あら、面白い喜劇ですわね

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運命 ※フィンリー視点

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自分の容姿が優れているという自覚はある。
気持ち悪い声で近寄ってくる女も、嫉妬の眼差しを向けてくる男も、全てが嫌だった。
この容姿が嫌いだった。


「シャーロット様。お疲れではありませんか?」

馬車の中で隣に座るシャーロットに声をかけると、彼女はにこりと微笑んで体を預けてきた。

「少し…疲れてしまったわ。」

彼女からは他の女のように鼻がねじ曲がるほどの悪臭がしない。
ただ仄かに花の香りがする。
彼女の艶やかなプラチナブロンドの髪をひと房取り、軽く口付ける。
この行為に特別な意味などない。
ただ彼女の存在を確かめたくて、自分が傍にいても良いのだと安心するためにしている。

シャーロットは王女として、容姿も内面も完璧な女性だった。
何よりも己の立場を理解し、そして自分が政治闘争に使われることを危惧していた。
彼女は実兄の国王からの寵愛も受けている。
自分がもし他国や権力欲の強い貴族の手に渡ってしまえば、間違いなくこの国の害になると理解していた。
だからこそ私が選ばれた。
なんの後ろ盾もなく、脅威も欲も持ち合わせてはいない私が。
王家にとってまさに理想の婚約相手だったのだ。

この婚約がそういった事情で結ばれたものだということは理解している。
でも彼女が私にだけ一際美しい笑顔を見せてくれる度、自分の心が勘違いしてしまいそうになる。
彼女の傍にいるだけで満足なはずなのに。
自分には欲など無いはずなのに。
彼女に自分だけを見て欲しいと、私を愛して欲しいと望んでしまう。

彼女は無意識に人を狂わせる。
私もその、狂わされた1人なのだ。

「ねぇフィンリー。愛しているわ。」

その言葉がたとえ嘘であっても、私の心は彼女の一言で喜んでしまう。
期待してしまう。
彼女がそういう類のタチの悪い嘘はつかないと分かっているから尚更。
でも心の底では信じられないのだ。
元平民の薄汚い自分が、誰からも愛される王女に愛されていることを。
しかし彼女は私のそんな心情すらもお見通しといった笑顔で、私に愛を囁いてくれる。
言葉で、態度で、私の存在を認め、愛してくれる。

自分がどんどん彼女の虜になっているのが分かる。
もう今更抜け出すことも出来ない。
だから私は、できる限りの愛をもって彼女に答えなければならない。

「私も、シャーロット様を…ロティーを愛しています。」

私の言葉に花が咲いたように微笑む貴女は、やはり笑顔が似合っている。













パーティを終えて休むことなく隣国へと帰ってきた私は、王宮にて国王に謁見していた。
シャーロット様の実兄である国王もまた、彼女に似た類の美しさを持っている。
私が謁見する前にシャーロットから今回の出来事を聞いていた様だが、私からも説明を聞きたいらしい。
まぁ確かに彼女はその寛容さで他人の罪をも許し、庇ってしまうため、少々実際の出来事との齟齬が生まれてしまうのだ。
そこで彼女の護衛として常に傍にいる私が事情を説明する、というのがいつもの流れだった。

「成程…。隣国の国王はそこそこのやり手だと思っていたが、どうやら息子はそうでも無いようだな。」

若くして国王に就いた彼は、周りの者に有無を言わせぬ威厳と気迫を持っていた。
人並外れたその美貌が更に相手に恐怖を植え付ける。
しかし一方では賢王との呼び声も高く、国民の多くから支持を得ている。
あの無感情で冷徹な表情が、彼女といる時だけは柔らかく微笑むのだからやはり彼女は凄い。
最初はその差に驚きもしたが、今では慣れてしまった。

「はい。シャーロット王女は隣国の公爵令嬢を引き入れることで許すと仰っておりました。」

謁見の間にいるのは玉座に座る国王と、彼に跪く私、そして少しばかり顔色を青くする宰相だけだ。

「やはりロティーは甘過ぎるな。…そこがまた愛らしいところではあるが。」

「同感にございます。今回の件は決して小国の公爵令嬢のみで許される事案ではないかと。」

国王は小さく溜息をつくと、宰相を呼んでなにやら話し合っていた。

「己の立場を理解出来ぬ人間は、その血ごと根絶やしにするべきだろう。」

つまりあの男爵令嬢と王子の処刑を要求する、ということだろう。
あれ程の不敬を働いたのだ。当然の報いだろう。
あとはあの隣国の国王がどのような処刑法にするかだけだ。
首を切り落とすだけの生ぬるい処刑法では彼も許しはしないだろう。
はたして隣国の国王は何処まで彼の意を汲むことができるのか。
それによって今後の関係も変わってくるだろうな。

宰相からもう下がって良いとの声を貰い、私は謁見の間から出た。
彼女と私の婚約発表は1週間後に行われるようで、王宮内も少しばかり騒がしい。

私はその足を彼女の私室のある方角へ向けると、ゆっくりと歩みを進めた。

私はこの容姿が嫌いだった。
平民でありながらどこか浮いたこの容姿は嫌でも人々の視線を集めたから。
それは騎士団に入ってからも変わりなかった。
いや、むしろ悪化したように思う。
それでも今は…この容姿は嫌いじゃない。
人とは違ったこの容姿は、彼女の目を引き留めてくれた。
私に彼女に相応しい伯爵位を与えてくれた。
そして誰からも愛される彼女の傍にいることが出来る。
私はそれが、何よりも嬉しい。

「フィンリー。」

目の前から嬉しそうにやってくる彼女は、私に居場所を与えてくれた。
彼女の隣に立つことを許してくれる。

「ロティー。会いたかった。」

隣国に帰ってから会えてなかった彼女は、いつもと同じように身も心も美しい。
私がこうしていきなり抱き着いても、不敬だと罵ることもしない。

「私もよ、フィンリー。」

何も聞かず、私が欲しい言葉を直ぐにくれる彼女を、私は生涯をかけて誰よりも愛している。
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