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3話
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「君の魅力に気付いたのは、ほんの半年前だった。任せていた執務の状況を知るため、人を雇って領民からの評判を聞いて……」
勝手に話し出しているが、何を懇々と説明されようが私の心が揺らぐ事は無い。
そもそも、今日もローザと熱々と過ごしておきながら……この男、馬鹿すぎないか?
「領民からの君の評判は想像以上だった。俺の家のために農地管理や治水管理などによって民の安全と安心を作り出して––––」
それらは口実……私なりにやりたかった事をしていたまでだ。
決して馬鹿な男のためではない。
「君が来てから不思議と魔物被害の件数が激減しているとも聞いている。聞けば聞くほどに幸福の女神のようじゃないか」
……魔物とは人を主食とする危険な生物だ。
王都から離れた彼の領地では、魔物がそれなりに出現する。
それらを討伐するために策を講じるのも貴族の役割でもあるが、確かにこの地での魔物被害は無かった。
「君との結婚から我が領地での魔物被害が一件もなかった。こんなに幸運をもたらしてくれた女性だったと気付いてからは、セシーリアの魅力にどんどんと気付いたんだ!」
アロルド……いえ、もう馬鹿男でいいわよね。
この男は本気で私との復縁を願っているの?
「夕陽の美しさを感じる赤い髪に、潤んだ唇までが愛しく見えてきて……エメラルドのような瞳と、透き通るような肌に目を奪われてしまうんだ」
「はぁ……」
「君の瞳にはローザにはない輝きがある。その身体だってローザよりも柔らかくて女性としてとても魅力的で……」
「きも」
「え!?」
おっと、思わず本音がこぼれてしまった。
コホンと咳払いしつつ、この馬鹿男の気持ち悪い話は聞いてられないと踵を返す。
「話はそれだけ? 何を言われても契約は変わらないわ」
「なぁ、聞いてほしいんだ。僕は君を失いたくない」
「失う判断をしたのは貴方でしょう?」
「俺は焦っているんだ。君は離婚後も一人で過ごす予定と聞いていた、だから白い結婚を終えた後に真摯に謝罪して再婚に向けて動きたかった」
なんていう計画を立ててくれていたんだ。
離婚した後、他の女性と乳繰り合っていた男と再会したいはずないだろう。
「でも、その間に他の男性と君が出会ってしまう可能性を考えると……胸が、苦しいんだ。この感情に気付いてしまったんだ」
「だからって、こんな気味の悪いタイミングで言い出すなんてね」
「気味が悪くてもいい! 俺は君を奪われたくない。君に恋情を抱いたからこそ……君が誰かの妻になる事と考えるだけで苦しい、初めて嫉妬しているんだ」
いやいや、今も私は貴方のものになっているつもりはない。
少なくとも他の女性に熱を上げた夫など、誰が好き好んで一緒にいるものか。
「アロルド、今一度伝えておきます。私の気持ちはなにを言われても変わりません」
「っ!」
「そもそも、互いの貴族家の利害関係を含めて……貴方達の不始末を処理するための契約。今さらウダウダと恋情を語られても迷惑を被るだけです」
そもそも、公爵家がこの契約を反故にするなど許すはずがないだろう。
アロルドは考えがあると言っていたが、公爵家としては娘の恥部を晒される危険は避けたいだろうし、アロルドを含む伯爵家から謝罪金を吸い取る利益を易々手離すはずない。
「だが、俺にはローザよりも……君と添い遂げたくて……」
バンッ!!!
大きな衝撃音が鳴り響いて、アロルドの声が止まる。
あぁ、私とした事が怒りに任せてやってしまった……思わず拳に怒りをのせて壁を殴ってしまったのだ。
おかげで壁が大きく割れてしまった。
「え……セシーリア、それ……壁が」
「あら、壁がもろくなっていたのかしら」
「いや……そんなはずが」
「それよりもアロルド、貴方は自分の心配をすべきよ」
「え?」
この際だ、残りの期間まで戯言を聞く気は無い。
だからこそ、少し手荒だけど黙らせておこう。
「この件を私は大きな問題と見ています、私の生家であるノベール伯爵家より正式にローザの家であるレーヴ公爵家との話し合いを行いますね」
「ち、ちが……待ってくれ。俺はただ君と考え直す機会を得たくて」
「互いの合意を反故にする危険性を見過ごすことはできません」
半端な考えを抱いている暇があれば、さっさと離婚後のことでも考えなさい。
私は謝罪金を得て悠々自適な生活を待っているの、邪魔しないで。
「っ! 俺は君だけは失いたくない。この気持ちは本当なんだ!」
「……」
アロルドは私の腕を取り、その表情を変える。
男性である事、自らの力が優位を取っている人間特有の、脅しにも似た眼を向けてくる。
「君に納得してもらうためなら、強引な手段を講じさせてもらう」
「強引……ね」
「したくはなかったが……閉じこめて、俺の考えに賛同してもらうために話を聞いてもらう」
その手が伸ばされて、強引に身体を寄せられる。
声が出せぬように口元にも手を伸ばし……
「なら、私も強引にさせていただくわ」
「なにを言っ––––っ!」
「もう黙ってくれる?」
なにをするかなど決まっている。
この怒りをのせた拳を振るうだけだ!
一直線に叩き込んだ拳を腹に突き刺す、吹き飛んだアロルドは廊下を三回転して壁に激突した。
「……死んでないわよね」
近づいて確認する。
うん……大丈夫、息はしている。
なるべく力の加減をしてよかった……
父の言いつけを破ってしまったけど、まぁ今回だけは例外よね。
秘密はバレていないから。
「あと一か月なの。私の自由な生活のため……貴方の感情なんて考慮してられないのよ」
伸びたアロルドは鼻血を流しながら、言葉なく気絶している。
その滑稽な姿を見つめながら、私は自室へと戻った。
勝手に話し出しているが、何を懇々と説明されようが私の心が揺らぐ事は無い。
そもそも、今日もローザと熱々と過ごしておきながら……この男、馬鹿すぎないか?
