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番外編 初対面1
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僕は物凄く緊張している。王宮に行った時の比ではない。なぜなら、とても大きなお屋敷のドアの前に立っているからだ。
カイルさんとお父さんのお休みが合ったある秋の日、ここ、カイルさんの実家に連れこられた。
マリアさんに嬉々としていつもよりいい服を着せられ、襟元のリボンタイは蝶々結びに形を整えられた。七五三か……、と突っ込む余裕もない。屋敷の皆に温かく見守られて出てきたけど、緊張感は増すばかりだ。
「そんなに緊張しなくていい。何も心配いらないから。」
カイルさんが腰を屈め、目線を合わせてクスリと笑ってそう言ってくれる。
応接間に通されると、そこには王宮で会った将軍さんと、ミルクティ色の長い髪を一つにまとめ、柔らかい表情のきれいな女の人がいた。
カイルさんに促されて、大きなソファに並んで腰を下ろす。
「母さん、ご無沙汰してます。彼が話していたハルカです。ハルカ、両親だ。」
物凄く簡単にカイルさんが紹介してくれる。対角の1人がけソファにいる将軍さんはお父さんだったのか。
「相川遥です。はじめまして。」
ぺこりとお辞儀をすると、お母さんににっこり微笑まれる。そこに厳しい声が飛んだ。
「私は認めないぞ。」
将軍さんが怖い顔で眉間にしわを寄せていた。僕は思わず体を竦ませた。
「大体、どう陛下に説明するんだ。保護してました、一緒になりますって。保護対象に対して、公私混同も甚だしい。
全然結婚の気配もなく、仕事ばかりで顔も見せに帰ってもこないと思っていたら、いきなり何だ。それに後継はどうする気だ、全く。」
「陛下には報告済みだ。今度祝いの品を送ると喜ばれていた。それに、ヴァング家は後継は一番優秀で強い者が継くはずだ。俺じゃなくてもいいだろ。一番下のカミュを今から鍛えればいい。」
「お前が一番優秀だから言ってるんだろう。何、上官飛ばして直接報告してるんだ。カイル、お前、確信犯だろ。」
「今日は私用で来たんだ。上官としての苦言なら明日王宮で聞く。」
「勝手なこと言うな!」
睨み合いながら、言い争う2人に口を挟む隙もなく、身を縮めて黙って見守るしかない。
「あなた。」
静観していたお母さんが口を開いた。大きな声ではなかったが、2人がぴたりと言い合いをやめた。
お母さんに近くにくるよう言われ、立ち上がって側に行く。その瞳は深い青色でカイルさんの瞳はお母さん譲りだったんだ。思わず笑顔になった僕の両手をそっと取られる。
「ハルカくん、あなたのこと色々聞いたわ。つらい思いをしたわね。」
柔らかな声で優しく言われ、お母さんを思い出す。僕のお母さんは元気な人でカイルさんのお母さんとはイメージはぜんぜん違うけど。忙しい仕事をこなしながら、僕たち兄弟には厳しくも温かな人だった。浮かびかけた涙を堪えて、笑顔を作る。
「いえ、いつもカイルさんが護ってくれましたから。」
「そう。それで、ハルカくん、あなたはカイルでいいの?」
「はい。こんな僕ですが、一緒にいたいと思います。許してくれますか?」
3人の視線を感じながら、カイルさんのお母さんの顔をまっすぐ見て、自分の気持ちを伝えた。
「ハルカ……。」
カイルさんが嬉しそうに小さな声をもらした。カイルさんのお母さんは、しばらく僕の顔をみつめて、ふわりと微笑んだ。
「私のこと、本当のお母さんだと思って遠慮なく接してね。」
「ララーナ!」
将軍さんが咎めるように小さく呼んだけれど、お母さんはにっこりしたままだった。
「ハルカくん、もし嫌じゃなかったら、お母さんって呼んでみて。」
こんな上品な人をお母さんと呼ぶのは気がひける。それに、お母さんと呼ぶのは、僕のお母さんだけにしたい気持ちがする。でも、僕を思ってくれるその気持ちは、とても温かで。
「えっと、…お母様?あの、僕のことも、くんはいりま…。」
最後までいい終わらないうちに、お母様の胸にぎゅっと抱き込まれた。
「かわいい!」
「母さん!」
何が起きたか分からないうちに、あっという間にカイルさんの腕の中に移動していた。向かいのソファにもどって、横抱きにカイルさんの膝の上に座らされる。
「こんなカイルを見れるなんてね。ふふふ。心の狭い男性は愛想をつかされますよ。」
お母様は可笑しそうに笑った。
「あなた、こんなカイルの姿を見たら何も言えないのではなくて?」
将軍さんはどかりと、お母様の隣に腰を下ろした。はぁ、と大きなため息を吐く。
「最初にカイルの様子を見た時から、こうなるのはもう分かってたんだ。あんな無自覚に甘い顔してる息子を見るなんてな。」
ーカイルさん、下ろして。ダメだ。お行儀悪いし、恥ずかしいから。ダメだ。
「話を聞け!」
