【完結】ちびっ子元聖女は自分は成人していると声を大にして言いたい

かのん

文字の大きさ
8 / 45

八話 毒と薬

しおりを挟む
 少し時は遡り、それはココレットの作った匂い袋を検品する場でのことであった。王宮の検品は、品物に毒など危険物が混入していないか、魔法が掛けられているなど不審な点はないか調べられる。

 その上で問題ないとされればすぐに持ち主へと返されるのだが、ココレットの作った匂い袋が物議をかもすこととなる。

 検品係は魔法使いが務めることが多く、ココレットの作った匂い袋も危険なものではないか、毒物は含まれていないか調べ始められた。通常通りのはずだったが、すぐにココレットの匂い袋の異常性に気付く。

「これは・・・どういうことだ?」

 魔法使いは自分の間違いだろうと、一から丁寧に魔法を掛け直し、匂い袋の成分を特定していく。けれど何度行っても、その異常性は変わらない。

「ん?どうしたんだ?」

 他の検品係の魔法使いは、難しい顔をして何度も魔法を掛け直す同僚に声をかける。

「いや、うん・・今日は魔法が上手くいかないみたいなんだ。すまないが、一度これを調べてもらえないか?」

 問題を自分の魔法のせいだと結論付け、恥を忍んで頼む。もちろん同じ部署なのだから協力するのは当たり前で、快く検品を替わる。

 しかし、問題は片付くことはない。

「ん?あれ?ん?・・・これは?・・・おかしいなぁ。」

 その異常性は結局検品係が次々に替わっても変わることなく、結局検品係だけではなく他の部署の魔法使いをも巻き込んだ大騒動へと発展していく。

「いやいや、おかしいだろう。これはただの匂い袋だろう?」

「いや、ただの匂い袋じゃないだろう!?」

「あぁ。そうだよ。ただの匂い袋のはずなのに、ただの匂い袋じゃないんだ!」

 いつもは検品物を次から次に処理しては、安全性をチェックし、そして各部署へと届けていくのだが、それが次第に滞り始める。部屋の中には荷物の山が次々に積まれていくのだが、それを無視して魔法使いらはとある令嬢の持ってきた”匂い袋”に夢中になっている。

 魔法使い達は元々研究職を中心としている者が多く、探究心に火がつくと夢中になってしまうのがたまに傷な所がある。

 そして今まさに、その匂い袋は魔法使い達の探究心に火をつけていた。

「こっちの解析終わったぞ!そっちはどうだ?!」

「こっちもあと少しだ!」

「なぁ。これ誰か魔法使い長のルート様には知らせたのか?」

「あ!夢中になって知らせていなかった!大変だ!」

 集まっていた魔法使い達は、ルートへの報告がなされていなかったことに顔を青ざめさせて、慌てはじめる。

「ウソだろ!すぐに報告を!」

「誰が行くよ?」

 その場はシンとなる。溜まっていく荷物はすでに山が崩れそうなほどになっており、その場には十名ほどの魔法使いが集まっている。

 皆がごくりと息を飲む。行きたくないと言うのが皆の本心である。しかし現実とは無情なもの。まだ知らせにすぐに行っていれば間に合ったかもしれない。だが、時すでに遅しである。

「ほう。これはどういうことだ?」

 魔法使い長であるルートは、青い魔法陣の光に包まれてその場に現れると、眉間に深くしわを寄せて言った。

「他の部署から苦情が届いたと思えば、検品部署ではない者までここに集まっているとは・・・さぁ、誰か説明してくれ。」

 黒く長い髪を、金色の留め具で一つに結び、耳には魔力制御のピアスをはめている。黒い黒曜石のような瞳は魔力の強さを示し、この国一番の魔法使いは誰かと問われれば皆がルートの名を出すだろう。

 恐る恐る一人の魔法使いが前に出ると、問題となっている匂い袋をルートへと差出し、現状の報告をしていく。しかし、その報告をルートは信じられない。

「バカな。そんなわけがないだろう?」

 魔力を視力へと集めると、成分を魔法で分解し、それらを調べていく。王宮勤めの魔法使いはほとんどがエリートであり、ミスをすることなどめったにない。だが、それでも間違いではないかと、疑ってしまう。

