将軍の宝玉

なか

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2.宝石

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   軍部の執務室に戻り、どかっとソファに腰を下ろす。その顔はいつにも増して凶悪で、すれ違った部下がひっと息を呑み、なんとか礼をした後、蒼い顔をして逃げていった。


   目頭を押さえて背にもたれると、ガチャとドアが開いた。ノックと同時にドアを開けるこの足音は1人しかいない。


「おやー、お疲れ?視線で人殺しそうな顔してるけど、陛下はなんだってー?」

   赤い髪に茶色の瞳、甘やな印象を与える整った顔が楽しそうに聞いてきた。

「ノックをちゃんとしろ、レイノルド。副長がそれでは示しがつかん」

   ギロリと睨まれ、他の者なら失神しそうな顔にレイノルドは笑顔で返す。

「まぁまぁ堅いこと言わない。なんだって?
すげー怖い顔で歩いてるって、皆びびりまくって俺んとこ来たんだけど。
   ま、顔が怖いのはいつものことだけどねー」

「……お前なぁ」


   レイノルド・ロンデル。
   直属の部下で軍の各団をまとめる副長の地位にあり、軍に入った頃からの唯一と言っていい友人でもある。
    距離を置かれがちな俺に対して、物怖じしない彼は、士官学校で会った当初からこの調子だった。頭も切れる優秀な右腕として、戦場でも頼りになる存在でもある。


「どうやら、俺は結婚するらしい」

「ぶっっ!え?はぁ??げほっ」

   勝手に水差しから水を飲んでいたレイノルドが盛大に吹いた。
   放っておくと、しばらくむせた後、駆け寄ってくる。いい大人が落ち着きがない。

「どーいうこと?ね、何それ?ね!」

「陛下から褒美に伴侶を、と」

「うわー。……それはそれは。お前もとうとうなぁ。今度は逃げられないようにしないとな!
   しかし、相手もお気の毒!その子、大丈夫かなぁ。相手も断れないだろーし、褒美に人って陛下にしては珍しい感じだけど、お前が独り身なの心配されたのかなー」


   俺があまり口数が多い方ではないからか、レイノルドはよく喋る。いや、俺がいなくてもよく喋るのだが。

   1人で喋り続けるレイノルドを横目に見る。俺が重きを置いているのは、仕事と煩わされない静かな生活だ。結婚は一度で懲りたし、向いてない。ようやく戦も終わり、ひとりでゆっくりできると思ったのだが。

「まぁ、無理だろうけど、お前のこと怖がらない人だったらいいねー。どんな人かなー?
   で、誰と結婚するの?」


   レイノルドが女性に受けがいい、無駄に色気を振りまく整った顔をぐいぐい寄せて興味津々に聞いてくる。その瞳は完全に面白がっている。

   自分だってどのように女性に思われるかは分かっている。部屋に入るなり机に投げていた紙の束を横目で見る。戻ってくる途中、宰相から渡された数枚の資料。

   ちらりと見た、そこに書かれていた名前は、前王弟の長男で東の領地に暮らし、社交界にも全く顔を出さない深窓の令息らしい、

シェリルノーラ・イル・エメルソン。


   元々は底辺に近いが、俺も貴族の出である。政略結婚は普通の感覚としてある。
   しかし、王が宝石と称した、蝶よ花よと育てられた方が、年も離れたこんな男との質素な生活には満足しはしないだろう。
   使い道のない今までもらってきた報奨金は余りまくっているが、望まれても王族並みの贅沢三昧は無理だろう。

   いくら王命とは言え、なんだかんだと理由をつけて早々に実家に帰られる未来しか想像できない。それがお互いにとってはいいのかもしれないが。

  彼も本当にこの縁談を受けていいのか?
まだ19才で、王位継承権も持つ王族として育ち、こんな物みたいに褒美として扱われて。あちらも断れなかったのだろうが、王弟でもあるあの男がよく受諾したものだ。何か裏があるのか?

   色々考えてたとしても、決まったこと。結婚式だの何だの、受け入れの準備を進めないとならない。


「頭が痛い」


   珍しく小さく弱音がもれた。

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