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40.手合せ
休暇と言ってもすっかり怪我は問題なく、かと言って傷病休暇ならば出掛けるのも憚られる。
大人しく休んでいるのは性に合わないし、1人で行う鍛錬も限りがある。溜まっているだろう仕事も気になる。と言うことで後1日あるが、明日には出仕しようと考えていた。
不在の間に何か心境の変化があったのだろうか、シェリルノーラからなんとなく最初の頃に戻ったような微妙な緊張感を感じる。
視線を外されたり、自然に距離を取られることが多くなった。前のように思い詰めている様子はないが、時々落ち着きがない。
単刀直入に聞いてみるか。
昼食後シェリルノーラの部屋を訪ねると、彼の細身の剣が側に立てかけてあった。その剣を見て、ラスティンの話を思い出した。
「手入れをされていたのですね。もし良ければ、この後私とひとつ、手合わせをお願いできますか」
「旦那様とですか?」
少し驚いた表情を見せるが、シェリルノーラの瞳が光る。
「ラスティンがあなたの剣の腕を褒めてたので、私も見てみたくなりました」
「きっとそれはもう随分前のことです。今は軍人として立派になったラスティンの足元には到底及びません。旦那様にお見せする程では」
軽く首を振って答える。
「体調が悪くなければ、暇な私の相手をして頂けると嬉しいのですが」
謙遜してはいるが、やりたくないわけではなさそうなので押してみる。
「身体はもう問題ありません。お相手になるとは思いませんが、もし私でよければ」
倉庫からシェリルノーラが使っているような細身の軽い模擬刀を探し出す。
庭に出てそれを渡すと、動きやすい体の線が分かる格好に着替え、準備運動をしていたシェリルノーラは嬉しそうに受け取った。ひとしきり模擬刀の握りや重さを確認している。
向かい合って構える。立会い代わりにダラスに頼んだが、奥方様とですかと、かなり心配され渋々了承してもらった。
剣を構えた姿を初めて見る。基礎がきっちりしている凛とした美しい立ち姿だ。ただ、その細い腕と腰では剣を受け止めるのは難しいか。
始めの合図を機に瞳に力が宿り、間合いを見て遠慮なく切り掛かってくる。想像していたより早い。その刃を躱わしながら剣筋を見ていく。力は無い分、スピードがあり鋭い。
少しだけラスティンに似ている気がする。同じ師に師事していたのだから当然かもしれない。しかし、なんだか気に食わずに防戦から攻撃に移る。
こちらの空気が変わったのを敏感に読み、咄嗟に距離を取られる。受け止められないだろうと剣を降ろすが、さらりと受け流される。蜂蜜色の髪が舞う。
戯れに次々に繰り出す切っ先をシェリルノーラが必死に躱わしていく。こちらの力を上手く流して、攻撃に転じる流れは見事だ。
少し息が上がってきたか。
その細い首筋に汗がつっと伝ったのが見え、思わず目を奪われる。
その隙を見逃さず、シェリルノーラの剣が最後の力を込めて襲いかかる。
ガキンと音がして、シェリルノーラの剣が後方に弾き飛ばされる。
「参りました」
肩で息をしながらもきれいに礼をする。
「大丈夫ですか?苦しくありません?」
思った以上に楽しく、つい長引かせてしまった。近寄って呼吸が楽なように背中を摩る。
少し離れた場所でハラハラ見ていたダラスが、タオルと冷たい水を差し出してくる。
「一度、手合わせをしてみたいと、ずっと、思っておりました。私の夢を叶えてくださってありがとうございます」
一口水を飲み、息を弾ませながら、頬を紅潮させて見上げてくる。額にも少し汗を掻いているのを、タオルでそっと拭う。
「言ってくだされば良かったのに」
こんなに喜んでくれるなら誘ってみて良かった。
「見事な腕でした。私の隊にほしいくらいです」
「お世辞でも嬉しいです」
控えめな笑顔で答えるこの人は、強い人だ。この剣も胸を患った後、彼なりにかなり努力をしてきたのだろう。
「さあ、汗を流しましょう。風邪を引いたらいけません」