「領民からの君の評判は想像以上だった。俺の家のために農地管理や治水管理などによって民の安全と安心を作り出して––––」
それらは口実……私なりにやりたかった事をしていたまでだ。
決して馬鹿な男のためではない。
「君が来てから不思議と魔物被害の件数が激減しているとも聞いている。聞けば聞くほどに幸福の女神のようじゃないか」
……魔物とは人を主食とする危険な生物だ。
王都から離れた彼の領地では、魔物がそれなりに出現する。
それらを討伐するために策を講じるのも貴族の役割でもあるが、確かにこの地での魔物被害は無かった。
「君との結婚から我が領地での魔物被害が一件もなかった。こんなに幸運をもたらしてくれた女性だったと気付いてからは、セシーリアの魅力にどんどんと気付いたんだ!」
アロルド……いえ、もう馬鹿男でいいわよね。
この男は本気で私との復縁を願っているの?
「夕陽の美しさを感じる赤い髪に、潤んだ唇までが愛しく見えてきて……エメラルドのような瞳と、透き通るような肌に目を奪われてしまうんだ」
「はぁ……」
「君の瞳にはローザにはない輝きがある。その身体だってローザよりも柔らかくて女性としてとても魅力的で……」
「きも」
「え!?」
おっと、思わず本音がこぼれてしまった。
コホンと咳払いしつつ、この馬鹿男の気持ち悪い話は聞いてられないと踵を返す。
「話はそれだけ? 何を言われても契約は変わらないわ」
「なぁ、聞いてほしいんだ。僕は君を失いたくない」
「失う判断をしたのは貴方でしょう?」
「俺は焦っているんだ。君は離婚後も一人で過ごす予定と聞いていた、だから白い結婚を終えた後に真摯に謝罪して再婚に向けて動きたかった」
なんていう計画を立ててくれていたんだ。
離婚した後、他の女性と乳繰り合っていた男と再会したいはずないだろう。
「でも、その間に他の男性と君が出会ってしまう可能性を考えると……胸が、苦しいんだ。この感情に気付いてしまったんだ」
「だからって、こんな気味の悪いタイミングで言い出すなんてね」
「気味が悪くてもいい! 俺は君を奪われたくない。君に恋情を抱いたからこそ……君が誰かの妻になる事と考えるだけで苦しい、初めて嫉妬しているんだ」
いやいや、今も私は貴方のものになっているつもりはない。
少なくとも他の女性に熱を上げた夫など、誰が好き好んで一緒にいるものか。
「アロルド、今一度伝えておきます。私の気持ちはなにを言われても変わりません」
「っ!」
「そもそも、互いの貴族家の利害関係を含めて……貴方達の不始末を処理するための契約。今さらウダウダと恋情を語られても迷惑を被るだけです」
そもそも、公爵家がこの契約を反故にするなど許すはずがないだろう。
アロルドは考えがあると言っていたが、公爵家としては娘の恥部を晒される危険は避けたいだろうし、アロルドを含む伯爵家から謝罪金を吸い取る利益を易々手離すはずない。
「だが、俺にはローザよりも……君と添い遂げたくて……」
バンッ!!!
大きな衝撃音が鳴り響いて、アロルドの声が止まる。
あぁ、私とした事が怒りに任せてやってしまった……思わず拳に怒りをのせて壁を殴ってしまったのだ。
おかげで壁が大きく割れてしまった。
「え……セシーリア、それ……壁が」
「あら、壁がもろくなっていたのかしら」
「いや……そんなはずが」
「それよりもアロルド、貴方は自分の心配をすべきよ」
「え?」
この際だ、残りの期間まで戯言を聞く気は無い。
だからこそ、少し手荒だけど黙らせておこう。
「この件を私は大きな問題と見ています、私の生家であるノベール伯爵家より正式にローザの家であるレーヴ公爵家との話し合いを行いますね」
「ち、ちが……待ってくれ。俺はただ君と考え直す機会を得たくて」
「互いの合意を反故にする危険性を見過ごすことはできません」
半端な考えを抱いている暇があれば、さっさと離婚後のことでも考えなさい。
私は謝罪金を得て悠々自適な生活を待っているの、邪魔しないで。
「っ! 俺は君だけは失いたくない。この気持ちは本当なんだ!」
「……」
アロルドは私の腕を取り、その表情を変える。
男性である事、自らの力が優位を取っている人間特有の、脅しにも似た眼を向けてくる。
「君に納得してもらうためなら、強引な手段を講じさせてもらう」
「強引……ね」
「したくはなかったが……閉じこめて、俺の考えに賛同してもらうために話を聞いてもらう」
その手が伸ばされて、強引に身体を寄せられる。
声が出せぬように口元にも手を伸ばし……
「なら、私も強引にさせていただくわ」
「なにを言っ––––っ!」
「もう黙ってくれる?」
なにをするかなど決まっている。
この怒りをのせた拳を振るうだけだ!
一直線に叩き込んだ拳を腹に突き刺す、吹き飛んだアロルドは廊下を三回転して壁に激突した。
「……死んでないわよね」
近づいて確認する。
うん……大丈夫、息はしている。
なるべく力の加減をしてよかった……
父の言いつけを破ってしまったけど、まぁ今回だけは例外よね。
秘密はバレていないから。
「あと一か月なの。私の自由な生活のため……貴方の感情なんて考慮してられないのよ」
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その滑稽な姿を見つめながら、私は自室へと戻った。
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