する有名夫婦」
「それ言わんといて。にしてもアローマ良く聞き逃さなかったな」
「完全に聞き流してた。アローマは私より秘書官に向いてると思う」
「いえいえ偶然ですよ。前回お供で下町を歩いた時。鰻や鰌を卵と一緒に焼いた時のような香ばしい匂いを嗅いだ気がしまして」
「お鼻も良い」
「夕食は鰻の卵閉じで決まりね」

その後笑顔が戻ったサインジョと片思いだったマルシュワは釣り談義に華を咲かせ急接近。

釣りの帰り際にそっと後ろから。
「俺が言った事は気にするな。今直ぐは無理でも誰か良い人が見付かったなら。その人の為に生き。何時か暇が出来たら普通にタイラントへ遊びに来い。
南海はもう何時でも穏やかだ」
「はい…。夢を、見ても良いのでしょうか」
「その夢が自分と誰かを幸せにする物なら幾らでも見よう。人生まだ半分も過ぎてないんだからさ」
「スターレン様は詩人ですなぁ」
褒められて悪い気はしない。

成婚率100%の看板は…もうええわ。




--------------

一本木が燃ゆる孤島。今はその木も見付からない。

木が生えていた場所の黒焦げよりも真っ先に目に飛び込んだのは島の西側半分。

硬い岩場に深く刻まれ抉れた十字跡。西端方向には強烈に踏み込んだ穴が二つ。そこから無数の皹が広がる。

事後確認に訪れたトッド隊長は呟く。
「スターレン様は…何と戦ったんだ…」
「大型のワームだとか。しかし…這い出た痕跡が有りませんね」
副長の言葉に頷き。
「有りの侭をご報告するしか無いな」
「はい…。全体を酸で溶かし。孤島を半分崩壊させる程の大物がここに居たようだと」

隊員たちも天を仰いだ。
「叶うなら。間近で見たかったです…」
「この目で」

行き過ぎた昨日の出来事を想像して。




--------------

今日は夫のソプランが城への付き添いで私が配達係を仰せ付かった。

最近はパンツスタイルにも慣れ冒険者らしくなったなと自負をする。

目的はトロイヤさんとティマーンさんへギリングス通行書を届ける役目。

ハイネの東から移民区へ足を運んだ。

移民組と現地住民の子供たちが仲良く遊ぶ姿を眺めていると私にも早く来ないかと思い下腹を擦る。

旅から外されてしまうので今はまだ。

一人の時間。先日の祝勝会でのレイル様とスターレン様の濃厚なキスシーンを思い出す。

キスまでなら許された。なら私も…と浅ましく考える自分が居た。私がそれをしたらフィーネ様は怒りながら泣いてしまわれるかも知れない。

そして旅から外される。羨ましいな…レイル様ばっかり。
あんな優しいキス。ソプランをもっと教育しなくては。
優しいキスを目指して!

その前にもう一度フィーネ様と…。

「お姉さんお腹痛いの?」
「お腹空いたの?」
擦れ違った男の子と女の子に突然声を掛けられた。
「ふえっ!?ど…どうして?」
ビックリし過ぎて変な声が出てしまった。

「だってお腹押さえながら歩いてる」
「トイレ?直ぐそこのお店とかに沢山あるよ?」
この癖は止めないと。
「これは癖ね。お腹は痛くも減ってもないの」
「なーんだ。じゃあねー」
「じゃあねーアローマお姉さん」
「ブフッ」

減衰スカーフの変装も長続きはしない模様。帰ったらご報告しなくては…。

人が集まる前に配達を終えてしまおう。

トロイヤ家の方を先に訪ねたが運良く二人が揃って打ち合わせ中だった。

ご家族はティマーン家に集まっていると言う。
「それは好都合です」
スターレン様ご署名入りの通行書を二枚出し。使い方の説明を加えた。
「残りの八枚はシュルツお嬢様へお預けしました。紛失された場合はロロシュ邸まで。
明日。現地の転移許可小屋へ二人をご案内します。そして明後日いよいよスターレン視察隊がギリングスを出発致します。ご準備の程は」

