『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第32話 妖精と人間の賭け

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 しかし、私は考えがあった。

 ルドルフさまは聡明で冷徹、でも少年の様な無邪気さも同時に持ち合わせている人だ。

 もし彼に、面白いと思わせる事が出来れば何らかの譲歩を引き出すことが可能かもしれない。

「ルドルフさま。一つ賭けをしませんか?」

 私の言葉にルドルフさまはまた虚を突かれたのか、一度大きく眉を動かすと、

「……いいよ、楽しそうだね」

 私の予想通り笑顔を浮かべて受け入れてくれた。

「ルールは簡単です。私がルドルフさまの楽しめる歌を歌えたら、ご褒美をください」

「……それは、ずいぶん僕に有利な賭けだね?」

 ルドルフさまは優雅に頬杖をつくと、私の内面までを見透かすかのような鋭い目で見つめてくる。

「はい。そのぐらいじゃないと、私の求めるご褒美と釣り合わないでしょうから」

「ふふっ、それは確かに。君は、領土の割譲と身代金を無くして捕虜の交換だけにしてくれ、とでもいうんだろう?」

「いいえ。なんでそんな事言うんですか?」

 まあ確かにこの状況だとそう言うんじゃないかと思ってもしかたないだろうけど。

 でもそんな大きな物を求めたら、ハードルを上げられるに決まっているし、ルドルフさまの立場だって悪くするかもしれない。なら、実現可能なレベルのご褒美をもらった方がいい。

「……じゃあ何を願うんだい?」

「アルザルド王国と国交を結んでください。そうしたら歌いに行けるので」

「ぷっ」

「な、なんで笑うんですか!?」

 あれ、私変な事言った?

 だってそうでしょ? 国交結んでなかったら、演奏旅行とかできないよね?

 というかルドルフさま笑い過ぎですって。お腹を抱えてまで笑う事ですか!?

