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第二章 藍と学校

36. ちいさな聖母とおおきな愛娘 The Little Virgin and the Big Beloved Daughter

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「ラアル、さま……撤回してください。アルちゃんを馬鹿にしたことを……!アルちゃんはわたくしの、大切なお友だちなのです……!」

 ……友とそれがぶつかった時に、躊躇なくそれを捨てる人間だった。……それを捨てたことがある人間だった、聖別の儀セパレーションのあの日に。

 そのせいで、母から堕胎告知を受けても、アニマ・アニマになって多くを失っても、友が侮辱されたのなら、友が助けを求めているのなら、友が泣いているのなら……自分の恐れなんぞ躊躇ちゅうちょ泣く投げ棄てる人間だった。



「アルちゃんに謝ってください……!ラアルさま……!」

 その声は震え怯えきっていたが、ラアルの心を切り裂くには十分だった。

「な、んで……。なんで、よ……。アイ……?」

 アイのサファイアの眼に見つめられて、ラアルのルビーの瞳が、揺れる。

「私より、あの娘の方が大事だっていうの!?私はうつくしいのに!私は偉いのに!わた、しは……おうぞく……なの、に。」

 王族だからという理由で人間扱いされなかった経験から、それにすがるしかないラアル。

「違います。どっちが大事とかそういう話ではありません。。ただ……わたくしのお友だちを侮辱したことを謝ってくださいといっているだけです。」

 ――王族であることが、関係ない?そんなわけない、だからみんな私を変な目で見るのに。

「何を言っているの?関係大ありよ……だってんだから……だからみんな、私たちには何を言ってもいいと思っているんでしょう!?この辺境伯派の学校に来て!私に罵詈雑言ばりぞうごんを並べ立てる音を聞かなかったと思う!?」

 かつてお友だちに言われてほんとうに嫌だったことを今度は自分自身に言う。だがアイは――

「関係ありません。何人かに酷いことを言われたからって、その人たちが所属するグループのすべての人を恨むのはお門違かどちがいです。悪いのは、酷いことをした人たちです。他の人は関係ありません。
 
 そうでなければ、王族以外の人間に酷いことをされたら、この国の王家の人間以外の全国民を憎まないといけなくなります。そして最後には〝人間嫌いミザントロープ〟になってしまうでしょう。それは、この国を治める人の考え方としては、あまりに哀しすぎます。
 
 人を憎み続けるにも気力がいります、こころがすり減ります。疲れてしまいます。だって王家の人間だって、王女さまだって、……。こころが、あるんですから。」

 アイは“わたくしたち”と変わらないではなく、“みんな”と変わらないと言うしかなかった。自分は、の中には一生涯入れないと知っていたからだ。どれほど望んでも。

「アイ……。」
「……アイちゃん様。」

 アイはそっと、自分より随分と大きいラアルの右手を、ちいさな両の手で支え、静かに自分の胸に当てさせた。

「感じますか……ラアルさま、ここにわたくしの、こころがあります。」

 自分を狙う猛獣の爪を、自分の最大の弱点がある位置に持っていくというのは、普通はあり得ないことだった。それだけで、アイがどれほどラアルにこころを預けているか、ラアルには、しっかり、伝わった。
 
「……ええ、感じるわ。貴女のこころのあたたかさをこの右手でしっかりと……。」

ラアルの目が獲物を見定める獣神体アニムスのものから、友を見遣る、人間のものに戻っていた。

 厳しい表情していた先ほどとはうってかわって、幼子をさとすような慈愛に見た顔をして、アイは告げる。

「ラアルさまにもあるでしょう……?人間じゃないなんて、哀しいことは言わないでください。こころがないなんて、自分をきずつけることは言わないでください。こころこそが唯一の……〝人間の条件〟なのですから。」

 ラアルはアイの陽だまりのように柔らかなかんばせに、幼いころに自分を抱きしめてくれた、母の面影おもかげをみた。

 ――アイとお母さんは、身体つきも顔も全然違うのに、なんで……?なんでだろう……?
 
 ――ああ、そうか、ふたりともこころのそこから私を愛してくれているのね。だからこの娘に面影をみるのだわ。私を力いっぱい抱きしめてくれる、おだやかな陽光のような面影を――。

 アイの友への愛情は、ラアルが初めて王立公園に遊びに出て、母の腕の中から、甘いミルクティーとお茶菓子だけの世界から一歩踏み出し、優しさと残酷さがカフェオレのように混ぜ合わされた現実を経験したときから、ずっとつけていた仮面を溶かしていった。

 やさしいひだまりのなかで――。

「あぁ、アイ、貴女は――。」

 気づけば涙を流していた、自分よりずっとちいさい娘の胸のなかで。王族たるもの民の前で弱さを見せるんじゃないと言われて育ったのに。そのとおりに、生きてきたのに。なんでかとても心地が良かった。なんだかとってもしあわせだった。母の胸に抱かれているような、そんなあんしんな微睡まどろみがそこにはあった。アイは幼子をあやすように、やさしく鼓動のリズムでラアルの背中をたたく。まるで、ここに貴女のこころがあるよと教えるように――。

