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皇帝陛下の愛し方
81話
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口付けを離して、驚き……放心している彼に私は小さな声で囁いた。
「今ね、貴方の記憶は……過去に戻ってるの」
「過去……?」
「忘れているだけで、今の私達はこうして想い合う関係なんだよ」
呟き、彼の背に腕を回して胸に顔をうずめれば。
大きな鼓動の音が鳴り響いていた。
「カーティア……」
「今の貴方はね、私の事をカティって呼んでくれるの」
「……カティ」
「はい」
彼が、私の背へと腕を回す。
声色は喜色を含んでおり、顔を上げれば無表情の中に嬉しそうな感情が見えた。
「……本当か?」
「私、ウソつきませんから」
笑って答えれば、彼は微笑みを見せながら私を抱きしめた。
二度も初恋を成就させるのは、少し羨ましい。
その後、私は彼が忘れていた記憶を話す事にした。
内緒にすると決めていたけど、こうなれば話した方がいいはずだ。
実際、思ったよりも混乱していないようだ。
それに、事実を知っていくたびに納得できるような記憶も蘇ってくるらしい。
だから私は記憶をなぞるように色んな話をした。
「それでね。私達でグラナートに一気に攻め込んでいってね」
「前公卿のヴォーレンが色々と画策していたのを止めたの」
今までの記憶を思い出すように、懐かしい全てを話す。
「グレインはノックも出来るようになったし、ダルテリオ伯の爵位も貰ったのよ」
「ジェラルド様は二人の娘さんを連れてきてくれたり」
そして……
「私達にね……娘と、息子が生まれてきてくれたの」
彼の手を握って呟けば。
握り返される力と共に、彼は問いかけを漏らした。
「今の俺は……子供達に……怖がられてはいないか? 父になれているか?」
初夜の前に漏らしていた、彼の憂慮していた本音。
その問いに、当然……笑って首を横に振る。
「もちろん、貴方は子供達を愛している立派なお父さんよ。お絵かきを大事にしていたのを見たでしょう?」
「あれか…………」
「そう。それに贈り物の数々も……娘のリルレットや、息子のテアが貴方にお礼をしたくて集めていた物ばかりなの。二人とも怖がっているどころか、貴方の事が大好きですよ」
「そうか……そうか」
嬉しそうに、彼は私の手をなぞるように握りしめる。
憧れていた家族が傍に居ると知って、嬉しそうに……喜びを伝えるように強く抱きしめてくれるのだ。
そして、彼は耳元で囁いた。
「恐らく、記憶はもう戻る」
「っ」
「記憶が戻る感覚がある。あと少しだろう」
「シルウィオ……」
寂しくはないと言えば、ウソになるかもしれない。
久しぶりに会った懐かしい彼と話す事に、過去に戻ったような感覚が芽生えていたのは事実だから。
「……伝えたい事がある」
「っ……」
「俺はカティのおかげで……明日が楽しみになれた。感謝している」
呟きと同時に、首元に回された手に引かれて顔が近づく。
影が重なり、暫しの時間が流れていき。
漏れた息と共に影が離れて彼の顔を見つめれば……頬を赤く染め、下を向いていた。
「……シルウィオ」
「…………カティ、心配をかけた」
頬を少し緩め、私の頭を撫でてくる彼の姿に……思わず笑いながら頷く。
その表情はいつも通りの彼だったから。
「おかえり。帰ろうか、シルウィオ」
「あぁ」
立ち上がり二人で歩き出せば、彼は迷いもなく私の手を握ってくれる。
そんな彼の行為が……やはり私は一番嬉しく思えた。
「ところで、こっそり保管していたお絵かきの紙は後でしっかり見せてね」
「……忘れろ」
「嫌です。私にも見せて」
