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学園編
18話
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「そんなつもりなかったのよ、皆もそうよね!」
ナタリーの言葉に、私を踏んだ者や制服を汚した者、笑っていた者まで全員が揃って頷く。
「許してちょうだい、貴方のためを思ってやっていたのよ」
「そうなの、平民の貴方と少しでも打ち解けるために……不器用でごめんなさい」
……。
やはり、この状況でも彼らの抱く平民への蔑みは健在なのだろう。
頭を素直に下げるなんて出来ないと、言われなくても言葉に含まれていた。
「許してくれるよね? 私達はこれから友達になればいいのよ」
「ナタリー、本気で言っているの?」
「本気よ! 貴方が許してくれれば……後は友達になれば解決するじゃない」
「私が……母に貰った制服も汚されて、馬鹿にされて、頭を踏まれて……どれだけ傷ついたか少しは想像してくれた?」
「もちろんよ! 可哀想だったわ。私も止めたかったのだけど、貴方との関わり方が分からなかっただけなの!」
「…………」
「許して?」と軽々しく口にしながら、ナタリーは反省の色すら浮かべずに薄く笑う。
口元には隠そうと滲み出ている、平民である私を馬鹿にする気持ちが……。
それを許せる程に、私はお人好しではいられなかった。
「言わないで、貴方達の謝罪なんて必要ない」
「な、聞いてよリディア……私達は本当にそんなつもりなかった、悪気なんてなかったのよ」
「そんなつもりなかった、なんて言葉を免罪符に私を傷つけた事実から逃げないで」
「え?」
「大嫌い、そんな言葉……素直に謝る気もなくて、自分の悪意すら認めない貴方の言動も行動も大嫌い」
大嫌いという、今まで拒絶した事もない私の言葉に貴族意識の高いナタリーは顔を怒りで紅潮させる。
周囲も同様に、歪な笑みを止めて眉をひそめた。
「大嫌いなんて酷いわ。私達は本当に仲良くしたくて」
「それ以上、虚言を吐かないで……貴方の行動の数々に、悪気がなかったなんて思えない」
「っ!! 言わせておけば、何を生意気に……」
ナタリーが叫びそうになった時だった、隣で黙っていたアルが突然に歩き出した。
皆が一斉に視線を向ける中で、廊下に飾られていた花瓶を持ったアルはそのままナタリーの制服へとかけたのだ。
「な、何を!! 何をしているのですか!? 酷い、酷いです!」
当然、ショックを受けたようにナタリーは叫ぶ。
制服には草と長く置いた水の匂いが香り、少しの汚れが付着しているがアルはそれを見てへらりと笑う。
「ごめん、悪気はなかったんだ」
「は!?」
「水をかけるつもりなかった、許して欲しい。それでいい?」
「い、いい訳がありませ––––!!」
言い返していて気付いたのだろう、自分自身が言っていた言動を受けた相手の気持ちが。
きゅっと口をつぐんで、苦々しそうに視線を落とす。
「分かってくれた?」
「…………ゆ、許してください。本当に、悪気は……」
気付いてもなお、懺悔の言葉にセットされる免罪符にアルは小さく笑って答えた。
「ナタリー・ローレシア。君の実家であるローレシア家当主は厳しい方だ。君がした罪は長女であろうと、家名を汚さぬように勘当されても不自然ではない」
「そんな、私達はただイジメただけで」
「イジメ? 君たちがした事は犯罪だよ。行こうかリディ」
「あぁ、待って! ま、待ってください! も、もう一度だけでも話を聞いてください、お、お願いします」
必死にへりくだってくるナタリー達を置いて、アルは私の手を引いて歩き出す。
謝る機会は先程が最後であり、それを自ら捨てたのは彼らだ。
「い、いや! 許して! 私だけでも……」
今更に懺悔の言葉を告げる彼らに私も振り返る事はなく、ただ歩いていく。
謝罪の言葉と懺悔は校舎に響き続けるが、私とアルの心に響く事はなかった。
寮室へと荷物を取りに帰っていると、再び来訪者が私達を追ってやって来る。
振り返れば、グレアルフが荒い息を吐いて走ってきていた。
「ま、待ってくれ……お願いだ。話を聞いてくれ」
「もう、リディが君と話す事はない」
私が返事をしようとすると、遮るようにアルが答える。
手を引かれ、アルに抱き寄せられた。
顔を上げて見えた彼の視線は、グレアルフを冷たく見下ろす。
「リディアと話したい、今度こそ……本気で愛すると誓う。だから、俺と一緒に居て欲しい」
「なにをいっ……」
「一度は俺を愛してたいはずだ、もう一度……俺をまた支えて欲しいんだ。お前を手放して遠ざけた事をずっと、ずっと……俺は後悔し––」
耐え切れず、グレアルフの言葉を遮って視線も合わせずに吐き捨てる。
「貴方の後悔など、聞きたくありません。自分のした事の処罰を待ち続けてください」
「な、なぁ……俺とやり直してくれよ。なぁお願いだ。助けてくれ、このままじゃ俺の未来が!」
「行きましょう、アル」
「あぁ、リディ」
アルがそっと手を繋いでくれて、グレアルフを置いて歩き出す。
「待ってくれ! お願いだ。せ、せめて俺の名前だけは……出さないで」