「まさか・・・」

 しかし、自分で調べてみても結果は変わらない。

「これを・・・これを持ってきた者は何者だ!?」

 ルートが声を上げると、検品リストを確認した魔法使いが答えた。

「えっと、男爵家令嬢のココレット・ステフ様です。第二王子殿下の婚約者として、国王陛下、王妃様、第一王子殿下にご挨拶に来たそうです。そしてそのプレゼントだということでしたが。」

「なん・・だと?・・・分かった。私が確認をしてくる。皆は仕事に戻るように!その山のような検品物も、急いで検品をすませて他の部署へと届けるように。」

「はっはい!」

 ルートは婚約者である第二王子と令嬢は一緒にいるだろうと、第二王子の居場所を魔力で特定すると、部屋の前へと移動する。第一王子の寝所の扉の前に控える騎士らは、突然ルートが現れた事に驚き剣を構えた様子だったが、その人物が魔法使い長のルートだと見て取ると、構えた剣を鞘に納めた。

「緊急の案件だ。面会を。」

 そう告げた時、第二王子の慌てた声が聞こえ、ルートは慌てて扉を開けた。

 そこには第一王子の顔を両手でつかみ、その瞳を覗き込んでいる令嬢と、それを止めようと令嬢の肩に手を掛ける第二王子の姿があった。

 どういう現状なのか分からずにいたルートであったが、鼻をかすめる匂いに、顔を顰めた。

「この匂いは・・・まさか・・・」

 部屋の中にずかずかと入っていくルートは、ココレットとレオナルドを引き離すと、レオナルドの瞳を覗き込み、そしてさらに顔を歪める。

「・・ルート魔法使い長・・・?」

 レオナルドが驚きの声を上げると、ルートは静かにレオナルドの顔から手を離した。しかしそうかと思えば、レオナルドをルートは抱きかかえる。

「うわっ・・・ルート魔法使い長?どうしたんだ?」

「第一王子殿下、第二王子殿下、あと・・・ご令嬢。一度この部屋から出て話をしましょう。着いて来て下さい。」

 その急いでいるような声に、レオナルドとローワンは頷き、ココレットもそれにならって頷いた。四人は部屋を出ると、魔法使い達が多く勤務する王宮の東側にある塔へと移動し、空き部屋の一室に入った。

 ルートはレオナルドをベッドへと寝かせると、数名の魔法使いを呼び出し、第一王子の部屋を封鎖するように伝えると国王と王妃へは魔法の伝書バトを飛ばした。

 そしてふむっと息をつくと、レオナルド、ローワン、ココレットと視線を移して指でトントンと眉間を叩くとココレットの顔を覗き込んでじっと見つめた。

「あ・・・あの・・・」

 この時、ココレットの頬はほのかに色づく。お気づきだろうか。ココレットには男性に対する免疫などほとんどなく、その上、ルートはレオナルドやローワンとは雰囲気の違う、綺麗系のイケメンであった。美形に弱いココレットはちょこちょこっと移動すると、ローワンの後ろへと隠れた。

 ローワンはルートを睨みつけると言った。

「ルート魔法使い長。令嬢に失礼だぞ。」

 ルートは頭を恭しげに下げると言った。

「これは失礼いたしました。少しばかりそちらのご令嬢に興味があるもので。」

 ココレットはその言葉にぞわりとしたものを感じる。そしてローワンもその言葉に顔を歪ませた。

「・・・まさか・・・そんな趣味が・・・?」

 ローワンの問いかけを聞き、ココレットは驚きに目を見開くとローワンの服の裾を思わずぎゅっと握ってしまう。美形に弱いココレットではあるが、そうした趣味の人とは距離を置きたい様子だ。

 的外れなローワンの言葉に、ルートは何とも言い難い引きつった笑みを浮かべると首を横に振った。

「そういう意味ではありません。私が興味があるのは、令嬢の知識について、です。」

「知識?」

「ええ。令嬢が第一王子殿下の部屋で何に気付いたのか、まずお聞かせ願いたい。それと、令嬢の持ってこられた匂い袋の作り方についても話を聞けたら幸いです。」

 笑顔がこれほどまでに胡散臭く感じたのは、ココレットにとっては初めての経験であった。





 


 

 

しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さくら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...