悪役令嬢は婚約破棄され嘘の恋に沈み、廃嫡された元皇太子の詐欺師は復讐を果たす

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第53話 一方的な命令

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 ダンテが呼び出された部屋は、執務室ではなく客間であった。

 以前、ダンテを中に入れたがため、書類を盗み出されてしまったことを未だに警戒しているのだろう。

「それで、どんな御用と?」

 ダンテは余裕の笑みを浮かべながらぐるりとあたりを見回す。

 執務室とは違って、金などをふんだんに使った調度品が目立つのは、他人を招き入れることを考えてのことだろう。

「キョロキョロするなっ」

 ダンテの監視をしている衛兵が叱りつける。

 それに、軽く肩をすくめることで返答すると、ダンテは目の前に居る男、フェリドへと視線を戻した。

 フェリドは革張りのソファに腰を下ろし、背を丸めてじっと目の前のテーブルを睨みつけている。

 何事かとダンテがしばらく待っていると、フェリドが渋々ながら口を開いた。

「…………貴様がジュナスであると、みなに知らしめる」

「へぇ……」

 そうは言うものの、フェリドの表情は固い。

 本当は発表などしたくないと考えているのは明らかであったが、ダンテを拒絶しないところを見るに、本心ではダンテとアンジェリカの婚姻を望んでいるのだろう。

 それほどまでに、野心家のフェリドにとって皇族の血は魅力的なのだ。

「どなたからせっつかれたのかな?」

「貴様に話す必要はない」

 にべもない様子であったが、ダンテも想像できないわけではない。

 政敵であるルドルフから迫られた程度で屈する男ではないのだから、自分よりも上の存在。すなわち皇帝かテレジア侯爵から迫られたのであろう。

 皇帝は現在式にもまともに顔を出せないのだから、必然的に……。

「テレジア侯爵、かな」

「話す必要はないと言ったはずだ」

 だが、大きく顔をしかめては、認めているも同じだった。

「貴様はただ黙って私に従え」

 ダンテは小さく首をかしげてうっすらと意味ありげに微笑む。

 それをどんな意味に取ったかは分からないが、フェリドはチッとあからさまに舌打ちしてから話を続ける。

「……今日の舞踏会で、母親と会わせてやる」

「――――っ」

 母親とは、ダンテを育てた売春婦たちのことではない。

 ダンテを産んだ女性、エリザベート・フランソワ・アスターのことだ。

 生きているのは以前知らされていたが、母親との対面がもうすぐそこにまで迫っているとなると、さしものダンテも平静を保つのが難しかった。

 大きく息をつくと、キッと鋭い目をフェリドへ向ける。

「今、母はどんな状況だ?」

 情報が錯綜していてダンテには彼女の安否までは分からない。

 ただ、生きていることしか知らなかった。

「気が触れた後に死んだ、というのは嘘なのだろう」

 ベアトリーチェの義父であるジェイドに聞かされた話ではそうだったが、それはフェリド自身の口から否定されている。

 だが否定されたのは生きているということだけだった。

 心の生死までは、分からない。

「病に冒されてはいない。それに頭はしっかりしている。十数年経とうとも、息子を息子と判別できる程度にはな」

「そう、か」

 ダンテにとっては会ったこともない母親だったが、無事と聞いた瞬間、胸の奥がほんのりと温かくなっていく。

 その結果、ダンテが意識するよりも先に、安堵の吐息が漏れ出たのだった。

「今後も会いたくば、私の機嫌を損ねんことだ」

 ただ、フェリドの前でするべき行動ではなかった。

 母親がダンテを操る道具になることを、フェリドに教えてしまったに等しい。

「私は、伯爵閣下が敬愛すべき義父ちちとなってくださるのならば、そうそう逆らうつもりはありませんよ」

「…………」

 わざとらしい敬語を使い、嫌味ったらしく願い出てみる。

 フェリドからの返答はないが、否定しかされなかった今までからすれば、格段の進歩と言えるだろう。

 ダンテは「ハッ」と息をつくと気持ちを切り替える。

「それで、台本は?」

「……感動的な再会を演出してみせろ。小芝居は詐欺師の得意分野だろう」

 そうしてエリザベートをずっと保護してきた手柄を主張し、恩人を気取るつもりなのだろう。

 ずっとそうなることを狙っていたというよりは、そうするしかないといった感じだが。

「ならば前もって打ち合わせをさせてほしいのだが」

「詐欺師の貴様に仕掛けをする余地を与えるとでも?」

 フェリドは未だダンテの目的を疑っていた。

 アンジェリカを欲しがっているのではなく、ダンテの母親であるエリザベートを取り戻すことこそが、真の目的だと踏んでいるのだろう。

 だから本当は会わせたくない。

 しかしエリザベートに証言してもらう以外の方法で、ダンテがジュナスであると証明する手段がないから仕方なく会わせるだけなのだ。

「悪事を働くなら仲間くらい信用したらどうだ」

 悪事を働くからこそ、信用できる仲間と組まなければ綻びが生まれてしまう。

 そして綻びは破綻へと繋がり、破綻は終わりへと繋がっていく。

 ダンテは過去、それを何度も目にしてきたのだ。

「そんなものは必要ない」

 支配し、踏みつけ、一方的に利用してきたフェリドからすれば、ダンテの言うことは戯言としか聞こえないのだろう。

 用事は終わったとばかりに、ダンテの背後で待機していた監視役の衛兵へ顎をしゃくってみせる。

「今日は特に監視を強めておけ。それから定期的に身体検査もしろ」

「はっ」

 衛兵たちによって連れ出されたダンテは、いつもの粗末な部屋に叩き込まれたのだった。

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