Geo Fleet~星砕く拳聖と滅びの龍姫~

武無由乃

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Chapter 0

Section 8: 旅立ちの時

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 激しく振り始めた吹雪の中、ジオは残る4機のバインダーのうちの1機に向かって高速で奔った。
 それはもはや肉眼では捉えられぬ速度であったが、それに相対したバインダーは、動きが緩慢そうに見えるその外見とはうらはらの、超高速でジオとの間合いを広げたのである。
 そのまま、その1機の手にする重力場の剣が一閃される。ジオはその致死の斬撃を数ミリの距離で避けて、そのまま間合いを詰めにかかる。
 バインダーは補助バーニアをふかしつつ間合いを取ろうとするが、ジオのスピードを振り切ることは出来なかった。
 次の瞬間、高速の拳が光の帯を纏いながら流星のようにバインダーに飛んだ。

 ドン!!

 バインダーの装甲が剥がれて宙を舞う。しかし、そのバインダーは動きを止めることなくジオの頭の上、――空を舞ってジオの背後へと降り立った。

【は!!】

 ジオの背後の1機、そしてジオを左右から挟み込むような位置の2機が、その重力場の剣を同時にふるう。
 ジオはその斬撃を一つ一つ、間を縫うように避けて、そして地面を蹴って宙を舞った。

【死ね!】

 最後の1機のバインダーが、宙を舞うジオに銃口を向ける。さすがのジオも、足場のない空中で重力波砲を避けることは出来ないと思われた。
 ――しかし、

「unlocking key.Scaffolding in the Void! additional settings.light staircase!」

 不意に電子魔法の詠唱が聞こえてくる。それは――、

「お待たせお兄ちゃん! 私がいつもみたいにサポートするから、全力で叩き潰しちゃって!!」

 航宙挺の艦首付近に立ったミィナがその手をジオに向けている。それに従うように、二機のドローンが宙を奔りジオの元へと向かった。

 ドン!

 バインダーの銃口が火を吹き、重力波のビームがジオへと迫る。しかし、ジオは慌てず、その場でステップを踏んで空中で軌道を変えたのである。

【?!】

 足場のないはずの空中で、軌道を変えてみせたジオに驚きの目を向けるバインダーの兵たち。
 実は、先ほどミィナが唱えた電子魔法は、空中に光の足場を生み出す魔法であり、ジオはそれを利用して空中を自在に走ることが出来るのである。
 ジオが空を不規則蛇行しながらバインダーの1機に迫る。慌てたそのバインダーは重力場剣で迎撃しようとして……、次の瞬間にはジオを見失っていた。

【右だ!!】

 仲間がそう叫ぶがもう遅い。

 ズドン!!

 激しい衝撃とともにバインダーの装甲が吹き飛び、そして中の搭乗者の姿をさらした状態でその1機は沈黙した。

【クソ!!】

 別の1機がその銃口をジオへと向ける。しかし――、

 ドンドン!!

 空中から無数のレーザービームが降り注いでその装甲を砕いた。

【な?! 航宙艇からの援護射撃?!】

 まさしくその通り。空を舞う航宙艇のその側面に設置された凝集光砲門から、無数のレーザービームが雨のようにバインダーへと降り注いだのである。
 楚々の援護射撃は、バインダーの1機を沈黙させるだけにはとどまらず、残りのバインダーの気を逸らす役にもたった。
 一瞬気のそれたバインダーの残る2機へと高速で奔ったジオが、その拳でその重装甲を叩き砕いたのである。
 そして、そのまま全ての人型バインダーは沈黙――、ジオはそれを見て息をついて空を見上げた。

「お兄ちゃん!!」
「おう! 追手が掛かる前に逃げるぞ!」

 ジオはその言葉とともに空へと飛翔する。そのまま航宙艇の甲板に着地した。

「あいつ……、本当にやりやがった」

 エリオットが半ば呆れ顔で笑いながらジオの姿を見つめた。

「ジオ! 艦橋に入れ! この場を離れる!!」

 そう言ってロバートは艦橋の側面にある扉を開いてジオを招いた。


 ――かくして、吹雪く雪の中、側面から煙を吹く航宙艇はゆっくりと宙を舞いその場を離れていった。
 しかし、とりあえずの危機は脱したとはいえ、追手がかけられるのは確実であり、その行く手は吹雪く夜闇の先のように見通すことが出来なかった。


◇◆◇


「それで……、これからどうするんだ? このままじゃ、この航宙挺も30分持たずに墜落するが……」

 エリオットの言葉に管理体であるティアナが答える。

【ここから北東……、無人の鉱山跡に向かってください。そこに私の乗ってきた航宙艦があります】
「ほう? 航宙艦って……、あの時の突撃艦ですか?」

 ジェレミアがそうティアナに聞くと、それに対し直ぐに反応が帰ってきた。

【あの時……、そういえばあなた達は、あの時の海賊さんたちだったんですね?】
「ええ……、見事にヴェロニアにやられましたが」
【そうです。そのときに私が乗ってきた航宙艦です】
「ふむ……、そんなところに隠していたんですか」

