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最終章
123話
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「あら、もう答えはでたみたいね」
牢の前に戻れば、ヒルダは頬笑む。
私の考えが読めていたかのような態度は、少し不穏ではある。
しかし躊躇っている場合ではない、今も刻一刻とリルレットが蝕まれているのだから。
「出してください」
「……分かりました」
緊張の時。
ヒルダと私達の境目。
重く、重厚な鉄格子の錠が解かれて開いていく。
アイゼン帝国で最上騎士であるグレインが、自然と手を剣の柄に当てる。
私も緊張する中で、ヒルダは拘束されながら牢を出て……第一声が……
「では、さっさと貴方の娘を救うために頑張らないといけないわね」
「……」
「警戒しないでちょうだい。信じてもらえないかもだけど、子供は好きだから助けたいのは本心よ」
信用できない、信用できるはずがない。
だからこそ私達はヒルダへと最大の警戒をしながら、アイゼン帝国に備わった魔法研究施設へと案内する。
そこにはカルセイン王国の国王であるシュイク様も待っており、少し強張った表情でヒルダを見つめる。
「分かっていると思うけれど。ヒルダ……君が少しでも不穏な動きを見せれば、僕は即座に君の命をとる」
「ふふ、充分に理解しておりますわ。なにせ背後に立っておられる、アイゼン帝国の皇帝陛下の前ならば、私が髪をかきあげただけで殺されそうだもの」
ヒルダの言う通り、シルウィオは無言のまま鋭い視線を向ける。
一挙手一投足を見逃さぬ雰囲気は、少しでも怪しい動きをすれば許さぬ構えだ。
「こんな中で愚行を冒すような馬鹿ではないわよ」
「なら一つ聞くが、君が時間逆行で世界の理すら変えられると言ったが、あの魔法はそう簡単に扱えるものではない。必要な時間も魔力も……」
「いえ、扱えるわよ。私には悠久にも近い、なにもせぬ時間があったの。それなりには出来るわ」
そう言って、ヒルダは研究施設に置かれていた植物に手を触れる。
するとその植物は徐々にしぼみ、葉を生やす前の状態になる。
本当に時間を戻したかのように。
「っ!!」
「単体ぐらいならば、なんとかね。そして戻す対象はなにも世界そのものじゃなくていい」
「どういうことだ?」
「さっきは例えで世界の理を変えると言ったけれど。戻すのはカーティア皇后様の御子の時間だけ……悪性腫瘍が害を及ぼす前の時間まで戻せばいいの。そして彼らの悪性腫瘍を害をなさぬ理に書き換える」
シュイク様は納得しているような、驚いた素振りだが……
私には難しくてあまり話がはいってこない。
すると、シルウィオが耳元で説明してくれた。
簡単に言えば世界そのものの時間を戻すのではなく、子供達の時間だけを戻す。
その際に『悪性腫瘍に害はない』と、子供達にだけルールを変えるというものらしい。
「これなら準備も、魔力も以前ほど必要ではないでしょう?」
「……そんな事ができるのか」
「実現はできます。少しの時間と、シュイク様のカルセイン王国の魔法知識もあれば」
ヒルダの知識は、本当に目を見張るものがあるらしい。
シュイク様だけではない、アイゼン帝国の魔法研究施設の職員まで驚いていた。
「だがそれでも、時間を戻すには多くの魔力が必要となる。ヒルダ……それはどうする気だ」
「簡単よ、私の魔力を全て使えばいい……私が犠牲になって、必要な魔力を補うわ」
信じられなかった。
まさかヒルダから、自らを犠牲にしてもいいというような言葉が飛ぶなど。
それ故に意味が分からず、その思惑が読めない。
「どういうつもり?」
警戒を示す私達に対して、ヒルダはクスクスと笑う。
「以前に言ったではない。私はもう実現できぬ夢を追うのは辞めてささやかに死を迎えたい。その心に偽りはないわ」
「憎む私達を救って、貴方になんの益があるというの」
「損得じゃないでしょう。どうせ死ぬなら、贖罪をする方がいいのよ」
ヒルダは頬笑み、私へと歩む。
シルウィオが警戒して手を向ければ、立ち止まって彼女は口を開いた。
「でも、前にも言った通りに協力する見返り。私が命を投げ捨てる対価がほしいの」
「望みを……叶えたいというものよね」
「ええ。聞いてくれるかしら。時間逆行の魔法を研究し、私の命すら犠牲にしてもいいから」
「なにを……望むというの」
本心の分からぬヒルダの願い。
いったい何を望む気なのか、なにを考えているのか。
疑問へと彼女が答えたものは、意外なものだった。
「グラナート元国王に、会いにいきたいの」
「な……」
「アドルフ…………彼は、生きているはずよね」
その名を聞いて、私は鼓動が動く。
