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19話
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「ムルガ公爵は捕らえられ、君の元父と同じ牢獄に送られた」
「ゼインお父様、報告ありがとうございます」
「ズカスも同様、全ての罪が明るみになった訳ではないが……分かっている余罪だけでも十分な重罪となる見込みだ」
カトレア公爵邸の執務室。
捕らえていたムルガ公、そしてズカスの末路を聞いてヴィオラは表情を変えずに頷く。
予想通り、順調過ぎる展開にこれといって感情が動く事は無い。
「腐敗した貴族達も順に捕らえられている。直に片付くはずだ」
「お父様や、騎士団長のリエン様のおかげですね」
「いや、功績は君のものが一番大きい。民からの支持を得たのは見事なもので……混乱もなく、事は収まりがつきそうだ」
伝え終えたゼインは、落ち着いた表情で報告書を置く。
そして、問いかけた。
「いま、貴族は一丸となって襟を正すために動いている。そこでヴィオラ……君が貴族院の代表となってくれないか」
「……」
「王国の再編に、きっと君の力は必要だ」
「有難い申し出ではありますが、ルーク陛下やリアへの処罰など……残された課題も多い。どうかその後に答えを述べる機会を頂けますか?」
「もちろんだ。協力できる事はなんでも言ってくれ」
ヴィオラにとって、貴族院の代表とは決して悪い話ではない。
しかしながら……以前にハースに問われたように、安息の生活も考えて答えを留める。
なにか、別の道があるかもしれないと考えてしまうのだ。
「……ふぅ」
執務室を出て、ヴィオラは一息吐く。
あと少しで千回も繰り返した運命に、終止符を打てる。
その嬉しさと、その後に下すべき決断に揺らぎが生じて戸惑っていた時。
「ヴィオラ様、よろしいでしょうか」
「っ!! ハース」
ハースがどこか嬉しげにヴィオラへと近づく。
そして、自信満々な笑みで彼女へと呟いた。
「時間逆行の魔法について、原理が分かってきました」
「え……?」
「ヴィオラ様に蓄積された魔力を研究し、色々と試行錯誤して……と細かくて難しい話は置いておいて。分かった事を話しましょうか」
ハースは驚くべき速さで、時間逆行の魔法について原理を解析していた。
それは自身の魔力などのヒントがあったおかげだが、その速さにヴィオラは感嘆の声を漏らす。
彼女へと、彼は意気揚々と伝えてくれた。
「結論として原理では時間逆行を魔法で行うのは可能と思われます。ただ……幾つかの条件が必要です」
「条件?」
いわく、時間逆行の魔法には多大な魔力が必要となる。
それこそ、宮廷魔法士のハースが修行してやっと得られる程の膨大な魔力だ。
加えて魔法にて時間を戻した場合、恐らく記憶を継げるのは……魔法を施した一人のみということらしい。
「なので、恐らく……一度目の人生でヴィオラ様の死後。誰かが時間逆行の魔法を施した可能性が高いです」
「でも、それはおかしいわ。なら私が記憶を継いでいるのは……どういうこと?」
「正直……分かりません。なにかヴィオラ様だけが時間逆行の際に、違う何かがあった……他の人とは違うなにか、つまりは魔法の原理に抗う異常があったと思われます」
肝心な部分はまだ不明だが、これだけでも分かったのはハースの知力あってこそだ。
称賛が止まらぬ進捗ともいえる。
「流石よ、ハース……ここまで分かれば今は十分。どこかに時間逆行の魔法を起こった人物がいるのは確実なのね」
「まだ不明な事ばかりですが、これからも調べていきますね」
頼もしい言葉に、頷きで返していた時。
難しい話を崩すような、明るい声が聞こえ出す。
「おねさま……いま、だいじょぶ?」
ふと、ルカがヴィオラの隣にきて……服のすそを掴んでいた。
そして、潤んだ瞳で彼女を見上げる。
「さいきん、いっしょいれなくて……さびしい」
「ルカ。ごめんね……少し忙しくて」
「きょうもあそべない? るかね、おねさまといっしょいたい。だめ?」
ヴィオラの予定では、今日は時間も空いている。
少しやるべき事はあるが……そう、雑務だ。
