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第三章 iと姉
173. 愛なる姉の骨 Останки любимой сестры
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いつからか、手を握る役割が逆転した。私がアイを安心させるために握っていた手が、いつの間にか、私の安らぎになっていた。病の夜、熱にうなされるとき、アイの小さな手が、私の指に絡まる。
「おねえさま……もう泣かないで。」
四歳の声が、私の孤独を溶かす。母様の冷たさが、私たちを遠ざけたからこそ、私たちは近づいた。同じ血が、こんなにも強い絆を生むなんて。
今、膝の上に成長した五歳のアイを抱き、手を握られながら眠る。サファイアの瞳は閉じられ、夜空のような黒髪が私の肩に落ちている。母様の冷たさは、遠い過去の影。アイの温もりが、私を満たす。
――母様は優しくなかった。でも、私たちは優しくなれた。
◇◆◇
ランプの灯りが、ゆらゆらと揺れる。エゴペーの寝顔は、安らかだ。アイは、握った手を離さない。 ただ、穏やかな寝顔を、いつまでも眺めていた。
――エゴおねえさま、ありがとう。
心の中で、アイは呟く。
お母様の代わりに、ずっと、愛してくれて。
◇◆◇
中庭の陽光は午後の柔らかな傾きを帯びて芝生に優しい影を落としていた。わたくしはエゴおねえさまの手を握り軽やかに駆け寄る。
今日エゴおねえさまがわたくしに骨の心を教えてくださると聞いたとき心が跳ね上がった。エゴおねえさまと一緒に遊べる。そんな喜びが胸いっぱいに広がる。エゴおねえさまの病が治った今こんな時間が持てるなんて夢のようだ。
「エゴおねえさま。早く教えてください。わたくし骨の心がどんなものか楽しみです。」
わたくしは無邪気に笑いおねえさまの袖を引く。エゴおねえさまは優しく微笑んでわたくしの頭を撫でてくださった。その手はいつも通り優しくわたくしは嬉しくてたまらない。おねえさまの栗色の髪が風に揺れて太陽のように輝く。
「そうねアイちゃん。じゃあまずは座りましょうか。」
エゴおねえさまは芝生に腰を下ろしわたくしを隣に座らせる。中庭は静かで桜の花びらが時折舞い落ちる。遠くで鳥の声が聞こえる。おねえさまの横顔は穏やかでわたくしは安心する。きっと今日も楽しい一日だ。
「骨の心は感情を物質に変える力よ。アイちゃんも知ってるわよね。」
「はい。わたくし心のこと少しだけ知っています。おにいさまの雷とかおねえさまの氷とかそういうのと同じですけど……骨はなんだか特別ですよね?」
エゴおねえさまは頷き目を細めてわたくしを見る。その瞳が優しく輝く。わたくしはおねえさまの笑顔に胸が温かくなる。
「ええ骨の心は守るための力。でも使いすぎると身体に負担がかかるの。だから慎重にね。」
エゴおねえさまの声は低く優しい。わたくしはただエゴおねえさまの優しさに包まれる。おねえさまと遊べる喜びがすべてだ。
「まずは感情から骨を表すところからよ。心を集中させて想像するの。骨は強い意志から生まれるわ。」
エゴおねえさまは手を広げ目を閉じる。わたくしは息を呑んで見つめる。エゴおねえさまの指先から白い光が淡く漏れゆっくりと形を成す。とても小さな骨の欠片が空気中に出現した。それは鳥の翼の骨のように細く美しい。
「わあ。すごいですエゴおねえさま。無から出てきた。」
わたくしは手を叩き無邪気に喜ぶ。エゴおねえさまは笑って骨をわたくしの掌に置く。冷たく硬い感触。でもおねえさまの温かみが残っている気がして嬉しい。
「そうよ無から表すの。自分の身体を使わずに心だけで生み出すのよ。アイちゃんも試してみて。」
エゴおねえさまの言葉にわたくしは頷く。目を閉じ集中する。心を想像する。感情を物質に。でも何も起きない。わたくしは目を開け首を傾げる。
「うーんできないです。」
エゴおねえさまはくすくす笑う。その笑顔は明るくわたくしも一緒に笑いたくなる。
「大丈夫よ最初はみんなそう。もう一度おねえちゃんと一緒に。」
