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1話
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王国の由緒正しき、権威ある学園。
私はその学園では初となる平民階級の生徒となった。
母子家庭の貧しい家庭ながら、母は昼夜を問わず働き私が勉強する機会を設けてくれた。
そのおかげ特待生として入学できたが、貴族階級の生徒にしてみれば私の入学など学園に泥を塗られた思いであった。
その結果……私の学園生活は決して明るくなかった。
「どの面下げて学園に来ているのよ!」
「っ!? や、やめて……」
髪を引かれて、痛みで声を挙げる私に周囲は嘲笑の視線を向けるだけだ。
貴族だらけの学園でたった一人の平民、彼らにとって私は異物、排他すべき存在であり止める者はいない。
大人である講師でさえ、問題を抱えたくないのか見て見ぬふりだ。
日々、エスカレートしていくイジメに私はただ頭を下げるしかない。
「やめて、やめてください!」
「口答えしないで。言っておくけど、もし私達に手を出したら、あんたの母親が払いきれない借金を背負うからね」
「きゃはは、ナタリーこわーい!」
この学園に苦労して入学させてくれたお母さんにだけは、迷惑をかけたくない。
悔しい……。
「じゃあ、顔に傷でもつけときましょ! 平民の証ね」
助けて……誰か。
「やめろ」
突然、聞こえた声に皆が振り返った。
それが、私を苦しみから救ってくれたグレアルフとの出会いだった。
◇◇◇
一年後。
学園の校舎、人気のない通路で私は彼の元へと足早に歩く。
「遅かったな、リディア」
「ごめんね、少し授業が長引いて」
「ううん大丈夫。それよりリディア、いつも通りに俺の課題はやっておいてくれた?」
「う、うん……やってきたよ、グレアルフ」
私がやって来た学園の課題を彼は受け取る。
中身を一瞥してからニコリと微笑んだ。
「ありがとう。じゃあ次は……これをやってくれる?」
「グレアルフ、少しは自分でやらないと。私も入学の条件で研究レポートを提出しないといけなくて……忙しいの……」
年に一度、私は研究成果をレポートにまとめて提出する必要がある。
それが特待生として入学する際に課せられた条件であり、その時間に追われながらの彼の課題は負担が大きかった。
が。
「……リディア、前にも言っただろう?」
彼はため息を吐きながら、少しだけ厳しい視線を向ける。
「俺は伯爵家の次期当主としてやらないといけない事があるんだ。分かってくれよ」
「……そうだよね」
彼……グレアルフ・ミレニアは伯爵家の次期当主だ。
この学園で友達が多く、学園の人気者。
平民として周囲から距離を置かれている私とは対照的だ。
「俺は当主としての勉強がある。分かってくれるだろ?」
「わかってるよ、グレアルフには感謝してる。私を救ってくれて……好きだと言ってくれて」
「まぁ、ほっとけなかったんだよ」
いじめが無くなっても彼は私に会いに来てくれた。
日々を過ごす内に互いに惹かれて、彼の告白によって恋人になったのだ。
優しく誠実な彼と恋人になれて、私は凄く嬉しくて胸が暖まる。
平民階級と貴族階級、相容れぬこの関係は内緒にしなくてはならないと彼に言われ、私達は人気のない場所で会わない。
そんな状況を変えようと、私は彼の隣に相応しい女性になろうとしているけど、未だに状況は変わらない。
初めは優しく接してくれていた彼も、最近は……。
「そういえばリディア、また試験の結果……一位だったんだよな?」
「う、うん……勉強がんばったから。グレアルフはどうだった? 私の渡した対策ノートは役に立った?」
褒めてほしかったのに、グレアルフは大きなため息を吐く。
「あのな、リディアは平民なんだから馬鹿を演じておいた方が愛嬌があるだろ」
「っ!? で、でも……」
私は、貴方の隣に相応しい女性になりたかっただけなのに。
ギュッと胸が締め付けられても、言い返せないのは嫌われたくないから。
「いいか? お前はこの学園では俺の課題をして、ノートに試験の対策をまとめてくれるだけでいい? 分かったな」
「わ、私はお母さんのためにも学園で農耕の知識を……」
「いいかリディア……俺はこの学園を無事に卒業できたら君と一緒になりたい」
「っ!?」
突然の言葉に顔を上げると、彼は私を引き寄せて唇を重ねた。
鼓動が瞬く間に激しく脈打ち、冷静な思考が飛びそうになる。
「面倒かけた分、絶対に幸せにするから。だから今は俺を支えてくれ、分かったな?」
凛々しく、快活に笑う彼は金色の髪を揺らして私に問いかける。
その蒼い瞳は真っ直ぐに私を見つめていて、鼓動が止まらぬまま頷いてしまう。
「う、うん……支える」
「やった! 絶対に幸せにする。愛してるよリディア!」
ギュッと抱きしめられて、私もフワフワと浮いた気分で微笑んでしまう。
この先の幸せを思い、プロポーズしてくれた事が嬉しくて……有頂天だった。
だから、気付けなかった。
彼の本心を見ようともしていなかった。
本当に、私は大馬鹿者だ……。