「……」
隠していた彼の秘密。
それについて言及すれば、彼は記憶を失った時に漏らした事を後悔するように耳元まで赤くしていた。
繋ぐ手が、熱くなるほどに。
◇◇◇
庭園へと戻れば、私の愛し子達をジェラルド様やグレインが見てくれていた。
「あーう! おかたんと、おとたん! かえてきたよ!」
テアが真っ先に気付き、私達の元へ駆け寄って来る。
シルウィオがテアを抱きしめれば、我が子は嬉しそうに笑う。
「ぐーうにね、おうまさんのほかに、けんのもちかたもおしえてもらたよ!」
「テア様、陛下をお守りするために木剣の練習を始めておられるのです。とても筋が良いですよ」
「ぐーう! ないしょ!」
「っ!! す、すみません……テア様! 許してください……」
「あとでおうまさんしてくれたら、いいよ!」
「ふ……ふふ」
二人のやりとりに笑っていれば、シルウィオも頬を緩めてテアの頭を撫でていた。
その時、リルレットも遅れて走ってきた。
「お、お父様……私の事、分かる?」
「リル。もちろんだ」
リルレットの言葉にシルウィオが頷けば、彼女は喜びの表情を浮かべながらも頭を下げた。
「お父様、許可されたからって効果もいわずに試して……ごめんなさい……」
ジェラルド様が先にしっかり言ってくれていたのだろう。
危険だった事を理解したリルレットが謝罪の言葉を口にした。
「陛下、カーティア様……リルレット様もよく分かってくれています。どうか姫様を許してあげてください」
頭を下げるジェラルド様は、きっとリルレットの事を気にかけてくれているのだ。
その事が嬉しい。
「ジェラルド、頭を上げろ。リルも」
「っ」
「俺は怒ってない。……懐かしい経験も出来た。感謝している」
「お父様……ごめんね。大好き……」
「あぁ、俺もだ」
リルレットの頭を撫でながら、彼は視線を上げた。
「ジェラルド、グレイン。心配をかけたな」
「いえ! お記憶が戻って嬉しく思います!」
「有難きお言葉です……」
今や、シルウィオの周りには家族や信頼できる人がいる。
それが、きっと心を潤しているはずだ……。
改めて昔の彼と話したから、変わったのがよく分かる。
彼の視線は柔らかくなり、冷たい雰囲気からも暖かさを感じるようになった。
その理由は、もう一人ではないからだ。
「シルウィオ、久しぶりに皆で食事でもしましょうか」
「……あぁ、そうだな」
彼の手を握り、私は家族達や信頼できる皆と共に歩き出す。
もう……孤独で冷酷な皇帝はいない。
隣で歩くのは……家族を愛する、父親になったシルウィオだ。
「ところで、リルレットはどうして……あんな魔法を作ったの?」
思わず問いかけた言葉。
私の質問にリルレットは首を横に振った。
「ないしょにしたいの」
「教えてくれないの?」
「うん」
何故か、いつもはハッキリ答える彼女が教えてくれない。
その事に疑問を抱いた時、シルウィオの腕に抱かれたテアが声を上げた。
「テア、しってるよ! ねぇねはおししょーにこい? したからまほうをつくって、おかさんたちのこいをしりたかったって! さっきテアにおしえてくれたよ!」
途端。
周囲の和やかな雰囲気が凍りついたような、温度が急激に下がった感覚を覚えた。
和やかに笑っていたシルウィオの表情が、無表情に戻ったように見える。
前言撤回だ、冷酷でなくなったのは家族に対してのみだけだ。
「言わないでっていったのに! テア!」
頬を赤くしたリルレットに、テアの言葉の真実味が増していく。
この話題に、シルウィオがどう反応するかと冷や冷やしたが……
意外にも彼はリルレットの頭を撫でて微笑んだ。
「別に隠す事はない。そうやって誰かに想いを抱くのは悪い事じゃない」
「お父様……」
