『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第128話 さようなら

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 心の奥から安心できるぬくもりの中で私は目を覚ます。

 ぼやけた頭を振りながら周囲を見回すと、うっすらと明るい事だけは分かった。

 時計を見ればその時間は朝の八時を示しているので……。

 えっと、確か夕方よりも前の時間にグラジオスとああなっちゃったんだから……。と寝ぼけ眼で計算していくと、どうやら半日を悠に過ぎている事が分かる。

 ちょっと信じられない位の時間、二人で事に及んでいたらしい。

 今まで我慢に我慢を重ねていたからその反動でこうなってしまったのだろう。

 意識がはっきりしてくると、下半身に違和感というか痛みに近い疼きを覚えて、その内容まで思い出してしまい……。

「けだものぉ」

 羞恥やらなにやらで顔から火が出そうだった。

 とりあえず復讐のために、グラジオスの胸を叩いておく。

 非力な上に手加減をした一撃は、厚い胸板に弾かれて何の痛痒も与えられなかった。

「初めてだったんだぞぉ。なのに手加減もしてくれないとか……鬼畜ロリコンっ」

 初めてだから止まれないとか言い訳になるかぁ、ばかぁ。

 私に罵倒されているというのにグラジオスは平和な寝顔を晒している。今まで相当徹夜を重ねて来たから仕方ないだろうが。

 私はグラジオスを起こさない様にそっとベッドを抜け出すと、身を清めてから改めて寝巻きを身に纏った。

 そこでタイミングよく私のお腹が抗議の声を上げる。

 確かに昨日の晩御飯は食べていないので、都合二十時間くらいは何も食べていない事になる。

 何か食べ物を貰いに行こうかと思ったが……した後なので誰かと顔を合わせるのが少し恥ずかしかった。

 というかグラジオスのあの感じだとまた……。

「ダメダメ、ダメだって。もう私の体がもたないっ」

 性欲お化けのグラジオスには体がいくつあっても足りない気がした。

 というかこの性欲の強さでよく我慢できてたなぁ……。

 とりあえず私はお腹を誤魔化すために、お砂糖多めでお茶の準備を始めた。

 火種を使ってオイルランプに火を灯し、水差しからポットに水を注ぎ入れて温め始める。

 何となく手持ちぶさたになり、ぼーっとランプの炎を眺めて居たら……。

――Always in my heart――(いつもこころのなかに)

 自然と歌を口ずさんでいた。

 英語だから何となく歌うだけで、その歌詞はうろ覚え。ただし、聞くだけで何を歌っているかは分かるってぐらいに切なくさせてくれる。

 好きだから。

 そして――。

「雲母……」

「わひゃっ」

 急に背後から襲われてしまった。

 もちろんそれをやったのが誰かなんて、このぬくもりと匂いと声で判断がつく。私大好きなワンちゃんだ。

 私はその鼻っ柱をぴんっと弾いてから歌を続けようとして……。

「雲母、おはよう」

 軽くついばむように、何度もくちづけされる。

「もうっ、歌えないでしょっ」

「お前の歌は俺の中にある。大丈夫、聞こえてる。いい歌だ」

 何百何千回と私はグラジオスの前で歌って来た。グラジオスが知らない歌なんてないぐらいに。

 私の歌は、どんな歌でも、私がいなくてもグラジオスの中でリフレインし続けることだろう。

「そんなもんだ……いじゃ、ないっ……んっばかぁ……」

 結局私はグラジオスの暴挙を受け入れてしまう。

 目を閉じてグラジオスの吐息と鼓動を感じ、今ここに在ると感じる。

 グラジオスの想いを受け止めて、また返して。

 お湯が沸くまでの短い時間、昨日の事が夢ではないと確かめ合った。







 グラジオスが身を清めて寝巻きを羽織っている間にお茶の準備を整えていく。

「グラジオスのはお砂糖多めね」

「ちょっ、おい、入れすぎだ」

 グラジオスのカップに山盛りいっぱいの砂糖を容赦なく混ぜ込んでやる。

 確実に飽和しているだろうが、お腹は空かないだろうからきっと私に感謝するに違いない。

 自分には適量入れたお茶を用意して、

「結婚二日目おめでとー」

 なんて言いながら、カップを打ち合わせてチンっと涼やかな音を鳴らしてみた。

「待て、交換しろって。さすがに甘すぎで飲めるか」

「やだー。私もそれはちょっと飲むの怖いから」

 主にカロリー的な方向で。

 甘いのはむしろいくらでもウェルカムなのだけれど。

 ほんのりと甘いお茶で唇を湿らせた後、今や旦那様になったグラジオスの顔を眺める。

 グラジオスは顔をしかめながら手の中のコップを眺めた後、意を決したように中身をあおり、

「甘すぎる……」

 と泣き言を漏らした。

 その程度の甘さで文句を言うなんて罰が当たるよ?

