死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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最終章

124話 ヒルダside

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「どうして……アドルフに会いたいだなんて」

 私の願いを聞いて、カーティアは分かりやすく困惑を示す。
 その瞳には困惑と警戒、そして疑問がありありと含まれていた。
 当然だろう、かつて魅了により操っていたグラナート王国の元国王……アドルフと会わせろだなんて。

「ただ、彼が見てみたいだけ」

 私は理由をはぐらかす。
 言える訳がないからだ。
 散々、多くを不幸にしておきながら……この心の内に抱えていた苦悩を吐いて楽になる気はない。

 そう。私の過去。
 それを話して、今更どうして欲しい訳でもない。
 ただ、ただ……この苦悩を少しでも晴らしたいだけだと私は思いながら、過去を思い出した。



   ◇◇◇◇


 幼少期、私はナーディス家に生まれた長女として愛されていた。
 我が家はそれなりに裕福で、いつも頬笑みに溢れた家庭だったのを今でも覚えている。

『ヒルダ、今日はどんな遊びをしたい?』

 兄がそう言って、微笑む。
 兄の優しい声は、幼い私の心を常に安心させてくれた。

『お兄ちゃん、庭でかくれんぼしよう!』

 幼少期の私は無邪気に答えて、兄と一緒に庭に飛び出した。
 緑あふれた庭園にて、朝露に太陽の光が輝く中で兄妹で走り回って遊んだ。
 それを見に来た両親が、微笑んで食事の支度ができたと私達を呼ぶ。

『ヒルダ、またご飯食べた後も遊ぼうね』

『うん! お兄ちゃん!』

 笑い声が絶えなかった。
 あの記憶を思い出すだけで、私は満たされた気持ちになれる。

 けれど、そんな楽しい日々の裏では、私はある事に気付いていた。
 両親は頻繁に貴族を屋敷に招き、何やら話し込んでいる様子。
 私はそれが気になって仕方がなくて、ある日、母に尋ねてみた。

『お母様、みんなで何を話しているの?』

 私の言葉に母は驚いた表情を見せて、取り繕うように微笑んだ。

『ヒルダ、そんなことを気にしてないで。子供には難しい話だから』

『でも、でもね……まほうがどうのって話してるのきこえて。ヒルダ……すっごくきょうみあるの。いっしょにきいたらだめ?』
 
 私が食い下がると、母は表情を曇らせる。
 その瞳はなにかを迷っていたが、やがて首を横に振った。

『駄目よ。お兄ちゃんと遊んできなさい』

 なぜか普段は笑顔の母が、その話をする時だけは冷たかった。
 それがたまらなく、気になっていたのだ。
 だが、その答えを聞く前に……あの日は訪れた。

『ナーディス家に対して、禁忌魔法使用という重大な罪を犯した疑いがある。よってこれより! 我がカルセイン王国の規定に従い、強制調査へと移行する!!』

 そんな口上を述べて、カルセイン王国の騎士団が屋敷に踏み込んでくる音が響く。
 荒々しく床を駆ける足音、鉄の鎧が鳴り響く。
 
『……』

 父と母が、騎士団の調査を見ながら……ばつの悪そうな顔をしているのが私には分かった。
 二人の手が震えて、私と兄を抱きしめていた。

『団長! これっ!?』

『っ!』

 騎士団の団長と思わしき人が、ある本を手に取って両親を見つめる。
 途端に、騎士団の目の色が変わったと私にも分かった。

『禁忌魔法に関する禁書を発見。加えて地下室にも魔法を使ったと思わしき痕跡がある』
『これより、ナーディス家を第一級禁忌魔法使用容疑にて、強制連行させてもらう!』

 叫ぶ騎士が、即座に私達へと手を伸ばす。
 第一級禁忌魔法使用、その罪は使った本人だけではなく、家族すらも処罰する重い罪。
 それを知っていた両親だからこそ、判断は早かった。

『逃げなさい! お兄ちゃんはヒルダを連れていって!』

『え?』

『早く!』
 
 両親が突然、魔法を使って騎士団へと放つ。 
 轟音が鳴り響き、怒声と共に返す魔法がこちらへと向けられ、屋敷の壁が、床が、思い出が粉々に崩れていく。
 瞬間、両親へと魔法が飛んで、炎が燃え盛る。

『ヒルダ! こっち!』

 ただただ恐怖に震えていた私を、兄が手をとって走り出す。
 その手には、両親が奪い返して渡したのだろう……あの禁書があった。

『捕らえろ! すぐに!』

 騎士団の声を背にうけながら、逃げる兄と共に屋敷を出て走り続ける。
 雨が降ってきて……息も荒くなって、徐々に視界さえ霞んでも足は止められなかった。

『ヒルダ……ごめん』

『お兄ちゃん?』

『こっから、あるいていって。逃げるんだ。生きて……』

『どうして……どうしてあんな事になったの? お兄ちゃん』

『…………ごめん』

 兄は私を抱き上げ、見知らぬ馬車に乗せた。
 そのまま馬を叩いて、走り出して遠くなっていく兄の姿に目線が離せなかった。
 豆粒ほどになった兄の場所に、やがて騎士団の魔法である業火があがった姿を最後に……私は走り出した無人の馬車の中で、涙を流し続けた。

『なんで……私は……』

 声にならない叫びが胸を締め付ける。
 両親や家族を奪われた私の心には、深い悲しみとともに、カルセイン王国への怒りが渦巻いていた。

『私は幸せを、どうして奪われなくてはならないの?』

 呟いたあの瞬間から、私は芽生えた感情に囚われた。
 それは怒り、復讐の炎だ。
 カルセイン王国が私の家族を奪って、不幸にした……

 家族を奪われ、いまや心の指標もなくなった私はただ……
 ただ怒りに身を任せ続けた。
 その後……後悔を胸に刻むとも知らずに。
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