63 / 105
三章
95話 感謝の意味・レティシアside
『我らが帝国の母へ、平穏をくださった貴方の永遠の幸せを願います』
カーティア様へ捧げた祝福の願い。
あの言葉には本心から……私とジェラルドの感謝が含まれている。
「レティシア、帰ろうか」
「はい、ジェラルド」
皇帝陛下達の転移魔法によりアイゼン帝国にまで戻った後、私達は帰路に着く。
出会った頃と違い、お互いに歳を重ねてしわが刻まれた手。
だけど……変わらず手を繋いで共に歩く。こんな当たり前が嬉しい。
「嬉しそうだな、レティシア」
「ふふ、そうですね。ようやく……カーティア様と会えましたから」
「カーティア様と会いたがっていたが、なにか理由があったのか?」
「内緒です」
ジェラルドの問いには答えられない。
私には、前世の記憶があり。
同時にカーティア様と同じく……前回の記憶があるなんて言えないから。
◇◇◇◇◇◇
––––前回の人生。
あの時間を生きている者は皆、ただの日常が恐怖に染められて生きていたはずだ。
各国で広がっていく争い、連日のように入る情報は不穏なものばかり。
いずれ……アイゼン帝国にまでその火種は降りかかるのだと、誰もが思っていた。
……
屋敷を出て行くジェラルドの背。
いつもは笑顔で送り出し、口付けを交わして見送るのに……今日は彼の背にすがりついて引き止める。
今日だけは、行ってほしくなかった。
「ジェラルドっ!!」
「っ……レティシア!? 寝ている時間だろう」
「起きぬうちに行こうとしたの……?」
早朝、普段は誰も起きていない時間に屋敷から出て行こうとするジェラルド。
彼が向かう先はカルセイン王国で、それを悟られぬためだろう。
カルセイン王国はこの戦乱で乱れた各国の動きを変えるため、時戻しの秘術を行うという。
それを成功させるため、アイゼン帝国は軍をおこして援軍に向かうというのだ。
だけど……それは死地に向かうのと同じ行為。
「行かないで……ジェラルド」
「っ……」
はじめて、ジェラルドが出て行くのを引きとめる。
当たり前だ、彼が向かう先は各国の軍がひしめく激戦地で命の保証なんてない。加えて時戻しの秘術が必ず成功するなんて分からない。
今、ここで彼が出て行けば、もう二度と帰ってこないかもしれない。
だから……行ってほしくない……
「すまない……レティシア」
「お願い、お願いだから……やだよ……」
普段は流さない涙が、出て行く彼にすがるうちに流れ落ちる。
頬を流れる雫が止まらなくて……みっともなくも彼の衣服を掴む。
絶対に、離したくない。
「行かないで……ジェラルド」
「……」
どうして、振り向いてくれないの?
いつもは私が呼びかければ、真っ先に振り向いてくれるジェラルドが。
いつもは……私と一緒なら笑顔を向けてくれる彼が。
押し黙り、その背を向けたまま。
「行かなければ……ならないんだ」
「ジェラルド……」
「今、この世界では各国で争いが広がっている……いずれ、アイゼン帝国内の平穏も失われる」
「……っ」
「このままでは、君と娘達が戦火に巻き込まれるかもしれない」
ジェラルドの肩が震えている。
拳を握り、声を震わせて言葉を告げているのだ。
優しい彼は……きっと涙を流す私を見ればその足を止めてしまう、だから振り返らずに言葉を続ける。
「すまない、レティシア。俺は……君と娘達を失う運命だけは……何があっても避けたい」
「……」
「俺は……君に死んでほしくない」
「ジェラルド……私だって、私だって同じだよ! 貴方が死ぬなんて、考えたくない!」
ジェラルドの覚悟は分かっている。
でも私だって気持ちは同じだ、彼を失う事なんて考えたくない。
そんな運命を受け入れるなんてできない。
失いたくない、大好きな彼を。
「……いやだよ……ジェラルド。行かないで……」
「……すまない」
どうして、謝るの。
どうして……今日だけは私のお願いを聞いてくれないの?
