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最終章
125話 ヒルダside
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家族を奪われたあの日から、両親を奪ったカルセイン王国を恨み続けた。
同時に幸福が踏みにじられた人生、世界にさえも憎しみを抱いた。
なすがまま、私は怒りのままに行動した。
『……』
身を売り、それを買った男を切りつけて金を奪い。
盗みや騙しを繰り返して、日銭を稼いで生き抜いた。
そしてかつてナーディス家から兄が持ち出し、私に託してくれた禁書。
ボロボロになってしまったが、唯一残っていた両親が編み出したとされる魅了魔法へ辿り着く記述を頼りに研究を始めた。
多くの日数を、時間をそれだけに捧げた。
苦ではなかった。
家族を殺された苦しみが、私を止めない言動力として……進ませ続けたのだ。
『兄さん。どうして……こんな魔法をお母様やお父様は研究していたの』
しかし……心の奥底では、この道が正しいのか。
疑問が消える事はなかった。
そうして月日を過ごして、ある程度完成し始めた魅了魔法を使い。
私はグラナート王国の社交界へと潜入した。
カルセイン王国と隣国であるこの国ならば、情報を集められると思ったからだ。
『君は?』
そんな中だ、当時王太子であったアドルフに出会ったのは……
偶然とも、運命とも言えない出来事だっただろう。
予定にもなかった王太子の来訪に、私は虚を突かれながらも強烈な魅惑にすら感じた。
(この人を上手く利用すれば、私はこの国で大きな力を手に入れられる。魅了魔法だって完成させられる)
アドルフは、王太子というのに、どこか孤独を抱えたような人だった。
王妃は忙しくて、あまり会えないと周囲が言っていた。
だからそれを利用して、私は魅了魔法を使い、駒として操るつもりで近寄った。
魅了魔法によって心の隙間に入り込み……彼にとっての愛すべき女性になるように尽くした。
でも……ただ一度だけ。
魅了魔法を使い始めた頃、彼の意識が混濁する中で呟かれた言葉が心に残っていた。
『カーティア……』
アドルフの意識は魅了したはずなのに、彼は懺悔するように王妃の名を吐いた。
途端に胸が締め付けられた。
私の良心が、悲鳴を上げた気がしたのだ。
(私は……正しいの?)
迷っていた。
苦悩して、手を止めようかと考えが幾度も巡った。
でも、同時に家族が殺された過去が鮮烈に蘇るのだ。
遠くなっていく兄が、魔法によって火にまみれたあの光景、あの胸の痛みが私の決意を押し戻す。
ここで、止まる訳にはいかないと。
『ヒルダ、愛している。あの不出来な妃よりも』
月日が流れて、アドルフは私の操り人形と成り果てた。
彼の目に宿る空虚な感情、私に対して囁く偽物の愛の言葉。
その姿と声に、私の心は重くなる。
だが今さら後戻りはできるはずもなく、カルセイン王国の復讐のため、私は行動を続けた。
そして前回。
時間が戻る前の世界の中で、私は計画を成し遂げる準備を全て終えた。
カーティアが亡くなって、グラナート王国が混乱する中で王妃として魅了魔法を用いて、世界を混乱させた。
その頃には良心さえなくなっていた。
はずだったのに……
『どうし……て』
グラナート王国の混乱のせいで、アドルフを殺さざるを得なかった。
彼を殺すしかなかった。彼を生かしておけば、すべてが崩れる。
心は凍りつき、もはや目的のためには全てを壊す覚悟だったが……
『……すまない……カー……ティア』
最後に彼が呟いたのは、かつて彼が愛していた王妃の名。
その瞬間だった、私の心の中で押し殺して、見てみぬふりをしてきた罪悪感が胸を抉った。
手に持つナイフは血で染まり、周囲を見れば私のせいで城は炎に包まれて……逃げ惑う人々の叫び声が耳に届く。
『……お兄ちゃん……私は、私は』
いざ、冷静になって見えた周囲の惨劇に私はただ黙って立ち尽くした。
全てを憎み、犠牲にしてきて私は……何を得たというのだろうか。
カルセイン王国へ、世界への憎しみだけで進み続けて来た人生。
その末に広がっているこの光景に、かつての自分を重ねる。
今では、私が多くの幸せを奪っている。
アドルフの、この国の、世界の人々を…………かつての幼い私のように、幸せを奪っているのが。
他でもない、私自身なのだ。
『でも……でも、もう止められないの。ここまできたのだから』
この目的の末、残っているのは幸せではない。
それを悟りながらも、私はもはや止まれなかった。
血に染まった道を歩みながら、罪悪感の中で……私はただ進み続けていた。
◇◇◇◇
「せっかく、世界がシュルク様によって時間が戻されたのなら。私が居なくなった後の世界が見たいの」
「それが目的だというの?」
どうして、アドルフに会いに行くのか。
それを問いかけたカーティアへと、私はそんな返答をする。