エゴおねえさまはわたくしの手を握りもう一度目を閉じる。エゴおねえさまと一緒に心を学べるなんて楽しい。わたくしは喜びに満ちて集中する。
「想像して。骨は守るためのもの。強い気持ちを形に。護りたいものを考えて。」
――わたくしが今護りたいもの……それは“エゴおねえさま”だ。
エゴおねえさまの声がわたくしの心に響く。おねえさまの心が伝わってくるような気がした。すると掌に小さな光が。小さな骨の欠片が現れた。
「できた。エゴおねえさまできましたよ。」
わたくしは跳ね上がりおねえさまに抱きつく。エゴおねえさまはわたくしを抱き返し優しく笑う。エゴおねえさまの笑顔がすべてだ。
「よくできたわアイちゃん。これが無から表す骨よ。自分の身体を使わずにね。」
エゴおねえさまは強調して言う。わたくしは頷く。エゴおねえさまの骨の心は特別だ。林間学校襲撃事件の際に助けて頂いた際は、自分の身体を変化させているように見えた……すごい。
「もっと練習しましょう。エゴおねえさま次はどんな形にしましょうか。」
わたくしは無邪気に提案する。エゴおねえさまは微笑む。栗色の髪が風に揺れる。
「そうねじゃあ盾みたいな骨を作ってみましょうか。」
おねえさまはもう一度手を広げる。光が集まり平らな骨の板が現れる。それは透明に近い白で美しい。おねえさまは笑顔を崩さない。
「これで守れるわ。」
わたくしは目を輝かせ真似する。小さな盾の骨がわたくしの掌に。エゴおねえさまとわたくしの骨が並ぶ。中庭の陽光がそれらを照らす。わたくしは喜びに夢中だ。
「おねえさま楽しいです。もっともっと教えてください。」
練習は続く。おねえさまは無から骨を表し続ける。剣の形輪の形様々な骨。わたくしは喜び追いつこうとする。おねえさまは止まらない。わたくしのためと微笑む。
「アイちゃん心は愛から生まれるわ。大切な人を守る気持ちから。」
おねえさまの言葉が心に染みる。わたくしはエゴおねえさまを守りたいと思う。エゴおねえさまの笑顔が続けばいいなと。
陽が傾くまでわたくしたちは遊ぶ。わたくしはただ喜びに満ちる。エゴおねえさまの息遣いがわずかに浅くなろうとも額に薄い汗が浮かぼうとも指先が微かに震えようともわたくしはその時気づかなかった。
おねえさまの笑顔が優しくすべてを覆う。今にして静かに察するおねえさまのご無理を。おねえさまは無から骨を表し続ける。自分の体を傷つけることなく骨の心を顕現させる方法をわたくしに教えるために。
……実際には骨の心がほとんど使えないおねえさまが自分の骨を変化させて無理をしていることを悟られないよう細心の注意を払いながら。
――あの頃のわたくしは本当に何も知らなかった。
◇◆◇
夕陽がゆっくりと沈みゆく公園のベンチ。オレンジ色の光が木々の葉を透かし、二人の影を長く地面に伸ばしている。
アイはエゴペーの肩にそっと寄りかかり、エゴペーはアイの細い手を両手で包み込むように握っていた。そよ風が優しく通り過ぎ、二人の髪を軽く揺らす。アイは小さく息を吐いて、甘えた声で言った。
「エゴおねえさま、今日もお疲れさまでした。仕事からお帰りになってすぐ、わたくしの大好きなメニューを作ってくださって……本当にありがとうございます。デザートのチョコレートケーキまで焼いてくださっていたなんて、びっくりしました。甘いものが好きなわたくしのために、たっぷりと甘く作ってくださったのも、ちゃんとわかっておりますから。」
エゴペーは静かに微笑み、アイの手を少し強く握り返した。
「当然のことよ、アイちゃん。私がアイちゃんの喜ぶ顔を見られるだけで、疲れなんて全部消えてしまうわ。……体調はどう? 最近、夜遅くまでお学業に訓練に……無理してない? ちゃんと寝てるの?」
「ええ、大丈夫です。エゴおねえさまがいらっしゃるから、わたくし頑張れるんです。おねえさまがいらっしゃらなかったら、わたくし、きっと一人でへこたれてしまっていたと思います。
この中庭、初めて一緒に来た日のことを思い出します。あの頃はお互い少しぎこちなくて、ベンチに座るのもためらっておりましたのに……今はこうして自然に寄りかかっていられる。幸せです、エゴおねえさま。」