「だが、これからはまず俺に言うようにな」
「うん。わかった。ごめんね、お父様……」
「……あぁ」
幼い歳の子供が、年上の異性に恋情に似た憧れを持つのはよくある事だ。
それは彼も分かってくれているようだ。
一瞬見えた無表情も、きっと私の気のせいに違いない。
シルウィオの微笑みに一安心しながら、私達は再び食事の席へと向かった。
◇◇◇
グラナート国。
漆黒の闇が広がる、真夜中。
数台の馬車が松明の明かりを灯して走る。
その中では、女性と子供が手足を縛られていた。
「んー! んー!」
「おい、口を塞げ」
「自決させないようにしろよ。大事な商品だからな」
王家を失ったグラナート国は、大臣レブナンによって少しずつ混乱が収まってきているが。
未だ国は不安定であり、王都から遠い辺境の治安にまで手が回せない。
故に、奴隷商が格好の標的としたのだ。
グラナート辺境の村から、売れる子供と女性をさらって奴隷制のある国へ売りさばく。
企てた奴隷商は、さらった人数を見て卑しい笑みを浮かべた。
「大儲けだ……賢い奴は国同士の情勢を見て、賢く稼がねぇとな」
そんな呟きを漏らした奴隷商に、雇った部下達が笑いながら近づく。
「雇い主さんよ。俺達にもおこぼれがないが欲しいんだが」
「そうだぜ、他国まで待ってられないなぁ」
(ちっ……下の事しか考えられない奴らめ。まぁ……商品を護るためなら、一つぐらいは安くなってもいいだろう)
奴隷商は一瞬の思考の後、部下達へ声を出した。
「一人だけ、自由に使え」
「よっしゃ!」
「早速、誰にするか決めるか!」
奴隷商は馬を走らせながら、後方から聞こえてくる声に耳を傾けた。
「おい、こいつ……いいかもな」
「口輪を外せ」
「……っ!! やめ! やめてください!」
「大人しくしろ!」
「おい、抑えろ!」
「助け! やめて!」
「おい、まず俺から」
「や……たすけ……」
(うるさい女だ……どうせもっと酷い奴隷になるのにな)
「おい、あまり値が下がるような事はするなよ!」
奴隷商は馬を走らせながら、声だけを張った。
しかし……返答が返ってこない。
それどころか、女性の悲鳴すら聞こえない。
「……? おい、聞こえたら返事をし」
呟きつつ、奴隷商が振り返った時だった。
「ぇ……」
後ろに立っていたのは、血に染まった剣を握った見知らぬ男だった。
月明かりに銀髪が輝くのだけが見え、血に染まったような深紅の瞳が見つめていた。
男の後ろには、血にまみれた部下達の姿が見えた。
(夢じゃない!?)
「た、たすけ!」
殺される。そう思った奴隷商は咄嗟に声を出すが……それを許されず喉を裂かれた。
声が出せず、痛みに悶える中で見たのは。
「あ……が……ぁぁ」
恐ろしい程、無感情に冷たく見下ろす男の姿であった。
「邪魔だ」
その一言と共に、奴隷商の意識は途絶えた。
首から切り離された頭は馬車から転がり落ちていったから。
その後、多くの騎士達がやって来て捕えられた者達を解放した。
女性や子供は見知らぬ騎士達に感謝しながら、村へと戻るために用意された馬車に乗りこんでいく。
その中から、襲われそうだった女性が銀髪の男性の元へと走って頭を下げた。
「ありがとうございます! わ、私達は……貴方に救われ……」
「ジェラルド、カルセインまで……あと何日かかる」
「はっ!! あと五日は……」
「三日で向かう。カティ達に怪しまれぬように直ぐに帰る。遠征と理由を付けたが、カティは怪しんでいたからな」
「ぇ……あの……お礼を……」
「はっ!! 早急に向かいましょう!」
「あぁ……奴とリルとの関係は……俺が正す必要がある」
震えるような威圧を放ち、男性は数人の騎士を残して去っていってしまう。
「あ……」
お礼を告げようとした女性であったが……
