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最終章
121話
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「以前とはまるで違う態度ね、ヒルダ」
牽制の意味もこめて、私はヒルダへと問いかける。
彼女の思惑を掴むための言葉に、彼女はボロボロの衣服でカーテシーをして答えた。
「もちろん、アイゼン帝国の皇后様にお会いできたのだから……その御前にて示す態度は礼義を尽くすべきですわ」
「……」
「過去に遺恨はありますが、ここで下手に楯突く事で立場を悪くする程に軽率ではありません。私も貴方と同じくもう十年も歳を重ねましたもの。この暗い部屋でね?」
少しの恨み節と共に、ヒルダは微笑んで私達を見つめる。
その余裕な様子はまるで、こちらがやってきた理由を知っているかのようだ。
示し合わせるかのように彼女は私の瞳を見て微笑む。
「涙の痕がくっきりと……娘と離れ離れになるかもしれない恐怖で散々ね。まるで私にアドルフを取られた時みたい」
かつての夫。
グラナート王国の国王であったアドルフの名前を出し、嘲笑のような笑みを見せた彼女。
しかし即座に、ヒルダは首元に手を当てて呻きだす。
「うっ!? うぐっ!」
「どうして、リルが危篤状態だと知っている。お前は牢の中にいるはずだ」
シルウィオが魔法により、ヒルダの首元を締め付けているのだろう。
彼女は苦しみに悶えながらも、防御魔法らしき光を首元に集中させながら答えた。
「透視の魔法……これがあれば、ただの石壁では私の視線は防げませんわ、皇帝陛下様。盗み見したことは謝罪します。でも上で幸せそうに暮らす貴方達を、羨み見つめている事が罪なのでしょうか?」
「……」
「それぐらいしか、ここには楽しみがないもの。時間が戻る前はあんなに娯楽があったのにね」
「シルウィオ、止めてください」
私の言葉に、ヒルダは首元に手を当てて大きな呼吸を繰り返す。
かわいそうになって止めた訳ではない。
ただ、『時間が戻る前』と発言した彼女に問いただす必要があると思ったからだ。
「ヒルダ……まさか、貴方」
「へぇ、わざと情報を出したけれど。その驚き顔、まさか貴方もなんてね。カーティア皇后様」
私の驚きと同様に、シルウィオも目を見開く。
そして隣に立っていたシュイク様も同じく、『時間逆行の魔法』を知る私達は皆一様に、ヒルダも同様に記憶を戻しているのだと分かったのだ。
「いつから、思い出したの」
「五年ほど前? そうね……貴方が末っ子を妊娠していた時ぐらいかしら」
五年前に記憶を戻していたなんて……
前回の記憶が戻る因果は分からないけれど、まさかヒルダにも同様に記憶が戻っているなんて……
「シルウィオ陛下。少しよろしいだろうか」
シュイク様がシルウィオに耳打ちをする。
するとシルウィオは頷き、ジェラルド様やグレインへ後ろへ下がっておけと伝えた。
これからの会話は、前回の記憶持ちのみで行うためだ。
「ふふ、ここに残った人が……前回の記憶を持った人物なのね」
「ヒルダ、まさか君も思い出していたとはね。後悔のある人物のみが記憶を思い出すと思っていたが……」
シュイク様が呟くと、ヒルダは微笑みながら紫色の髪を撫でる。
松明の明かりの中で妖艶になびく髪と共に、彼女は言葉を発した。
「あら……私も時間逆行前に後悔ぐらいはしているわよ。それに記憶が戻る因果は……大きな後悔を残していた者や、時間逆行に耐えうる膨大な魔力を持つ人でしょう。私にはどちらも当てはまる」
流石はシュイク様が、その力を認め、恐れていた女性ともいうべきか。
ヒルダは状況分析を終え、記憶が戻る因果を探り当てた。
その洞察力と分析力は……この牢を隔てていなければ、依然と脅威であったことは間違いない。
つくづく、私は幸運だったなとシルウィオの傍に寄る。
「さて……貴方達が来た理由は察しているわ。娘を救うためなのでしょう?」
「ええ、貴方の魔力を利用させてもらう」
端的に伝えた。
言い訳を並べてもやる事の重みは変わらない。
娘のためにヒルダを利用するという事実に、許しを乞うように伝えるつもりはない。
だから彼女も、受け入れるような態度は示さないと思っていたのに……
「いいわよ。好きになさい」
「っ!」