弟の頼みを断ってするような急務でもないため、彼女は頷いて応える。
「じゃあ、ルカの好きなことしようか。お姉様がいっぱい遊んであげる」
「ほんと? ……やた」
そう言って、ルカはヴィオラに抱きつく。
嬉しそうに笑って、呟くのだ。
「おねさま……だいすき」
その言葉が聞けただけで、ヴィオラにとっては今日をルカに捧げるのは苦ではなかった。
◇◇◇
そんな訳で、カトレア公爵邸の庭園にてヴィオラ達は時間を過ごす。
ルカの希望で花畑に来たのだ。
鬼ごっこや、かくれんぼなど遊び尽くして……かなりの時間を遊んだ。
「おねさま、これみて」
「どうしたの」
「あのね、あのね……おはなのおかんむりつくったの、かぶって」
「……ありがとう」
「えへへ、おねさま、かわいね」
ルカとの時間だけは、ヴィオラにとって癒しだ。
うんざりするような運命であったが、荒んだ心が洗われる感覚。
全てが終わって、重荷もなくこんな日々が続いてほしいと彼女は本心で思う。
でも……そうしてばかりもいられない運命だと、彼女は知っていた。
「ルカ……ちょっとお水呑んでこようか。いっぱい遊んで汗もかいたからね」
「おねさまもいっしょいこ?」
「ふふ、お姉様はルカにとびきりのお花の指輪を作ってあげたいから残っているわ。楽しみにしてお水を飲んできて」
「ほんと? うん……すぐのんでくるね」
「ゆっくりでいいよ」
嬉しそうにルカが屋敷に入っていくのを確認して、ヴィオラは立ち上がる。
そして、表情を一転。
冷たい表情に代わり、彼女は屋敷への出入口である門へと歩き出す。
近づいてくるある気配に気付いて、対峙するために……
「お止まりください。ここからは許可なく立ち入っては……」
「これはルークの王命もあってきているの。通してちょうだい」
公爵邸の庭先にて聞こえた、女性の声。
制止する私兵の声を振り切って歩くその女性を見て、ヴィオラはやはり来たのかと……ため息を吐く。
「なぜ……ここに来ているの」
ヴィオラの問いかけは、この場に呼んでもいないのにやって来ていたリアへと向けられる。
「ヴィオラさん! あぁ……会えてよかった」
「リア、どうしてここに」
「貴方を止めるためよ、ヴィオラさん。もう手段は選んでいられないの」
「……なにがいいたいの」
「私の幸せは……絶対に奪われたくない。だから今から言う、私の命令を聞いて。お願いだから」
意味深な言葉を発したリアに、ヴィオラは表情を変えずに応対する。
だが、そんなヴィオラの目の前に……突然、切っ先が迫った。
鈍く光る刃を握っているのは、見覚えのある人物……ケインズだ。
「実はね、牢からケインズを連れ出してきたの。今度こそ貴方を止めるため」
かつて、王宮にて襲い掛かってきたケインズ。
彼がリアの横に立ち、剣を抜いて突きつけていたのだ。
そして彼は、ヴィオラへと憎悪のこもった瞳を向ける。
「ヴィオラ嬢。貴方のせいで俺は家を追い出されて、一族の恥となった。騎士団からも追放されて全てを奪われた……だがもう不覚は二度も取る気は無い! 油断せず全力で相手する」
「……」
「ここで俺はリア様に頂いた役目を全うして、その功績にて護衛騎士に返り咲く」
「……」
「いいか、今からリア様の言う事を聞け。これは命令だ……もう俺は以前のように刃を止める理性は残っていないぞ?」
ケインズは剣を揺らして、リアを見つめる。
彼女はその行為を嬉しそうに頬笑みながら呟いた。
「いい? 抵抗しないでね。でないと……貴方の命は」
リアが言葉を吐いた、瞬間だった。
ヴィオラは無表情のまま、少しだけ前に歩んだ。
「––––っ!?」
そして……瞬きの瞬間、ケインズがおかしな声をあげて地面に倒れ伏す。
ヴィオラが放った見えぬ速度での拳に顎を揺らされて……リアが連れてきた頼みの綱はあっけなく敗れた。
「あ……え……? な、なんで」
「面倒な戦いなんて、もう私の予定にないの。余計なの連れてこないで」
「……あ……え?」
「さて実は貴方が来てくれて助かったわ。手間が省けたもの」
微笑むヴィオラは、ゆっくりとリアに歩み寄る。
そして、彼女を見下して呟いた。
「今から貴方を連れてルークの前に連れて行きましょうか。色々とこれで直ぐに終われそうだわ。ご苦労様ね」