件の男性はそんな事を望まずに、早々に行ってしまった。
グラナートの隣国……カルセイン王国へと。
「今ね、貴方の記憶は……過去に戻ってるの」
「過去……?」
「忘れているだけで、今の私達はこうして想い合う関係なんだよ」
呟き、彼の背に腕を回して胸に顔をうずめれば。
大きな鼓動の音が鳴り響いていた。
「カーティア……」
「今の貴方はね、私の事をカティって呼んでくれるの」
「……カティ」
「はい」
彼が、私の背へと腕を回す。
声色は喜色を含んでおり、顔を上げれば無表情の中に嬉しそうな感情が見えた。
「……本当か?」
「私、ウソつきませんから」
笑って答えれば、彼は微笑みを見せながら私を抱きしめた。
二度も初恋を成就させるのは、少し羨ましい。
その後、私は彼が忘れていた記憶を話す事にした。
内緒にすると決めていたけど、こうなれば話した方がいいはずだ。
実際、思ったよりも混乱していないようだ。
それに、事実を知っていくたびに納得できるような記憶も蘇ってくるらしい。
だから私は記憶をなぞるように色んな話をした。
「それでね。私達でグラナートに一気に攻め込んでいってね」
「前公卿のヴォーレンが色々と画策していたのを止めたの」
今までの記憶を思い出すように、懐かしい全てを話す。
「グレインはノックも出来るようになったし、ダルテリオ伯の爵位も貰ったのよ」
「ジェラルド様は二人の娘さんを連れてきてくれたり」
そして……
「私達にね……娘と、息子が生まれてきてくれたの」
彼の手を握って呟けば。
握り返される力と共に、彼は問いかけを漏らした。
「今の俺は……子供達に……怖がられてはいないか? 父になれているか?」
初夜の前に漏らしていた、彼の憂慮していた本音。
その問いに、当然……笑って首を横に振る。
「もちろん、貴方は子供達を愛している立派なお父さんよ。お絵かきを大事にしていたのを見たでしょう?」
「あれか…………」
「そう。それに贈り物の数々も……娘のリルレットや、息子のテアが貴方にお礼をしたくて集めていた物ばかりなの。二人とも怖がっているどころか、貴方の事が大好きですよ」
「そうか……そうか」
嬉しそうに、彼は私の手をなぞるように握りしめる。
憧れていた家族が傍に居ると知って、嬉しそうに……喜びを伝えるように強く抱きしめてくれるのだ。
そして、彼は耳元で囁いた。
「恐らく、記憶はもう戻る」
「っ」
「記憶が戻る感覚がある。あと少しだろう」
「シルウィオ……」
寂しくはないと言えば、ウソになるかもしれない。
久しぶりに会った懐かしい彼と話す事に、過去に戻ったような感覚が芽生えていたのは事実だから。
「……伝えたい事がある」
「っ……」
「俺はカティのおかげで……明日が楽しみになれた。感謝している」
呟きと同時に、首元に回された手に引かれて顔が近づく。
影が重なり、暫しの時間が流れていき。
漏れた息と共に影が離れて彼の顔を見つめれば……頬を赤く染め、下を向いていた。
「……シルウィオ」
「…………カティ、心配をかけた」
頬を少し緩め、私の頭を撫でてくる彼の姿に……思わず笑いながら頷く。
その表情はいつも通りの彼だったから。
「おかえり。帰ろうか、シルウィオ」
「あぁ」
立ち上がり二人で歩き出せば、彼は迷いもなく私の手を握ってくれる。
そんな彼の行為が……やはり私は一番嬉しく思えた。
「ところで、こっそり保管していたお絵かきの紙は後でしっかり見せてね」
「……忘れろ」
「嫌です。私にも見せて」
「……」
隠していた彼の秘密。
それについて言及すれば、彼は記憶を失った時に漏らした事を後悔するように耳元まで赤くしていた。
繋ぐ手が、熱くなるほどに。
◇◇◇
