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「立場を弁えろ、痴れ者が。」
低く唸るような声に、その場にいる誰もが身を強ばらせた。
その声を発したシャーロットの護衛騎士は、自らの腰に差す剣に手をかけアルバートへの殺意を隠そうともしない。
本来こういった祝いの場での帯刀は許されていない。が、彼はシャーロットの護衛騎士として特別に許可されていた。
今この場でアルバートを斬り付けてしまうのではないか。
観衆の多くがこれから起こることに不安を抱き、そして女性の多くは彼のその容姿に釘付けになっていた。
シャーロットのプラチナブロンドの髪とは対照的な白銀の髪に、色白な肌とどこか冷たいアイスブルーの瞳。
シャーロットの隣にいてもくすむことのないその美貌は、やはり美しすぎるシャーロットの傍にいる者として相応しかった。
「ふふ、アルバート殿下。私は貴方に敬称を付けずに呼ぶことを許した記憶はありませんわ。」
シャーロットは完璧な淑女の笑みを浮かべて、その場に張りつめた緊張の糸を一瞬で解した。
その視線の先には、会場の隅に待機していた警備の者に押さえつけられているアルバートとその少女。
アルバートはまだ抵抗しているようだが、少女は抵抗する気もなく真っ青な表情を浮かべているだけだ。
「し、シャーロット…王女!!助けてくれ!私達は運命の糸で結ばれているんだ!!…そうだろう?」
何を言っているんだこいつは。
その場にいる多くの者がそう思った。
錯乱しているのだろうか。
シャーロットは内心そう思いながらも、やはり笑みを浮かべたままアルバートを見つめる。
「婚約破棄の喜劇は…最後、こうして言い出した側が報いを受けると決まっていますのよ。」
唐突なシャーロットの話が理解できないアルバートは、ただ美しいシャーロットの笑みに見惚れていた。
「まさに王道の展開が見れるなんて、とても面白かったですわ。このような形式張ったパーティで皆様に余興のサプライズをしてくれたこと。アルバート殿下にはその点だけ感謝致しましょう。」
「な、なら…!」
感謝、という言葉に露骨に反応したアルバートは、期待に満ちた表情でシャーロットを見つめた。
しかしシャーロットはクスクスと笑うだけで、その期待には答えない。
それどころか隣に立つ護衛騎士に寄りかかり、そして自身よりも頭1つか2つ分位高い位置にある彼の顔を覗き込んだ。
「私にはもう、運命の糸で結ばれた婚約者がいますのよ。」
一際華やかな笑顔で幸せそうに笑うその姿は、正に恋する乙女のもの。
誰もがその姿に見惚れ、そして釘付けとなった。
護衛騎士も柔らかく微笑むと、シャーロットの腰に手を回す。
どちらかが極端に劣っている訳でもない2人の姿はまさにお似合いだった。
「な…そんな…私ではなく、騎士如きと…。」
それでも現実を受け入れられないアルバートは、驚きを隠せない表情でぶつぶつと呟いている。
シャーロットはそんなアルバートに感情のない冷たい笑顔を向けると、
「小国の1王子に過ぎない貴方が、私の婚約者を'如き'だなんて。身の程を弁えなさい。」
自身の身分を利用した牽制に、アルバートは少女と同じく絶望の色に表情を染めた。
アルバートへ向ける笑顔と、護衛へ向ける笑顔。その差に気付かぬ程アルバートは馬鹿ではない。
シャーロットがアルバートを愛することは無いと、彼は嫌でも理解してしまった。
そして最早何も言うことも出来ず、国王の指示によって少女とアルバートは会場から連れ出されたのであった。
「ふふ、皆様にはご紹介がまだでしたわね。発表日はまだ先ですけれど…。彼は私の護衛兼婚約者のフィンリー伯爵ですわ。」
邪魔者が消えた会場で、シャーロットは嬉しそうに隣に立つ婚約者を紹介した。
ある者は悲しみ、またある者は怒り、ある者は喜び。
その場にいる皆は内心様々な感情を抱きながら、今は笑顔を浮かべて2人へ拍手を送った。
シャーロットはその拍手に応える形でカーテシーをすると、今度こそ婚約者と共にその会場を後にした。
その人の枠を超えた美しさを持った王女が、誰か一人の男となってしまった。
しかも政略ではないと言うかのようにその男に華やかで可憐な乙女の笑顔を向けている。
その場にいる者は内心抱えた欲望と2人を祝う外見とが少しずつズレて、狂っていく。
狂った者達の拍手は、その会場の扉が閉じて彼女の姿が完全に見えなくなるまで続いた。
後日、大陸一の大国では王女の婚約者が発表された。
初めから手の届くことの無い存在だと理解している国民が祝い、自信にも希望があるのではと夢に縋っていた貴族や他国の王族は少しずつ狂っていった。
人々がその目出度い出来事に関心を寄せている日、とある小国では第一王子と男爵令嬢、そしてその一族が処刑された。近年稀に見る無惨な処刑法に、人々は隣国を敵に回すとどうなるか嫌でも理解したという。
