死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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最終章

122話

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 な、なにを言っているの。
 確かにコッコちゃんはもう、十年以上も生きている……
 だけど前回の世界では鶏の寿命はそんなに長くはなかったなんて、私は知らなかった。

 いや、私以外にもシルウィオやシュイク様。
 記憶が戻っている私達は、貴族家生まれであるから鶏の生育寿命など知らないのだ。

「加えて貴方達と接触していたリーシアだって、前回では目も見えていたはずよ」

「リーシアが、盲目ではなかったというの?」

「ええ、時間が戻る前でも私は彼女の作品が好きでわざわざ会いにいったもの。その時は目がしっかりと見えていたわ」

「嘘を言っているのなら。冗談では済まないわよ」

「冗談ではないわ。そもそもおかしいじゃない。あの若さで目が見えないのに、文字が書ける技術なんて……まるで創作のようね」

「それが、時間逆行のせいだといいたいの?」

「ええ。時間逆行の副作用により世界は大きく歪んだ。それによって前回とは明らかに常識から逸脱した事象が受け入れられている。世界の歪みを正すように、記憶を持たない人物の常識が改変されているのよ」

 信じられない話だ。
 ヒルダの冗談、世迷い事と失笑すらしてしまう事もできる。

 でも、でも……
 確かにそうなのかもしれないと、ヒルダの自信にあふれた瞳に否定ができない。
 本当に時間逆行で世界が歪み、常識が変わっているだなんて。

「時間という不可逆なものを戻した事で、世界が書き換えられた。でもこの事実は利用できるのよ」

「何が言いたい」

 シルウィオの問いかけに、ヒルダは答えた。

「娘さん達を救うために。もう一度、時間を戻しましょうよ」

「っ!」

「何を言っているのか分かっているのか。以前に時間を戻した時だって、どれだけの魔力が必要だったか……」

 シュイク様が思わず問いかけている。
 当然だ、彼に聞いた話では前回の時間逆行も紙一重にて成功させた。
 簡単に実行できるはずがない。

 でも……
 
「これしか方法はないと分からない?」

「っ!」

「時間逆行により、本来あった事象を歪められる事実。常識を変え、生命の長さすら書き換えられるのならば……悪性腫瘍という病原そのものを消す事だって、理論上可能よ」

 才女……とシュイク様たちが評価していたのも頷ける。
 なんて豪胆で、大胆な案なのだろうか。
 再度時間逆行という荒業を用いて、それによる世界の歪みを利用して悪性腫瘍をなくすというのだから。


「できるのですか……そんなことが」

「前回の記憶が戻ってからも…………長く、長い時間をこの牢獄の中で過ごした。皆が娯楽に楽しむ中で、この場での空虚な時間を過ごすために考え続けていたの」

「本来ならば、自分が助かるために時間逆行を利用しようとしていたのね」

「えぇ……でもね。もう私はいいの。実現できぬ夢を追うのは辞めて……ささやかに死を迎えたい。最後に幾つか望みを叶えたいだけ」

「……」

「だからね、カーティア様。私をここから出して然るべき研究をさせてくれないかしら。娘さんを救うには、私がシュイク陛下と研究をすれば可能性はあるはずよ」

 ヒルダをかつて憎み、一度は殺されかけた事だってある。
 決して怒りは消えた訳ではない、だけど彼女の言う通り……子供達の未来を見届けるためには……
 でもシルウィオの判断や、アイゼン帝国の事も考えれば重罪人を外に出すなんて……

「…………少し、考えさせてください」

 悩んだ末、私は自分でも珍しいと思う答えを返して……
 ヒルダの前をあとにした。

「良い返事を待っているわ。カーティア皇后様」

 再び大扉の中へと閉じ込められる間際の、ヒルダの言葉を背に受けながら。



   ◇◇◇


 倒れた娘、リルレットが眠る部屋へと戻れば……
 なんとあの子は起きていた。
 涙を寝台に落としており、戻ってきた私を見て崩れた表情を見せる。

「おか……さま」

「リルレットっ! まだ、どこか痛いの?」

「違う、違うの。こわい、こわいよ……おかあさま」
 
「っ!」

 両手を見つめて、リルレットは手を震わせる。
 先ほど吐血し、真っ赤に染まっていた両手を思い出しているのだろうか。

 大きくなったと思っていた娘は、間近に迫っていた死を感じ取り。
 幼い時に悪夢を見た時のように……悲しげに、苦しげに悲泣を漏らす。

「いやだ、リル……しんじゃうの?」

「そんなことない。大丈夫……大丈夫よ。リルレット」

「おかあさまや、おとうさまと一緒にいたい。テアとももっとおでかけしたい、イヴァともあそびたいの。リル……リル、しにたくない」

「大丈夫、大丈夫だから」

 なんて空虚な言葉だろうか。 
 私が励ます言葉には何一つ説得力もなくて、そんな無力な自分が嫌になる。

 それでも、リルレットは母である私に安心感を求める。
 娘の必死の訴えに、確信のない励まししか送れぬまま……泣き疲れ、少し落ち着いて再び眠りに落ちたリルレットの頭を撫でる。

「リルレット……」

 あれだけ眩しい笑顔を浮かべていた娘が見せた涙。
 その重みと、責任に私は答えたい。
 そのためにも、ヒルダを……
 
「カティ……」

「っ!」

 迷っていた私の身体が引き寄せられる。
 部屋へ戻ってきたシルウィオに抱きしめられたのだと、私には直ぐに分かった。

「俺や、帝国の事など考える必要はない」

「……シルウィオ」

「この国に来た時と同じく。君の思うがままに、自由に望む選択をしろ。俺がついている、どんな結果になろうと。君も子供達も救う……必ずだ」

 なんて、力強い言葉だろうか。
 彼が一度でも有言実行しなかったことはない。
 だからこそ安心できる。

「俺の家族だ。たとえヒルダがいなくとも、俺が救う。必ずだ……だから迷うな」

 安心できる。
 でも……だからこそ。
 私は彼に安心感を寄せながら、望む答えを述べた。

「シルウィオ、ヒルダの……あの提案を呑みましょう。もう一度、時間を戻すんです」

「……」

「リルレットを救う可能性が、少しでもあるのなら。私はそれに賭けたい。もしあの子や、テアやイヴァが亡くなる未来がくるのなら…………私に自由なんてないから」

「いいのか」

「はい。これが私の望む答えです」

 かつて、グラナート王国を出た時から変わらない決断をしよう。
 自由に、思うがままに、私らしく。
 それが正しいと思うのならば、しがらみなど考えずに答えを出すんだ。

「分かった。カティ」

 それに、今ならシルウィオが私の傍にいる。
 きっと大丈夫だ。
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