マイグレーション ~現実世界に入れ替え現象を設定してみた~

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Tier15 追跡

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「アイツ、足が遅いな。まだ成り立てか」

 天野君は走って逃げていった犯人を追いかけながら息を荒げずに言った。

「ハァ、そうかな? 十分、足速いと思うけど。ハァ、天野君が、ハァ、速すぎるんだよ」

 僕は息を荒げながら言った。
 天野君に付いて行くのが精一杯で、話す余裕なんて無かった。

 これでも3カ月の研修で基礎体力を上げるためのトレーニングをやらされたことで、ある程度は体力がついたつもりだったが、それでも天野君や犯人の身体能力は凄まじいものだった。
 マイグレーターは、脳から神経などに情報を伝達する能力が一般の人間よりも秀でていると研修で習った。
 それによって、体の血流や筋肉などを上手く使うため身体能力が高くなっており、これも使用練度に影響されるらしい。
 研修ではマイグレーターに関する基礎的な知識の他にも、基礎的な近接戦闘訓練や射撃訓練を行った。
 僕にとって研修は身体的負担が大きすぎて、何度心がくじけそうになったか覚えていないほど辛いものだった。
 それでも、僕はやるしかなかった。

 逃げていく犯人の後ろ姿が死角に入ってしまったため、天野君はギアを一つ上げて走るスピードを上げた。
 僕も足にムチを打ってスピードをどうにかして上げたが、天野君との距離は少しずつ開いていってしまう。

 息が絶え絶えになってきて、これ以上は天野君に付いていけないと思った時に死角がなくなって数十メートル先に逃げていた犯人が転倒しているのが見えた。
 今がチャンスとばかりに天野君と僕は一気に犯人との距離を詰めて行った。

 転倒した犯人のすぐ目の前にまで行くと、どうも犯人の様子がおかしいことに気付いた。
 周囲の様子をしきりに見まわしたと思ったら、今度は自分の体をジロジロと見渡したり凝視したりすると、また周りの様子を伺うという行動を繰り返していた。

「な、何なのよこれ! 何なのこの体! 私の体は? 捕られた! 私の体はどこなの!? ねぇ、誰か教えてよ! 見てないで助けてよ!」

 パニック状態に陥っていた犯人は、そんな悲痛な叫びを上げていた。
 犯人の近くにいた人や通りかかった人はザワザワとしながら犯人のことを奇異な目で少し距離をとって見ていたりした。

「え? 何?」

「あの人大丈夫?」

 小さな声で言い合う若い女性の二人組。

「あれって警察に通報とかしといた方がいいの?」

 四人組のグループの中の一人の男性がスマホを構えて他の三人に言った。

「危ねぇーな、さっきの女」

 前の曲がり角の右から歩いて来た中年の男性が言った。

「コラ! あんまり見るんじゃありません! 早く歩いて!」

 お母さんらしい人が小学校低学年ぐらいの男の子を犯人に聞こえないように声をひそめながら注意をして、すぐさまこの場を立ち去ろうと促していた。

 犯人の顔の正面に右手をかざそうとしていた天野君も、犯人の様子が明らかにおかしいことに気付いて動きを止めた。

「おい、アンタ! 何をされた!?」

 動きを止めたかと思うと、天野君は犯人に突っかかって聞いた。

「か、か、体! 私の体!」

 天野君に声を掛けられてビクッと後ずさりをしてから、犯人は依然としてパニック状態のまま支離滅裂なことを言っていた。

「一回、落ち着け! もう一度聞く、何をされた!?」

 天野君の迫力のある一喝に犯人はパニック状態だったのが嘘だったかのように落ち着きを取り戻しつつあった。

「し、し、し、知らない男の人が前から走って来て、急に私の顔を手で抑えてきたの。とっさに、その手を振りほどいたらこんな体になってたの! それで、私の体は走ってどっかに行ったの!」

 息を整えながら状況を説明するも、いつまたパニック状態になってもおかしくない危うさがあった。

「アンタ、女だな!? 歳は!?」

「え? あ、はい。26歳です」

 天野君の突拍子もない質問に一瞬驚きながら犯人は自分を女だと言った。
 しかも、年齢まで素直に答えた。
 けれど僕はこの天野君の質問のおかげで、限界まで走って酸素が行きわたっていない頭でも今の状況を理解することが出来た。
 目の前にいる犯人は本当の犯人じゃない。
 中村さんに入れ替わった犯人は、逃走する途中で目の前にいる中村さんの中身の人である26歳の女性の体に入れ替わって逃げて行ったということだと思う。

「服装は!?」

「き、黄色のパンツに黒のトップス」

「アンタの体はどっちの方に行った!?」

「えっと、そこの曲がり角を左に」

 矢継ぎ早に質問する天野君に、中村さんの体に入れ替わってしまった女性は一生懸命に答えていた。

「よし、俺は逃げた奴を追う。お前はコイツを保護しといてくれ!」

 天野君が両手を膝に置いて少し前にかがんでいた僕に早口で言う。
 息が上がってしまって声が出ない僕は、首を縦に振って広げた片手を前に突き出すことしか出来なかった。
 それでも天野君には僕が了承をしていることが伝わったらしく、天野君はもう犯人追って走って行ってしまっていた。
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