ティマーンとトロイヤ。
「至れり尽くせりで有り難い。いよいよですか」
「荷物はバッチリ整えました。建前は南西の商人。久々に解放された南東各地の現地特産物調査です。
それなら最低限の食糧と野営道具だけで済むんで」
「成程。出発船は一日ズラしの初便狙いで。天候予測での遅れも許容しています。スターレン様は人名探索コンパスをお持ちですので焦らず安全な船旅を。
女の私が言うのはあれですが夜町散策は大いに結構だと仰せです。
行き先工程はミリータリア。南西ルーナデオン。その隣ルーナリオン。南部ペイルロンド。最後にレンブラント公国の順。それぞれ一週間から十日。大陸西部方面は七月上旬目処で切り上げます。
各国王都と首都を起点に近隣町二つを選択し。目立つ行動で…嫌でも目立ちますが移動をするので見失う事はまず無いでしょう。
気に成る町が見付かれば独自路線でも構いません。
夜間に二人が揃った時を見計らい私かスターレン様かフィーネ様が伺います。主軸は私です。
北部から東部全域はまだ招待案内が来ていません。
途中で届いてもそれは八月以降に再開。九月は夏期休暇を挟み最終は十月目処で調査を終えたいと。
十一月以降はどうしても外せない行事が目白押しです故」

二人が自分で取ったメモを見ながら。
「余裕が有りそうで中々タイトなスケジュールですね」
「このメモは頭に入れて燃やすんでご心配無く。にしても出だしで遅れたら何も出来ないな…」
「もしもの場合は強引に上陸させるそうですし。南東航路も今の時期は穏やかだと言うお話です」
「「成程」」

「質問が無ければ明日のお話をしますが」
二人が悩ましそうに。
「それなんですが…」
「登録する自分たちの商会名で悩んでるんですよ」
「あぁ商業会名称ですか」
じっとこちらを見る二人。
「解りましたから。私も考えます。例えば…お子様のお名前は何方が」
「「妻が」」
「似た物夫ですか!」
善くぞ揃った者です。人生は不思議。

「二人のお名前を変えたのでは嘗ての知り合いと出会した時に困りますね…。逆にいっそトルティーヤと言うお名前では如何でしょう。
各地で名称は異なりますがコーンと小麦粉で作る薄焼きパンを指します」
「美味しそうですね」
「食糧品を扱いたいと言う説明にもなる。悪くないな」
「反対意見は無いのですか!」

「気を引くような格好良い名前では目立つでしょう」
「フィアフォンゼル迷宮はアローマさんの発案だとか。そんなバチッと来る名前は要りません。使い捨てなので」
「そ…そうですか」
帰ってお二人の為にトルティーヤを作ろうかな…。
「いやいや。それにしてももう少し考えませんか?」

「いえそれで」
「時間も無いので」
即決採用されてしまいました。

明日は午前にロロシュ邸にお越し下さいと伝えて退散。

王都やハイネで買い物は身バレの危険が有ると考えラフドッグの市場でお買い物。

青果市場での買い物中。船工房方面から見知った方々。
会釈に留め擦れ違おうとした時。
「なんで無視するんだい?」
「無視では…。変装中でして」
「無駄だよそんな物。ア…」
慌ててバインカレ様のお口を塞ぐ。
「だとしても名前を出されては困ります」
「殺す気かい!」
付き人三人の女性兵たちも。
「オーラが違います」
「雰囲気と気品がもう眩しくて…」
「髪色を変えた位では無理かと」