抱きしめるのは後にして、湯の準備をしてあるだろう部屋に促した。
大人しく休んでいるのは性に合わないし、1人で行う鍛錬も限りがある。溜まっているだろう仕事も気になる。と言うことで後1日あるが、明日には出仕しようと考えていた。
不在の間に何か心境の変化があったのだろうか、シェリルノーラからなんとなく最初の頃に戻ったような微妙な緊張感を感じる。
視線を外されたり、自然に距離を取られることが多くなった。前のように思い詰めている様子はないが、時々落ち着きがない。
単刀直入に聞いてみるか。
昼食後シェリルノーラの部屋を訪ねると、彼の細身の剣が側に立てかけてあった。その剣を見て、ラスティンの話を思い出した。
「手入れをされていたのですね。もし良ければ、この後私とひとつ、手合わせをお願いできますか」
「旦那様とですか?」
少し驚いた表情を見せるが、シェリルノーラの瞳が光る。
「ラスティンがあなたの剣の腕を褒めてたので、私も見てみたくなりました」
「きっとそれはもう随分前のことです。今は軍人として立派になったラスティンの足元には到底及びません。旦那様にお見せする程では」
軽く首を振って答える。
「体調が悪くなければ、暇な私の相手をして頂けると嬉しいのですが」
謙遜してはいるが、やりたくないわけではなさそうなので押してみる。
「身体はもう問題ありません。お相手になるとは思いませんが、もし私でよければ」
倉庫からシェリルノーラが使っているような細身の軽い模擬刀を探し出す。
庭に出てそれを渡すと、動きやすい体の線が分かる格好に着替え、準備運動をしていたシェリルノーラは嬉しそうに受け取った。ひとしきり模擬刀の握りや重さを確認している。
向かい合って構える。立会い代わりにダラスに頼んだが、奥方様とですかと、かなり心配され渋々了承してもらった。
剣を構えた姿を初めて見る。基礎がきっちりしている凛とした美しい立ち姿だ。ただ、その細い腕と腰では剣を受け止めるのは難しいか。
始めの合図を機に瞳に力が宿り、間合いを見て遠慮なく切り掛かってくる。想像していたより早い。その刃を躱わしながら剣筋を見ていく。力は無い分、スピードがあり鋭い。
少しだけラスティンに似ている気がする。同じ師に師事していたのだから当然かもしれない。しかし、なんだか気に食わずに防戦から攻撃に移る。
こちらの空気が変わったのを敏感に読み、咄嗟に距離を取られる。受け止められないだろうと剣を降ろすが、さらりと受け流される。蜂蜜色の髪が舞う。
戯れに次々に繰り出す切っ先をシェリルノーラが必死に躱わしていく。こちらの力を上手く流して、攻撃に転じる流れは見事だ。
少し息が上がってきたか。
その細い首筋に汗がつっと伝ったのが見え、思わず目を奪われる。
その隙を見逃さず、シェリルノーラの剣が最後の力を込めて襲いかかる。
ガキンと音がして、シェリルノーラの剣が後方に弾き飛ばされる。
「参りました」
肩で息をしながらもきれいに礼をする。
「大丈夫ですか?苦しくありません?」
思った以上に楽しく、つい長引かせてしまった。近寄って呼吸が楽なように背中を摩る。
少し離れた場所でハラハラ見ていたダラスが、タオルと冷たい水を差し出してくる。
「一度、手合わせをしてみたいと、ずっと、思っておりました。私の夢を叶えてくださってありがとうございます」
一口水を飲み、息を弾ませながら、頬を紅潮させて見上げてくる。額にも少し汗を掻いているのを、タオルでそっと拭う。
「言ってくだされば良かったのに」
こんなに喜んでくれるなら誘ってみて良かった。
「見事な腕でした。私の隊にほしいくらいです」
「お世辞でも嬉しいです」
控えめな笑顔で答えるこの人は、強い人だ。この剣も胸を患った後、彼なりにかなり努力をしてきたのだろう。
「さあ、汗を流しましょう。風邪を引いたらいけません」
抱きしめるのは後にして、湯の準備をしてあるだろう部屋に促した。
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