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三章
99話 心の傷③
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「本当に会いたかったわ。グレイン……会えたのはきっと運命よ」
うっとりと、瞳を潤ませて甘い声を出すエリー。
グレインは動揺しているような、信じられないような視線だった。
「相変わらず、カッコイイ顔ね。女の子をいっぱい泣かせているんじゃないの?」
「そんなこと……ない」
「そう。私なら……いくらでもグレインに遊ばれてもいいのに」
まるで色仕掛けのように話しかけながら、彼女はグレインに近づく。
当のグレインは、逆に苦手意識を抱くように一歩下がった。
女性が苦手な彼にとって、今の彼女忌避する存在なのだろう。
「エリー、俺は仕事がある……」
ちらりと、グレインが私とシルウィオ。
そして子供達を見て、エリーを引き離す。
皇族である私達はこの国にお忍びで来ているため、悟られないようにしてくれているのだろう。
だが、当のエリーはグレインの言葉も気にせずにグイッと迫る。
「ねぇ、グレイン。私……ちょうど二日後に屋敷でパーティーを開くの、良かったら貴方も来てくれない?」
「っ……行かない」
「そんなこと言わずに! 私ね……実は数年前に夫と別れて、寂しいのよ」
エリーは呟きながら、グレインへとしだれかかる。
そのまま指先で彼の腕をなぞった。
「っ……やめろ」
グレインは怒気のこもった声色で、エリーの肩を掴んで引きはがす。
初めて見る怒りの形相に、思わず私も息を呑んだ。
だが……
「そんなこと言わないで! 来てちょうだい……私はずっと、貴方と話したかったのよ?」
エリーがここまでグレインに迫る理由は分からない。
だが逆に、グレインが彼女へと怒りを見せる理由だけは良く分かった。
彼女は明確なウソをつき、再び彼を傷つけたのだ。
『数年前に夫と別れた』
なんて言ったが、彼女は気付いていないのだろう。
自身の肌が少し日焼けしている事を……
そのせいで、左手の薬指には跡が残っていた。
薬指にリングの跡……日焼けしなかった唯一の場所として、真っ白な形が浮き出ている。
「お願いグレイン。来て欲しいの! お願いだから」
「やめろ、行くはずがない」
拒絶する言葉を吐いたグレインだが、エリーは諦めない。
まるで来てもらわないと困る……といった焦りすら見せている。
その思惑が分からぬままだけど、耐え切れずに私は一歩前に出る。
「貴方、グレインになにか用ですか?」
「っ!? だ、だれよ!?」
「誰でもいいでしょう。私達は彼に護衛をしてもらっているの、時間がないので諦めてくれますか?」
「な……」
グレインが一人で来ていると思っていたのだろうか。
エリーは驚いた様子で、視線を泳がせる。
その時だった。
「グレイン、大丈夫?」
「っ!! ……ご心配をおかけしてすみません。俺は大丈夫ですよ」
今までのやり取りを聞いていたのだろう。
テアがグレインの裾を引き、心配そうに声をかけていた。
「こ、子供!? うそ……グレインの?」
何故かエリーは、テアのことをグレインの子供と勘違いしたのだろう。
驚きながら一歩引き……急に身をひるがえした。
「よ、用を思い出しましたわ。グレイン……この国に滞在するなら、ぜひ二日後にパーティーに来て下さいね」
そう言って、彼女は先程までの執着がウソのようにそそくさと去っていく。
テアが居る事に、なにか不都合でもあったのだろうか。
「すみません……カーティア様」
テアの心配を晴らした後、グレインは私へと頭を下げた。
「大丈夫よグレイン。貴方こそ、大丈夫?」
「大丈夫ですが、まさか結婚していながら迫られるとは思っていませんでした……初恋相手のそんな姿、見たくはないですね」
グレインは笑ってそう言うが、瞳は何処か寂し気だ。
かつての私もそうだったけれど……初恋の相手が酷く変わり果てた性格になれば、想像以上のショックを受けるものだ
「気にせず、観光に行きましょう!」
私達に悲しむ姿を見せないグレインだったが、その肩をシルウィオがそっと叩いた。
「へ、陛下?」
「待ってろ……カティ、子供たちを頼む」
「え? ど、どこ行くの? シルウィオ……」
「少し、用がある」
突然、それだけを告げて、私達を残してシルウィオは去ってしまった……
目的は分からないが……大きな問題があった。
「お、お父様……お飾りつけて行っちゃったよ?」
「おとたま、おもたつけたまま~」
リルレットとイヴァが言ったように、今のシルウィオはおもちゃの眼鏡や、赤鼻、奇妙な帽子を被った異様な様相だ。
あ、あんな格好で、いったい何をしにいったの……?