庭園へと戻れば、私の愛し子達をジェラルド様やグレインが見てくれていた。
「あーう! おかたんと、おとたん! かえてきたよ!」
テアが真っ先に気付き、私達の元へ駆け寄って来る。
シルウィオがテアを抱きしめれば、我が子は嬉しそうに笑う。
「ぐーうにね、おうまさんのほかに、けんのもちかたもおしえてもらたよ!」
「テア様、陛下をお守りするために木剣の練習を始めておられるのです。とても筋が良いですよ」
「ぐーう! ないしょ!」
「っ!! す、すみません……テア様! 許してください……」
「あとでおうまさんしてくれたら、いいよ!」
「ふ……ふふ」
二人のやりとりに笑っていれば、シルウィオも頬を緩めてテアの頭を撫でていた。
その時、リルレットも遅れて走ってきた。
「お、お父様……私の事、分かる?」
「リル。もちろんだ」
リルレットの言葉にシルウィオが頷けば、彼女は喜びの表情を浮かべながらも頭を下げた。
「お父様、許可されたからって効果もいわずに試して……ごめんなさい……」
ジェラルド様が先にしっかり言ってくれていたのだろう。
危険だった事を理解したリルレットが謝罪の言葉を口にした。
「陛下、カーティア様……リルレット様もよく分かってくれています。どうか姫様を許してあげてください」
頭を下げるジェラルド様は、きっとリルレットの事を気にかけてくれているのだ。
その事が嬉しい。
「ジェラルド、頭を上げろ。リルも」
「っ」
「俺は怒ってない。……懐かしい経験も出来た。感謝している」
「お父様……ごめんね。大好き……」
「あぁ、俺もだ」
リルレットの頭を撫でながら、彼は視線を上げた。
「ジェラルド、グレイン。心配をかけたな」
「いえ! お記憶が戻って嬉しく思います!」
「有難きお言葉です……」
今や、シルウィオの周りには家族や信頼できる人がいる。
それが、きっと心を潤しているはずだ……。
改めて昔の彼と話したから、変わったのがよく分かる。
彼の視線は柔らかくなり、冷たい雰囲気からも暖かさを感じるようになった。
その理由は、もう一人ではないからだ。
「シルウィオ、久しぶりに皆で食事でもしましょうか」
「……あぁ、そうだな」
彼の手を握り、私は家族達や信頼できる皆と共に歩き出す。
もう……孤独で冷酷な皇帝はいない。
隣で歩くのは……家族を愛する、父親になったシルウィオだ。
「ところで、リルレットはどうして……あんな魔法を作ったの?」
思わず問いかけた言葉。
私の質問にリルレットは首を横に振った。
「ないしょにしたいの」
「教えてくれないの?」
「うん」
何故か、いつもはハッキリ答える彼女が教えてくれない。
その事に疑問を抱いた時、シルウィオの腕に抱かれたテアが声を上げた。
「テア、しってるよ! ねぇねはおししょーにこい? したからまほうをつくって、おかさんたちのこいをしりたかったって! さっきテアにおしえてくれたよ!」
途端。
周囲の和やかな雰囲気が凍りついたような、温度が急激に下がった感覚を覚えた。
和やかに笑っていたシルウィオの表情が、無表情に戻ったように見える。
前言撤回だ、冷酷でなくなったのは家族に対してのみだけだ。
「言わないでっていったのに! テア!」
頬を赤くしたリルレットに、テアの言葉の真実味が増していく。
この話題に、シルウィオがどう反応するかと冷や冷やしたが……
意外にも彼はリルレットの頭を撫でて微笑んだ。
「別に隠す事はない。そうやって誰かに想いを抱くのは悪い事じゃない」
「お父様……」
「だが、これからはまず俺に言うようにな」
「うん。わかった。ごめんね、お父様……」
「……あぁ」
幼い歳の子供が、年上の異性に恋情に似た憧れを持つのはよくある事だ。
それは彼も分かってくれているようだ。