エゴペーの瞳が優しく細まる。
「おねえちゃんもよ。アイちゃんの笑顔が、私の全部なんだから。」
少しだけ間を置いて、エゴペーは視線を夕陽の方へ移した。
「でも……時々考えるの。このままで本当にいいのかしらって。外の世界はどんどん変わっていくわ。アイちゃんの過去の影が、ふと夜に蘇ることもあるでしょう? おねえちゃんは守りたいのに、自分の力じゃ足りないんじゃないかって……怖くなる時があるの。」
アイはエゴペーの言葉に、そっと首を振った。そしておねえさまの頬に自分の手を重ねる。
「そんなお顔なさらないでください。エゴおねえさまがそばにいてくださるだけで、わたくしの中の影は薄くなっていくんです。おねえさまの思いやりが、わたくしをちゃんと照らしてくださる。
ほら、夕陽をご覧になってください。とてもきれいです。ずっと一緒にいられれば、何が来ても乗り越えられます……きっと大丈夫です。」
エゴペーはアイの頭を優しく撫で、静かに頷いた。だが、その瞳の奥に、ほんの一瞬、深い闇が揺れた。
「そうね。……でも、もし本当に何かが起きたら、おねえちゃんはアイちゃんを絶対に離さない。どんな代償を払っても、アイちゃんだけは守るわ。」
アイは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかく笑った。
「わたくしもです、エゴおねえさま。
でも、そんな怖いお話は今はやめましょう。今はただ、この穏やかな時間を楽しみましょう。
明日の朝ごはん、何がよろしいかしら? 明日はわたくしが作りますわ。甘いパンケーキに、たっぷりの生クリームとベリーをのせて……エゴおねえさまも、わたくしも大好きな甘いもので。」
エゴペーも笑みを返し、アイの額に軽く唇を寄せた。
「アイちゃんの作るものなら、何でもいいわ。愛情がこもってるから、全部美味しいのよ。」
二人は静かに笑い合う。風が少し強くなり、木々がざわざわと音を立てた。遠くの街の方から、かすかに鶏の声が聞こえてくる。アイの背後で、夕闇の中に伸びる木の影が、まるで何かを掴もうとするようにゆっくりと動いた。
思いやりが深ければ深いほど、二人の間に忍び寄る不穏な気配は、静かに、しかし確実に濃くなっていく――。
「おねえさま……もう泣かないで。」
四歳の声が、私の孤独を溶かす。母様の冷たさが、私たちを遠ざけたからこそ、私たちは近づいた。同じ血が、こんなにも強い絆を生むなんて。
今、膝の上に成長した五歳のアイを抱き、手を握られながら眠る。サファイアの瞳は閉じられ、夜空のような黒髪が私の肩に落ちている。母様の冷たさは、遠い過去の影。アイの温もりが、私を満たす。
――母様は優しくなかった。でも、私たちは優しくなれた。
◇◆◇
ランプの灯りが、ゆらゆらと揺れる。エゴペーの寝顔は、安らかだ。アイは、握った手を離さない。 ただ、穏やかな寝顔を、いつまでも眺めていた。
――エゴおねえさま、ありがとう。
心の中で、アイは呟く。
お母様の代わりに、ずっと、愛してくれて。
◇◆◇
中庭の陽光は午後の柔らかな傾きを帯びて芝生に優しい影を落としていた。わたくしはエゴおねえさまの手を握り軽やかに駆け寄る。
今日エゴおねえさまがわたくしに骨の心を教えてくださると聞いたとき心が跳ね上がった。エゴおねえさまと一緒に遊べる。そんな喜びが胸いっぱいに広がる。エゴおねえさまの病が治った今こんな時間が持てるなんて夢のようだ。
「エゴおねえさま。早く教えてください。わたくし骨の心がどんなものか楽しみです。」
わたくしは無邪気に笑いおねえさまの袖を引く。エゴおねえさまは優しく微笑んでわたくしの頭を撫でてくださった。その手はいつも通り優しくわたくしは嬉しくてたまらない。おねえさまの栗色の髪が風に揺れて太陽のように輝く。
「そうねアイちゃん。じゃあまずは座りましょうか。」
エゴおねえさまは芝生に腰を下ろしわたくしを隣に座らせる。中庭は静かで桜の花びらが時折舞い落ちる。遠くで鳥の声が聞こえる。おねえさまの横顔は穏やかでわたくしは安心する。きっと今日も楽しい一日だ。