「ごめんなさいっ!貴女の友達に酷いことを言って!やっとできたほんとうのお友だちを、今度こそ喪いたくない親友を!取られると思ったの!でもそんなの勝手なワガママだったわ!許してちょうだい!ごめんなさい!」

 王族が人前で涙を流すなんてとか、辺境伯派のクラスメイトたちが見てる前なのにとか、そんなよしなしごとはどうでもよかった。ただ母にすがる幼子のようにわんわん泣いてしまった。

「ふふっ……ラアルさま、きれいなお顔がぐちゃぐちゃですよ……?よしよし……。」

「ゆるしてくれる……?」

「んー?謝る相手が違いますよね?ラアルさま?」

 いたずらっぽくアイが笑う。

「はっ!あっ貴女!デイリーライフといったわね!ごめんなさいっ!さっきは酷いことを言ったわ……。」

 ハッとなったラアルがアルタークに恥じも外聞もなく謝罪する。

「わっ!王女様が平民なんかに頭を下げないで下さいっ!心臓に悪いですからぁ!もう許しました、許しましたからっ!頭をあげて下さい!」

 パンドラ公国の王女に衆人環視しゅうじんかんしのなかで謝罪させたとあっては、何を言われるか分からないと慌ててやめさせる。

「アイ!許してもらえたわよっ!えらいっ?ねぇ!私えらいっ?」

「うふふっ!えらいですよ~!いい子ですね~!ラアルさまはっ!よしよし。」

「ふふーん!もっと褒めたたえてもいいのよ!」

 じゃれついていたが、突然のアイが真剣さをそのルビーの瞳に宿す。
 
「アルちゃんもラアルさまも、わたくしにとってはとっても大切なお友だちなんです……。
 だから、ラアルさま、もしこの学校の誰かが貴女に酷いことを言ったときは、わたくしに教えてください。わたくしは友を守るためなら万難ばんなんはいして駆けつけます。
 たいせつな貴女のこころがかなしんだなら……わたくしのこころは砕け落ちてしまうのですから。」

 ラアルのこころに愛を伝うことができたのは、母と、オトメアンのオルレ以来だった。ラアルは、もしかしたら、怖がらずにちゃんと自分のこころを相手に、こんなふうに伝えられたなら、オルレともいつか仲直りできるかもしれないと、そう思った。

「分かったわっ!でもアイそれは貴女もよ!これから何があっても!何を敵に回しても!私の信仰にそむくことになったとしてもっ!生涯貴女を守ると!っ!誓うわ!」

 ラアルは跪き、アイの右手を取った。そして――

「これは誓いのキスよ……。」

 そのうつくしい純白の手に紅い唇でもって、口づけをほどこした。

「あ~!!何してるんですか!アイちゃん様のかわゆくてちいちゃなお手々にっ!」

 叫び声をあげたのは、アイではなくアルタークだった。

「なによぅ……外野がうるさいわねぇ……。」
 
「外野!?私は自他ともに認める!アイちゃん様の!いちばんの!!シンユーなんですけど!?」

「ハイハイ……分かったわよ……。じゃあアイ、そろそろ本当にお昼休みが終わるから帰るわね……。あぁ、離れがたいわ……。」

 そう言ってちいさなアイの身体をまるごと包み込むように抱擁をする。

「ふふっ……。いってらっしゃっいませ、ラアルさま。」

「そんなお嫁さんみたいにっ!うぅ~身体がくっついて離れない~。」

「はやくっ!アイちゃん様から離れてっ!自分の教室に戻って下さい!!」

「は~ぁ、今度こそほんとうまたね、アイ。休み時間になったら飛んでくるから!じゃあねぇええぇええぇえ!!」

 叫びながら遠ざかる王女殿下さま。

「ふぅ~やっとどっか行ったね……あの人。だいじょうぶ?アイちゃん様?痛いとことかない?一緒におトイレいく?」

「行きませんよっ!もう!すぐ子ども扱いするんですから、アルちゃんは。」

「だって背の低さは子どもじゃ~ん。ここだけ大人より大きいけど。」

 そう言ってどさくさに紛れてアイの胸をもむアルターク。

「きゃ!やめてください!アルちゃん!」

「ぶーぶー、さっきのアノ人には自分から触らせてたじゃん……でも、ありがとうね、。私のために王女殿下にまで怒ってくれてさ。……でももっと自分を大切にしてね?……アイちゃん様の立場は――」

 アイにしか聞こえないように小声で、急に真面目な声のトーンになってアルタークが言う。

「――いいんです。わたくしは決めたのです!友をないがしろにして生きるくらいなら、友のために死のうと!それが〝生きるべきか、死ぬべきか〟のわたくしなりの答えですっ!」

 アイが勢い込んで宣言するが、アルタークには其処そこに気高くもはかな徒桜あだざくらの面影をみた。

「……そこは、っていってほしかったかな~?」

 きっとこの可憐かれんな花は、みきからまっすぐ伸びた枝のように、その生き方をやめられないのだろう。だからこそ自分が、、彼女を守ろうと、そうアルタークは誓うのだった。

「……ていうかアルちゃんが最初に『そろそろ時間』って言ってから結構経ってますよね?もしかしてアルちゃん……いてたんですか……?」

「しっ!いい子だからそのことは言いっこなしで~!!」

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