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5話
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揺れる馬車の中で、窓から外を見つめる
王都の灯りが遠ざかっていき、薄暗い道へと続くが不思議と怖くはなかった
「っ!」
グロウズ伯爵に殴られた箇所に痛みが走る
忘れかけた頃に痛みは襲うものだ
「申し訳ございません、怪我の治療ができるように準備もしておくべきでした」
馬を走らせるオルターさんが呟く
こちらに視線を向けていないのに分かるなんて、よほど人の機微に気付くのが得意な方なのだろう
「いえ、構いませんよ…軽傷ですし…迎えに来てくれて嬉しいです」
まさか怪我をして王宮から出てくるなんて誰も察する事はできないだろう
むしろ王宮まで迎えに来てくれて感謝しかない
「怪我の治療は屋敷に到着してから早急にいたしますね」
「そんな、大丈夫ですよ」
「いえ、女性の顔に傷など、跡が残れば大変です、それに消毒しなければ感染症の可能性もあります…旦那様もシャーロット様に何かあればお金を惜しまず手助けせよと言っておられましたので」
「…優しい方なのですね」
「ええ、とても」
ウィリアム様、私が過去に出会った記憶の通りのお方だ
彼はいい意味で貴族らしくない
爵位は公爵でありながら偉ぶることもなく
誰に対しても謙虚で、優しい笑顔を絶やさない
私の知る貴族達は常に誰かの上に立つことを目的にしている
誰よりも権力を、誰よりも美貌を、誰よりも富を
欲は止まる事を知らず、常に自分より下を探して
馬鹿にして、蔑むのが好きな人ばかり
そんな、貴族達の集まりは常に他人の粗探しの場所で息が詰まりそうだった
けどウィリアム様がいる集まりはとても居心地がいい
思い浮かぶのは幼き日の出来事
私はふとした不注意で自分のドレスに飲み物をこぼしてしまった
それも白いドレスに真っ赤な染み
一目でこぼしたと分かる、焦りでどうしようか冷や汗を流して
ウロウロとうろたえる私の下に彼はやってきて
転んだ振りをしてドレスに大きなシミを作った
誤って転んだと謝罪し、ドレス代も弁償すると言われた
皆は彼をドジだと、笑っていたが
私は確かに彼に救われた
彼の優しさにいまも感謝している
その頃から、彼の事を考える日が増えた
この気持ちが今なら分かる
「会うのが…楽しみです」
「旦那様も待っておられますよ」
久しく感じていない気分の高揚
ウィリアム様の屋敷に向かう道中、まるで楽しみを待つ子供の頃のような気分で
私は馬車に揺られていった
「着きましたよ」
オルターさんが馬車の扉を開き、私は下りる
目の前の屋敷は他貴族達の屋敷と比べても小さく見えた
代わりに、庭には数々の花が咲き誇り
暗くてよく見えないが畑も見えた
「旦那様は菜園がご趣味でして、庭の花も育てておられるのです」
私の視線に気づいてか、オルターさんが説明してくれた
なるほど、納得だ
彼らしい、素敵な庭だ
「綺麗ですね、昼の姿も見てみたいです」
「ええ、きっと気に入られると思いますよ…では屋敷へご案内します」
オルターさんの先導で庭の中、レンガで作られた道に沿って歩く
暗い中でも道が見えるように、暖かい光のランタンが木に吊り下げられている
「衛兵の方々はおられないのですか?」
貴族の屋敷には泥棒などを警戒して常に衛兵が警護しているはずだが
この屋敷にはそんな人は誰もいなかった
オルターさんは私の質問に丁寧に答えてくれた
「旦那様の治める領地は治安もよく、衛兵を雇わずとも大丈夫なのですよ…私兵も雇っているのですがほとんどが農夫との兼業です」
「なるほど…ふふ、ウィリアム様らしい領地ですね」
領地には治める貴族の色がでるものだ
私の実家、グロウズ伯爵の治める地は多額の税で貧困が広がっている
治安もこの国で最も悪い、何度もグロウズ伯爵に止めるように言ったが
聞く耳すら持ってくれなかった
おっと、今はあの人の事など思い出さないでおこう
これからウィリアム様に会うのだ
髪は乱れていないだろうか?服装も大丈夫かな?
