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第二章 藍と学校

37. いやなヤツは、常にいやなヤツでいてくれよ。 Life is not a Fairy Tale.

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 最近幸せだな~。アイちゃんと話せるし、アイちゃんのおかげでイジリいじめもなくなったし!いや~こんなに学園生活が楽しくなるなんてな~!まぁ謎に陽炎陽炎ようえんかげろう様や春日春日かすがはるひ威嚇いかくされることはあるけど……多分あの2人アイちゃんのことが好きなんだろうな。

 ……分かってる。不知火陽炎連合の陽炎陽炎ようえんかげろうがきっとアイちゃんとはお似合いで、僕なんかはただのクラスメイトだってこと。アイちゃんは誰にでもやさしいからこんな僕にも声をかけてくれるけど。……でも、ほんとうにそれでいいのか……?わからない……。
 
 ん……なんだ……?人間体アニマ用トイレの方から声がする……。人間体アニマだってバレるからほとんど誰も使わないのに。何か、言い争ってる?……僕には関係ない、関係ない、けど。もし人間体アニマが僕みたいに虐められているなら、獣神体アニムスの自分が助けないと……!じゃなきゃ獣神体アニムス失格だ!

 ――……え?

「アイちゃん……?何をしているの……?」

 ◇◆◇

 座り込む人間体アニマであろう男子生徒、辺りには彼の私物であろう物が散乱している。いや、そんなことはどうでもよくて、俺が知りたいのはそんなことじゃなくて。

「アイちゃん……なんでその人をヘルツてで拘束しているの?人間体アニマ獣神体アニムスヘルツなんかに耐えられるわけ、ないじゃないか。」

 アイちゃんはとても驚いた顔で僕を見ていたが、決して拘束を解こうとはしなかった。そして、いつもの天使のような微笑みで、こう、言ったのだ。

「あら……見つかっちゃいましたね。御機嫌よう、クレくん。今、この不届きな人間体アニマをわたくしの懲罰室へ連行するところです。
 ……通して、頂けますか?」

 その黒い姿には聞き覚えがあった。……人間体アニマ潰しだ。ちがう、アイちゃんはそんなことは言わない、そんな酷いこと、しない。アイちゃんは――

「何やってるんだよ、アイちゃんは、そんな人じゃない、でしょ?アイちゃんが噂の人間体アニマ潰しの正体だったなんて……違うって言ってよ!!」

 アイちゃんがピクリと反応する。

「ご期待に添えず、大変申し訳ありません。ですが、わたくしこそが、人間体アニマを憎み、追い詰め、潰す……獣神体至上主義委員会アニムス・クランが長、人間体アニマ潰し、その人です。」

 視界が暗くなる、足元が揺れる。太陽は、太陽じゃなかった。天使は、天使じゃなかった。彼女は……黒い太陽だったんだ。

「でもなんで!いつも人間体アニマにもノーマルにもやさしいアイちゃんが!なんでそんなことしてるんだよ!!何か理由があるんでしょ……?ミルヒシュトラーセ家の人間には無理やりやらされてるとか!シュベスター様に脅されて仕方なくとかっ!!」

 シュベスター様の名前を出したとき、それまで平静を装っていたアイちゃんの表情が曇った気がした。……まだ良心があるのかも。

「違います。おねえさまを悪く言うのは、いくら、貴方でも許しませんよ。この件におねえさまは一切関わっていません。彼女はわたくしなんぞとは違い、真に強く、やさしい人です。」

 声色が変わった。こんなにおそろしいアイちゃんの声を聞いたのは初めてだった。

獣神体至上主義委員会アニムス・クランの行う、人間体アニマへの懲罰は、わたくしの一存いちぞんで決めたことです。おねえさまやエレクトラ様は関係がありません。ただ、わたくしの勝手な意思で行っているのです。」

 ――うそだ。信じられない。信じたくない。アイちゃんが僕を虐めてたアイツラと同じ人種だってことが。好きな人が、僕がこの世でいちばん嫌う虐めコトをする人だなんて。

「クレくん……貴方も獣神体アニムスですが……絶対に勝手な人間体アニマへの私刑は行わないように。それは全て獣神体至上主義委員会アニムス・クランの役目なので。わたくしの……役目なので。」

 怯えきった、人間体アニマの生徒をヘルツで引きりながら、横を通り過ぎるアイちゃん……いや、アイ。

「黙れ。僕が!ずっと虐められてきた僕が!そんなことをするわけがないだろうが!!見損なったぞ!アイ・ミルヒシュトラーセ!オマエは僕がいちばん嫌いな人種と同じだ。ヘラヘラわらいながら人を傷つけることを平気でする!これくらいイジリだろって言いながら!みんな楽しんでるんだから空気を読めよと言いながら!そう言いながら弱者を虐める!もっとも品性下劣な輩だ!!……もう、オマエのことは友とは思わない。!二度と僕に話しかけるな!関わるな!!そして……その人を離せ!!」