「あんたに渡す物が有る。後で屋敷に来な」
「畏まりました…」
何かは解らないですがお伺いしないと後が怖い。

コーンと小麦粉を適度に購入。路地裏に隠れてバッグへ収納。何時まで私たちは盗賊紛いの行いを…。

狭い路地を大きく迂回してバートハイト家へご訪問。
門前でスカーフを外そうとしたが。
「どうぞそのまま」
「お通り下さい」
素通り出来てしまった。

マッサラも危うい。残るはウィンザートしか…。

屋敷内は何時も通りの静けさでホッとした。
食堂で待つ主人様の対面に座る。

「茶淹れは任せて座ってな。船を持って来てくれた礼がしたくてね。遠方から仕入れるのは苦労したよ」
制限が有る中で遠方から?
「何を仕入れられたのですか?」

一旦上に向かい。戻って来た時に小箱を抱えていた。
十字の銀色アクセサリーが二つ。
「モーランゼア産の避妊具だよ」
思わず紅茶を吹きそうに。
「ケホッ…ケホッ…。な、何故その様な物を」
「私も若い頃は冒険者を囓っててね。妊娠時期には苦労したし無駄な我慢もした。
冗談抜きで。若い夫婦が二組の冒険者隊は滅多に居ないし。望まぬ時期の妊娠離脱は普通でも。あんたらが背負う重責は並大抵の物じゃない。
我慢は身体と精神に本当に良く無い。男女共にね。これは経験談。
後に旅が終わった時に妊娠し難い身体に成ってる事も往々にして有り得る話さ」
「はい…。夫は真面目な人なので滅多に営みは…」

「同じ女として私はこれを礼に選んだ。余計だろうが老害だろうが関係無い。後々の為の御守りだと思いな。
これは娼館で使われている指輪型の上位品でね。身近に置いておけば効果を発動する。心配なら鑑定してフィーネにも渡しておやり」
「恥ずかしさは感じますが有り難く」
「何も。何一つ恥じゃない。対策しないと男は直ぐに外で女を作る。
スターレンやソプランを放って置く女も居ない。重婚が普通な国が南東では主流さ。
出発する前に。トコトン正直に話し合って損は無い」
確かに…。これは重要な事だ。
恥だと逃げているのは私。ずっとソプランに我慢をさせている。それは自分も。
「失礼しました。ご助言と道具を有り難く頂戴し。夫と話し合います」
「良く言った。間に合って良かったよ」

心からのお礼を返し。
お二人のご自宅へ戻った後。フィーネ様と二人切りで話し合い。それぞれの夫婦間で本心を曝け出し合った。

久々に心置きなく交わり。ソプランはとても優しいキスを私にくれた。

「ずっと我慢させて御免なさい」
「俺もずっと言えなかった。愛してる。アローマ」
自然に溢れる涙。
「私も。愛しています。ソプラン」




--------------

知らず知らずフィーネを深く傷付けていたと知った夜。

言葉だけでは足りない。気持ちの部分が欠けていたと猛省して泣きながら謝った。

大切なのは心だったと。

翌日午前。
トロイヤたちの転移テストも重ねての最終打ち合わせ。
「トロイヤはフィオグラまでは入ったんだっけ」
「三回程。ゾーランの屋敷とその周辺へ」
「うーん…。取り潰されてるだろうし。王都内外も様変わりしてるだろうから使い難いな。でも遠征の移動途中で行けるかどうかは試してみて。
それとこれを」
ローレライ宛の証文書を渡した。
「緊急時はロロシュ邸へ避難するのは本線で変わらないけど2番目の逃げ道としてフィオグラに居るローレライ大司教を訪ねてみて。
それまでに行ける場所が増えていたらギリングス通行書と一緒に必ず燃やして破棄する事」
「敵に奪われたら大惨事ですからね」

「その他はアローマが伝えた通りに。明日の朝。最悪でも午前内にはここを出る。トロイヤたちは昼過ぎにハイネを出発で」
「「はい」」

2人が帰宅後アローマとフィーネが焼いてくれたトルティーヤでお昼。肉野菜炒めを巻いて。
「あー基本だけど忘れてたわ」
「自分たちでも簡単に作れる物なのにねぇ」
「エビチリ巻いたら最高だろうな」
「辛い物でも甘いデザートでも合いますね」

新鮮なブートストライトを巻いてクレープにしてみたり。

「薬類はカーネギが運んでくれたし。今年の梅干しと木の実とブート胚。リゼルオイルはプリタとファーナが作ってくれたし。基本食材は本棟のお裾分けで間に合う。
他に何か忘れ物無いかな」
「この後お城で訪問先の案内状を受け取る。ギリングス出港船は専用のお迎えだから乗船券はマスト。でも無くした所でスタンとフウの顔パスなんだけど」
「言えてます」

「お嬢様に依頼した分は受け取った。ロロシュ氏と水竜様への挨拶も済ませた。訪問着も揃えた。ここまで準備しても毎回何か忘れてる気になるのはなんでだろうな」
「不思議ですね。私は姉さん…あ!」
「ヤベえジョゼに挨拶してねえ。帰ってからずっと」
「行ってらー」
「人混み掻き分けて2人一緒にね」
「覚悟決めて」
「行って参ります」