「なに驚いているの。言っておくけれど、こんな所に十年以上も閉じ込められている方が限界なの。何もすることはないのは死と同じ。ここに居る私は呼吸をしているだけの肉塊なの。何もしないより、マシだわ」
彼女はそんな言葉を吐きながら、「でも……」と言葉を続けた。
「たとえ、私が犠牲になって娘さんを救ったとしても。次はどうする気? 悪性腫瘍が遺伝性なのなら……今度は息子さん達ではなくて?」
痛い所を突かれたと、正直に思った。
確かにヒルダの言う通り、根本の問題は解決はしないままだ。
今度は息子のテアや、イヴァかもしれない。
その時はどうするのは、答えられないままだった。
しかし、そんな私達の反応にヒルダは小さく呟いた。
「一つだけ。私の願いを聞いてくれるなら……別の方法があると教えてあげるわ」
「願いだと?」
「安心してください、シルウィオ皇帝陛下。なにも開放しろだなんて言わない。ただ……幾つか望みを叶えてほしいだけ。それを受け入れてくれれば、なんでも教えてあげるわ」
私とシルウィオは目線を合わせてから、ヒルダに答えた。
「聞かせなさい。貴方が考えた他の方法を……まずはそれからよ」
それを見た彼女が語り出す。
「まず、時間逆行の魔法は成功したけれど……そんな大きな事象には当然ながら副作用があるわ。こんな大規模魔法に支障がないはずないもの」
「副作用だと?」
「ええ。時間逆行には世界を大きく歪める副作用がある」
かつてシュイク様が行っ時間逆行の魔法。
それは世界を大きく歪める?
ヒルダの話は荒唐無稽に思えるが、彼女は自信をもって話していた。
「まず、かつてシュイク様が命の危機に脅かされたのは時間逆行を行ったせいよね」
「あぁ。だがあれは多大な魔法を行使した事による身体の異常で……」
「加えて、カーティア皇后様。貴方の大事な家族である、鶏の…………コッコとやらは、ご存命なのよね」
いきなり、ヒルダがコッコちゃんの名前を出した事に驚きつつ頷く。
すると彼女はふっと微笑む。
「魅了魔法の研究課程で生物学まで学んだから私は知っているけれど。ニワトリは長くても十年の命。明らかに種族の寿命を超えているわ」
「え……」
「でもね。今……この世界ではニワトリが十年以上も生きる事が、さも当たり前かのように受け入れられている」
「なにを言って……」
「他にも不可解な現象が、さも当たり前のように常識として受け入れられている。この世界は今、明らかに歪んでいるのよ」
牽制の意味もこめて、私はヒルダへと問いかける。
彼女の思惑を掴むための言葉に、彼女はボロボロの衣服でカーテシーをして答えた。
「もちろん、アイゼン帝国の皇后様にお会いできたのだから……その御前にて示す態度は礼義を尽くすべきですわ」
「……」
「過去に遺恨はありますが、ここで下手に楯突く事で立場を悪くする程に軽率ではありません。私も貴方と同じくもう十年も歳を重ねましたもの。この暗い部屋でね?」
少しの恨み節と共に、ヒルダは微笑んで私達を見つめる。
その余裕な様子はまるで、こちらがやってきた理由を知っているかのようだ。
示し合わせるかのように彼女は私の瞳を見て微笑む。
「涙の痕がくっきりと……娘と離れ離れになるかもしれない恐怖で散々ね。まるで私にアドルフを取られた時みたい」
かつての夫。
グラナート王国の国王であったアドルフの名前を出し、嘲笑のような笑みを見せた彼女。
しかし即座に、ヒルダは首元に手を当てて呻きだす。
「うっ!? うぐっ!」
「どうして、リルが危篤状態だと知っている。お前は牢の中にいるはずだ」
シルウィオが魔法により、ヒルダの首元を締め付けているのだろう。
彼女は苦しみに悶えながらも、防御魔法らしき光を首元に集中させながら答えた。
「透視の魔法……これがあれば、ただの石壁では私の視線は防げませんわ、皇帝陛下様。盗み見したことは謝罪します。でも上で幸せそうに暮らす貴方達を、羨み見つめている事が罪なのでしょうか?」
「……」
「それぐらいしか、ここには楽しみがないもの。時間が戻る前はあんなに娯楽があったのにね」
「シルウィオ、止めてください」
私の言葉に、ヒルダは首元に手を当てて大きな呼吸を繰り返す。
かわいそうになって止めた訳ではない。
ただ、『時間が戻る前』と発言した彼女に問いただす必要があると思ったからだ。
「ヒルダ……まさか、貴方」
「へぇ、わざと情報を出したけれど。その驚き顔、まさか貴方もなんてね。カーティア皇后様」
私の驚きと同様に、シルウィオも目を見開く。