一瞬見えた無表情も、きっと私の気のせいに違いない。
シルウィオの微笑みに一安心しながら、私達は再び食事の席へと向かった。
◇◇◇
グラナート国。
漆黒の闇が広がる、真夜中。
数台の馬車が松明の明かりを灯して走る。
その中では、女性と子供が手足を縛られていた。
「んー! んー!」
「おい、口を塞げ」
「自決させないようにしろよ。大事な商品だからな」
王家を失ったグラナート国は、大臣レブナンによって少しずつ混乱が収まってきているが。
未だ国は不安定であり、王都から遠い辺境の治安にまで手が回せない。
故に、奴隷商が格好の標的としたのだ。
グラナート辺境の村から、売れる子供と女性をさらって奴隷制のある国へ売りさばく。
企てた奴隷商は、さらった人数を見て卑しい笑みを浮かべた。
「大儲けだ……賢い奴は国同士の情勢を見て、賢く稼がねぇとな」
そんな呟きを漏らした奴隷商に、雇った部下達が笑いながら近づく。
「雇い主さんよ。俺達にもおこぼれがないが欲しいんだが」
「そうだぜ、他国まで待ってられないなぁ」
(ちっ……下の事しか考えられない奴らめ。まぁ……商品を護るためなら、一つぐらいは安くなってもいいだろう)
奴隷商は一瞬の思考の後、部下達へ声を出した。
「一人だけ、自由に使え」
「よっしゃ!」
「早速、誰にするか決めるか!」
奴隷商は馬を走らせながら、後方から聞こえてくる声に耳を傾けた。
「おい、こいつ……いいかもな」
「口輪を外せ」
「……っ!! やめ! やめてください!」
「大人しくしろ!」
「おい、抑えろ!」
「助け! やめて!」
「おい、まず俺から」
「や……たすけ……」
(うるさい女だ……どうせもっと酷い奴隷になるのにな)
「おい、あまり値が下がるような事はするなよ!」
奴隷商は馬を走らせながら、声だけを張った。
しかし……返答が返ってこない。
それどころか、女性の悲鳴すら聞こえない。
「……? おい、聞こえたら返事をし」
呟きつつ、奴隷商が振り返った時だった。
「ぇ……」
後ろに立っていたのは、血に染まった剣を握った見知らぬ男だった。
月明かりに銀髪が輝くのだけが見え、血に染まったような深紅の瞳が見つめていた。
男の後ろには、血にまみれた部下達の姿が見えた。
(夢じゃない!?)
「た、たすけ!」
殺される。そう思った奴隷商は咄嗟に声を出すが……それを許されず喉を裂かれた。
声が出せず、痛みに悶える中で見たのは。
「あ……が……ぁぁ」
恐ろしい程、無感情に冷たく見下ろす男の姿であった。
「邪魔だ」
その一言と共に、奴隷商の意識は途絶えた。
首から切り離された頭は馬車から転がり落ちていったから。
その後、多くの騎士達がやって来て捕えられた者達を解放した。
女性や子供は見知らぬ騎士達に感謝しながら、村へと戻るために用意された馬車に乗りこんでいく。
その中から、襲われそうだった女性が銀髪の男性の元へと走って頭を下げた。
「ありがとうございます! わ、私達は……貴方に救われ……」
「ジェラルド、カルセインまで……あと何日かかる」
「はっ!! あと五日は……」
「三日で向かう。カティ達に怪しまれぬように直ぐに帰る。遠征と理由を付けたが、カティは怪しんでいたからな」
「ぇ……あの……お礼を……」
「はっ!! 早急に向かいましょう!」
「あぁ……奴とリルとの関係は……俺が正す必要がある」
震えるような威圧を放ち、男性は数人の騎士を残して去っていってしまう。
「あ……」
お礼を告げようとした女性であったが……
件の男性はそんな事を望まずに、早々に行ってしまった。
グラナートの隣国……カルセイン王国へと。
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