ジェラルド……いかないで。
「お願い……お願い。ジェラルド……」
彼の覚悟は分かっている、送り出すのが妻として……アイゼン帝国に生きる者としての務めだろう。
でも気持ちは追いつかず、子供のように泣いてすがりついてしまう。
愛しい彼が死ぬかもしれない、その恐怖が身を震わせる。
「約束する。必ず……運命は変わる」
「っ……」
「だから、泣かないで待っていてくれるか? レティシア」
ようやく、振り返ってくれたジェラルド……
その瞳は私と同じく涙を潤ませて、頬にはとめどなく雫が流れている。
悲しいのは、彼も同じだ。
「信じてくれ、時が戻れば……きっと全てが変わる」
「ジェラルド……」
ジェラルドが私の涙を拭ってくれて、泣きながら頬に笑みを刻む。
私が好きだと言った笑みを、安心させるために浮かべるのだ……
「だから、行かせてくれるか?」
「分かった……ずっと、ずっと信じてるから」
「あぁ、君と娘達のため……必ず……この悲惨な運命は変えてみせる」
約束だよ、ジェラルド。
私は待っているから……だからどうか、この運命を変えて。
「行ってらっしゃい、ジェラルド」
「あぁ。行ってくる……レティシア」
信じて、貴方を送り出す。
いつもと変わらぬ笑みで、口付けを交わして、手を振って見送るのだ。
日常と違うのは……互いに流す涙のみ。
でも弱音は吐かない。
ジェラルドが約束してくれたから、信じよう。
きっと……この悲惨な運命は変わるはずだ。
◇◇◇◇◇◇
––––今世。
カーティア様に会いたかった理由がこの前回の記憶があるからこそ。
一年前に突然、記憶に蘇ったのだ。
私はニホンという国で過ごした前世の記憶もあるが。
まさか前回の記憶まで思い出せるなんてね。
帰りの馬車に揺られながら、自身の数奇な人生に思わず苦笑してしまう。
「しかし……陛下はカーティア様のおかげで、本当に変わられたな」
「……そうね」
ジェラルドが笑って呟く。
彼の言葉通り、陛下は本当に変わられた。
「以前は、恐ろしくて、冷たい瞳で……どこか危なげでしたものね」
「そうだな……陛下はいつ死んでもいいと考えているような、人生を虚無に思っている危うさがあった」
「ふふ、確かにそうね」
今の陛下を見れば、そんな時があったのかと思ってしまう程に幸せそうだ。
昔と変わらずに無表情ではあるが、カーティア様や御子様達を見つめる視線には……確かに以前までは無かった光があった。
「カーティア様には、感謝せねばな」
「ええ、また今度来てくださる時は……もっとたくさん料理を振る舞いましょう」
カーティア様は、確かに悲惨な運命と陛下を変えてくださった……
だけどね、ジェラルド。
運命を変えたのは……貴方のおかげでもあるはずよ。
貴方が、陛下のためにカーティア様を皇后にと推薦した。
それが……偶然だと思えるだろうか?
