『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

文字の大きさ
70 / 140

第70話 助けるためにって…どうすればいいのよぅ

しおりを挟む
 私とハイネ、エマとその家族は命からがら王都を脱出した。

 だがそのまま国外へと逃げる事も出来ず、エマの家族をオーギュスト伯爵の所領近くまで逃がした後、私とハイネとエマは王都まで引き返し、近くの村にある売春宿の主に大金を払い匿ってもらっていた。

「おひゃようございまふ……」

 私は眠い目をこすりこすり二階に用意された自分の部屋から顔を出した。

「おはようったってもう昼だよ」

 廊下の調度品を磨いていた女性――この売春宿の女主人、ミランダがこちらを向いて呆れたように呟く。

 ミランダは、蓮っ葉な口調が特徴的で、胸元の大きく開いたドレスをいつも素敵に着こなしていて、長く艶やかな黒髪に狐目の姉御肌な女性だ。

「すみません、ミランダさん。寝つけたのが明け方だったもので……」

 私の言葉にミランダが噴き出す。

「もう三日目だろ? そろそろ慣れな」

「うぅ、あれに慣れるのは無理ですぅ……」

 ここは娼婦の人たちが客を取る売春宿である。当然夜になると、そこら中からいけない声がするのだ。

 まだそんな経験どころかまともな恋愛経験すらない私には、かなり刺激が強すぎた。

 男の子同士の恋愛だったら耐性あるのに……。

「まったく、おぼこいねぇ」

 くぅ、反論できない。

「あ、あの。エマとハイネはどこに……?」

「エマは掃除の手伝い。ハイネはふらっと何処かに出かけたよ。大方情報でも集めに行ったんじゃないかね」

 一目で分かる身体的特徴を持つ私と、主に男性に顔が売れ過ぎたエマが外に出るのはリスキーすぎる。

 ハイネも同じく有名人のはずなのだが、何故か一度も騒ぎを起こしていないので、何かしらうまくやっているのだろう。

 私もアッカマン商会と連絡を取ったりして一応動いているのだが……あまり芳しい結果は得られていなかった。

 肝心のオーギュスト伯爵が、国が割れる事を恐れて満足に動けないからだ。

「まったく、情報ならアタシが売ってやるってのにさ」

「下さいっ!」

 ハイネには悪いが、情報はいくら持っておいても損はない。

 私が手をあげると、ミランダはにやりと笑って指を二本立てた。銀貨な訳があるはずもなく、金貨二枚という意味だろう。

 日本円にすれば二十万を軽く上回る額だ。

 ちょっと怯んでしまうが、背に腹は代えられない。私は部屋に取って返すと愛用のランドセルの中から金貨を三枚持ってミランダの所に戻った。

「出来ればでいいんです。お客さんたちから積極的にグラジオスの情報を集めてもらえますか?」

 金貨を三枚手渡すと、ミランダの眉が跳ね上がった。

「分かっちゃいたけど、金貨がポンと出て来るんだねぇ」

 ミランダはしばらく手の中に在る金貨を矯めつ眇めつしていたが、二枚だけ懐に仕舞うと、一枚をぴんっと親指で弾いて返してくる。

 私は慌てて金貨を空中で受け取った。

「グラジオス殿下にはこちらも恩があるからね。できれば助かってもらいたいから協力はするさ。情報に対する分だけ貰っとくよ」

「恩、ですか?」

 正直、売春宿とグラジオスにどんな関わりがあるのか気になってしまう。

 グラジオスもやっぱり男だからこういうのを利用するのだろうか。

「ああ、定期的に梅毒の検査と治療。働けない間は違う事して金を……まあ僅かだけど稼げるって仕組みを作って下さったんだよ」

「へ~」

「最初はめんどくさい事を何やらせるんだいって思ったんだけど、きちんと守っていたら軍内部でウチの事を紹介してくださったみたいでね。それ以来、上客が付く様になったってわけさ」

