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7話アルバートside
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「駄目だ……抑えられない」
大きなため息を吐きつつ、執務机に突っ伏してしまう。
久々に会ったリディは想像以上にうんと女性になっていて、可愛くて、綺麗で……気持ちが溢れて仕方なかった。
「…………」
大丈夫だっただろうか、抱きしめた時に嫌われたりしていないかな?
気持ち悪いなんて思われていたりしたら、僕はきっと耐えられない。
でも、彼女を励ましたくてした行動に後悔なんてない。
「…………さま」
話した後、彼女は疲れが一気に押し寄せたのか眠ってしまった。
無理もないか、学園から村まで歩いて来ていたのだ。
学園で常人には堪えられないストレスを受けて無事なはずがない。
今は、彼女の体調と心のやすらぎを最優先に接していこう。
そうだ、明日は彼女が昔好きだったシチューでも……。
「アルバート様!」
「っ!? あっ」
呼ばれて気付く、目の前には執事のシアンが立っていた。
もう齢七十となり白髪に染まった髪と、しわの刻まれた顔。とっくに引退すべき年齢の彼は今もなお……むしろ現役レベルで若々しく働いてくれている。信頼できる執事だ。
「ごめん、シアン……ぼうっとしていた」
「いえ、私も叫んで申し訳ありません。アルバート様のお返事がなかったものですから」
「リディについて、考えていてね」
「彼女が、アルバート様が幼き頃に知り合った女性なのですね」
「うん、僕を一人にしないでいてくれた。大事な人」
思い出すのは、彼女と始めて会った時の事だ。
幼き頃の僕は初めて会う村の子供達にびくびくとしていて、よくいじられていた。
それを助けてくれたのが、幼き頃のリディだ。
『私がいるから、大丈夫!』
笑ってそう言ってくれた君を僕は忘れない。
幼き頃……母が病死してすぐ、悲しむ間もなく父の意向で村で住み始めた僕は孤独に押し潰されそうだった。
あの村で過ごした日々が楽しくてかけがえのない思い出になったのは、紛れもなくリディのおかげだ。
だから、彼女を追い詰めた者達への怒りはふつふつと心で沸き立つ。
「表情、怖くなっておりますよ」
「っ……ごめん、彼女が学園で受けた事を考えたら許せなくて」
「お気持ちは分かります。ディオネス家から正式に学園を糾弾しますか? 少し時間をかけて証拠を集めれば……」
シアンの言葉に首を横に振る。
「このまま事実を公表しても駄目だ。それでは学園は当事者である生徒や数人の講師を処分して、問題をうやむやに終わらせるだけ。本質的な問題は解決しない」
「本質的な問題ですか?」
「根っこにある平民への差別を失くさなければ、リディを疎んで同じ行為をする者が出てくる」
「では、どうすべきだと」
「リディ自身が、この差別を潰す存在になってもらう」
「な……」
「今日、リディと話して分かった。彼女の自尊心や、自信は……人の形をした獣によってズタズタに引き裂かれて、傷ついている」
『学園を辞めるなんて、情けない事をお母さんに言えない』と悲し気に呟く彼女を思い出すと、心が締め付けられる。
そんな言葉を発してしまう程に、彼女の心は追い詰められていたのだ、
「このまま、僕達だけで事を終わらせても……彼女の心は治らない。一時的に傷を見えないようにしても、再び獣と会った時に傷は大きく広がってしまうはずだ」
僕は君にもう一度……胸を張って生きていける自信を取り戻してほしい。
受けた心の傷を笑って吹き飛ばすようになれば、きっと傷は癒えている。
「リディの手で、彼女自身の価値を学園に知らしめる。そして根底に根を張る平民への差別意識を潰す。僕はあくまでその補助をするだけだ。もちろん、彼女がそれを望まないなら僕だけで解決する」
「彼女に……復讐をさせるのですか?」