彼と関係を築く事さえなければ、死にたい程に傷つく事なんてなかったのに。
私はその学園では初となる平民階級の生徒となった。
母子家庭の貧しい家庭ながら、母は昼夜を問わず働き私が勉強する機会を設けてくれた。
そのおかげ特待生として入学できたが、貴族階級の生徒にしてみれば私の入学など学園に泥を塗られた思いであった。
その結果……私の学園生活は決して明るくなかった。
「どの面下げて学園に来ているのよ!」
「っ!? や、やめて……」
髪を引かれて、痛みで声を挙げる私に周囲は嘲笑の視線を向けるだけだ。
貴族だらけの学園でたった一人の平民、彼らにとって私は異物、排他すべき存在であり止める者はいない。
大人である講師でさえ、問題を抱えたくないのか見て見ぬふりだ。
日々、エスカレートしていくイジメに私はただ頭を下げるしかない。
「やめて、やめてください!」
「口答えしないで。言っておくけど、もし私達に手を出したら、あんたの母親が払いきれない借金を背負うからね」
「きゃはは、ナタリーこわーい!」
この学園に苦労して入学させてくれたお母さんにだけは、迷惑をかけたくない。
悔しい……。
「じゃあ、顔に傷でもつけときましょ! 平民の証ね」
助けて……誰か。
「やめろ」
突然、聞こえた声に皆が振り返った。
それが、私を苦しみから救ってくれたグレアルフとの出会いだった。
◇◇◇
一年後。
学園の校舎、人気のない通路で私は彼の元へと足早に歩く。
「遅かったな、リディア」
「ごめんね、少し授業が長引いて」
「ううん大丈夫。それよりリディア、いつも通りに俺の課題はやっておいてくれた?」
「う、うん……やってきたよ、グレアルフ」
私がやって来た学園の課題を彼は受け取る。
中身を一瞥してからニコリと微笑んだ。
「ありがとう。じゃあ次は……これをやってくれる?」
「グレアルフ、少しは自分でやらないと。私も入学の条件で研究レポートを提出しないといけなくて……忙しいの……」
年に一度、私は研究成果をレポートにまとめて提出する必要がある。
それが特待生として入学する際に課せられた条件であり、その時間に追われながらの彼の課題は負担が大きかった。
が。
「……リディア、前にも言っただろう?」
彼はため息を吐きながら、少しだけ厳しい視線を向ける。
「俺は伯爵家の次期当主としてやらないといけない事があるんだ。分かってくれよ」
「……そうだよね」
彼……グレアルフ・ミレニアは伯爵家の次期当主だ。
この学園で友達が多く、学園の人気者。
平民として周囲から距離を置かれている私とは対照的だ。
「俺は当主としての勉強がある。分かってくれるだろ?」
「わかってるよ、グレアルフには感謝してる。私を救ってくれて……好きだと言ってくれて」
「まぁ、ほっとけなかったんだよ」
いじめが無くなっても彼は私に会いに来てくれた。
日々を過ごす内に互いに惹かれて、彼の告白によって恋人になったのだ。
優しく誠実な彼と恋人になれて、私は凄く嬉しくて胸が暖まる。
平民階級と貴族階級、相容れぬこの関係は内緒にしなくてはならないと彼に言われ、私達は人気のない場所で会わない。
そんな状況を変えようと、私は彼の隣に相応しい女性になろうとしているけど、未だに状況は変わらない。
初めは優しく接してくれていた彼も、最近は……。
「そういえばリディア、また試験の結果……一位だったんだよな?」
「う、うん……勉強がんばったから。グレアルフはどうだった? 私の渡した対策ノートは役に立った?」
褒めてほしかったのに、グレアルフは大きなため息を吐く。
「あのな、リディアは平民なんだから馬鹿を演じておいた方が愛嬌があるだろ」
「っ!? で、でも……」
私は、貴方の隣に相応しい女性になりたかっただけなのに。
ギュッと胸が締め付けられても、言い返せないのは嫌われたくないから。
「いいか? お前はこの学園では俺の課題をして、ノートに試験の対策をまとめてくれるだけでいい? 分かったな」
「わ、私はお母さんのためにも学園で農耕の知識を……」
「いいかリディア……俺はこの学園を無事に卒業できたら君と一緒になりたい」
「っ!?」
突然の言葉に顔を上げると、彼は私を引き寄せて唇を重ねた。
鼓動が瞬く間に激しく脈打ち、冷静な思考が飛びそうになる。
「面倒かけた分、絶対に幸せにするから。だから今は俺を支えてくれ、分かったな?」
凛々しく、快活に笑う彼は金色の髪を揺らして私に問いかける。
その蒼い瞳は真っ直ぐに私を見つめていて、鼓動が止まらぬまま頷いてしまう。
「う、うん……支える」
「やった! 絶対に幸せにする。愛してるよリディア!」
ギュッと抱きしめられて、私もフワフワと浮いた気分で微笑んでしまう。
この先の幸せを思い、プロポーズしてくれた事が嬉しくて……有頂天だった。
だから、気付けなかった。
彼の本心を見ようともしていなかった。
本当に、私は大馬鹿者だ……。
彼と関係を築く事さえなければ、死にたい程に傷つく事なんてなかったのに。
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