「骨の心は感情を物質に変える力よ。アイちゃんも知ってるわよね。」
「はい。わたくし心のこと少しだけ知っています。おにいさまの雷とかおねえさまの氷とかそういうのと同じですけど……骨はなんだか特別ですよね?」
エゴおねえさまは頷き目を細めてわたくしを見る。その瞳が優しく輝く。わたくしはおねえさまの笑顔に胸が温かくなる。
「ええ骨の心は守るための力。でも使いすぎると身体に負担がかかるの。だから慎重にね。」
エゴおねえさまの声は低く優しい。わたくしはただエゴおねえさまの優しさに包まれる。おねえさまと遊べる喜びがすべてだ。
「まずは感情から骨を表すところからよ。心を集中させて想像するの。骨は強い意志から生まれるわ。」
エゴおねえさまは手を広げ目を閉じる。わたくしは息を呑んで見つめる。エゴおねえさまの指先から白い光が淡く漏れゆっくりと形を成す。とても小さな骨の欠片が空気中に出現した。それは鳥の翼の骨のように細く美しい。
「わあ。すごいですエゴおねえさま。無から出てきた。」
わたくしは手を叩き無邪気に喜ぶ。エゴおねえさまは笑って骨をわたくしの掌に置く。冷たく硬い感触。でもおねえさまの温かみが残っている気がして嬉しい。
「そうよ無から表すの。自分の身体を使わずに心だけで生み出すのよ。アイちゃんも試してみて。」
エゴおねえさまの言葉にわたくしは頷く。目を閉じ集中する。心を想像する。感情を物質に。でも何も起きない。わたくしは目を開け首を傾げる。
「うーんできないです。」
エゴおねえさまはくすくす笑う。その笑顔は明るくわたくしも一緒に笑いたくなる。
「大丈夫よ最初はみんなそう。もう一度おねえちゃんと一緒に。」
エゴおねえさまはわたくしの手を握りもう一度目を閉じる。エゴおねえさまと一緒に心を学べるなんて楽しい。わたくしは喜びに満ちて集中する。
「想像して。骨は守るためのもの。強い気持ちを形に。護りたいものを考えて。」
――わたくしが今護りたいもの……それは“エゴおねえさま”だ。
エゴおねえさまの声がわたくしの心に響く。おねえさまの心が伝わってくるような気がした。すると掌に小さな光が。小さな骨の欠片が現れた。
「できた。エゴおねえさまできましたよ。」
わたくしは跳ね上がりおねえさまに抱きつく。エゴおねえさまはわたくしを抱き返し優しく笑う。エゴおねえさまの笑顔がすべてだ。
「よくできたわアイちゃん。これが無から表す骨よ。自分の身体を使わずにね。」
エゴおねえさまは強調して言う。わたくしは頷く。エゴおねえさまの骨の心は特別だ。林間学校襲撃事件の際に助けて頂いた際は、自分の身体を変化させているように見えた……すごい。
「もっと練習しましょう。エゴおねえさま次はどんな形にしましょうか。」
わたくしは無邪気に提案する。エゴおねえさまは微笑む。栗色の髪が風に揺れる。
「そうねじゃあ盾みたいな骨を作ってみましょうか。」
おねえさまはもう一度手を広げる。光が集まり平らな骨の板が現れる。それは透明に近い白で美しい。おねえさまは笑顔を崩さない。
「これで守れるわ。」
わたくしは目を輝かせ真似する。小さな盾の骨がわたくしの掌に。エゴおねえさまとわたくしの骨が並ぶ。中庭の陽光がそれらを照らす。わたくしは喜びに夢中だ。
「おねえさま楽しいです。もっともっと教えてください。」
練習は続く。おねえさまは無から骨を表し続ける。剣の形輪の形様々な骨。わたくしは喜び追いつこうとする。おねえさまは止まらない。わたくしのためと微笑む。
「アイちゃん心は愛から生まれるわ。大切な人を守る気持ちから。」
おねえさまの言葉が心に染みる。わたくしはエゴおねえさまを守りたいと思う。エゴおねえさまの笑顔が続けばいいなと。
陽が傾くまでわたくしたちは遊ぶ。わたくしはただ喜びに満ちる。エゴおねえさまの息遣いがわずかに浅くなろうとも額に薄い汗が浮かぼうとも指先が微かに震えようともわたくしはその時気づかなかった。
おねえさまの笑顔が優しくすべてを覆う。今にして静かに察するおねえさまのご無理を。おねえさまは無から骨を表し続ける。自分の体を傷つけることなく骨の心を顕現させる方法をわたくしに教えるために。
