死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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三章

115話 進む二人⑤

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 各国で悪事を繰り返し、そして帝国にまでその手を伸ばしてきた犯罪集団。
 自らは手を汚さずに足切りできる部下のみに犯罪行為を行わせた胴元。

 その胴元が起こした犯罪を、ジェラルド様の活躍によって防いだ。
 新たに捕らえた犯罪者の中には、ようやく胴元まで辿り着ける情報を持っている者がいた!

 これが分かったのが、つい五分前の事。
 そして今は……

「こいつだ。連れてきた」

「は、離せ!」

 はい、という訳でシルウィオが転移して直ぐに胴元を連れてきました。
 居場所を捜すのに苦労しただけで、それが分かればシルウィオは直ぐに解決できる力がある。
 ジェラルド様も凄いが、やはりアイゼン帝国には隙がないなと改めて思えた。

「さて、我がアイゼン帝国で数々の犯罪行為を助長した罪。さらにはシルウィオ陛下の手を煩わせた重罪を償ってもらおうか」

 ジェラルド様が修羅の如き怒りを抱いているのが分かる。
 表情と雰囲気が、身が震える程に怖い。
 連れて来ていた子供達はすでにシルウィオが転移魔法で帰還させているので、気兼ねなくジェラルド様が怒りを示していた。

「はは、俺に罪を償えだと?」

 掴まった犯罪集団の胴元は、こんな状況でも嘲笑うように口を開く。
 大した肝っ玉だが、そんな度胸があるからこそ……こういった悪事を犯していたのだろう。

「俺はな、貧困街生まれで育ってきた。お前らみたいな金持ちから、奪う事のなにが悪っ––!!」

 胴元が喋っていたのと中断するように、シルウィオの蹴りが炸裂した。
 見事に顎を蹴られて、胴元が痛々しい程に吹き飛ぶ。
 
「貴様の出自など関係ない。ジェラルド、起こせ」

「はっ!!」

 ピクピクと身体を動かして気絶していた胴元に、ジェラルド様が水をかける。
 溺れかけて起き上がった胴元は、ようやくシルウィオを見て怯えた瞳を向けた。

「さて、他に言い訳があるか」

「あ……ま、待ってくれ。俺はな、慈善事業をしていただけだ」

「……」

「この世にはどうしようもなく職につけない奴もいる。明日の食い物にも困っている奴もいる。そんな奴らに犯罪だが、職を斡旋していたんだよ」

「それが、犯罪を犯していい建前のつもりか」

「金を多く持っている奴から奪って何が悪い。俺は奴らに金を得る手段を提示していただけだ。そうでもしなけりゃあいつらはもっと大きな犯罪を犯していただろう!?」

 胴元は自分の主張を続けていく。

「俺のやった事は必要悪だ! そうだろう!?」

「いや、違うわ」

 私は思わず呟いて、胴元の前に立つ。
 戸惑う彼の間違いを指摘する。

「貴方は犯罪を助長させていただけよ、彼らに犯罪手段を提示して背を押していたのだから。貴方が居なければ起こらぬ犯罪が多々あったはず」

「ちが、俺が居なければ、もっと大きな犯罪が……」

「人はその前に思いとどまるもの。だけど貴方はわざと軽い犯罪から手を染めさせて、次々を重罪を彼らに指示していた。これは背を押す行為に他ならない」

「っ!?」

「必要悪? ふざけないで。貴方がやったのは自分の手を汚す勇気もない、ただの下劣で臆病な行為よ」

「だ、だまってろ! 女がしゃしゃりでてくるんじゃ!! っ!?!?!」

 胴元が叫んだ瞬間だった。
 後ろに立っていたシルウィオ、そしてジェラルド様が即座に剣を抜き。
 まさに瞬きの間に胴元の手を、地面に縫い付けるように突き刺したのだ。

「––––っ?!?!」

 声にならぬ悲鳴をあげる胴元を、シルウィオ達が見下ろす。

「俺のカティに、気安く話しかけるな」
「我らが帝国の母への侮辱、このジェラルドが決して許しはせぬ」

 二人は同時に呟き、さらにシルウィオは言葉を続けた。

「お前、慈善事業だと言っていたな」

「は……はっ、け、剣を抜いてくだ……」

「なら、これも俺の慈善事業だ。帝国の民、そして各国の被害を受けた人々が少しでも報われるように、相応の報いをお前に与えなくてはな」

「そ、そんな! むちゃくちゃだ!」

「お前もそうだろう」

 シルウィオは身をひるがえし、ジェラルド様に視線を移す。

「近くの兵士は呼んだか」

「ええ、直にやってきます」

「では夕刻までコイツをここに残せと伝えろ。決して剣を抜くなとも」

「承知いたしました」

 シルウィオの言葉にジェラルド様はためらいもなく、頷いて応える。
 しかし胴元の彼は、明らかに冷や汗を流して顔を上げた。

「え? ま、まてよ!」

「カティ、行こう。グレインの帰りでも待つか」
「ふふ、そうですね」

「待ってくれよ! おい、おい! いだっ……ぬい、抜いてください……」

 胴元の悲痛な叫びは聞くはずもない。
 彼が助長させた犯罪者には、多くの犠牲者がいた。

 そんな彼らの悲鳴すら聞かずに、遠くから指示だけをしていた姑息な彼の悲鳴や懇願など。
 私達が聞く義理もないのだから。
 
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