マイグレーション ~現実世界に入れ替え現象を設定してみた~

気の言

文字の大きさ
62 / 169

Tier16 浄化

しおりを挟む
 転校生として紹介された伊瀬祐介という人間を見た最初の俺の印象は争いごとが苦手そうな気弱な奴だった。
 こんな奴が本当に六課でやっていけるのか疑わしかった。
 体格もあまり良い方ではなく、背も170㎝あるかないかぐらいだった。
 若干ある癖毛のせいで、なよなよとした感じがより一層強く感じられる。
 課長が推薦したって聞いたから、どんな奴が来るんだろうと少し期待していたぶん拍子抜けだった。
 だが、コイツと一緒に走っていて分かったことがある。
 コイツは平均に比べて体力がないにもかかわらず、俺の走るスピードに付いて来た。
 体力もないし、筋力もあるようには見えないし、マイグレーターでもない奴が僅かの間だけでもマイグレーターである俺のスピードに適応してきた。
 さらに、状況の判断能力も高い。
 俺が説明しなくても大体の事は把握してやがる。
 俺の最初の伊瀬に対する認識は気弱そうな奴から少し変わった面白そうな奴に変化しつつあった。
 課長が推薦するだけのことはあるかもしれない。

 余計なことを考え過ぎたな。
 今は、逃げた犯人の野郎をとっ捕まえて消すことに集中しねーとな。

 俺は犯人にマイグレーションされた女から犯人が逃げたと教えられた方を追って走り続けていた。
 それなりの人混みだが俺の身体能力を持ってすれば誰にもぶつからずにトップスピードを維持するのは容易だ。
 マイグレーターに成りたての犯人よりも俺の方がよっぽど速い。
 しかし、犯人の後ろ姿がそろそろ見えても良いはずなのだが一向に見える気配がない。
 犯人からストーカー被害に遭っていた加藤美緒の方には警官が保護にしに行ってるはずだから問題無いだろうが、こんなことなら犯人の姿が見えた時点でマイグレーションをしとけば良かったな。
 そしたら、犯人の野郎と楽しく追いかけっこなんて面倒くさいことをせずにすんだ。
 とは思ったものの、相手は腐ってもマイグレーターだ。
 いくら成り立てだと言っても、身体的接触無しにマイグレーターにマイグレーションを行って意識を刈り取るのにはかなりの集中力がいるため体力も大きく削られる。
 マイグレーターはマイグレーターからのマイグレーションに対して一般の人間と違って抵抗力を持っている。
 そのため確実にマイグレーションが成功する保証もないことから、とっ捕まえて犯人の頭を抑えた方が確度が高い。
 身体的接触無しにマイグレーションを行って集中力と体力を削っても成功せず、犯人に逃げ切られるという最悪な事態は避けときたいしな。

 あーだこーだと考えているうちに完全に犯人の姿を見失っていた。
 俺はとうとう走っていた足を徐々に緩めて立ち止まり、辺りを見渡した。

「フー、本当にこっちに逃げたのか?」

 少し乱れた呼吸を整えて俺は呟いた。
 こうなったら、加藤美緒を保護したであろう警官と合流した方が良さそうだな。
 犯人の目的はおそらく加藤美緒だ。
 ならば、犯人の方から加藤美緒に接触してくる可能性は高いはずだ。
 であれば、まだ犯人を捕まえる機会はある。

 俺がそう思った矢先――遠くの方で人の悲鳴と群衆のざわめきが聞こえた。

「あっちか!」

 俺は悲鳴とざわめきが聞こえた方へと再び走り出した。

 --------------------------

「何で僕という存在がありながら僕を裏切ったんだい? ううん、みおちゃんが僕を裏切るはずないよね。だって僕らは愛し合ってるんだから! 言葉を交わしたことも触れたこともなかったけど、それでも僕らは愛し合ってた! 僕らは運命なんだよ! 僕らこそが真実の愛なんだ! それなのに、あの男のせいで僕らは離れ離れになってしまった! みおちゃんはきっとあの男に脅迫されてたんだよね!? それとも騙されてたのかな? 可哀そうに。僕がもっとみおちゃんを守ってあげるべきだったね。怖かったよね。苦しかったよね。辛かったよね。大丈夫。君が味わった全ては僕も全て味わったから。あの男の体に入れ替わった時に全て味わったよ。みおちゃんが僕には決して見せなかったような顔も見たんだよ。みおちゃんのあの顔は僕だけのものだ! それをあの男は奪ったんだ! それだけじゃない! あの男はみおちゃんに触れた! みおちゃんのあらゆる所を全てだ! みおちゃんの美しい清らかな体はあの男に汚されてしまったんだ! 僕はすべて知ってる。みおちゃんが汚されてしまった時のことも。みおちゃんの肌の色や感触、触れる髪の滑らかさ、唇や胸の柔らかさ、乱れる息遣い、愛撫で濡れた恥部、みおちゃんの中の熱、全て僕は知ってる! あの男の記憶を通して、あの男の体を通して! みおちゃんはもう中まであの男に汚されてしまっている! だから、きれいにしないと。僕がみおちゃんをきれいにしてあげないと! そんな顔しないで。大丈夫だよ。みおちゃんはきれいなんだ! きれいなはずなんだ! きれいじゃないといけないんだ! だから汚れたみおちゃんを今、僕がきれいにしてあげるからね! 僕が君をきれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに、きれいに――」

 --------------------------

 辺りは騒然としていた。
 まるでぽっかりと穴が空いたように周りに人はいなかった。
 後ろの方には大きな電光掲示板は騒然とは対照的に普段通りの広告の映像を流していた。
 離れたところで人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っていた。
 中には110番か119番に通報しながら走って逃げる者もいた。
 多くの人が逃げる方向とは逆行しながら俺は人がいなくなった穴の中心に向かって走っていった。
 中心には、仰向けで倒れているらしい女の足とその女の上に覆いかぶさるように跨った刃物を持った女の姿があった。
 刃物を持った女、いや犯人が何やら叫んでいた。

「みおちゃんはきれいなんだ! きれいなはずなんだ! きれいじゃないといけないんだ! だから汚れたみおちゃんを今、僕がきれいにしてあげてるからね! 僕がみおちゃんをきれいに、きれいに、きれいに、きれいに――」

 そんなことを叫んでいる犯人が、刃物を持った手を大きく振りかぶった。

 俺は振りかぶった犯人の手を振り下ろさせないために全力で駆け寄り、犯人が持っている刃物を振り落とそうと思い切り手を伸ばした――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

学校1のイケメン♀️から逃げ出した先には地獄しかありませんでした

山田空
ライト文芸
ハーレムを目指していた主人公は転校してきたイケメンによってその計画を壊される。 そして、イケメンが実は女の子でありヤンデレであったことを知り逃げる。 逃げた途中でむかし付き合った彼女たちとの過去を思い出していく。 それは忘れたくても忘れられない悲しき記憶 この物語はヒロインと出会いそして別れるを繰り返す出会いと別れの物語だ。 そして、旅の最後に見つける大切で当たり前なものとは

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...