将軍さんが独り言みたいに言ってたから、こっそり膝から降りようとしていたら、怒られました。
カイルさんのせいです。
カイルさんとお父さんのお休みが合ったある秋の日、ここ、カイルさんの実家に連れこられた。
マリアさんに嬉々としていつもよりいい服を着せられ、襟元のリボンタイは蝶々結びに形を整えられた。七五三か……、と突っ込む余裕もない。屋敷の皆に温かく見守られて出てきたけど、緊張感は増すばかりだ。
「そんなに緊張しなくていい。何も心配いらないから。」
カイルさんが腰を屈め、目線を合わせてクスリと笑ってそう言ってくれる。
応接間に通されると、そこには王宮で会った将軍さんと、ミルクティ色の長い髪を一つにまとめ、柔らかい表情のきれいな女の人がいた。
カイルさんに促されて、大きなソファに並んで腰を下ろす。
「母さん、ご無沙汰してます。彼が話していたハルカです。ハルカ、両親だ。」
物凄く簡単にカイルさんが紹介してくれる。対角の1人がけソファにいる将軍さんはお父さんだったのか。
「相川遥です。はじめまして。」
ぺこりとお辞儀をすると、お母さんににっこり微笑まれる。そこに厳しい声が飛んだ。
「私は認めないぞ。」
将軍さんが怖い顔で眉間にしわを寄せていた。僕は思わず体を竦ませた。
「大体、どう陛下に説明するんだ。保護してました、一緒になりますって。保護対象に対して、公私混同も甚だしい。
全然結婚の気配もなく、仕事ばかりで顔も見せに帰ってもこないと思っていたら、いきなり何だ。それに後継はどうする気だ、全く。」
「陛下には報告済みだ。今度祝いの品を送ると喜ばれていた。それに、ヴァング家は後継は一番優秀で強い者が継くはずだ。俺じゃなくてもいいだろ。一番下のカミュを今から鍛えればいい。」
「お前が一番優秀だから言ってるんだろう。何、上官飛ばして直接報告してるんだ。カイル、お前、確信犯だろ。」
「今日は私用で来たんだ。上官としての苦言なら明日王宮で聞く。」
「勝手なこと言うな!」
睨み合いながら、言い争う2人に口を挟む隙もなく、身を縮めて黙って見守るしかない。
「あなた。」
静観していたお母さんが口を開いた。大きな声ではなかったが、2人がぴたりと言い合いをやめた。
お母さんに近くにくるよう言われ、立ち上がって側に行く。その瞳は深い青色でカイルさんの瞳はお母さん譲りだったんだ。思わず笑顔になった僕の両手をそっと取られる。
「ハルカくん、あなたのこと色々聞いたわ。つらい思いをしたわね。」
柔らかな声で優しく言われ、お母さんを思い出す。僕のお母さんは元気な人でカイルさんのお母さんとはイメージはぜんぜん違うけど。忙しい仕事をこなしながら、僕たち兄弟には厳しくも温かな人だった。浮かびかけた涙を堪えて、笑顔を作る。
「いえ、いつもカイルさんが護ってくれましたから。」
「そう。それで、ハルカくん、あなたはカイルでいいの?」
「はい。こんな僕ですが、一緒にいたいと思います。許してくれますか?」
3人の視線を感じながら、カイルさんのお母さんの顔をまっすぐ見て、自分の気持ちを伝えた。
「ハルカ……。」
カイルさんが嬉しそうに小さな声をもらした。カイルさんのお母さんは、しばらく僕の顔をみつめて、ふわりと微笑んだ。
「私のこと、本当のお母さんだと思って遠慮なく接してね。」
「ララーナ!」
将軍さんが咎めるように小さく呼んだけれど、お母さんはにっこりしたままだった。
「ハルカくん、もし嫌じゃなかったら、お母さんって呼んでみて。」
こんな上品な人をお母さんと呼ぶのは気がひける。それに、お母さんと呼ぶのは、僕のお母さんだけにしたい気持ちがする。でも、僕を思ってくれるその気持ちは、とても温かで。
「えっと、…お母様?あの、僕のことも、くんはいりま…。」
最後までいい終わらないうちに、お母様の胸にぎゅっと抱き込まれた。
「かわいい!」
「母さん!」
何が起きたか分からないうちに、あっという間にカイルさんの腕の中に移動していた。向かいのソファにもどって、横抱きにカイルさんの膝の上に座らされる。
「こんなカイルを見れるなんてね。ふふふ。心の狭い男性は愛想をつかされますよ。」
お母様は可笑しそうに笑った。
「あなた、こんなカイルの姿を見たら何も言えないのではなくて?」
将軍さんはどかりと、お母様の隣に腰を下ろした。はぁ、と大きなため息を吐く。
「最初にカイルの様子を見た時から、こうなるのはもう分かってたんだ。あんな無自覚に甘い顔してる息子を見るなんてな。」
ーカイルさん、下ろして。ダメだ。お行儀悪いし、恥ずかしいから。ダメだ。
「話を聞け!」
将軍さんが独り言みたいに言ってたから、こっそり膝から降りようとしていたら、怒られました。
カイルさんのせいです。
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