 そう言うと、ミルヒシュトラーセは少しかなしそうな顔をしたような気がしたが、ほんの少し微笑んだようでもあった。

「……そのこころを忘れないように。よかったな人間体アニマ。この無謀で恐れ知らずの獣神体アニムスに免じて、今日のところは見逃してやる。だが、人間体アニマ潰しの恐ろしさ……努々ゆめゆめ忘れることのないように……。」

 そう言い捨てると、ミルヒシュトラーセはトイレから出ていった。一度も振り返ることもなく。

 ◇◆◇

 アイは嬉しかった。ほんとうにうれしかった。自分以外にもああやって人間体アニマを守ろうとする人間がいたことが。ミルヒシュトラーセ家の獣神体アニムスという、強大な相手にも立ち向かってまで、弱きを助けをようとする人がいることが。それが自分の友だということが。
 
 だから、アイは哀しかった。ほんとうにかなしかった。そんな友に見放されてしまったことが。ほんとうはわたくしも同じ志を持つ者だと言って抱き合いたかった。抱擁で友情を確かめ合いたかった。人に嫌われるのも、憎まれるのも両親でなれているはずなのに。もっとちいさい頃からなれているはずなのに。何度経験しても、アイのこころは新鮮に血を流すのだった。まるで流せなくなったアイの涙の代わりだとでも言うように。

 ◇◆◇

 アイとクレジェンテが決別したことは傍目はために明らかだったが、またクレジェンテをいじろういじめようとする者は居なかった。それが起こりそうになるたびに、対立しているはずのアイが、クレジェンテを庇ったのだ。クラスメイトはわけが分からなかった。ただ、天使のようにやさしいアイは、たといたもとを分かったとしても、その相手が傷つけられるのは見たくないという、高潔な思想の持ち主なのだろうと皆が考えるようになった。
 ……唯一人を除いて。


 
 クレジェンテだった。彼はアイに庇われるたびに、無さと怒りが沸き立つのを抑えられなかった。が許せなかった。どうせなら邪智暴虐じゃちぼうぎゃくやからであってほしかった。

 ◇◆◇

 ――なんでだよ!なんで友達には、仲のいい人にはやさしくできるくせに!家族には笑いかけられるクセになんで!!それが、暗い人、うまく人と話せない人、自分とは別の性別の人になった途端、家畜を扱うように扱えるんだよ!!ふざけんな!馬鹿にしてるから?言い返してこないから?大人しいから?いじられキャラだから?なんとなく気に食わないから??見ててキモいから???コイツはだから!!!ふざけんな!ふざけるのも大概にしろよ……。虐めてもいいやつなんてこの世にいるわけないだろうが!!なんで自分の友達や家族には向けるやさしさのちょっとでも、ほんのちょっとでも、虐げられた人々にやさしくできない?!やさしくしない!?それだけでいいのに。目の前のこの人にも、愛してる家族がいて、心配してくれる友達が、自分と同じ様にいるってことになんで気がつけない?!ちょっとの想像力でいいのに。人とうまく話せないのは、今までつらい経験をしてきたからなのかなとか。暗いのは人生に希望が持てないからなのかなとか。なにかかなしいことがあったのかとか。なんで考えてやれない……?なんで自分の周りにいる人には優しくするくせに!心配するくせに!!その人の為に泣いたりするくせに!!!なんで、よく知らないってだけで人を泣かせられる?馬鹿にできる?!それがどんなにつらいことか知ってるくせに!!その人が虐められて泣いていたら、心を痛めて泣く人がいるってことが、こんなに簡単なことがなんでわからない?目の前の人が、自分と同じこころのある人間だってことが!!その人にも家族がいるってことが!!なんでわからないんだよ……。それだけでいいのに、家族に、友達に向けるやさしさのほんの一欠片でいいのに……。その一欠片を他人に向けるだけでいいのに……。それだけなのに……。なんで……。

 ◇◆◇
 
 クレジェンテはアイが獣神体アニムスである自分や、友達のノーマルには優しくするくせに、見ず知らずの人間体アニマは虐げるのが我慢ならなかった。。でも。物語の中のように悪役は悪役でいてくれたら憎めるのに、善人は善人だったら愛せるのに。この現実の不合理が許せなかった。この世界の不条理が許せなかった。

 ――しかし、交流を深めるために、毎年1年生だけで行く、林間学校で状況は一変することになる。
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