浮足立つ気分のまま、私は屋敷の前に立つ
「では、開きますね」
オルターさんが扉を開く
その先にいたのは、こんな夜でも私の到着を待っていてくれたのだろう
肥えた体、少し大きくなられただろうか
茶色の髪が揺れ、慌てた様子でこちらに振り向く
ウィリアム様がいた
「夜分遅くに失礼いたします、ウィリアム様…此度のお話についてですが…!?」
私の言葉の途中で
突然、ウィリアム様が酷く心配した表情で
私の頬を触る、傷口に痛まないように優しく触れると
「大丈夫か!?ケガしているじゃないか!お、オルター!すぐに治療を…!そうだ、寒くはないか?暖炉が奥にある、あったまるといい…何かスープも用意しないと…」
事情を聞くわけでもなく、ただ純粋に私の事を心配してくれる彼に
私の心は大きく跳ねる
優しい彼の下に来れた事が嬉しくて
ただ一言
「これからよろしくお願いします、ウィリアム様」
と、笑顔で言った
王都の灯りが遠ざかっていき、薄暗い道へと続くが不思議と怖くはなかった
「っ!」
グロウズ伯爵に殴られた箇所に痛みが走る
忘れかけた頃に痛みは襲うものだ
「申し訳ございません、怪我の治療ができるように準備もしておくべきでした」
馬を走らせるオルターさんが呟く
こちらに視線を向けていないのに分かるなんて、よほど人の機微に気付くのが得意な方なのだろう
「いえ、構いませんよ…軽傷ですし…迎えに来てくれて嬉しいです」
まさか怪我をして王宮から出てくるなんて誰も察する事はできないだろう
むしろ王宮まで迎えに来てくれて感謝しかない
「怪我の治療は屋敷に到着してから早急にいたしますね」
「そんな、大丈夫ですよ」
「いえ、女性の顔に傷など、跡が残れば大変です、それに消毒しなければ感染症の可能性もあります…旦那様もシャーロット様に何かあればお金を惜しまず手助けせよと言っておられましたので」
「…優しい方なのですね」
「ええ、とても」
ウィリアム様、私が過去に出会った記憶の通りのお方だ
彼はいい意味で貴族らしくない
爵位は公爵でありながら偉ぶることもなく
誰に対しても謙虚で、優しい笑顔を絶やさない
私の知る貴族達は常に誰かの上に立つことを目的にしている
誰よりも権力を、誰よりも美貌を、誰よりも富を
欲は止まる事を知らず、常に自分より下を探して
馬鹿にして、蔑むのが好きな人ばかり
そんな、貴族達の集まりは常に他人の粗探しの場所で息が詰まりそうだった
けどウィリアム様がいる集まりはとても居心地がいい
思い浮かぶのは幼き日の出来事
私はふとした不注意で自分のドレスに飲み物をこぼしてしまった
それも白いドレスに真っ赤な染み
一目でこぼしたと分かる、焦りでどうしようか冷や汗を流して
ウロウロとうろたえる私の下に彼はやってきて
転んだ振りをしてドレスに大きなシミを作った
誤って転んだと謝罪し、ドレス代も弁償すると言われた
皆は彼をドジだと、笑っていたが
私は確かに彼に救われた
彼の優しさにいまも感謝している
その頃から、彼の事を考える日が増えた
この気持ちが今なら分かる
「会うのが…楽しみです」
「旦那様も待っておられますよ」
久しく感じていない気分の高揚
ウィリアム様の屋敷に向かう道中、まるで楽しみを待つ子供の頃のような気分で
私は馬車に揺られていった
「着きましたよ」
オルターさんが馬車の扉を開き、私は下りる
目の前の屋敷は他貴族達の屋敷と比べても小さく見えた
代わりに、庭には数々の花が咲き誇り
暗くてよく見えないが畑も見えた
「旦那様は菜園がご趣味でして、庭の花も育てておられるのです」
私の視線に気づいてか、オルターさんが説明してくれた
なるほど、納得だ
彼らしい、素敵な庭だ
「綺麗ですね、昼の姿も見てみたいです」
「ええ、きっと気に入られると思いますよ…では屋敷へご案内します」
オルターさんの先導で庭の中、レンガで作られた道に沿って歩く
暗い中でも道が見えるように、暖かい光のランタンが木に吊り下げられている
「衛兵の方々はおられないのですか?」
貴族の屋敷には泥棒などを警戒して常に衛兵が警護しているはずだが
この屋敷にはそんな人は誰もいなかった
オルターさんは私の質問に丁寧に答えてくれた
「旦那様の治める領地は治安もよく、衛兵を雇わずとも大丈夫なのですよ…私兵も雇っているのですがほとんどが農夫との兼業です」
「なるほど…ふふ、ウィリアム様らしい領地ですね」
領地には治める貴族の色がでるものだ
私の実家、グロウズ伯爵の治める地は多額の税で貧困が広がっている
治安もこの国で最も悪い、何度もグロウズ伯爵に止めるように言ったが
聞く耳すら持ってくれなかった
おっと、今はあの人の事など思い出さないでおこう
これからウィリアム様に会うのだ
髪は乱れていないだろうか?服装も大丈夫かな?
浮足立つ気分のまま、私は屋敷の前に立つ
「では、開きますね」
オルターさんが扉を開く
その先にいたのは、こんな夜でも私の到着を待っていてくれたのだろう
肥えた体、少し大きくなられただろうか
茶色の髪が揺れ、慌てた様子でこちらに振り向く
ウィリアム様がいた
「夜分遅くに失礼いたします、ウィリアム様…此度のお話についてですが…!?」
私の言葉の途中で
突然、ウィリアム様が酷く心配した表情で
私の頬を触る、傷口に痛まないように優しく触れると
「大丈夫か!?ケガしているじゃないか!お、オルター!すぐに治療を…!そうだ、寒くはないか?暖炉が奥にある、あったまるといい…何かスープも用意しないと…」
事情を聞くわけでもなく、ただ純粋に私の事を心配してくれる彼に
私の心は大きく跳ねる
優しい彼の下に来れた事が嬉しくて
ただ一言
「これからよろしくお願いします、ウィリアム様」
と、笑顔で言った
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