嫌いなあいつの婚約者

みー

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9話

3

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「離してください、彼女、痛がっているでしょう」

 急に私の前に現れて、まるでスーパーヒーローのように守ってくれる、見える大きな背中がとっても力強く感じる。

「りょ、涼……?」

 顔は見えないけれど、聞き間違えるはずがない。その声は、涼だった。

 十何年も聞いてきた声。こんな状況で、助けに来るのが涼なんてずるい。

「なによ、やっぱり元婚約者とも繋がってるんじゃないっ」

「違います。それは誤解だ。僕が、…………僕が彼女を忘れられないだけで。今だって、桜が連れて行かれるから心配になって来てみただけです」

 他の人が言ったらストーカーみたいなことも、何故だか涼だとそうは感じない。

「それなら、あなただって私の気持ちわかるでしょう? 好きな人に恋人がいて、自分のことを全然見てくれないこの辛さ」

「ええ、分かります」

 涼ははっきりと言った。

「でも…………これは間違ってる。自分の好きな人が選んだ人を傷付けるのは間違ってる」

「なによっ、いい子ぶって」

「それでいいんです。好きな人が笑っているならそれでいい。少なくとも僕は」

「なによ……好きにすればいいじゃない」

 それ以上何も言えなくなったのか、涼に鋭い視線を浴びさせてその人は走ってここから立ち去った。

 残される涼と私。

 どうして、こんな私の為に……。涼だって上級生の人に目を付けられたら面倒になることくらい分かっているはずなのに。

「大丈夫?」

「なんで……?」

「ごめん、桜が心配で。どうしても心配で。……あんまり2人でいると奏多さんに見られるかもしれないし、僕は先に行くよ。桜も、授業に遅れないようにね」

 涼はそれだけを言うと居なくなる。

 本当に、ただ私のことが心配で助けに来てくれただけ。なにも見返りなど求めずに……。

 どうして、涼はそれで平気なの……? 好きな人が自分に振り返ってくれる可能性がとても低いのに、どうして……。

 そんな涼の気持ちを考えると、胸が締め付けられる。自分のことじゃないのに、大きな涙が地面にぽつぽつと落ちていき、地面を黒く染めていく。

 それはどんどんと大きくなっていく。

 私がこの世界に来てしまったから、涼は幸せな日々から遠のいてしまった。

 きっとそれまでは名ばかりの婚約者ではなく、想い合っている2人で、なのに私が桜と入れ替わってしまったから歯車が狂ってしまったんだ。

 私のせいだ……。私がいなければ、涼ともう1人の桜はきっと無事に結婚でもしていたはず。

 でも、本当に今流れている涙はそれのせい? 

 本当は違うんじゃない? と、心の中でもう1人の自分が問う。

「だって、もう、遅いもの……。これ以上、誰かを犠牲になんてしたくないの……」

 誰に聞かせるわけでもなく、ただ心の声が出た。
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