うっとりと、瞳を潤ませて甘い声を出すエリー。
グレインは動揺しているような、信じられないような視線だった。
「相変わらず、カッコイイ顔ね。女の子をいっぱい泣かせているんじゃないの?」
「そんなこと……ない」
「そう。私なら……いくらでもグレインに遊ばれてもいいのに」
まるで色仕掛けのように話しかけながら、彼女はグレインに近づく。
当のグレインは、逆に苦手意識を抱くように一歩下がった。
女性が苦手な彼にとって、今の彼女忌避する存在なのだろう。
「エリー、俺は仕事がある……」
ちらりと、グレインが私とシルウィオ。
そして子供達を見て、エリーを引き離す。
皇族である私達はこの国にお忍びで来ているため、悟られないようにしてくれているのだろう。
だが、当のエリーはグレインの言葉も気にせずにグイッと迫る。
「ねぇ、グレイン。私……ちょうど二日後に屋敷でパーティーを開くの、良かったら貴方も来てくれない?」
「っ……行かない」
「そんなこと言わずに! 私ね……実は数年前に夫と別れて、寂しいのよ」
エリーは呟きながら、グレインへとしだれかかる。
そのまま指先で彼の腕をなぞった。
「っ……やめろ」
グレインは怒気のこもった声色で、エリーの肩を掴んで引きはがす。
初めて見る怒りの形相に、思わず私も息を呑んだ。
だが……
「そんなこと言わないで! 来てちょうだい……私はずっと、貴方と話したかったのよ?」
エリーがここまでグレインに迫る理由は分からない。
だが逆に、グレインが彼女へと怒りを見せる理由だけは良く分かった。
彼女は明確なウソをつき、再び彼を傷つけたのだ。
『数年前に夫と別れた』
なんて言ったが、彼女は気付いていないのだろう。
自身の肌が少し日焼けしている事を……
そのせいで、左手の薬指には跡が残っていた。
薬指にリングの跡……日焼けしなかった唯一の場所として、真っ白な形が浮き出ている。
「お願いグレイン。来て欲しいの! お願いだから」
「やめろ、行くはずがない」
拒絶する言葉を吐いたグレインだが、エリーは諦めない。
まるで来てもらわないと困る……といった焦りすら見せている。
その思惑が分からぬままだけど、耐え切れずに私は一歩前に出る。
「貴方、グレインになにか用ですか?」
「っ!? だ、だれよ!?」
「誰でもいいでしょう。私達は彼に護衛をしてもらっているの、時間がないので諦めてくれますか?」
「な……」
グレインが一人で来ていると思っていたのだろうか。
エリーは驚いた様子で、視線を泳がせる。
その時だった。
「グレイン、大丈夫?」
「っ!! ……ご心配をおかけしてすみません。俺は大丈夫ですよ」
今までのやり取りを聞いていたのだろう。
テアがグレインの裾を引き、心配そうに声をかけていた。
「こ、子供!? うそ……グレインの?」
何故かエリーは、テアのことをグレインの子供と勘違いしたのだろう。
驚きながら一歩引き……急に身をひるがえした。
「よ、用を思い出しましたわ。グレイン……この国に滞在するなら、ぜひ二日後にパーティーに来て下さいね」
そう言って、彼女は先程までの執着がウソのようにそそくさと去っていく。
テアが居る事に、なにか不都合でもあったのだろうか。
「すみません……カーティア様」
テアの心配を晴らした後、グレインは私へと頭を下げた。
「大丈夫よグレイン。貴方こそ、大丈夫?」
「大丈夫ですが、まさか結婚していながら迫られるとは思っていませんでした……初恋相手のそんな姿、見たくはないですね」
グレインは笑ってそう言うが、瞳は何処か寂し気だ。
かつての私もそうだったけれど……初恋の相手が酷く変わり果てた性格になれば、想像以上のショックを受けるものだ
「気にせず、観光に行きましょう!」
私達に悲しむ姿を見せないグレインだったが、その肩をシルウィオがそっと叩いた。
「へ、陛下?」
「待ってろ……カティ、子供たちを頼む」
「え? ど、どこ行くの? シルウィオ……」
「少し、用がある」
突然、それだけを告げて、私達を残してシルウィオは去ってしまった……
目的は分からないが……大きな問題があった。
「お、お父様……お飾りつけて行っちゃったよ?」
「おとたま、おもたつけたまま~」
リルレットとイヴァが言ったように、今のシルウィオはおもちゃの眼鏡や、赤鼻、奇妙な帽子を被った異様な様相だ。
あ、あんな格好で、いったい何をしにいったの……?
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