その答えは、前回の記憶を思い出した今なら分かる。
『君と娘達のため……必ず……この悲惨な運命は変えてみせる』
貴方は、時が戻り全てを忘れても……私との約束を守ってくれたのよ。
カーティア様を選んだのは、きっとそんな理由もあると私は信じてる。
「ありがとうね、ジェラルド」
「? ……なにがだ?」
「ふふ、いろんなことです。大好きですよ」
「……俺もだ」
私の前だけでは、出会った時と変わらずに一人称が俺に変わる。
そして……優しく抱きしめてくれるのだ。
こうして愛しい彼とまた平穏を過ごせるのは、カーティア様のおかげだ。
カーティア様、貴方に救われた者はきっと世界中におります。
だからどうか卑下せずに、自身の功績を誇っていてくださいね。
私も貴方に、かけがえのない幸せを護ってもらった一人として感謝してます。
我らが帝国の母へ、平穏をくださった貴方の永遠の幸せを……心から願っております。
カーティア様へ捧げた祝福の願い。
あの言葉には本心から……私とジェラルドの感謝が含まれている。
「レティシア、帰ろうか」
「はい、ジェラルド」
皇帝陛下達の転移魔法によりアイゼン帝国にまで戻った後、私達は帰路に着く。
出会った頃と違い、お互いに歳を重ねてしわが刻まれた手。
だけど……変わらず手を繋いで共に歩く。こんな当たり前が嬉しい。
「嬉しそうだな、レティシア」
「ふふ、そうですね。ようやく……カーティア様と会えましたから」
「カーティア様と会いたがっていたが、なにか理由があったのか?」
「内緒です」
ジェラルドの問いには答えられない。
私には、前世の記憶があり。
同時にカーティア様と同じく……前回の記憶があるなんて言えないから。
◇◇◇◇◇◇
––––前回の人生。
あの時間を生きている者は皆、ただの日常が恐怖に染められて生きていたはずだ。
各国で広がっていく争い、連日のように入る情報は不穏なものばかり。
いずれ……アイゼン帝国にまでその火種は降りかかるのだと、誰もが思っていた。
……
屋敷を出て行くジェラルドの背。
いつもは笑顔で送り出し、口付けを交わして見送るのに……今日は彼の背にすがりついて引き止める。
今日だけは、行ってほしくなかった。
「ジェラルドっ!!」
「っ……レティシア!? 寝ている時間だろう」
「起きぬうちに行こうとしたの……?」
早朝、普段は誰も起きていない時間に屋敷から出て行こうとするジェラルド。
彼が向かう先はカルセイン王国で、それを悟られぬためだろう。
カルセイン王国はこの戦乱で乱れた各国の動きを変えるため、時戻しの秘術を行うという。
それを成功させるため、アイゼン帝国は軍をおこして援軍に向かうというのだ。
だけど……それは死地に向かうのと同じ行為。
「行かないで……ジェラルド」
「っ……」
はじめて、ジェラルドが出て行くのを引きとめる。
当たり前だ、彼が向かう先は各国の軍がひしめく激戦地で命の保証なんてない。加えて時戻しの秘術が必ず成功するなんて分からない。
今、ここで彼が出て行けば、もう二度と帰ってこないかもしれない。
だから……行ってほしくない……
「すまない……レティシア」
「お願い、お願いだから……やだよ……」
普段は流さない涙が、出て行く彼にすがるうちに流れ落ちる。
頬を流れる雫が止まらなくて……みっともなくも彼の衣服を掴む。
絶対に、離したくない。
「行かないで……ジェラルド」
「……」
どうして、振り向いてくれないの?
いつもは私が呼びかければ、真っ先に振り向いてくれるジェラルドが。
いつもは……私と一緒なら笑顔を向けてくれる彼が。
押し黙り、その背を向けたまま。
「行かなければ……ならないんだ」
「ジェラルド……」
「今、この世界では各国で争いが広がっている……いずれ、アイゼン帝国内の平穏も失われる」
「……っ」
「このままでは、君と娘達が戦火に巻き込まれるかもしれない」
ジェラルドの肩が震えている。
拳を握り、声を震わせて言葉を告げているのだ。
優しい彼は……きっと涙を流す私を見ればその足を止めてしまう、だから振り返らずに言葉を続ける。
「すまない、レティシア。俺は……君と娘達を失う運命だけは……何があっても避けたい」
「……」
「俺は……君に死んでほしくない」
「ジェラルド……私だって、私だって同じだよ! 貴方が死ぬなんて、考えたくない!」
ジェラルドの覚悟は分かっている。
でも私だって気持ちは同じだ、彼を失う事なんて考えたくない。
そんな運命を受け入れるなんてできない。
失いたくない、大好きな彼を。
「……いやだよ……ジェラルド。行かないで……」
「……すまない」
どうして、謝るの。
どうして……今日だけは私のお願いを聞いてくれないの?
