死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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書籍化記念話

閑話ーなぜ、貴方に忠誠を誓ったのか②ー

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グレインside




 陛下の護衛騎士になれた結果を胸に、実家へと向かう。
 家族にこの吉報を知らせるのが今から楽しみだ。

 母さん、喜んでくれるかな。
 そう思って、辿り着いた家で待つのは……泣いている妹や弟の姿。
 そして医者に診られて、寝台に身を沈める母であった。

「か、母さん?」

「グレイン、帰ったのね……」

「なにが……」

「ご子息の方ですね。お話があります」

 医者が俺へと説明をしてくれた。
 母の身に病魔が宿り、治すには高価な薬が必要だと……
 それは、今の俺では手が届かぬ金額だ。

「先生……このままなら母は、どうなるのですか?」
 
「重い病気です。早急に対応せねば、半年もないかと」

「……なんで」

 世の中は、不公平だ。
 どうして今、母にこんな不幸がまいこむ。

 俺が幼い頃に父を事故で失い、母は身一つで家族である俺達を養った。
 女手一つで、幾人もの子を養うなど……その苦労は想像もできない。
 そして育ててもらった命。
 恵んでもらったこの身で、誇れる報告ができるはずだったのに。

 ようやく、母が育ててくれた恩を返せる時がきたのに……
 どうして今になって、母にこんな不幸が訪れるんだ。

「母さん……」

「グレイン……心配しないの。大丈夫だよ」

 気丈に笑う姿に胸が痛む。
 母の苦労が終わった途端、次の不幸が訪れるなど……あまりに不条理だ。

「ねぇ、グレイン。この病気の薬代なんて払わなくていいから。……弟や、妹を見守ってあげてね」

「そんなこと言うな……母さん」

「弟や、妹たち。貴方の家族を……大切にしてちょうだい」

「母さんだって家族だろ!」

「……ごめんね。でも……迷惑をかけたくないの」

「迷惑なんて、誰も思って––」

「ごほっ!!」

 突如、咳き込んで血を吐き出した母を支える。
 言う通り、もう残された時間はないのだろう。

 ジェラルド様に頼ろう。
 お世話になっていた人へ金の無心などしたくないが、今はそれしかない。

「俺、皇帝陛下の護衛騎士になったんだよ。まだまだもっと、俺の活躍を母さんに見せるからさ……」

「グレ……イン」

「絶対に助けるから……諦めるなよ母さん、お願いだから」

「……」

「まだまだ恩を返せてないんだろ……母さんが育てた息子が、立派になったと誇れるように……ここまできたのに」

 貧しくても笑って過ごしていた家族の時間。
 ようやく不自由なく暮らせるようになっても、そこに母の姿が無いなんて俺は嫌だ。

「きっと大丈夫だから、母さん」

 お願いだから、諦めないでくれ。
 意識を落とした母を抱きながら、落ちていく涙と共に願う。
 神がいるならば、苦労をしてきた母さんにどうかもう……酷い仕打ちをしないでください。




 母の症状が落ち着くまで数日がかかった。
 ひとまず峠は越えたが時間はない。
 直ぐにジェラルド様に頼ろうと思い、家を出た時だった––

「なんだ……あれ」

 村には似つかわしくない、豪奢な馬車が停まっている。
 そこから下りた者達が、俺の元へやって来た。

「グレイン様ですね」

「誰ですか、貴方達は」

「皇族直属の医療団です。ご病気のお母様は何処に?」

「い、家です」

 矢継ぎ早に尋ねられた言葉に答えれば、数人が家へと入って行く。
 薬箱などを幾つも手に。

 意味が分からない。
 皇族直属の医療団など、この国で最先端の医療集団のはず……

「ど、どうして……ここに」

「シルウィオ陛下の命により参じました。貴方のお母様を必ず救えとの指示で」

「へ、陛下が?」

「ええ、この村の医者からジェラルド様が報告を受けたようです」

 一体、どういう事だ? 
 どうして陛下が俺のために……皇族直属の医療団を……?
 募る疑問の答えは分からぬまま、帝国の最先端治療が母へと施されて行く事になった。
 
 

   ◇◇◇


 数日後。

 護衛騎士として任についた初日。
 無礼ながらも、陛下へと問いかけてしまった。
 
「陛下、どうして……俺のために陛下直属の医療団の派遣を……してくれたのですか」

「理由が必要か?」

「……?」

「お前は、帝国の剣だろう」

 視線を向けられて、凍てつくような冷たい眼差しに身が震える。
 噂通りの恐怖感と威圧感に、身がすくんだ。
 だがその声色には、どこか優しがあるとも感じる。

「剣を手入れし、錆びも刃こぼれもなく、目的のみに専念させるのは当然だ」

「っ!!」

「俺が帝国の治世を治めるには、お前という剣が必ず必要になる。手を貸せ、俺の護衛のみに集中しろ、グレイン。そのためならば、お前の不安は俺が消してやる」

 その言葉に、陛下の事が分かった気がした。
 我がアイゼンにはびこった貴族の腐敗を正すため、陛下は血の道を行く決意をしたのだ……
 全ては帝国の平和という……掲げた大義の完遂のために。

 きっと陛下は、そのためだけに生きている。
 善も悪もなく、感情すらも殺し……この帝国の皇帝として血塗られた道を行く覚悟を持ち。
 歩む先が修羅であろうと……帝国の未来を築く皇帝として生きるために。
 
「……心から感謝します。陛下」

「謝辞はいらん。お前の武勲を示せ」

「承知いたしました。我が君の望む結果を、お届けすると約束します」

 ならば、俺がすべきも一つのみだ。
 俺に剣という役目を与えてくれたなら、俺も陛下が望むままにその身を捧げよう。
 母の命を救ってくれた恩義に比べれば……容易い対価だ。




   ◇◇◇◇◇



「と、いうわけなんです。カーティア様」

 過去を全て話し終えた時。
 カーティア様は驚きながらも、対面に座るシルウィオ陛下の頭を撫でていた。
 無表情だった陛下の頬は、恥ずかしさからか朱に染まる。

「そんな過去があったのね」

「ええ、皆に恐れられていた陛下ですが……全ては民のため、目的のためだったのです。その優しさを恐れながらも感じており……」

「もういい、グレイン」

 流石に恥ずかしいのか、シルウィオ陛下が口を挟む。
 が、カーティア様が抱きついて口を抑えた。

「カ、カティ……」

「ねぇグレイン。もっとシルウィオのこと聞かせて」

「要らぬ過去だ。聞かなくていい」

「駄目、私はもっとシルウィオの優しさを知りたいの」

「……」
 
 あのシルウィオ陛下でさえ、カーティア様には敵わないようだ。
 照れながらも、カーティア様に抱きつかれている嬉しさからなのか、無表情な頬に笑みを刻む。
  
「では、陛下の過去の話を続けますね……」

「聞かせて!」

「承知いたしました」

 カーティア様には感謝している。 
 恐怖されていたシルウィオ陛下が、今は家臣に心から慕われているのは彼女のおかげだ。

 剣である俺には、陛下の心の内に宿る闇を……払う事は叶わなかった。
 冷血でなければ保てなかった陛下の御心すら、太陽のような輝きで晴らしたのは。
 他でもない、カーティア様だ。

 
 だから今……俺が忠誠を捧げるのは、カーティア様も同様です。
 このアイゼン帝国を幸せと平和に導いた、シルウィオ陛下を救ってくれた。
 
 まさに帝国の母ともいうべき貴方に。
 この忠誠を……捧げさせてください。
 感謝と共に、我が主達の幸せを……この身を賭して護り通してみせると誓います。
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