🔴全話挿絵あり《堕胎告知》「オマエみたいなゴミ、産むんじゃなかった。」「テメェが勝手に産んだんだろ、ころすぞ。」🔵毎日更新18時‼️

ADPh.D.

文字の大きさ
133 / 189
第二章 藍と学校

129. 骨の姉 ・ 雷の兄 Silent Distress Signal

しおりを挟む
 ――いや、刺そうとしたのだが、その手は左手は誰かのやさしい右手によってにぎり込まれ制止された。

 アイはこの温度を知っていた。

 アイの愛する人の体温だ。

 アイはこの身体の温度とお昼寝をするのが大好きだった。

「――自殺なんてしないで、アイちゃん……アイちゃんには私が――」

 アイの背中を伝って身体に声が響く、後ろから抱きしめられている。アイの大好きなあの心臓の音像おんぞうを感じる、アイの大好きなあの温度で――!

「――きょうだい私たちがいるでしょう?」

 アイの目が見開かれる恐る恐る振り返ると、そこには居た。

 いつも、エゴペーおねえさまが……!!

 ◇◆◇

 アイは口がきけなかった。
 
 その精神は驚愕きょうがく、無力感、脱力感……安心感……そして、失望感があった。どれがいちばん大きいのかはアイにもわからなかった。
 
 そのちいさな身体は感情の濁流だくりゅうに押し潰されそうだった。身体から全ての力が解け、天へとのぼっていく。手からも力が抜け、ヘルツの短刀は徐々じょじょ霧消むしょうしていく。

 下半身とふくらはぎには土の冷たさと小石が食い込む痛みが、上半身は大好きな人の体温に包まれていた。

 混乱と安らぎのなかで、そしてまた死ねなかったという失望感と、まだ生きているという安堵感あんどかんがせめぎ合っていた。

 聖別の儀セパレーションの時は。“アイ・エレクトラーヴナ・フォン・ミルヒシュトラーセ”がには誰も来てくれなかった。

 ――だけど……今は背中に体温を感じる。

 “アイ・サクラサクラ―ノヴナ・フォン・ミルヒシュトラーセ”はまだ生きている。

 色んなこころが刹那せつなのうちに去来きょらいして、アイは苦難にあえぐ声のなかから、やっと一筋の光の言葉を放つ。

 ◇◆◇

「え……あ……お……。」

 アイの放つその言葉はいつもシュベスターに向けられていたが、今回ばかりは違った。

 エゴペーの瞳があやしく光ったあとに、愛情に溢れかえる。そうして、アイを抱きしめ直しその頬に口づけを落とす。

「……そうだよ。。エゴペーお姉様が助けに来たよ。
 
 ……もう、あんしんだからね。こわかったね。でももうお姉ちゃんがいるから、こわい人たちはお姉ちゃんがやっつけちゃうから……
 『あっちいけっ!』
 ……ってするから……安心してね。」