「い、いや……君、凄いね……クククッ。ま、まさか歌いに行きたいってだけでそんな事を要求してくるなんて……。今あなたの国とは戦争中だよ?」

「悪いですか? 戦争とか知りません。私は先ほど、講演依頼は受け付けていると言いましたよ」

「フフフッ、いや、凄いね。君は本当に凄いよ。あまりにも意外過ぎて……」

 ルドルフは相当ツボにはまったのだろう。しばらくの間、肩を震わせ笑い続けていた。

 ふと隣を見れば、グラジオスも「あ~、やっぱり雲母だコレ」みたいな顔をしている。

 あとで一発……やっぱり一曲にしよ。一人でTank!を演奏させてやる。ラッパとリュートとボンゴで行けるよね、確か。

 きちんと演奏できるようになるまでひたすら練習させるからね。

「うん、いいよ。分かった。国交を結ぶかどうかは一度お伺いしなければ無理だけど、少なくとも君……たちが演奏しに来るくらいの事は私でも約束できる」

 私はそれを聞いて、ルドルフさまの目の前だというのに思わずガッツポーズを取ってしまった。

 取った直後に失礼かと思って慌てて手を隠したけれど、またその事で笑われてしまう。

「……キララ。君は凄いね。うん、凄い。もう一生分笑った気がするよ」

「そ、そんなにですか?」

 なにかちょっと恥ずかしい。

 でも悪い気分じゃなかった。馬鹿な事して笑われるんじゃなくて、出し抜いてやったという感じがするからだろう。

「じゃあ、これは僕からの贈り物だよ。君が僕を楽しませる歌を歌えたら、すぐにでもアルザルド王国の捕虜は解放しよう」

「いいんですか!?」

「もちろんだよ。ただし、君が賭けに勝たないといけないんだよ?」

 賭け金を勝手に上乗せしてくれた事はありがたい。でもまだ私の方が不利。

 そんな状況だ。

 ……傍から見れば、だけどね。

 私はきちんと考えがあって『楽しめる曲』と言ったのだ。

 ただ陽気な曲を歌えばそれは人の好みによる。気に入らなかったと言ってしまえばそれで終わりになってしまう。

 だから、確実にルドルフさまの関心を買えるような歌を歌えば、『楽しませる』ことが出来るはずなのだ。

 ちょっとした賭けの要素はあるけれど、かなり分のいい賭けだと私は読んでいた。

「では、ルドルフさま。よくお聞きください・・・・・・・・・

 ちょっと思わせぶりな事を言った後、私は歌い始めた。

――スカボロー・フェア――

 この曲は二つのアニメに用いられた曲で、本来はバラッドで歌われるイギリスの民謡だ。

 日本人的な感覚からすれば、さくらさくらとかそういった類だろうか。

 私が着目したのは曲ではなく歌詞の方だ。グラジオスと翻訳をして、きちんとルドルフさまにも通じるだろうが、内容は奇妙なものに思われるだろう。

 かつての恋人へ、かぐや姫を思わせる無茶な要求をし、それが叶えられたら恋人になろうと歌うのだ。しかも男から女へ、女から男へ。互いが互いに、だ。

 これは何らかの理由で別れなければならなくなった為に、わざと難しい理由をつけて恋人を振る、という解釈が一般的だ。中には反戦の為の歌とする解釈まである。

 そこが私の狙いだった。

 理知的で、聡明なルドルフさまであれば……。

 それから私は静かに、丁寧に、歌い上げたのだった。


 ルドルフさまは歌が終わっても、目を瞑り、心地よさそうに余韻に身をゆだねている。

 やがてほぅ……っと息を吐き出すと、ゆっくりと目を開けた。

「これは……民謡か何かかな? でもいい編曲をしてあって素晴らしいね」

「ありがとうございます」

「……でも、これが楽しい歌かい? ちょっと腑に落ちないね。どちらかというと、しんみりする歌だよ?」

「そうですか? 面白い・・・と思いますよ?」

「…………」

 私の意味ありげな態度に、ルドルフさまは顎に手をやって少し考える。

「ヒントをお出ししましょうか?」

「……いや、待ってくれ」

 ルドルフさまはやがて小声で歌詞を反芻し始め……。

「――なるほど、ね」

 大きく頷いた。

「凄いね、君は。まさかこの状況で僕を試したのか」

 この歌は、無理な条件を互いに突き付け合うことで、無理な条件を相殺する歌だ。

 Aという難題に答えるのにはBという難題に答えろ。もし答えられないのであれば、Aには答えない。という論理で、結局Aという難題に答えずに利を手に入れるのだ。

 つまり――まさに今の状況そのもの。何も渡さないと無茶な要求をしているルドルフさまと戦争中なのに国交を求め、あまつさえタダで人質を返せと無茶な要求をしている私に合致するわけだ。

 そして、それを理解出来なければその程度の男だったという事で面白くない結果に。

 理解できれば――。


「君の歌に、僕があたうかどうかって」

 ルドルフさまの目は、今まで見たことないほどギラギラと輝き、顔には思わず背筋が冷えてしまうほど壮絶な笑みが形作られていく。

「ああ……いいね、君は。君はいいよ、キララ。気に入ったよ。この程度分かって見せろ、だって? はははっ」

 私の予想通り、ルドルフさまは『楽しんで』くれていた。

 ――さあ、ここからが賭けだ。身分の低い私が、ルドルフさまを試すなんていう無礼な行いをして、それでも許してくれるのか。

「ますます君が欲しくなったよ。どうだい、相応の地位を用意するよ? それでも来ないかい?」

「はい。歌いになら行きますが、そちらで生きるためには参りません」

「そうかぁ……残念だなぁ。本当に残念だなぁ」

 ルドルフさまは心底惜しむようにそういうと、大きく頷き、元通りの無邪気な笑みを浮かべた。

「いいよ、キララ。確かに楽しめた・・・・よ。賭けは君の勝ちだ」

「……はい、ありがとうございます」

 私は喜ぶよりも先に、胸を撫で下ろした。

 そのぐらい、ルドルフさまの一瞬見えた素顔が恐ろしかったから。

「約束通り、アルザルド王国の捕虜は全員解放しよう。国交は……まあどうなるか楽しみにしていてくれるかな」

「はいっ、歌いにはいつ行けますか!?」

 これは出来る限り早く知っておきたかった。ついでに国民性とか流行りの曲調とか。プログラムを組むのが楽になるから。

「君は……。これ以上そんな事を言わないでくれないかな?」

「すみませんっ。ご迷惑でしたか?」

「いいや――」

 ルドルフさまは再び仮面の下から本性を覗かせる。

 白刃を思わせる鋭い視線が私の心臓に滑り込み、一瞬だがその鼓動を止めてしまう。

「君を力づくでも奪いたくなるから」

「…………」

 無意識に喉を鳴らしてしまった。

「――冗談だよ。ああ、捕虜は一週間後にここで解放しよう。キララが取りに来てくれるかな?」

「はいっ」

「ついでにその時何か歌ってくれるかな?」

 ……私は隣に視線をやると、私と同じように押されっぱなしで冷や汗をかいているグラジオスが見えた。

「私は歌いませんが、今度はグラジオスが演奏しますので期待していてください」

「おいっ、何故俺なんだ?」

「だってグラジオス今回何もしてないじゃん。何かやってよ」

「ぐっ」

 グラジオスは私の正論の前に反撃すら出来ず轟沈する。

 これでグラジオスの未来は決まった。一人複数楽器演奏の刑である。

 ラッパを吹きながらリュートを弾いて、ボンゴを叩く。そんなグラジオスの姿を想像したら少し楽しくなってきてしまった。

「ふふっ、楽しみにしているよ、グラジオス殿」

 ルドルフさまにそう言われてしまえば断る事も出来ない。グラジオスは不承不承ながらも頷いたのだった。

「あ、あの~、ルドルフ殿下。我々にも……」

「君たちは何もやっていないのに利益だけ貪ろうなんてずいぶんと都合がいいんだね」

 再び始まる文官との交渉をしり目に、私達はルドルフさまに別れを告げ、天幕を後にしたのだった。
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