 大体お砂糖って高級品なんだからね。

「お腹空いてるでしょ。ちょうどいいんじゃない?」

「砂糖で腹を膨らせるのは少しな……。何かつまめる物を貰って来よう」

 グラジオスが席を立つのを見て、私は思わず、

「うわっ、勇者~」

 なんて声を漏らしてしまった。

「なんでだ?」

「だって今誰かに会ったとしたらさ、どう思われると思う? 昨晩はお楽しみでしたね~とか思われるに決まってるじゃん」

 グラジオスは中腰のまま制止していたのだが、しばらくすると椅子に腰を下ろす。

 やはり気恥しくなったのだろう。

 このままもうちょっとだけ睦言の時間を味わえるようになったのは嬉しかった。

「というかグラジオスさ~、私の事大切にしてくれるって言ったよね?」

「ああ。これからも一番大切にする予定だが」

「でも昨日は無茶苦茶にしたじゃん、嘘つき」

「ぶふぉっ!」

 いきなり話題が下に移り、グラジオスは思わず吹き出してしまう。

 なんでこんな事言い出したかは……無茶苦茶にされたからその報復として弄り倒してやりたいからに決まっている。

「もう無理ってお願いまでしたのに何度も何度もさぁ……」

「ちょっ……おまっ……」

 グラジオスは誰もいないと分かっているはずなのに、思わずといった感じで周囲を見回す。

 そんなに恥ずかしいならやらなきゃいいのに、この狼め。

「これからもこの調子だと私死んじゃうかもしんないよ?」

「お、お前が魅力的すぎるのが悪い……」

「いっ!!」

 いきなりなんてこと言うのー!

 ばかーっ!! 恥ずかしすぎーっ。

 もうだめ、頭に血が上っちゃう。私今絶対顔赤いからっ。外出られなくなっちゃうよぉ。

「それに女を抱くのも人生で初めてで、更にそれが人生で唯一最も愛することを誓ったばかりの女だぞ? 加減なんかできるか」

「………………もう」

 そんな事言われたら責められないじゃん。

 あーもー、私今すっごく嬉しい。ダメ、口元が緩んじゃう。

 ホント、これ以上はダメだ。別れられなくなる・・・・・・・・

「お、お茶のお代わり居る?」

「砂糖なしならな」

「りょーかい」

 私はポットに水を注ぎ足してお湯を沸かしながらお茶の準備を始めた。

 今度は別のお茶、昔私の声が出なくなった時に貰った後、放置していた心が休まるとかいう変な匂いのするハーブティーだ。

 ふふふ、きちんと砂糖なしのオーダーは果たしてるもんね。

 淹れた途端に奇妙な悪臭が漂い始め、グラジオスは思わず鼻をつまんだ。

「おい、何を淹れた」

「なにってハーブティー」

「明らかに俺の知っているハーブとは別物な気がするが?」

「お医者さんがくれた心が安らぐお茶だから体に悪いってことはないよ」

 素知らぬ顔でお茶の用意をしているが……内心は臭くてたまらなかった。

 というかここまでひどかったっけ?

「お前、本当にこれを飲むんだろうな?」

「あ~ひっどい、疑うの? じゃあ私が飲んだら絶対飲んでよね」

「お前が飲めたらな」

 まあ、確かに飲み物じゃないでしょこれってぐらいの臭気を放っていたので、コップ半分ぐらいにしておく。

 もしかしたらちょっと濃く淹れすぎたのかもしれない。

 私は震える手でコップを手に取ると……勇気を振り絞って一口飲んでみた。

「うあ~……変な味」

 いかにもお薬~って感じの苦みとハーブ特有の清涼感が合わさった様な味をしていた。

 かなり、不味い。

「はい、グラジオスも一口」

 コップの中身は目に見えて減っているため、グラジオスもさすがに文句を言えないのだろう。

 手の中に在るコップを憎らし気に睨みつけている。

 ……いま、かな?

「グラジオス、飲めないのならいいよ~。ほら、コップ貸して。飲んだげるから」

「くっ」

 私のやっすい挑発に乗ったグラジオスは、勢いよくコップを傾けた。

 その間に私は――。

「の、飲んだぞ」

 苦しそうに言い張るグラジオスだが、コップの中身はまだ残っている。

 全部飲んだら私より多く飲む事になるのだから仕方がないが。

「ハイ、残りは私ね」

 私はグラジオスからコップを受け取ると、鼻をつまんで中身を口の中に流し込む。

 うわっ、きつっ。

「うぅ……」

 あまりにきつかったため、私はもがいてから……グラジオスに襲い掛かる。

 口にハーブティーを含んだままグラジオスの顔を捕まえると、唇を押し付け一気に中身をグラジオスに流し込んでやった。

「ふふふ、私のお茶が飲めないかー」

 なんてパワハラ感マシマシな台詞で煽る。

 グラジオスは頬にお茶を入れたまま、不満げな様子で私を睨みつけていたが、そのままで居ても苦しいだけだと判断したか、目を瞑って無理やり飲み下した。

 ……それが、私の本当の目的だと知らずに。

「あはは、すごいね~グラジオス」

「もうこれは絶対に飲まん」

「私ももう淹れないから。ごめんね」

 軽く笑いながら茶目っ気たっぷりにペロッと舌を出すと、グラジオスは仕方ないなとため息をつきながら許してくれた。
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