ジェラルド……いかないで。
「お願い……お願い。ジェラルド……」
彼の覚悟は分かっている、送り出すのが妻として……アイゼン帝国に生きる者としての務めだろう。
でも気持ちは追いつかず、子供のように泣いてすがりついてしまう。
愛しい彼が死ぬかもしれない、その恐怖が身を震わせる。
「約束する。必ず……運命は変わる」
「っ……」
「だから、泣かないで待っていてくれるか? レティシア」
ようやく、振り返ってくれたジェラルド……
その瞳は私と同じく涙を潤ませて、頬にはとめどなく雫が流れている。
悲しいのは、彼も同じだ。
「信じてくれ、時が戻れば……きっと全てが変わる」
「ジェラルド……」
ジェラルドが私の涙を拭ってくれて、泣きながら頬に笑みを刻む。
私が好きだと言った笑みを、安心させるために浮かべるのだ……
「だから、行かせてくれるか?」
「分かった……ずっと、ずっと信じてるから」
「あぁ、君と娘達のため……必ず……この悲惨な運命は変えてみせる」
約束だよ、ジェラルド。
私は待っているから……だからどうか、この運命を変えて。
「行ってらっしゃい、ジェラルド」
「あぁ。行ってくる……レティシア」
信じて、貴方を送り出す。
いつもと変わらぬ笑みで、口付けを交わして、手を振って見送るのだ。
日常と違うのは……互いに流す涙のみ。
でも弱音は吐かない。
ジェラルドが約束してくれたから、信じよう。
きっと……この悲惨な運命は変わるはずだ。
◇◇◇◇◇◇
––––今世。
カーティア様に会いたかった理由がこの前回の記憶があるからこそ。
一年前に突然、記憶に蘇ったのだ。
私はニホンという国で過ごした前世の記憶もあるが。
まさか前回の記憶まで思い出せるなんてね。
帰りの馬車に揺られながら、自身の数奇な人生に思わず苦笑してしまう。
「しかし……陛下はカーティア様のおかげで、本当に変わられたな」
「……そうね」
ジェラルドが笑って呟く。
彼の言葉通り、陛下は本当に変わられた。
「以前は、恐ろしくて、冷たい瞳で……どこか危なげでしたものね」
「そうだな……陛下はいつ死んでもいいと考えているような、人生を虚無に思っている危うさがあった」
「ふふ、確かにそうね」
今の陛下を見れば、そんな時があったのかと思ってしまう程に幸せそうだ。
昔と変わらずに無表情ではあるが、カーティア様や御子様達を見つめる視線には……確かに以前までは無かった光があった。
「カーティア様には、感謝せねばな」
「ええ、また今度来てくださる時は……もっとたくさん料理を振る舞いましょう」
カーティア様は、確かに悲惨な運命と陛下を変えてくださった……
だけどね、ジェラルド。
運命を変えたのは……貴方のおかげでもあるはずよ。
貴方が、陛下のためにカーティア様を皇后にと推薦した。
それが……偶然だと思えるだろうか?