シアンの渋い表情に答える。
「復讐が悪いなんて、僕は思わない。本当に悪いのは誰かに一生の傷をつけてもノウノウと生きていく者達だ」
「アルバート様……」
「それに、これは復讐なんかじゃない。彼女は奪われた自尊心を取り戻すだけだ」
思わず熱のこもった言葉を発してしまう。
そんな僕を見て、シアンは頬を緩めた。
「な、なにかおかしい?」
「いえ、父君のように……大人になられましたね」
「父に……?」
記憶の中の父は冷たくて、あまり笑わず冷たい人だと思っていた。
留学から帰った僕に会う事もなく、他国への視察のために本邸を不在にしているのだから。
「とりあえずは、私も執事としてアルバート様のご意向に従います」
「ありがとう、所でシアンに聞きたい事があるのだけど」
「なんなりと……」
「リディの前だと……緊張と照れをごまかすのも難しい。どうすればいい?」
「っ……」
シアンは見てわかる程に肩を揺らして笑っており、僕が見つめると申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません、随分といじらしいので」
「リディとはずっと会いたかったけだ、いざ会うと気持ちが溢れて止まらないんだ。……嫌われたくない」
「そうですね、では私から言えることは一つだけです」
シアンが咳払いをして、ゆっくりと語る。
「好きにしてください……とだけ」
「な……アドバイスでもないな」
「結局、全ては自分の判断が一番です。嬉しい事も後悔も自分のものですから」
そういうもの……なのだろうか。
リディ……。
僕は自分で言うのもおかしいけど、平静を崩さない男だと思う。
動揺をする事も、焦る事も大きなミスをしたこともない。
だけど、君の前だけでは違う。
可愛くて、綺麗で……すっかり女性になっているリディの前でだけは平静を保てる自信がない。
動揺も焦りもきっとする。
だけど、それが心地いい。
今日浮かべた笑顔みたいに、君が笑って過ごせる毎日を過ごせるように僕がしていきたい。
それが、今の最優先だ。
大きなため息を吐きつつ、執務机に突っ伏してしまう。
久々に会ったリディは想像以上にうんと女性になっていて、可愛くて、綺麗で……気持ちが溢れて仕方なかった。
「…………」
大丈夫だっただろうか、抱きしめた時に嫌われたりしていないかな?
気持ち悪いなんて思われていたりしたら、僕はきっと耐えられない。
でも、彼女を励ましたくてした行動に後悔なんてない。
「…………さま」
話した後、彼女は疲れが一気に押し寄せたのか眠ってしまった。
無理もないか、学園から村まで歩いて来ていたのだ。
学園で常人には堪えられないストレスを受けて無事なはずがない。
今は、彼女の体調と心のやすらぎを最優先に接していこう。
そうだ、明日は彼女が昔好きだったシチューでも……。
「アルバート様!」
「っ!? あっ」
呼ばれて気付く、目の前には執事のシアンが立っていた。
もう齢七十となり白髪に染まった髪と、しわの刻まれた顔。とっくに引退すべき年齢の彼は今もなお……むしろ現役レベルで若々しく働いてくれている。信頼できる執事だ。
「ごめん、シアン……ぼうっとしていた」
「いえ、私も叫んで申し訳ありません。アルバート様のお返事がなかったものですから」
「リディについて、考えていてね」
「彼女が、アルバート様が幼き頃に知り合った女性なのですね」
「うん、僕を一人にしないでいてくれた。大事な人」
思い出すのは、彼女と始めて会った時の事だ。
幼き頃の僕は初めて会う村の子供達にびくびくとしていて、よくいじられていた。
それを助けてくれたのが、幼き頃のリディだ。
『私がいるから、大丈夫!』
笑ってそう言ってくれた君を僕は忘れない。
幼き頃……母が病死してすぐ、悲しむ間もなく父の意向で村で住み始めた僕は孤独に押し潰されそうだった。
あの村で過ごした日々が楽しくてかけがえのない思い出になったのは、紛れもなくリディのおかげだ。
