嫌いなあいつの婚約者

みー

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10話

3

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 その後も、微妙な距離を保ちつつ、空が赤くなるまで、軽食を挟んだりしながら街中を散歩して回った。

「あ、あの。涼くん」

 涼くんと別れる前に、あのハンカチを渡さなくちゃ。

「どうしたの?」

「これ、その、プレゼントなんだけど……」

「えっ、僕に?」

「うん」

 涼くんは目を見開いたまま動かなくなった。

 夕焼けで染まる涼くんの赤い顔が、より赤くなっていくように見える。

 ぎゅっと、優しく包み込むように彼を抱きしめたくなった。

 でも、そんなことをしたらダメだと理性が働いて、なんとかその気持ちを心の奥底に押し込める。

「め、迷惑だった?」

「そんなはずないよ、すごく嬉しいんだ」

 涼くんはやっとそれを受け取ると、ありがとうと言って私の手を握る。

「大事にするよ」

「ただの、ハンカチだけどね」

「それでも」

 単純にその言葉が嬉しくて、心がとても晴れやかな気持ちになった。









「桜さん、ちょっといいかしら」

「は、はい……」

 朝学校に行くと、私の席の近くに鈴華さんの姿があって、不機嫌な声で話しかけられた。

 人気のない廊下に連れてこられた。

 なんとなく、話の内容に想像がつく。多分、涼くん関係のこと。

 2人は仲がいいから、きっと鈴華さんから見たら私の存在はいいものじゃない。

「桜さん、あなた今記憶喪失なんでしょ? 一部の」

「はい……」

「桜さんのためを思って教えるけれど、あなたは涼が嫌いなの。で、1つ上の奏多さんっていう人のことが好きなの。だから、涼にとっても奏多さんにとっても、あなたと涼が仲良くするのは良くないの。2人を傷付けることになる。婚約を破棄してまであなたは奏多さんを選んだんだから、金輪際涼に近づかないでもらえるかしら?」

「でも……」

「なに?」

「あ、いえ……」

「話はそれだけ。私と涼の邪魔はしないでね」

 それを言うと鈴華さんは私の前から姿を消した。

 そっか。鈴華さんは涼くんのことが好きで、だから彼女にとって私は邪魔な存在で……。

 記憶が無くなるまでの私は涼くんとはあまり仲よく無くて、それなのに今さら近づいて鈴華さんの心に雲を掛けてしまったのは私。

 いくらメイドがいるからって、昨日も本来なら涼くんと出かけるべきじゃなかった。

 鈴華さんの言うように、今の恋人である奏多さんにだって失礼だもの。

「記憶が戻れば……いいのに」

 プレゼントとしてハンカチを渡してしまったことが今になって悔やまれる。鈴華さんが知ってしまったら、何を言われるか分からない。ますます嫌な気持ちにさせてしまうのは分かる。

 もっと、色んな人のことを考えて行動しないと……。

 
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