死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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書籍化記念話

閑話ー使用人は見たー

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 私––ミラは、本日。
 憧れていたアイゼン帝国城の使用人に就職しました。

 もちろん仕事は大変ですが、家族が喜ぶようなお仕事につけたのは嬉しい。
 城内で共に仕事する人たちも、優しい人ばかりだ。
 だけど、一つだけ不満がある。

「また、ここかぁ……」

 その問題は、城内のとある通路を掃除する仕事の事。
 庭園に沿う通路は、窓があって外の陽ざしも明るくて素敵だ。
 だけど、その通路は人が二人分通れるような狭さで長い。

 なので対面から誰か来れば、もう大変。

「ご、ごめんなさい……」
 
 なんて謝りながら、新米の私は壁にはりついて道を空ける。
 もちろん皆お礼を言ってくれるのですが、時には少し嫌な人もいて。

「それで~」
「確かにね~」

 こんな風におしゃべりに夢中で、道を譲った私には視線も向けずに通り過ぎていく人もいたり。
 時には押しのけてくる人もいて、そんな嫌な気持ちをするかもしれない道だ。

「嫌だなぁ……」

 今日は誰も通りませんようにと祈りながら、通路の掃除をしていく。
 だけど、やっぱりこの通路には人が来るようで……

「待ちなさい! 待って!」

「ん?」

 なんだか騒がしい人が来た?
 声の方向を見て、驚愕した。
 なんと、大きな黒い犬の上にニワトリとひよこが乗って走ってきている。

「わふ!」
「コケーー!!!」

「待ちなさい! コッコちゃん! ノワール! 今日はお医者さんに診てもらう日でしょ!」

「コケェェ!! コッケ!」
「ワッフ!」

「止まりなさい!」

 黒い犬とニワトリを追いかけていたのは、黒色の瞳に太陽みたいに明るい金色の髪。
 そして、見惚れてしまうような美しい女性だった。

 私でも知っている。
 このアイゼン帝国の皇后様である、カーティア様だ!

「っ!!」
 
 慌てて壁際に寄って通路の道を開く。
 犬とニワトリが駆けていった後、カーティア様がゼイゼイ言いながら追いかけ続けていた。

「ま、まってぇ……」

 皇后様がへろへろと走っている姿には、何故か緊張を感じない。
 そんな、人当たりの良い雰囲気があった。

「だ、大丈夫ですか……?」

「あ、道を空けてくれてありがとうね。あの子達、お医者さんが来る日はいつもああなのよ」

 思ったよりも気軽にカーティア様は接してくれて、再びへろへろと走っていった。
 
 わ、私……
 アイゼン帝国の皇后様とお話をしてしまった!
 すごく光栄だし、なにより、とても優しそうな皇后様で良かった。




   ◇◇◇



 次の日も通路の掃除だ。
 誰もこないといいけど、なんて思っていても当然人は来る。

「……の件と、こちらの方は」
「……も進めておいてくれ」

 な、なんてことだ。
 今日は文官様達が大勢、この通路を通っている。

 何人いるのか分からない。
 その上気付いていないようだし、壁に寄っていても当たってしまいそうだ。

「っと、皆。壁に寄れ」

 慌てていた時、文官様達の中でひときわ背丈の方が私に気付いてくれた。

「ジェラルド様、この通路も広くせねばなりませんね」

「そうだな、陛下にかけあおう」

 そう言って、ジェラルド様と呼ばれた方のおかげで文官様達は無事に通ってくれた。
 去り際、ジェラルド様は私にあめ玉を渡してくれる。

「狭い通路の掃除は大変だろう。改善するようにしよう……いつもありがとう」
 
 と言って、砂糖菓子なんて高給品をくれた。
 このお仕事も、悪くないかも……



   ◇◇◇



 今日は生憎の雨だ。
 通路の掃除、今日は誰が来るだろうと最近は楽しみになっている。

「っ!!」

 向こうからやって来たのは、見惚れてしまうほどに美麗な顔立ちの男性。
 それに、私でも名前を知っている騎士様だ。
 この国で最も武名を広めた、帝国一の騎士であるグレイン様。

「……」

 慌てて道を空けようと思った時。
 先程まで歩いていたグレイン様の姿が消えた。

 ど、どこ?
 
 って! 気付いたら、もう通り過ぎている。
 いつの間に?
 まさか、私の仕事に支障がないように一瞬で移動したというのだろうか。


 す、すごい人だ。
 驚き以上に、この帝国で最も強い騎士様の力の片鱗を見れた気がして、なんだか嬉しかった。




   ◇◇◇




 さて、今日は誰がくるかな……
 なんて思って掃除していれば、今日はとんでもない人がいた。


 通路の窓から、外を見つめて立っている人物。
 銀色の髪は絹糸のように綺麗で、鋭い瞳にまばゆい紅の瞳。

 このアイゼン帝国の皇帝、シルウィオ・アイゼン陛下の姿に思わず息を呑む。
 こ、怖い。
 陛下はとても無感情で、恐ろしい方だと聞く。
 失礼があってはならない……

「……」

 それにしても、微動だにせずに外を見つめている。
 何があるのだろうか?

 陛下の視線の先を見てみれば、そこには庭園にいるカーティア様が見えた。
 子共達と遊んでおり、その姿をシルウィオ陛下はジッと見つめている。

「カティ……今日も可愛いな」

 なんてのろけを呟き、カーティア様を見つめている陛下の姿は……噂のような無表情には思えなかった。
 遠くから見つめ、頬をほのかに緩ませる表情には、確かな愛が感じ取れる。

「……」

「……なんだ?」

 み、見つめ過ぎていて陛下がこちらに気付いてしまった。
 なんて失礼なことを……

「も、申し訳ありませ––」

「ジェラルドの提案通りこの通路は広める。カティが見れる、良い場所だな」

 私の謝罪など意にも介さず、陛下は立ち去ってしまう。
 無表情だけど、それは私達に対してだけなのだろう。

 陛下は確かに愛をもっており、それを家族にだけ向けている。
 城に務めていない者は知らぬ、陛下の真実を知ってなんだか嬉しい。

 帰ったら、この事を家族に伝えよう。
 この仕事は……凄く楽しいと思えた。 

 











   ◇◇◇お知らせ◇◇◇

 読んでくださっている皆様、いつもありがとうございます! 

 この度、本作の電子書籍が出版されました!
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