そして隣に立っていたシュイク様も同じく、『時間逆行の魔法』を知る私達は皆一様に、ヒルダも同様に記憶を戻しているのだと分かったのだ。
「いつから、思い出したの」
「五年ほど前? そうね……貴方が末っ子を妊娠していた時ぐらいかしら」
五年前に記憶を戻していたなんて……
前回の記憶が戻る因果は分からないけれど、まさかヒルダにも同様に記憶が戻っているなんて……
「シルウィオ陛下。少しよろしいだろうか」
シュイク様がシルウィオに耳打ちをする。
するとシルウィオは頷き、ジェラルド様やグレインへ後ろへ下がっておけと伝えた。
これからの会話は、前回の記憶持ちのみで行うためだ。
「ふふ、ここに残った人が……前回の記憶を持った人物なのね」
「ヒルダ、まさか君も思い出していたとはね。後悔のある人物のみが記憶を思い出すと思っていたが……」
シュイク様が呟くと、ヒルダは微笑みながら紫色の髪を撫でる。
松明の明かりの中で妖艶になびく髪と共に、彼女は言葉を発した。
「あら……私も時間逆行前に後悔ぐらいはしているわよ。それに記憶が戻る因果は……大きな後悔を残していた者や、時間逆行に耐えうる膨大な魔力を持つ人でしょう。私にはどちらも当てはまる」
流石はシュイク様が、その力を認め、恐れていた女性ともいうべきか。
ヒルダは状況分析を終え、記憶が戻る因果を探り当てた。
その洞察力と分析力は……この牢を隔てていなければ、依然と脅威であったことは間違いない。
つくづく、私は幸運だったなとシルウィオの傍に寄る。
「さて……貴方達が来た理由は察しているわ。娘を救うためなのでしょう?」
「ええ、貴方の魔力を利用させてもらう」
端的に伝えた。
言い訳を並べてもやる事の重みは変わらない。
娘のためにヒルダを利用するという事実に、許しを乞うように伝えるつもりはない。
だから彼女も、受け入れるような態度は示さないと思っていたのに……
「いいわよ。好きになさい」
「っ!」
「なに驚いているの。言っておくけれど、こんな所に十年以上も閉じ込められている方が限界なの。何もすることはないのは死と同じ。ここに居る私は呼吸をしているだけの肉塊なの。何もしないより、マシだわ」
彼女はそんな言葉を吐きながら、「でも……」と言葉を続けた。
「たとえ、私が犠牲になって娘さんを救ったとしても。次はどうする気? 悪性腫瘍が遺伝性なのなら……今度は息子さん達ではなくて?」
痛い所を突かれたと、正直に思った。
確かにヒルダの言う通り、根本の問題は解決はしないままだ。
今度は息子のテアや、イヴァかもしれない。
その時はどうするのは、答えられないままだった。
しかし、そんな私達の反応にヒルダは小さく呟いた。
「一つだけ。私の願いを聞いてくれるなら……別の方法があると教えてあげるわ」
「願いだと?」
「安心してください、シルウィオ皇帝陛下。なにも開放しろだなんて言わない。ただ……幾つか望みを叶えてほしいだけ。それを受け入れてくれれば、なんでも教えてあげるわ」
私とシルウィオは目線を合わせてから、ヒルダに答えた。
「聞かせなさい。貴方が考えた他の方法を……まずはそれからよ」
それを見た彼女が語り出す。
「まず、時間逆行の魔法は成功したけれど……そんな大きな事象には当然ながら副作用があるわ。こんな大規模魔法に支障がないはずないもの」
「副作用だと?」
「ええ。時間逆行には世界を大きく歪める副作用がある」
かつてシュイク様が行っ時間逆行の魔法。
それは世界を大きく歪める?
ヒルダの話は荒唐無稽に思えるが、彼女は自信をもって話していた。
「まず、かつてシュイク様が命の危機に脅かされたのは時間逆行を行ったせいよね」
「あぁ。だがあれは多大な魔法を行使した事による身体の異常で……」
「加えて、カーティア皇后様。貴方の大事な家族である、鶏の…………コッコとやらは、ご存命なのよね」
いきなり、ヒルダがコッコちゃんの名前を出した事に驚きつつ頷く。
すると彼女はふっと微笑む。
「魅了魔法の研究課程で生物学まで学んだから私は知っているけれど。ニワトリは長くても十年の命。明らかに種族の寿命を超えているわ」
「え……」
「でもね。今……この世界ではニワトリが十年以上も生きる事が、さも当たり前かのように受け入れられている」
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