死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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三章

96話 贈り物の国

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 新たにやって来た国は、装飾品が発展した国だ。
 この国では宝石や鉱石が多く採掘され、街の街灯にさえ宝石で飾られている。
 盗まれたりしないのかと不安にも思ったが、栄えている事もあり衛兵も多いようだ。

「すごく綺麗だね、シルウィオ」

「あぁ……そうだな」

 太陽に反射し、鮮やかな色で輝く街並みは美しい。
 馬車に乗っていれば、車窓から虹のように光が差し込む。
 その様子に、子共達は興味津々で外を見つめていた。

「ね、お母様! リル……買い物したい!」

「テアも!」

「いいよ、せっかく来たのだから。一人一個だけ、好きな物を買っていきましょうか」

「やったー!」

 綺麗な物が好きなリルレットは特に喜んでいる。
 せっかくの旅行なのだから、子供達が喜ぶ物を買ってあげよう。

「グレイン、街を見て回るから馬車を停めてもらえる?」

「承知いたしました! お停めいたします」

 グレインに馬車を停めてもらい、子共達が外へ出る。
 私も外に出ようとした時だった……シルウィオが私を抱き上げ、馬車を降りる。

「っ……シルウィ……」

 ジェラルド様からの助言を受けたシルウィオは、以前にも増して……
 いや……今まで以上に積極的で、周囲の視線も気にしない。
 これでは私の心臓がもたない。
 
「シルウィオ。と、とりあえず、下ろしてください」

「嫌だ」

「もう……」

 そんなやり取りを交わしつつ、ようやく下ろしてもらう。
 私がイヴァを抱っこすると、リルレットやテアは今にも走り出しそうに期待に胸を膨らませた。

「じゃあ、皆で見て回りましょうか」 

 私が、そう言った時。

「いや、俺とテアは…………別で買い物に行く」

「え? シルウィオ?」

 珍しい、シルウィオが別行動をとるなんて。

「陛下? 必要な物があれば俺が買ってきますよ? カーティア様と共に居られては?」

「グレイン……」

 なにやらゴニョニョと、シルウィオがグレインへと耳打ちをする。

「あぁ……なるほど。分かりました! 陛下」

「これは話すな」

「はい! 俺は絶対に話しませんよ!」

 何を話していたのだろう?
 気になって尋ねようとしたが、シルウィオはテアの手を繋いで歩き出してしまう。

「シルウィオ、本当に一緒に行動しなくていいの?」

「あぁ、テアの買い物が終われば合流する。それまではグレインが護衛をする」

 私を見つめるシルウィオの視線が……なぜか泳いでいる。
 こんな時は、何かを隠している時だ。

「行くぞ、テア」

「うん! お父様! 僕……あっちのお店いきたい!」

「いくらでも見ろ」

 だが、何かを隠しているらしいシルウィオの本心は聞けぬまま。
 二人は行ってしまう。

「お母様! リル達もお買い物にいこう!」

「そうね、行きましょうか」

「護衛はお任せください! あっちに露店があるので、なにか食べていきますか?」

「ふふ、そうねグレイン……まずは腹ごしらえとしましょうか」

「お二人とも……食べたい物があれば言ってくださいね、俺が買ってきます!」

 さっそく、露店の匂いに引かれるグレインは可愛らしい。
 馬車の御者も任せていたのでお腹も空いていたのだろう。
 たらふく腹ごしらえをした後は、リルレットの要望で装飾品売り場へと向かう。
 