低く唸るような声に、その場にいる誰もが身を強ばらせた。
その声を発したシャーロットの護衛騎士は、自らの腰に差す剣に手をかけアルバートへの殺意を隠そうともしない。
本来こういった祝いの場での帯刀は許されていない。が、彼はシャーロットの護衛騎士として特別に許可されていた。
今この場でアルバートを斬り付けてしまうのではないか。
観衆の多くがこれから起こることに不安を抱き、そして女性の多くは彼のその容姿に釘付けになっていた。
シャーロットのプラチナブロンドの髪とは対照的な白銀の髪に、色白な肌とどこか冷たいアイスブルーの瞳。
シャーロットの隣にいてもくすむことのないその美貌は、やはり美しすぎるシャーロットの傍にいる者として相応しかった。
「ふふ、アルバート殿下。私は貴方に敬称を付けずに呼ぶことを許した記憶はありませんわ。」
シャーロットは完璧な淑女の笑みを浮かべて、その場に張りつめた緊張の糸を一瞬で解した。
その視線の先には、会場の隅に待機していた警備の者に押さえつけられているアルバートとその少女。
アルバートはまだ抵抗しているようだが、少女は抵抗する気もなく真っ青な表情を浮かべているだけだ。
「し、シャーロット…王女!!助けてくれ!私達は運命の糸で結ばれているんだ!!…そうだろう?」
何を言っているんだこいつは。
その場にいる多くの者がそう思った。
錯乱しているのだろうか。
シャーロットは内心そう思いながらも、やはり笑みを浮かべたままアルバートを見つめる。
「婚約破棄の喜劇は…最後、こうして言い出した側が報いを受けると決まっていますのよ。」
唐突なシャーロットの話が理解できないアルバートは、ただ美しいシャーロットの笑みに見惚れていた。
「まさに王道の展開が見れるなんて、とても面白かったですわ。このような形式張ったパーティで皆様に余興のサプライズをしてくれたこと。アルバート殿下にはその点だけ感謝致しましょう。」
「な、なら…!」
感謝、という言葉に露骨に反応したアルバートは、期待に満ちた表情でシャーロットを見つめた。
しかしシャーロットはクスクスと笑うだけで、その期待には答えない。
それどころか隣に立つ護衛騎士に寄りかかり、そして自身よりも頭1つか2つ分位高い位置にある彼の顔を覗き込んだ。
「私にはもう、運命の糸で結ばれた婚約者がいますのよ。」
一際華やかな笑顔で幸せそうに笑うその姿は、正に恋する乙女のもの。
誰もがその姿に見惚れ、そして釘付けとなった。
護衛騎士も柔らかく微笑むと、シャーロットの腰に手を回す。
どちらかが極端に劣っている訳でもない2人の姿はまさにお似合いだった。
「な…そんな…私ではなく、騎士如きと…。」
それでも現実を受け入れられないアルバートは、驚きを隠せない表情でぶつぶつと呟いている。
シャーロットはそんなアルバートに感情のない冷たい笑顔を向けると、
「小国の1王子に過ぎない貴方が、私の婚約者を'如き'だなんて。身の程を弁えなさい。」
自身の身分を利用した牽制に、アルバートは少女と同じく絶望の色に表情を染めた。
アルバートへ向ける笑顔と、護衛へ向ける笑顔。その差に気付かぬ程アルバートは馬鹿ではない。
シャーロットがアルバートを愛することは無いと、彼は嫌でも理解してしまった。
そして最早何も言うことも出来ず、国王の指示によって少女とアルバートは会場から連れ出されたのであった。
「ふふ、皆様にはご紹介がまだでしたわね。発表日はまだ先ですけれど…。彼は私の護衛兼婚約者のフィンリー伯爵ですわ。」
邪魔者が消えた会場で、シャーロットは嬉しそうに隣に立つ婚約者を紹介した。
ある者は悲しみ、またある者は怒り、ある者は喜び。
その場にいる皆は内心様々な感情を抱きながら、今は笑顔を浮かべて2人へ拍手を送った。
シャーロットはその拍手に応える形でカーテシーをすると、今度こそ婚約者と共にその会場を後にした。
その人の枠を超えた美しさを持った王女が、誰か一人の男となってしまった。
しかも政略ではないと言うかのようにその男に華やかで可憐な乙女の笑顔を向けている。
その場にいる者は内心抱えた欲望と2人を祝う外見とが少しずつズレて、狂っていく。
狂った者達の拍手は、その会場の扉が閉じて彼女の姿が完全に見えなくなるまで続いた。
後日、大陸一の大国では王女の婚約者が発表された。
初めから手の届くことの無い存在だと理解している国民が祝い、自信にも希望があるのではと夢に縋っていた貴族や他国の王族は少しずつ狂っていった。
人々がその目出度い出来事に関心を寄せている日、とある小国では第一王子と男爵令嬢、そしてその一族が処刑された。近年稀に見る無惨な処刑法に、人々は隣国を敵に回すとどうなるか嫌でも理解したという。
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