リアの勝機、脅しの算段は容易く崩れ去り。
ヴィオラの呟きに呑まれて、ただ身体を震わせるしかできなかった。
「ゼインお父様、報告ありがとうございます」
「ズカスも同様、全ての罪が明るみになった訳ではないが……分かっている余罪だけでも十分な重罪となる見込みだ」
カトレア公爵邸の執務室。
捕らえていたムルガ公、そしてズカスの末路を聞いてヴィオラは表情を変えずに頷く。
予想通り、順調過ぎる展開にこれといって感情が動く事は無い。
「腐敗した貴族達も順に捕らえられている。直に片付くはずだ」
「お父様や、騎士団長のリエン様のおかげですね」
「いや、功績は君のものが一番大きい。民からの支持を得たのは見事なもので……混乱もなく、事は収まりがつきそうだ」
伝え終えたゼインは、落ち着いた表情で報告書を置く。
そして、問いかけた。
「いま、貴族は一丸となって襟を正すために動いている。そこでヴィオラ……君が貴族院の代表となってくれないか」
「……」
「王国の再編に、きっと君の力は必要だ」
「有難い申し出ではありますが、ルーク陛下やリアへの処罰など……残された課題も多い。どうかその後に答えを述べる機会を頂けますか?」
「もちろんだ。協力できる事はなんでも言ってくれ」
ヴィオラにとって、貴族院の代表とは決して悪い話ではない。
しかしながら……以前にハースに問われたように、安息の生活も考えて答えを留める。
なにか、別の道があるかもしれないと考えてしまうのだ。
「……ふぅ」
執務室を出て、ヴィオラは一息吐く。
あと少しで千回も繰り返した運命に、終止符を打てる。
その嬉しさと、その後に下すべき決断に揺らぎが生じて戸惑っていた時。
「ヴィオラ様、よろしいでしょうか」
「っ!! ハース」
ハースがどこか嬉しげにヴィオラへと近づく。
そして、自信満々な笑みで彼女へと呟いた。
「時間逆行の魔法について、原理が分かってきました」
「え……?」
「ヴィオラ様に蓄積された魔力を研究し、色々と試行錯誤して……と細かくて難しい話は置いておいて。分かった事を話しましょうか」
ハースは驚くべき速さで、時間逆行の魔法について原理を解析していた。
それは自身の魔力などのヒントがあったおかげだが、その速さにヴィオラは感嘆の声を漏らす。
彼女へと、彼は意気揚々と伝えてくれた。
「結論として原理では時間逆行を魔法で行うのは可能と思われます。ただ……幾つかの条件が必要です」
「条件?」
いわく、時間逆行の魔法には多大な魔力が必要となる。
それこそ、宮廷魔法士のハースが修行してやっと得られる程の膨大な魔力だ。
加えて魔法にて時間を戻した場合、恐らく記憶を継げるのは……魔法を施した一人のみということらしい。
「なので、恐らく……一度目の人生でヴィオラ様の死後。誰かが時間逆行の魔法を施した可能性が高いです」
「でも、それはおかしいわ。なら私が記憶を継いでいるのは……どういうこと?」
「正直……分かりません。なにかヴィオラ様だけが時間逆行の際に、違う何かがあった……他の人とは違うなにか、つまりは魔法の原理に抗う異常があったと思われます」
肝心な部分はまだ不明だが、これだけでも分かったのはハースの知力あってこそだ。
称賛が止まらぬ進捗ともいえる。
「流石よ、ハース……ここまで分かれば今は十分。どこかに時間逆行の魔法を起こった人物がいるのは確実なのね」
「まだ不明な事ばかりですが、これからも調べていきますね」
頼もしい言葉に、頷きで返していた時。
難しい話を崩すような、明るい声が聞こえ出す。
「おねさま……いま、だいじょぶ?」
ふと、ルカがヴィオラの隣にきて……服のすそを掴んでいた。
そして、潤んだ瞳で彼女を見上げる。
「さいきん、いっしょいれなくて……さびしい」
「ルカ。ごめんね……少し忙しくて」
「きょうもあそべない? るかね、おねさまといっしょいたい。だめ?」
ヴィオラの予定では、今日は時間も空いている。
少しやるべき事はあるが……そう、雑務だ。
弟の頼みを断ってするような急務でもないため、彼女は頷いて応える。
「じゃあ、ルカの好きなことしようか。お姉様がいっぱい遊んであげる」
「ほんと? ……やた」
そう言って、ルカはヴィオラに抱きつく。
嬉しそうに笑って、呟くのだ。