だから、彼女を追い詰めた者達への怒りはふつふつと心で沸き立つ。
「表情、怖くなっておりますよ」
「っ……ごめん、彼女が学園で受けた事を考えたら許せなくて」
「お気持ちは分かります。ディオネス家から正式に学園を糾弾しますか? 少し時間をかけて証拠を集めれば……」
シアンの言葉に首を横に振る。
「このまま事実を公表しても駄目だ。それでは学園は当事者である生徒や数人の講師を処分して、問題をうやむやに終わらせるだけ。本質的な問題は解決しない」
「本質的な問題ですか?」
「根っこにある平民への差別を失くさなければ、リディを疎んで同じ行為をする者が出てくる」
「では、どうすべきだと」
「リディ自身が、この差別を潰す存在になってもらう」
「な……」
「今日、リディと話して分かった。彼女の自尊心や、自信は……人の形をした獣によってズタズタに引き裂かれて、傷ついている」
『学園を辞めるなんて、情けない事をお母さんに言えない』と悲し気に呟く彼女を思い出すと、心が締め付けられる。
そんな言葉を発してしまう程に、彼女の心は追い詰められていたのだ、
「このまま、僕達だけで事を終わらせても……彼女の心は治らない。一時的に傷を見えないようにしても、再び獣と会った時に傷は大きく広がってしまうはずだ」
僕は君にもう一度……胸を張って生きていける自信を取り戻してほしい。
受けた心の傷を笑って吹き飛ばすようになれば、きっと傷は癒えている。
「リディの手で、彼女自身の価値を学園に知らしめる。そして根底に根を張る平民への差別意識を潰す。僕はあくまでその補助をするだけだ。もちろん、彼女がそれを望まないなら僕だけで解決する」
「彼女に……復讐をさせるのですか?」
シアンの渋い表情に答える。
「復讐が悪いなんて、僕は思わない。本当に悪いのは誰かに一生の傷をつけてもノウノウと生きていく者達だ」
「アルバート様……」
「それに、これは復讐なんかじゃない。彼女は奪われた自尊心を取り戻すだけだ」
思わず熱のこもった言葉を発してしまう。
そんな僕を見て、シアンは頬を緩めた。
「な、なにかおかしい?」
「いえ、父君のように……大人になられましたね」
「父に……?」
記憶の中の父は冷たくて、あまり笑わず冷たい人だと思っていた。
留学から帰った僕に会う事もなく、他国への視察のために本邸を不在にしているのだから。
「とりあえずは、私も執事としてアルバート様のご意向に従います」
「ありがとう、所でシアンに聞きたい事があるのだけど」
「なんなりと……」
「リディの前だと……緊張と照れをごまかすのも難しい。どうすればいい?」
「っ……」
シアンは見てわかる程に肩を揺らして笑っており、僕が見つめると申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません、随分といじらしいので」
「リディとはずっと会いたかったけだ、いざ会うと気持ちが溢れて止まらないんだ。……嫌われたくない」
「そうですね、では私から言えることは一つだけです」
シアンが咳払いをして、ゆっくりと語る。
「好きにしてください……とだけ」
「な……アドバイスでもないな」
「結局、全ては自分の判断が一番です。嬉しい事も後悔も自分のものですから」
そういうもの……なのだろうか。
リディ……。
僕は自分で言うのもおかしいけど、平静を崩さない男だと思う。
動揺をする事も、焦る事も大きなミスをしたこともない。
だけど、君の前だけでは違う。
可愛くて、綺麗で……すっかり女性になっているリディの前でだけは平静を保てる自信がない。
動揺も焦りもきっとする。
だけど、それが心地いい。
今日浮かべた笑顔みたいに、君が笑って過ごせる毎日を過ごせるように僕がしていきたい。
それが、今の最優先だ。
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