情けない声に答える気はない、粛々と彼に対する制裁の準備を私は進めるだけだ。
ナタリーの言葉に、私を踏んだ者や制服を汚した者、笑っていた者まで全員が揃って頷く。
「許してちょうだい、貴方のためを思ってやっていたのよ」
「そうなの、平民の貴方と少しでも打ち解けるために……不器用でごめんなさい」
……。
やはり、この状況でも彼らの抱く平民への蔑みは健在なのだろう。
頭を素直に下げるなんて出来ないと、言われなくても言葉に含まれていた。
「許してくれるよね? 私達はこれから友達になればいいのよ」
「ナタリー、本気で言っているの?」
「本気よ! 貴方が許してくれれば……後は友達になれば解決するじゃない」
「私が……母に貰った制服も汚されて、馬鹿にされて、頭を踏まれて……どれだけ傷ついたか少しは想像してくれた?」
「もちろんよ! 可哀想だったわ。私も止めたかったのだけど、貴方との関わり方が分からなかっただけなの!」
「…………」
「許して?」と軽々しく口にしながら、ナタリーは反省の色すら浮かべずに薄く笑う。
口元には隠そうと滲み出ている、平民である私を馬鹿にする気持ちが……。
それを許せる程に、私はお人好しではいられなかった。
「言わないで、貴方達の謝罪なんて必要ない」
「な、聞いてよリディア……私達は本当にそんなつもりなかった、悪気なんてなかったのよ」
「そんなつもりなかった、なんて言葉を免罪符に私を傷つけた事実から逃げないで」
「え?」
「大嫌い、そんな言葉……素直に謝る気もなくて、自分の悪意すら認めない貴方の言動も行動も大嫌い」
大嫌いという、今まで拒絶した事もない私の言葉に貴族意識の高いナタリーは顔を怒りで紅潮させる。
周囲も同様に、歪な笑みを止めて眉をひそめた。
「大嫌いなんて酷いわ。私達は本当に仲良くしたくて」
「それ以上、虚言を吐かないで……貴方の行動の数々に、悪気がなかったなんて思えない」
「っ!! 言わせておけば、何を生意気に……」
ナタリーが叫びそうになった時だった、隣で黙っていたアルが突然に歩き出した。
皆が一斉に視線を向ける中で、廊下に飾られていた花瓶を持ったアルはそのままナタリーの制服へとかけたのだ。
「な、何を!! 何をしているのですか!? 酷い、酷いです!」
当然、ショックを受けたようにナタリーは叫ぶ。
制服には草と長く置いた水の匂いが香り、少しの汚れが付着しているがアルはそれを見てへらりと笑う。
「ごめん、悪気はなかったんだ」
「は!?」
「水をかけるつもりなかった、許して欲しい。それでいい?」
「い、いい訳がありませ––––!!」
言い返していて気付いたのだろう、自分自身が言っていた言動を受けた相手の気持ちが。
きゅっと口をつぐんで、苦々しそうに視線を落とす。
「分かってくれた?」
「…………ゆ、許してください。本当に、悪気は……」
気付いてもなお、懺悔の言葉にセットされる免罪符にアルは小さく笑って答えた。
「ナタリー・ローレシア。君の実家であるローレシア家当主は厳しい方だ。君がした罪は長女であろうと、家名を汚さぬように勘当されても不自然ではない」
「そんな、私達はただイジメただけで」
「イジメ? 君たちがした事は犯罪だよ。行こうかリディ」
「あぁ、待って! ま、待ってください! も、もう一度だけでも話を聞いてください、お、お願いします」
必死にへりくだってくるナタリー達を置いて、アルは私の手を引いて歩き出す。
謝る機会は先程が最後であり、それを自ら捨てたのは彼らだ。
「い、いや! 許して! 私だけでも……」
今更に懺悔の言葉を告げる彼らに私も振り返る事はなく、ただ歩いていく。
謝罪の言葉と懺悔は校舎に響き続けるが、私とアルの心に響く事はなかった。
寮室へと荷物を取りに帰っていると、再び来訪者が私達を追ってやって来る。
振り返れば、グレアルフが荒い息を吐いて走ってきていた。
「ま、待ってくれ……お願いだ。話を聞いてくれ」
「もう、リディが君と話す事はない」
私が返事をしようとすると、遮るようにアルが答える。
手を引かれ、アルに抱き寄せられた。
顔を上げて見えた彼の視線は、グレアルフを冷たく見下ろす。
「リディアと話したい、今度こそ……本気で愛すると誓う。だから、俺と一緒に居て欲しい」
「なにをいっ……」
「一度は俺を愛してたいはずだ、もう一度……俺をまた支えて欲しいんだ。お前を手放して遠ざけた事をずっと、ずっと……俺は後悔し––」
耐え切れず、グレアルフの言葉を遮って視線も合わせずに吐き捨てる。
「貴方の後悔など、聞きたくありません。自分のした事の処罰を待ち続けてください」
「な、なぁ……俺とやり直してくれよ。なぁお願いだ。助けてくれ、このままじゃ俺の未来が!」
「行きましょう、アル」
「あぁ、リディ」
アルがそっと手を繋いでくれて、グレアルフを置いて歩き出す。
「待ってくれ! お願いだ。せ、せめて俺の名前だけは……出さないで」
情けない声に答える気はない、粛々と彼に対する制裁の準備を私は進めるだけだ。
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