「おねさま……だいすき」
その言葉が聞けただけで、ヴィオラにとっては今日をルカに捧げるのは苦ではなかった。
◇◇◇
そんな訳で、カトレア公爵邸の庭園にてヴィオラ達は時間を過ごす。
ルカの希望で花畑に来たのだ。
鬼ごっこや、かくれんぼなど遊び尽くして……かなりの時間を遊んだ。
「おねさま、これみて」
「どうしたの」
「あのね、あのね……おはなのおかんむりつくったの、かぶって」
「……ありがとう」
「えへへ、おねさま、かわいね」
ルカとの時間だけは、ヴィオラにとって癒しだ。
うんざりするような運命であったが、荒んだ心が洗われる感覚。
全てが終わって、重荷もなくこんな日々が続いてほしいと彼女は本心で思う。
でも……そうしてばかりもいられない運命だと、彼女は知っていた。
「ルカ……ちょっとお水呑んでこようか。いっぱい遊んで汗もかいたからね」
「おねさまもいっしょいこ?」
「ふふ、お姉様はルカにとびきりのお花の指輪を作ってあげたいから残っているわ。楽しみにしてお水を飲んできて」
「ほんと? うん……すぐのんでくるね」
「ゆっくりでいいよ」
嬉しそうにルカが屋敷に入っていくのを確認して、ヴィオラは立ち上がる。
そして、表情を一転。
冷たい表情に代わり、彼女は屋敷への出入口である門へと歩き出す。
近づいてくるある気配に気付いて、対峙するために……
「お止まりください。ここからは許可なく立ち入っては……」
「これはルークの王命もあってきているの。通してちょうだい」
公爵邸の庭先にて聞こえた、女性の声。
制止する私兵の声を振り切って歩くその女性を見て、ヴィオラはやはり来たのかと……ため息を吐く。
「なぜ……ここに来ているの」
ヴィオラの問いかけは、この場に呼んでもいないのにやって来ていたリアへと向けられる。
「ヴィオラさん! あぁ……会えてよかった」
「リア、どうしてここに」
「貴方を止めるためよ、ヴィオラさん。もう手段は選んでいられないの」
「……なにがいいたいの」
「私の幸せは……絶対に奪われたくない。だから今から言う、私の命令を聞いて。お願いだから」
意味深な言葉を発したリアに、ヴィオラは表情を変えずに応対する。
だが、そんなヴィオラの目の前に……突然、切っ先が迫った。
鈍く光る刃を握っているのは、見覚えのある人物……ケインズだ。
「実はね、牢からケインズを連れ出してきたの。今度こそ貴方を止めるため」
かつて、王宮にて襲い掛かってきたケインズ。
彼がリアの横に立ち、剣を抜いて突きつけていたのだ。
そして彼は、ヴィオラへと憎悪のこもった瞳を向ける。
「ヴィオラ嬢。貴方のせいで俺は家を追い出されて、一族の恥となった。騎士団からも追放されて全てを奪われた……だがもう不覚は二度も取る気は無い! 油断せず全力で相手する」
「……」
「ここで俺はリア様に頂いた役目を全うして、その功績にて護衛騎士に返り咲く」
「……」
「いいか、今からリア様の言う事を聞け。これは命令だ……もう俺は以前のように刃を止める理性は残っていないぞ?」
ケインズは剣を揺らして、リアを見つめる。
彼女はその行為を嬉しそうに頬笑みながら呟いた。
「いい? 抵抗しないでね。でないと……貴方の命は」
リアが言葉を吐いた、瞬間だった。
ヴィオラは無表情のまま、少しだけ前に歩んだ。
「––––っ!?」
そして……瞬きの瞬間、ケインズがおかしな声をあげて地面に倒れ伏す。
ヴィオラが放った見えぬ速度での拳に顎を揺らされて……リアが連れてきた頼みの綱はあっけなく敗れた。
「あ……え……? な、なんで」
「面倒な戦いなんて、もう私の予定にないの。余計なの連れてこないで」
「……あ……え?」
「さて実は貴方が来てくれて助かったわ。手間が省けたもの」
微笑むヴィオラは、ゆっくりとリアに歩み寄る。
そして、彼女を見下して呟いた。
「今から貴方を連れてルークの前に連れて行きましょうか。色々とこれで直ぐに終われそうだわ。ご苦労様ね」
リアの勝機、脅しの算段は容易く崩れ去り。
ヴィオラの呟きに呑まれて、ただ身体を震わせるしかできなかった。
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