ただ私は……前回から心に宿していた罪悪感を払いたいだけ。
そんな本音を、ひた隠して。
同時に幸福が踏みにじられた人生、世界にさえも憎しみを抱いた。
なすがまま、私は怒りのままに行動した。
『……』
身を売り、それを買った男を切りつけて金を奪い。
盗みや騙しを繰り返して、日銭を稼いで生き抜いた。
そしてかつてナーディス家から兄が持ち出し、私に託してくれた禁書。
ボロボロになってしまったが、唯一残っていた両親が編み出したとされる魅了魔法へ辿り着く記述を頼りに研究を始めた。
多くの日数を、時間をそれだけに捧げた。
苦ではなかった。
家族を殺された苦しみが、私を止めない言動力として……進ませ続けたのだ。
『兄さん。どうして……こんな魔法をお母様やお父様は研究していたの』
しかし……心の奥底では、この道が正しいのか。
疑問が消える事はなかった。
そうして月日を過ごして、ある程度完成し始めた魅了魔法を使い。
私はグラナート王国の社交界へと潜入した。
カルセイン王国と隣国であるこの国ならば、情報を集められると思ったからだ。
『君は?』
そんな中だ、当時王太子であったアドルフに出会ったのは……
偶然とも、運命とも言えない出来事だっただろう。
予定にもなかった王太子の来訪に、私は虚を突かれながらも強烈な魅惑にすら感じた。
(この人を上手く利用すれば、私はこの国で大きな力を手に入れられる。魅了魔法だって完成させられる)
アドルフは、王太子というのに、どこか孤独を抱えたような人だった。
王妃は忙しくて、あまり会えないと周囲が言っていた。
だからそれを利用して、私は魅了魔法を使い、駒として操るつもりで近寄った。
魅了魔法によって心の隙間に入り込み……彼にとっての愛すべき女性になるように尽くした。
でも……ただ一度だけ。
魅了魔法を使い始めた頃、彼の意識が混濁する中で呟かれた言葉が心に残っていた。
『カーティア……』
アドルフの意識は魅了したはずなのに、彼は懺悔するように王妃の名を吐いた。
途端に胸が締め付けられた。
私の良心が、悲鳴を上げた気がしたのだ。
(私は……正しいの?)
迷っていた。
苦悩して、手を止めようかと考えが幾度も巡った。
でも、同時に家族が殺された過去が鮮烈に蘇るのだ。
遠くなっていく兄が、魔法によって火にまみれたあの光景、あの胸の痛みが私の決意を押し戻す。
ここで、止まる訳にはいかないと。
『ヒルダ、愛している。あの不出来な妃よりも』
月日が流れて、アドルフは私の操り人形と成り果てた。
彼の目に宿る空虚な感情、私に対して囁く偽物の愛の言葉。
その姿と声に、私の心は重くなる。
だが今さら後戻りはできるはずもなく、カルセイン王国の復讐のため、私は行動を続けた。
そして前回。
時間が戻る前の世界の中で、私は計画を成し遂げる準備を全て終えた。
カーティアが亡くなって、グラナート王国が混乱する中で王妃として魅了魔法を用いて、世界を混乱させた。
その頃には良心さえなくなっていた。
はずだったのに……
『どうし……て』
グラナート王国の混乱のせいで、アドルフを殺さざるを得なかった。
彼を殺すしかなかった。彼を生かしておけば、すべてが崩れる。
心は凍りつき、もはや目的のためには全てを壊す覚悟だったが……
『……すまない……カー……ティア』
最後に彼が呟いたのは、かつて彼が愛していた王妃の名。
その瞬間だった、私の心の中で押し殺して、見てみぬふりをしてきた罪悪感が胸を抉った。
手に持つナイフは血で染まり、周囲を見れば私のせいで城は炎に包まれて……逃げ惑う人々の叫び声が耳に届く。
『……お兄ちゃん……私は、私は』
いざ、冷静になって見えた周囲の惨劇に私はただ黙って立ち尽くした。
全てを憎み、犠牲にしてきて私は……何を得たというのだろうか。
カルセイン王国へ、世界への憎しみだけで進み続けて来た人生。
その末に広がっているこの光景に、かつての自分を重ねる。
今では、私が多くの幸せを奪っている。
アドルフの、この国の、世界の人々を…………かつての幼い私のように、幸せを奪っているのが。
他でもない、私自身なのだ。
『でも……でも、もう止められないの。ここまできたのだから』
この目的の末、残っているのは幸せではない。
それを悟りながらも、私はもはや止まれなかった。
血に染まった道を歩みながら、罪悪感の中で……私はただ進み続けていた。
◇◇◇◇
「せっかく、世界がシュルク様によって時間が戻されたのなら。私が居なくなった後の世界が見たいの」
「それが目的だというの?」
どうして、アドルフに会いに行くのか。
それを問いかけたカーティアへと、私はそんな返答をする。
ただ私は……前回から心に宿していた罪悪感を払いたいだけ。
そんな本音を、ひた隠して。
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