 グラジオス、そんな事もしてたんだ……。

 現代日本的な感覚からすると、売春と聞くだけで少し敬遠したくなる。でも歴史的に見れば売春は国の成り立ちと切っても切れない関係なのだ。

 それにきちんと手を入れてコントロールしようとしたグラジオスは間違ってなどいないだろう。

「……お礼にいい娘を世話するよって言ったんだよ」

「えっ!?」

 私は思わず食いついてしまい……ミランダのしてやったりという顔を見て、自分がはめられたことを知った。

「安心おし。殿下は、自分の立場では女性を抱くことは出来ないって顔を真っ赤にしながら断ってらっしゃったよ。あれは間違いなく初物だねぇ」

 そう言ってミランダはキシシと楽しそうに笑った。

「…………」

 興味はあったものの、聞いてはいけない事を聞いてしまった感じに思えて私は……正直ほっとしていた。

 そういうところにお世話になっていたら、今まで通りの目でグラジオスを見られなくなってしまう気がしたから。

「と、とりあえず情報を教えてください」

「ああ、そうだったね」

 私は話題を変えてミランダを急かした。

 ミランダによると、オーギュスト伯爵を含んだ貴族のほとんどは王城の中軟禁に近い状態にあるか不干渉を決め込んでおり、唯一ザルバトル公爵だけが私設兵を率いて、カシミールとの対決姿勢を顕わにしているとの事だった。

「え、あの太っちょな人がですか?」

 いくら叔父とはいえカシミールを敵に回してグラジオスの味方をするなんて、ちょっと意外に過ぎる。

 もっと世渡りの上手な人の印象があったからだ。

「そりゃあ、娘がグラジオス殿下の婚約者だからねぇ」

「え……?」

「だいぶ昔に婚約してたんだけど、最近までは嫌がってたんだけどね。でもグラジオス殿下が戦場から帰ってきて随分とイイ男になっただろ? そうなったら手のひらがくるんと回ったという事さね」

 ミランダはそういうと実際にジェスチャーをしておどけてみせたのだが……。

 私は何故か……胸が痛くてまともにミランダの顔が見られなかった。

 でもそうだ。なんで私は気付かなかったんだろう。

 王子なんだから、そういう相手が居て当たり前のはずだったのに……。

「あー……知らなかったのかい?」

「え、えっと。私……その……知らずにエマを焚きつけたりしてて……。あはは、悪い事しちゃったかなって」

 私は胸の痛みを誤魔化すために、無理やり笑顔を作って見せる。

 ミランダは私の顔をまじまじと覗き込んで、意味ありげにちょいと肩をすくめると、

「ま、そういう事にしておこうかね」

 ため息混じりにそう言った。

 それからミランダは、話は終わりとばかりに私に背を向け、調度品の掃除に戻る。

 私はぐちゃぐちゃになってしまった頭の中を整理するため、ちょっとだけ長めに切りそろえている自慢の黒髪に手を突っ込んでかき混ぜ、深呼吸をする。

 きゅっきゅという調度品を磨く音が響く中、私はしばらく沈黙して……気付く。

「すみません、ミランダさん。この情報って誰から手に入れたんですか?」

「お、話を続けられるかい?」

 どうやらミランダは話を終えたわけではなく、私を待っていてくれたらしい。

 私は内心で感謝しつつ、ミランダに頷き返した。

「ま、顧客の情報をバラすから、正直ウチの信用問題になりかねないはなしなんだけどね」

 客から聞いた話であれば確かに噂として流すこともできる。しかし客本人の事となると話は別だ。

 確かにそれなら金貨二枚では安すぎる情報と言えた。

「ザルバトル公爵様ご本人さね」

「はい?」

「今ザルバトル公爵はウチのシンシアにご執心でねぇ。自分がどれだけ凄いのかを自慢げに語ってくれるのさ」

「な、なんでそんな大事な事すぐに教えてくれないんですかー!」

 私の大声を、ミランダは耳を抑えて受け流した後、不満そうに顔をしかめる。

「アンタたちがやって来たのが三日前。この話を聞いたのが昨日というか今日の夜。アタシがシンシアからこの事を聞いたのがさっき。これ以上ないくらいすぐに教えたと思うんだがねぇ」

「うぐっ」

 確かに私達はここに駆け込んだ後、ひたすらオーギュスト伯爵と連絡を取ろうとしていたし、その手段を探って情報もオーギュスト伯爵とグラジオスの事ばかり集めていた。

 ザルバトル公爵の動き何て全然知ろうともしていなかったのだから、教えなかったと非難するのは確かに筋違いだ。

 私は素直に謝罪をしてから話を続ける。

「それでその~、ザルバトル公爵っていついらっしゃるのか分かりませんか?」

「ん~、三日空くことはないんだけどねぇ」

 それでは遅すぎる。今グラジオスの命があるのは先王の国葬が一週間もかけて行われていたからに過ぎない。

 グラジオスは本来いつ処刑されてもおかしくないのだ。三日後生きている保証はない。

「分かりました。ありがとうございます」

 私は礼を言うと、一旦部屋に戻ってランドセルを引っ掴み、ミランダの前に戻ってくる。

「すみませんミランダさん。この近くで馬を売ってくれる人、知りませんか?」

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...