将軍の宝玉

なか

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39.帰宅

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   力をなくしかけた身体を受け止めたのは、後ろにいたレイノルドではなかった。背中と腰に固い腕が回り、正面から抱きしめられる。

「シェリルノーラ様?このようなところでどうされたのです?」

   視界を遮るその厚い胸に耳を寄せると、薄い布の下に確かに鼓動を感じる。その鼓動を聴いているうちに、抱き上げられてベッドまで運ばれる。
   怪我人になんてことを、と気付いた時にはベッドに腰掛けた旦那様の膝の上だった。

「下ろしてください。怪我に触ります!」

   じたばたともがくけれど、びくともしない。

「あなたを運ぶくらいなんともありません。もしかして具合が悪いのですか?顔色が悪いな」

   頬を確かめるように撫でられる。

「体調は悪くありません。ちょっと力が抜けただけで。でも、旦那様こそ、動いたりして大丈夫なのですか?」

   腕の中から見上げるいつもの角度に、いつもの精悍な顔が見える。心配そうに私を見る顔が少し日に焼けてさらに男らしさが増している。痛みを我慢しているようには見えない。

「本当に?私はただの軽い捻挫と打ち身ですから、大したことはありませんよ。陛下に報告後、軍医の許可を得るまでは医務院に待機を命じられまして、軍医は今他の負傷者の手当中で」

「怪我をして動けないって…」

「慣れない戦闘に馬車の馬が暴れてしまいまして、それを抑える時に少し痛めただけです。身体は問題なく動きます。ここから物理的にまだ動けないだけで」

「……本当に?」

「はい。それにちゃんと馬に乗って帰って来ましたよ」

   動ける?無事?
   現状が整理できなくて、病衣の胸元を握りとにかく旦那様の顔を見つめ続けるしかできない。

    微笑みを浮かべていた旦那様が急に表情を変え、冷たい声が落ちる。
   
「お前か?」

「ごめんなさい。嘘は言ってないです」

   目をやると、ドアの付近で両手を上げるレイノルドの姿があった。

「俺悪くないもん。陛下が奥方にお知らせしろって言うから」

「彼の方は……」

   呆れたようなため息と共に、独りごちた旦那様は何か理解されたようだ。私には何が何だか分からない。

「嘘は言わせてないぞ」

   開け放したままだったドアから急に声が掛かる。

「陛下!」

   ここにいるはずのない人の登場に、腕の力が緩んだその隙に腕から慌てて逃れ、礼をとる。

「あ、怪我人の将軍はそのままでね。シェリルノーラ!久しぶりだね。礼はいいからほら、おじ様のとこにおいで」

   満面の笑みで両手を広げられる。
   えっと、これはどういう状況?行った方が良いのかな?もう小さな子供じゃないんだけど。
   一歩踏み出そうとして、再びお腹に回った腕に遮られる。

「将軍……、おじと甥の再会を邪魔するでないよ」

   陛下が怨みがましい顔を見せる。

「自分が会いたいからと、私の妻を騙して泣かせるような真似は、陛下と言えども、容赦できかねますが」

   なんだか背後から聞いたことないような低い声がして、震えがくるような雰囲気がする。陛下は全く気にされずに何故かへの字口だ。

「だって何度言っても連れてきてくれないでしょ。せっかく王都に戻ってきたのに」

「だから、体調が万全になったらと前からお伝えしておりましたよね?」

   旦那様の口調がきつい。陛下に対してよくないような。よく分からないけど私が原因で非礼を働かせるわけにはいかない。身動きが取れないから、とりあえず頭を下げた。

「あのっ、陛下にはご心配をおかけして申し訳ありません。ご無沙汰しており」

「もう帰宅してよいでしょうか?」

   私が言い終わる前に、旦那様が被せてくる。

「ケチだな。軍医もこちらに向かうだろうからそれが済んだらね。
   ま、前王の残党というお土産ありがとう将軍。これでもう一仕事捗る。と、いうことで君は宰相の命を護った名誉の傷病休暇で、5日後まで出てこないこと。軽傷じゃない方が都合がいいからね」

   陛下は気分を害されてはいようで、意味深な笑顔を浮かべ、昔と変わらずひょうひょうとした口調で告げる。

「結婚してから全然ゆっくりできてないだろうし、自宅で傷を癒すといいよ。シェリルノーラ、今度必ず遊びにおいでね」

   後よろしくと頭を下げたままのレイノルドに声を掛け、私が慌てて礼をとる間もなく、颯爽と陛下は去っていってしまった。

   すると表の治療室の兵士たちだろうか、どよめきと歓声が聞こえてきた。あちらに労いに行かれたのか。

   してやられた、と後ろから小さく漏れた言葉は聞こえなかった。何か言われたのかと振り返ると、とっとと帰りましょうとこめかみに口付けられる。
   それをレイノルドが何とも言えない顔で見ていた。

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