将軍の宝玉

なか

文字の大きさ
4 / 50

3.結婚式

   将軍が結婚するとの話は瞬く間に広まり、あちこちから戦の労いと共に、祝いの言葉が届けられた。
   そんな中、当人は珍しくこれでいいのだろうかと悩んでいた。

   もちろん相手は王家の血筋であり、政略結婚も当然といえるだろう。いくら爵位を与えられたとしても、元々の身分はかなり大きな差がある。さらに、この風貌と性格だ。
   
   怖がらせてしまうのは避けられないだろう。それが申し訳なく、可哀想でもある。
   そう言っても、もう撤回はできない。



   すでに結婚式当日。新しい奥方を迎えるための準備は、有能で信頼できる執事に任せ、できる限り整えた。
  
   式典用の金の縁取りのある黒い軍服に身を包み、教会に向かう。ここに来て誰かと生活を共にすることになろうとは。緊張はないが憂鬱な気分だ。相手はもっとだろうが。

   段取りの最終説明を受け、司祭の待つ祭壇前に立つ。
   できるだけ質素にとだけ希望を伝えていたが、招待客はいない。事前の打ち合わせはあったが、王族の結婚式にこれは異例だ。

   歴史ある荘厳な雰囲気の祭壇の前、新婦側の席に両親の王弟夫妻だけが座っている。確か弟が1人いたはずだが。あちらはあちらで事情があるということだろう。
   こちらは姉が身重で領地から出られないため、義理の兄のみだ。その義兄も姉が産月でもあり、式が終わると領地へトンボ帰りの予定だ。



   司祭の合図により扉が開く。

   そこにいたのは、すらりとした細身の体に白い清楚な衣装をまとった、硬い表情の青年と呼ぶにはやや幼い人だった。


   司祭の誘導に従い神への契りの言葉を互いに述べて、滞りなく、あっさりと式を終えた。
   義理の父となる王弟殿下から頭を下げられ、息子をどうかよろしくとひとしきり泣かれた後、2人で馬車に乗って邸宅に移動中である。

   義理の父といっても、現国王の実弟である。東の領地を治め、その手腕には定評がある。王族として前線には出ないが、後方支援の分野でもかなり信頼できる男性だ。

   穏やかな方だとは聞いていたが、その人が最初から最後までずっと泣いているのである。大変気まずい。今からでも遅くないので、お返ししたいほどだ。


   彼とは一言も言葉を交わしていない。
   19才らしいが、15.6才くらいにしかみえない。その端正な横顔をこっそり見つめた。

   柔らかそうなふわふわの蜂蜜色の金の髪は背中の中程までの長さがあり、組紐でひとつにまとめれている。それが光を受けて、きらきらと輝く。やや俯き加減のブルーグリーンの大きな瞳。

   あまり陽にあたらないのか、きめの細かい滑らかな肌。利発そうな、しかし儚げな少年だ。女性とは異なるが、とてもきれいな方だ。


   国王陛下は何を考えているのだろうか。
   陛下にとっても甥に当たるこの少年、いや青年か、いくら褒美だと言ってもどうして一度結婚に失敗している、適齢期も大幅に過ぎた俺なんかのところに。

   彼だって王位継承権を破棄し、下賜に応じている。慣れ親しんだ生活を捨て、こんな厳ついおじさんの元に嫁ぐなど、ショックだろう。
   彼らも王の命令とあらば、この不釣り合いな縁談を断れなかったのだろう。


   とにかく、大切にして差し上げないと。もしくは、どうにかして1日も早くご両親の元にお返ししないと申し訳ない。
   しかし、くれぐれもよろしく頼まれてしまっては、それも難しそうだ。

   怖がらせないように、とにかく心穏やかに新しい場所で過ごせるように、その義務感だけがどんどん募っていた。


   アデラートが眉間に皺を寄せて、らしくもなくぐるぐる考えている間、シェリルノーラは黙って流れていく景色を見つめていた。


   シェリルノーラがちらりと隣に座るアデラートの顔を盗み見ると、腕組みをして怖い顔をしている。内情は謎の義務感にかられていたのだが、はたから見たら結婚式を終えたばかりの男とは思えない程の厳しい表情だった。

   それからシェリルノーラは馬車が止まるまで、窓の外を見続けた。



あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
【完結/番外編準備中】 目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです! ---------- 追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!! 完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。 詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!

別れたはずの元彼に口説かれています

水無月にいち
BL
 高三の佐倉天は一歳下の松橋和馬に一目惚れをして告白をする。お世話をするという条件の元、付き合えることになった。  なにかと世話を焼いていたが、和馬と距離が縮まらないことに焦っている。  キスを強請った以降和馬とギクシャクしてしまい、別れを告げる。  だが別れたのに和馬は何度も会いに来てーー?  「やっぱりアレがだめだった?」    アレってなに?  別れてから始まる二人の物語。

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

婚約破棄された悪役令息は隣国の王子に持ち帰りされる

kouta
BL
婚約破棄された直後に前世の記憶を思い出したノア。 かつて遊んだことがある乙女ゲームの世界に転生したと察した彼は「あ、そういえば俺この後逆上して主人公に斬りかかった挙句にボコされて処刑されるんだったわ」と自分の運命を思い出す。 そしてメンタルがアラフォーとなった彼には最早婚約者は顔が良いだけの二股クズにしか見えず、あっさりと婚約破棄を快諾する。 「まぁ言うてこの年で婚約破棄されたとなると独身確定か……いっそのこと出家して、転生者らしくギルドなんか登録しちゃって俺TUEEE!でもやってみっか!」とポジティブに自分の身の振り方を考えていたノアだったが、それまでまるで接点のなかったキラキライケメンがグイグイ攻めてきて……「あれ? もしかして俺口説かれてます?」 おまけに婚約破棄したはずの二股男もなんかやたらと絡んでくるんですが……俺の冒険者ライフはいつ始まるんですか??(※始まりません)

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。