……実際には骨の心がほとんど使えないおねえさまが自分の骨を変化させて無理をしていることを悟られないよう細心の注意を払いながら。
――あの頃のわたくしは本当に何も知らなかった。
◇◆◇
夕陽がゆっくりと沈みゆく公園のベンチ。オレンジ色の光が木々の葉を透かし、二人の影を長く地面に伸ばしている。
アイはエゴペーの肩にそっと寄りかかり、エゴペーはアイの細い手を両手で包み込むように握っていた。そよ風が優しく通り過ぎ、二人の髪を軽く揺らす。アイは小さく息を吐いて、甘えた声で言った。
「エゴおねえさま、今日もお疲れさまでした。仕事からお帰りになってすぐ、わたくしの大好きなメニューを作ってくださって……本当にありがとうございます。デザートのチョコレートケーキまで焼いてくださっていたなんて、びっくりしました。甘いものが好きなわたくしのために、たっぷりと甘く作ってくださったのも、ちゃんとわかっておりますから。」
エゴペーは静かに微笑み、アイの手を少し強く握り返した。
「当然のことよ、アイちゃん。私がアイちゃんの喜ぶ顔を見られるだけで、疲れなんて全部消えてしまうわ。……体調はどう? 最近、夜遅くまでお学業に訓練に……無理してない? ちゃんと寝てるの?」
「ええ、大丈夫です。エゴおねえさまがいらっしゃるから、わたくし頑張れるんです。おねえさまがいらっしゃらなかったら、わたくし、きっと一人でへこたれてしまっていたと思います。
この中庭、初めて一緒に来た日のことを思い出します。あの頃はお互い少しぎこちなくて、ベンチに座るのもためらっておりましたのに……今はこうして自然に寄りかかっていられる。幸せです、エゴおねえさま。」
エゴペーの瞳が優しく細まる。
「おねえちゃんもよ。アイちゃんの笑顔が、私の全部なんだから。」
少しだけ間を置いて、エゴペーは視線を夕陽の方へ移した。
「でも……時々考えるの。このままで本当にいいのかしらって。外の世界はどんどん変わっていくわ。アイちゃんの過去の影が、ふと夜に蘇ることもあるでしょう? おねえちゃんは守りたいのに、自分の力じゃ足りないんじゃないかって……怖くなる時があるの。」
アイはエゴペーの言葉に、そっと首を振った。そしておねえさまの頬に自分の手を重ねる。
「そんなお顔なさらないでください。エゴおねえさまがそばにいてくださるだけで、わたくしの中の影は薄くなっていくんです。おねえさまの思いやりが、わたくしをちゃんと照らしてくださる。
ほら、夕陽をご覧になってください。とてもきれいです。ずっと一緒にいられれば、何が来ても乗り越えられます……きっと大丈夫です。」
エゴペーはアイの頭を優しく撫で、静かに頷いた。だが、その瞳の奥に、ほんの一瞬、深い闇が揺れた。
「そうね。……でも、もし本当に何かが起きたら、おねえちゃんはアイちゃんを絶対に離さない。どんな代償を払っても、アイちゃんだけは守るわ。」
アイは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかく笑った。
「わたくしもです、エゴおねえさま。
でも、そんな怖いお話は今はやめましょう。今はただ、この穏やかな時間を楽しみましょう。
明日の朝ごはん、何がよろしいかしら? 明日はわたくしが作りますわ。甘いパンケーキに、たっぷりの生クリームとベリーをのせて……エゴおねえさまも、わたくしも大好きな甘いもので。」
エゴペーも笑みを返し、アイの額に軽く唇を寄せた。
「アイちゃんの作るものなら、何でもいいわ。愛情がこもってるから、全部美味しいのよ。」
二人は静かに笑い合う。風が少し強くなり、木々がざわざわと音を立てた。遠くの街の方から、かすかに鶏の声が聞こえてくる。アイの背後で、夕闇の中に伸びる木の影が、まるで何かを掴もうとするようにゆっくりと動いた。
思いやりが深ければ深いほど、二人の間に忍び寄る不穏な気配は、静かに、しかし確実に濃くなっていく――。
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