「綺麗……」
 
「お母様……これ……凄いね」

 並べられた装飾品の数々は、眩い光を放っている。
 美しく綺麗な宝石が、ネックレスや指輪にはめられて並べられているのだ。

「お母様! 私……これがいい」

 リルレットが望んだのは、可愛らしいネックレスだった。
 桃色の宝石が飾り付けられ、それを首にかけて満足そうに微笑む。

「イヴァ、こえ」

 イヴァも蒼色の輝きを放つ宝石の指輪を指さした。
 まだイヴァははめられないが、それを手に持って喜んでいる。
 
 子供ながらに、気に入る要素があったのだろうか。
 間違って食べたりはしないだろうけど、一応は気を付けて見ておこう。

「皆さん、露店でこんな物もありましたよ!」

「ふふ……グレインは食べ過ぎですよ」

 宝石には目もくれず、両手いっぱいに露店の食べ物を持つグレイン。
 装飾品に興味のないグレインのような人にも、この国では楽しむ術が用意されているようだ。



   ◇◇◇



 その後、暫くしてシルウィオやテアとも合流する。

「テアは何を買ったの?」

「僕はこれ!」

「お~」

 テアが自信満々に見せたのは、なんと宝石で出来た小さな剣。
 殺傷力はなく、あくまで飾りの物だが、テアは嬉しそうだ。

「ふふ、これでグレインに剣を教えてもらう~」

「テア様、そんな貴重な品では……打ち込みの時に遠慮してしまいますよ」

 グレインとテアがそんな会話をしていた時。
 ポンと、私の手にシルウィオが何かを手渡してきた。

「え……?」

「テアの買い物のついでに、貰った」

 そう言ってシルウィオが私に手渡したのは、綺麗なルビーが飾り付けられた髪飾り。
 眩い光を放つルビーは、まるでシルウィオの瞳のようで……
 とても、おまけで貰えるような品物ではないと私でも分かる。

「……シルウィオ、本当に貰ったの?」

「……あぁ」

 ……視線を逸らした。
 なんだか覚えのある光景に、先程秘密の会話をしていたグレインを見つめるが、流石に以前までのように彼もシルウィオの本心は明かさない。

 だが……

「ね、テア。この髪飾り……おまけで貰えたの?」

「え~違うよ! お父様がお母様にあげるからって、いっぱい時間かけて選んでたんだよ!」

「テアっ……」

「あ! それでね! 内緒にするって約束で、この宝石の剣を買ってもらったの! ……あっ!」

 えらく豪華な宝剣を買ってもらっていると思ったけれど。
 そういうことか……
 テアにあっさりとばらされたシルウィオは、いつぞやの時のように視線を逸らして頬を赤く染める。
 
 昔から変わらず、贈り物をするときは隠そうとするのだから。

「シルウィオ?」

「本当に貰った」

「正直に言って」

「……」

「言って」

「カティのために選んだ……その、似合うと、思って」

 途切れ途切れ、いつもと違って歯切れの悪い返答に微笑む。
 会った頃から変わらず、贈り物をする際はちっちゃなウソをついて。

 それがバレたら、いつもの余裕を失い恥ずかしそうにするのだ。
 変わらない、私の前では可愛いらしい姿が微笑ましい。

「シルウィオ、こっち見て」

「……」

「はやく」

 若干の照れを残しつつ、紅の瞳が私を映す。
 見つめられながら、彼から貰った髪飾りを付けて……微笑みかけた。

「ありがとう、シルウィオ。すごく嬉しいよ」

「……本当か?」

「えぇ、シルウィオが選んでくれた事が嬉しいの。それに……すごく綺麗な髪飾りだよ」

 私が髪飾りを付ければ、その日のシルウィオは心から嬉しそうであった。
 いつもの無表情には変わりないけれど、私には分かる。
 ほわほわとしていて、私の傍を片時も離れなかったのだから。


 この国では、沢山のお土産を購入できた。
 それに……久しぶりにシルウィオの可愛らしい姿も見れたので、私にとって大満足な日でもあった。
 
 長く続いた旅行も、残す所あと一国を回って最後だ。
 アイゼン帝国へ戻り、コッコちゃんやレティシア様達と再会するのも楽しみだけど。

 今は、最後の旅行を楽しもうと思う。








   ◇◇◇お知らせ◇◇◇
 
 いつも読んでくださり、ありがとうございます。

 先日お知らせいたしました。
 本作の書籍化について、10月30日以降には本屋さんに並ぶ予定となっております。
 改稿を重ね、さらに楽しんでいただける一作になるよう力を尽くしました。

 イラストレーター様は黒野ユウ様に担当して頂いております。
 下記に表紙がありますが、とても素敵なイラストでコッコちゃんがとても可愛いので見てください!

 本当に、こうして一つの形に出来たのは読んでくださる皆様のおかげです。
 頂いたお祝いのお言葉、とても感謝しております!
 いつもありがとうございます!!
 



 
 
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