その答えは、前回の記憶を思い出した今なら分かる。
『君と娘達のため……必ず……この悲惨な運命は変えてみせる』
貴方は、時が戻り全てを忘れても……私との約束を守ってくれたのよ。
カーティア様を選んだのは、きっとそんな理由もあると私は信じてる。
「ありがとうね、ジェラルド」
「? ……なにがだ?」
「ふふ、いろんなことです。大好きですよ」
「……俺もだ」
私の前だけでは、出会った時と変わらずに一人称が俺に変わる。
そして……優しく抱きしめてくれるのだ。
こうして愛しい彼とまた平穏を過ごせるのは、カーティア様のおかげだ。
カーティア様、貴方に救われた者はきっと世界中におります。
だからどうか卑下せずに、自身の功績を誇っていてくださいね。
私も貴方に、かけがえのない幸せを護ってもらった一人として感謝してます。
我らが帝国の母へ、平穏をくださった貴方の永遠の幸せを……心から願っております。
あなたにおすすめの小説
夫に捨てられたので、借金ごと全財産を不倫相手にあげました。――実家に帰ったら、過保護な兄たちの溺愛と侯爵様の求愛が待っていました
まさき
恋愛
あらすじ
夫が不倫相手を連れて帰り、私を家から追い出した。
相手は、よりによって私の遠縁の娘。
私は素直に従うフリをして、五年間の生活の「すべて」を二人に譲り渡す書類にサインさせる。
「これで私たちは大金持ちよ!」と歓喜する不倫相手。
「邪魔な女がいなくなって清々した」と笑う夫。
でも、お気をつけて。
私が譲ったのは「資産」だけじゃなく、それを維持するための「莫大な借金」もセットですから。
明日の朝、扉を叩くのは私ではなく、恐ろしい取り立て屋のはずですよ?
捨てられたはずの妻は、最強の過保護な三人の兄たちの元へ帰ってきた。
長兄アルドは無言で、次兄ケインは泣きながら、三兄セオは笑いながら、私を迎えてくれた。
久しぶりの「家」で、私はようやく気づく。
五年間、ずっと我慢ばかりしていたのだと。
そんな私の前に現れたのは、今回の騒動を遠くから眺めていた侯爵・ルーク・ヴァーノン。
「借金ごと渡した女」に興味を持ったと言う彼を、私は信用するつもりはなかった——はずなのに。
変更点は2つです。
冒頭に「よりによって私の遠縁の娘」を追加
「久しぶりの家で」の段落に「五年間」を追加して本文と一致させました
これで1話目・あらすじともに整合性が取れた状態です。2話目に進みますか?
「贅沢不倫夫に「実家の支援は要らん」と言われたので屋敷の維持費を全額請求しました。――支払えない?なら体で払っていただきますわ」
まさき
恋愛
「お前の実家の支援など要らん」
贅沢三昧の不倫夫にそう言い放たれた侯爵夫人レイラは、動じるどころか翌朝、12年分・総額4万2千ルークの請求書を夫の朝食の隣に置いた。
用意周到な彼女は、万が一に備えてすべての支出を「貸付金」として記録していた。
支払えない夫が向かう先は、レイラの実家が経営する矯正労働施設。傍らには、元暗殺者にして絶対の忠誠を誓う執事・シオンが静かに控えている。
これは、完璧な清算と――思いがけない愛の物語。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
「三番目の王女は、最初から全部知っていた」 ~空気と呼ばれた王女の、静かな逆襲~
まさき
恋愛
「三番目など、いなくても同じだ」
父王がそう言ったのを、アリエスは廊下の陰で聞いていた。
十二歳の夜のことだ。
彼女はその言葉を、静かに飲み込んだ。
——そして四年後。
王国アルディアには、三人の王女がいる。
第一王女エレナ。美貌と政治手腕を兼ね備えた、次期女王の最有力候補。
第二王女リーリア。百年に一人と謳われる魔法の天才。
そして第三王女、アリエス。
晩餐会でも名前を忘れられる、影の薄い末の王女。
誰も気にしない。
誰も見ていない。
——だから、全部見えている。
王宮の腐敗も。貴族たちの本音も。姉たちの足元で蠢く謀略も。
十六歳になったアリエスは、王立学園へ入学する。
学園はただの通過点。本当の戦場は、貴族社交と王宮の権力図だ。
そんな彼女に、一人だけ気づいた者がいた。
大勢の中で空気のように扱われるアリエスを、
ただ一人、静かに見ていた男が。
やがて軽んじていた者たちは気づく。
「空気のような王女」が、
ずっと前から——盤面を作っていたことに。
これは、誰にも見えていなかった王女が、
静かに王宮を動かしていく物語。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。