「そういやロイドは?」
「図書館で面白いシリーズ恋愛物見付けたらしくて朝から出掛けてるよ」
「羨まし。俺らもいい加減」
「強行突破してやろー」


城で案内状と乗船券をしっかり受け取り。自宅からリスタートで図書館を目指した。

並み居る群衆と握手の波を掻き分けてやっとの思いで辿り着いた初図書館内。

「まだ全然収まってないや」
「町に出なかった分。逆に煽ってたかも」
「顔見せて緩和するべきだったな」
「うんうん」

外とは一転静かな館内。ロイドはこの天国を早めに見付けていた。教えてくれれば良かったのに…。

係員や警備兵に手を振りながら1階奥の販売エリアへ。
ボーッと天井を眺めるシルビィに挨拶。
「ハッ…」
行き成り気絶し掛けた。
「顔見ただけで気絶すんな」
「私たちが恥ずかしいわ」
「す、済みません…。お二人を題材にした新シナリオを考えていたら御本人登場だったもので」
「是非止めてくれ」
「絶対嫌。そんなの見たくない」
「……ノーコメントで」
半分はミーシャだった…。

「良くないけどまあいいや」
「真っ先に止めるべきだったわ…。手芸とか料理。芸術とかの本の貯蓄はまだ有る?」
「手芸と料理に関してはここと左隣のブース。芸術関連書は右手一つ奥のブースです。在庫は地下にも」

俺が向かった芸術系ブースではギレムと鉢合わせ。
「あれ?ギレムって芸術興味有ったんだ」
「あぁ!これは…どうも。ご無沙汰して居ります。新しいデザインを独自で考えるのも色々と限界が。他者の作品からパクりではなく学べる物は沢山有ります。色彩だとか音だとか」
「音?」
「いえいえ何でも御座いません。私は気にせず」
そう言って離れた。

何か新しい楽器でも作るんかな。金属楽器いいね。
来年のフィーネの誕生月祝いの候補に入れよう。

吟味して数冊購入。

フィーネに声を掛け上の閲覧層へ向かった。

独特な本とインクの香り漂う素晴らしき空間。
2階は主に児童から未成年向け。3階は大人向け。
3階窓辺席で好きな本を読み耽るロイドに手を振り自分は植物図鑑コーナーなどを徘徊。

「何かお探しですか?スターレン様」
ご年配淑女さんに声を掛けられた。
「ええまあ。植物図鑑とか無いかなと…」
何処となく…メルシャン似の美熟女。
「あ!館長のブエテナ様ですか?」
「様だなんて。呼捨てで構いませんわ。初めまして」
「どうもどうも。一度ご挨拶したいと思ってました」
メル姉妹のお母さんだった。

「気に掛けて頂けるなんて光栄ですわ。三階は人数制限を掛けて居ります故。時間有る限りどうぞごゆっくりと」
「制限?俺素通りしちゃいましたけど」
「スターレン隊や深い関係者への配慮です。僅かばかりの憩いの場をと。ミラン様と私共より」
「あぁ助かります。周りが騒がしくて。お心遣いに感謝を」
「騒がしいを通り越してますけどね」
「ですねー」
オホホと上品に笑い俺から離れ。後から来たフィーネとも挨拶を交わしていた。

とても有意義な午後。

夜は遠征組フルメンバーとメリリー&ラメルを誘ってトワイライトでディナー。

遠征中のメリリーはロロシュ邸宿舎に常駐が決まり。ラメルは少し気の早い成人祝いを細やかに。

遠征前最終夜は都内ホテルで過ごすと言う。

レイルと食欲を共有しているプレマーレもこの夜は食事解禁され美味しそうに馬刺しと牛ステーキを堪能していた。
今までの物凄い忍耐力に感服。




--------------

出発の朝を迎え。レイルの濃厚な別れのキスを背で見届けプリタ、ファーナ、身重のミランダと挨拶を交し。自宅内からカートロッドへと転移した。

道の途中でカタリデを背中に張り付け搭乗口へ。
ミリータリアの大型客船に乗り込んだ。

振り返れども名を知る者は誰も居ない。南西大陸とも一瞬でお別れ。

いざ南東大陸を目指して出港。
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黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

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