ヒルダの望んだ願いは、あまりに想像できていなかったものだから。
牢の前に戻れば、ヒルダは頬笑む。
私の考えが読めていたかのような態度は、少し不穏ではある。
しかし躊躇っている場合ではない、今も刻一刻とリルレットが蝕まれているのだから。
「出してください」
「……分かりました」
緊張の時。
ヒルダと私達の境目。
重く、重厚な鉄格子の錠が解かれて開いていく。
アイゼン帝国で最上騎士であるグレインが、自然と手を剣の柄に当てる。
私も緊張する中で、ヒルダは拘束されながら牢を出て……第一声が……
「では、さっさと貴方の娘を救うために頑張らないといけないわね」
「……」
「警戒しないでちょうだい。信じてもらえないかもだけど、子供は好きだから助けたいのは本心よ」
信用できない、信用できるはずがない。
だからこそ私達はヒルダへと最大の警戒をしながら、アイゼン帝国に備わった魔法研究施設へと案内する。
そこにはカルセイン王国の国王であるシュイク様も待っており、少し強張った表情でヒルダを見つめる。
「分かっていると思うけれど。ヒルダ……君が少しでも不穏な動きを見せれば、僕は即座に君の命をとる」
「ふふ、充分に理解しておりますわ。なにせ背後に立っておられる、アイゼン帝国の皇帝陛下の前ならば、私が髪をかきあげただけで殺されそうだもの」
ヒルダの言う通り、シルウィオは無言のまま鋭い視線を向ける。
一挙手一投足を見逃さぬ雰囲気は、少しでも怪しい動きをすれば許さぬ構えだ。
「こんな中で愚行を冒すような馬鹿ではないわよ」
「なら一つ聞くが、君が時間逆行で世界の理すら変えられると言ったが、あの魔法はそう簡単に扱えるものではない。必要な時間も魔力も……」
「いえ、扱えるわよ。私には悠久にも近い、なにもせぬ時間があったの。それなりには出来るわ」
そう言って、ヒルダは研究施設に置かれていた植物に手を触れる。
するとその植物は徐々にしぼみ、葉を生やす前の状態になる。
本当に時間を戻したかのように。
「っ!!」
「単体ぐらいならば、なんとかね。そして戻す対象はなにも世界そのものじゃなくていい」
「どういうことだ?」
「さっきは例えで世界の理を変えると言ったけれど。戻すのはカーティア皇后様の御子の時間だけ……悪性腫瘍が害を及ぼす前の時間まで戻せばいいの。そして彼らの悪性腫瘍を害をなさぬ理に書き換える」
シュイク様は納得しているような、驚いた素振りだが……
私には難しくてあまり話がはいってこない。
すると、シルウィオが耳元で説明してくれた。
簡単に言えば世界そのものの時間を戻すのではなく、子供達の時間だけを戻す。
その際に『悪性腫瘍に害はない』と、子供達にだけルールを変えるというものらしい。
「これなら準備も、魔力も以前ほど必要ではないでしょう?」
「……そんな事ができるのか」
「実現はできます。少しの時間と、シュイク様のカルセイン王国の魔法知識もあれば」
ヒルダの知識は、本当に目を見張るものがあるらしい。
シュイク様だけではない、アイゼン帝国の魔法研究施設の職員まで驚いていた。
「だがそれでも、時間を戻すには多くの魔力が必要となる。ヒルダ……それはどうする気だ」
「簡単よ、私の魔力を全て使えばいい……私が犠牲になって、必要な魔力を補うわ」
信じられなかった。
まさかヒルダから、自らを犠牲にしてもいいというような言葉が飛ぶなど。
それ故に意味が分からず、その思惑が読めない。
「どういうつもり?」
警戒を示す私達に対して、ヒルダはクスクスと笑う。
「以前に言ったではない。私はもう実現できぬ夢を追うのは辞めてささやかに死を迎えたい。その心に偽りはないわ」
「憎む私達を救って、貴方になんの益があるというの」
「損得じゃないでしょう。どうせ死ぬなら、贖罪をする方がいいのよ」
ヒルダは頬笑み、私へと歩む。
シルウィオが警戒して手を向ければ、立ち止まって彼女は口を開いた。
「でも、前にも言った通りに協力する見返り。私が命を投げ捨てる対価がほしいの」
「望みを……叶えたいというものよね」
「ええ。聞いてくれるかしら。時間逆行の魔法を研究し、私の命すら犠牲にしてもいいから」
「なにを……望むというの」
本心の分からぬヒルダの願い。
いったい何を望む気なのか、なにを考えているのか。
疑問へと彼女が答えたものは、意外なものだった。
「グラナート元国王に、会いにいきたいの」
「な……」
「アドルフ…………彼は、生きているはずよね」
その名を聞いて、私は鼓動が動く。
ヒルダの望んだ願いは、あまりに想像できていなかったものだから。
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