 アイはうまれてからずっと、シュベスターのことを“おねえさま”、エゴペーのことを“エゴおねえさま”と呼んでいた。

 しかし、今回ばかりは違った。

「……おねえ、さま。おねえさまは病でお身体が……。」

 アイの曇天どんてんを晴らすような明るい声でエゴペーが言う。

「……だいじょーぶ!弟を護る時のおねえちゃんは……世界でいちばん強いのだぁ~!」

 奇しくも教会でシュベスターにも言われた言葉だった。しかしアイは同じ言葉でも何かが違う気がした。

 アイとエゴペーの前で先ほどかげろうに打ち倒された忠実なる騎士ロイヤル・ナイトが静かに起き上がる。

「……ゲホっ゙……あんな程度で、新生ロイヤル帝国の騎士ナイトたおれない……!
 ……喰らえぇ……!!」

 忠実なる騎士ロイヤル・ナイトは雷でできた槍を顕現けんげんさせてアイに向かって振り被る。

「――それに……アイちゃんには私以外にも頼れるきょうだいがいるでしょう……?」

「……?」

 ――それは迅雷だった。

 稲妻のように走り、雷のように落ちた。

 アイの目の前で……。

 それはまるでかつての“雷神エレクトラ”の様だった。

 それは忠実なる騎士ロイヤル・ナイトの胸を貫き、バチバチと音を立てながら次第しだいに人の形を持った。

 アイがまばたきをすると、迅雷はゲアーターの姿となり、敵の心臓を鷲掴わしづかみにしていた。

「……じゃあなぁ……阿呆あほうが……。」

 心臓握り潰された忠実なる騎士ロイヤル・ナイトは倒れ込み……その場で絶命した……。

 ◇◆◇

 ごみを見るような瞳をしていたゲアーターは一変、快活かいかつな笑顔でアイを振り返る。

「ようアイ……一晩中随分ずいぶんと無茶したみてぇだなぁ……。」

「おにい、さま。」

 そしてアイの頭を無遠慮にグリグリと撫でつける。
 
「……だが、よく頑張ったな。……!」

 アイは泣きそうになった。今までの1度だって人前で泣いたことなんかなかったのに、今夜は何度泣かされれば気がすむのか……。

 ――だが、。理由は分からないが、ザミールともの前では泣けたのに、のだ。

 ……それが何故なぜか、この時のアイにはまだ分からからなかった。

 背中に姉のやさしい体温を感じ、頭にはやさしい兄の手。

 アイは先刻さっきまで、此処ここ地獄ちきゅうだ、と思っていたが……今では此処ここ文学界リテラチュアの上の天国にさえ思える。

「……エゴペー、アイのことは頼んだ。あと雑魚共ざこどもの処理も。……俺は忠実なる騎士ロイヤル・ナイト達を殺す。」

「りょーかい!おにーちゃん!……ふぅぅ――」

 《――遺骨オステオン憤怒イーラ……。》

 エゴペーが自らの背に顕現けんげんさせた骨の翼を地面に刺す。すると、はるひとかげろうが戦っていた雑兵の人々の身体を、地面から飛び出してきた骨が突き刺していく。

 皆が串刺しになっていくその光景に恐れをなし、武器を捨て遁走とんそうする者もいたが、骨は誰一人として逃がしはしない。皆が逃げまどい、悲鳴を上げるが、エゴペーの人骨じんこつは無慈悲に一人、また一人と全員を散華させていく。

 ――その間を迅雷がった――!

 れはザミールと対峙していた三人の忠実なる騎士ロイヤル・ナイトに向かって地面の其処そこ此処ここえぐりながら走り、彼等に直撃した。

「……グッ……!!」

「“雷霆らいてい”のゲアーター・ミルヒシュトラーセ……!!」

「何故キサマが此処ここに!!……キサマは最前線に……!!」

 ◇◆◇

「アンタぁ……誰や?」

 エゴペーの後ろにいつまにか、アガ・ハナシュがユラリと立っていた。

「……アナタこそ誰よ?そんなに殺気を向けられてたら、落ち着いて話もできないわよ。」

 エゴペーが毅然きぜんとして返す。

「ウチはアンタが抱えてる……ソコの糞餓鬼くそがきに用があるだけや……!
 『アイ・ミルヒシュトラーセを殺す。』
 それがウチの目的や……!!アンタの目的は!?邪魔ぁするんやったら……死ね!!」

 ハナシュが怒りをあらわに、
 『アイ・ミルヒシュトラーセを“鹵獲”せよ。』
 という任務も忘れて、アイ憎しで“殺そう”とする。

 ◇◆◇

 エゴペー・エレクトラーヴナ・フォン・ミルヒシュトラーセの存在はあまりおおやけさらされていない。

 ――まず“妊娠能力の極めて低い獣神体アニムスの女”であるエレクトラと“妊娠できないノーマルの男”であるオイディプスとの間で、幸運にも子をすことに成功した。

 このゲアーター・ミルヒシュトラーセが産まれたことで一旦は、
 『なぜ繁殖能力の高い人間体アニマではなく、ノーマルであるオイディプスを選んだのか。』
 という辺境伯派へんきょうはくは内外からのそしりは減った。

 しかし、その後第二子を望めないことから、オイディプスを責める声が高まった……“雷神エレクトラ”を誘惑ゆうわくし、堕落だらくさせたノーマルの男だと。

 エレクトラは自分がどれだけオイディプスを選んだ事を責められてきても、いくらでも我慢できた。しかし自分の決断のせいで愛するオイディプスおっとが責められるのには耐えられなかった。

 そこで、最前線に置くように一人、国防を担うために中枢に一人……欲を言えば、誰かが政敵せいてきに暗殺されたり、夭折ようせつした時のためにとしてもう一人……と望む声が大きかった。

 しかし、『獣神体アニムスとノーマルの場合、子供はしかできない、だ。』と言われている。

 ……そこでエレクトラは人生で最悪の……文学界リテラチュアで最悪の決断をする――。

 オイディプスを子供が作れないと言うそしりから護るために、オイディプスと人間体アニマで子供を作らせようと考えたのだ。

 そして、相手として選ばれたのが、稀代のうつくしさで“地獄パンドラに咲く桜”との呼び声高い、サクラ・マグダレーナ……マグダラのサクラだった……。

 ……エレクトラがノーマルの男を選んだのも、この最低最悪の決断をしたのも……全てはオイディプスを愛していたからだった――。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...