嫌いなあいつの婚約者

みー

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9話

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 そこには、今にも涙を流しそうな自分の顔があって、私は無理矢理口角を上げた。

 こんな姿、彼女にだけは見られたくなかった。

「少し、寂しくなっただけよ。だって、ずっと側にいたんだから、涼は」

 強がってしまう。

「そうね」

「だから、深い意味はないの」

「ええ」

「それより、ランチ食べましょう。時間がなくなっちゃう」

「それもそうね」

 ハーブの香りが漂う魚ですごく美味しいはずなのに、そうは思えない。

 ううん、美味しいの。いつも通り、味は美味しい。

 ただ、美味しいのその先がない。







「大丈夫だった?」

「うん、何もなかったよ。ちょっと話をしてランチ食べただけだから」

 教室に戻るとすぐに杏里が心配をしに来てくれた。

 やっぱり、杏里といる時と鈴華さんといる時とでは何もかもが違う。

 友人の有り難さを、今しみじみと心の奥から感じる。

 何も特別なことをしてくれなくても、ただ側にいるということが安心感をくれるのだから、不思議なもの。

 それをしみじみと感じ取っていると、また違う何かがやってくる。

「桜さんっ」

 残りのお昼の休みを杏里と平和に暮らそうとした時、クラスメイトに名前を呼ばれた。

「なんか、呼んでるよ?」

「私?」

「そう、あの人。多分、1つ上の学年の人だと思う」

 見ると、確かに同じ学年の中では見たことのない顔で、どこか不機嫌オーラを放って立っていた。

 絶対に明るい話ではない、というのはここからでも分かる。

 でも、上級生を無視できる勇気を持っているはずもなく私は1人でその人のところに向かった。

「あ、あの……」

「ちょっと、いい?」

「はい……」

 悪い予感しかなく、どこかへ向かう途中も会話ゼロで沈黙が続く。

 空気がここだけ凍り付いている。

 今日はついていない。

 杏里とゆっくりとお昼の時間を過ごせないし、緊張状態が続いてなんだか腹痛すら感じて来た。

 なんでもいいから、早く話を終えたい。

「ここでいいわ」

 人のいない校舎裏に連れて来られる。

「あなた、奏多とはどういういう関係なの?」

 なんとなく予想はしていたけど、やっぱり奏多さん関係。

 多分、この人は奏多さんのことが好きなんだ。聞かなくても分かる。だから私が邪魔で、でも今私はれっきとした奏多さんの恋人。

「恋人……です」

「あなた、ついこの間まで婚約者がいたそうじゃない? それですぐに奏多に乗り換え?」

「乗り換えとか、そういうつもりは……」

 でも、傍から見たらそう見えるのかもしれない。そうよね。杏里だって言っていたもの。私が涼を好きだったって。

 そんな人がいきなり他の男の人と付き合うなんて、確かに軽いと思われても仕方ない。

「別れて」

「それは、無理です」

「私は、ずっと、ずっと奏多が好きだったのよ。幼い頃から。分かる? ねえ、分かる?」

 私を見る目が殺気立っていて、今にもここから逃げ出したくなる。

 でも、ここから去ったら去ったでその後のほうが恐ろしい。

「いたっ」

 黙っていると、その人は感情が高まってか、私の肩を掴んできた。しかも、結構な力。痛い。離してほしい。でも、怖い。

 力は弱まるどころか強くなっていく。

 誰か、助けて。

「お願い。ねえ、私から奏多を取らないで」

「そんなこと言われても……」

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