 そのジェレミアの言葉に、ティアナは一瞬言葉を濁してそして答えた。

【いえ……、その、実はもう乗るつもりはなかったので……】
「ん?」

 その場の全員が疑問を心に宿す。

【多分……壊れてはいないと思いますが……】

 そのなんとも奥歯に物が挟まったような物言いに、その場の全員が首を傾げる。でも、その理由はすぐに分かることになった。


◇◆◇


 この惑星クランにも、一応資源らしきものはあった。
 そのための鉱山が各所に存在していたが、それもすぐに枯れてしまう程度のものであり、そこもそうして枯れて誰も近付かなくなった場所の一つであった。
 その巨大な縦坑道の底、そこにその航宙艦は存在していた。

「……」

 ティアナを除く全ての者が困った表情でそれを眺める。

「これは……また」

 さすがのジオも呆れた表情でそう呟く。それもそのハズ、目の前には全長120m級の戦闘航宙艦があるのだが――。

「見事にひっくり返っているね、お兄ちゃん」

 苦笑いしながらミィナがそう呟いた。
 ――そう、その航宙艦は本来なら上部に位置する艦橋部を下にして、ひっくり返った状態で鎮座していたのである。

「この惑星に不時着したときに操艦を間違えちゃって」
「まあ……、管理体が補助要員使わずに操艦すればこうなるわな」

 ティアナの言葉に、ロバートが苦笑いして答えた。

「……これって飛べるのか?」

 ジオが首を傾げながらそう呟く。それに答えたのはロバートである。

「普通は無理だな……、ここは狭いし、この状況からの復帰はミクロン単位の超人的操艦技術が必要になる」

 その言葉にその場の全員が沈黙する。

「でも……、他に航宙艦とか探す余裕はないだろ? この惑星にいる限りヴェロニアに追われ続けることになるし」

 ジオの言葉にその場の全員が頷く。現状、この惑星クランを脱出して逃げる以外に、ヴェロニアの魔の手から逃れるすべはない。

「ふう……」

 不意にエリオットがため息を付いて頭をかいた。

「正直うまくいくかはわからん。俺自身この難易度の操艦は珍しいから……な」
「え? おっさん?」

 エリオットの言葉にジオがそう呟く。エリオットはジオを睨みつけて答えた。

「おっさんじゃねえ……小僧。エリオットだ」

 エリオットはその航宙艦を見つめて言う。

「まあ……、この場を脱しても、宇宙に上がればヴェロニアの宇宙艦隊との戦闘が待ってる。正直、勘弁願いたい話だが……、逃げるつもりはないよな?」
「……」

 エリオットの言葉にその場の全員が頷く。

「じゃあ決まりだ……、あの船は俺が操艦する。あと、アランは砲術士、ドミニクは機関士、ジェレミアは索敵士を頼む」

 その言葉に呼ばれた三人は頷く。そして――、

「あと、統合指揮する艦長は……、小僧は無理だな」
「ぬ……」

 その言葉に少し不満げにジオはむくれるが……、

「おやじさん……艦長を頼んでいいっすか?」

 そう言ってエリオットはロバートに頭を下げる。それに対して苦笑いをしながらロバートは頷いた。

「わかった……、この場で経験があるのは俺だけみたいだからな」
「決まりだな……、あと小僧、お前はこの先どうするかを決めろ」

 そのエリオットの言葉に驚きの目を向けるジオ。

「え? 俺が? 艦長じゃないのに?」
「艦長と……、進む先を決めるリーダーは別だ。お前は……、お前が彼女――、ティアナとともに宇宙に出ることを決めたんだからその責任を取れ」
「む……」

 エリオットの言葉に少し考えたジオは頷いて答えた。

「わかった! 任せてくれ、おっさん……いや、エリオット」
「ふ……わかればいい」

 エリオットはニヤリと笑ってジオの肩に手を置いた。
 ジオは歯を見せて笑ってティアナへと向き直る。

「ティアナ……行こうぜ! 宇宙へ」
「……うん。もう一度宇宙へ」

 不意にジオが真面目な顔をしてティアナに問う。

「そういえばこの航宙艦の名前ってなんだ? これが”応龍”なのか?」
「いいえ……これは、かつての大戦において”応龍”随伴の護衛突撃艦として十二隻建造され、そして激しい戦闘の中で唯一一隻生き残った船――」

 ティアナの言葉を聞いたその場の全員が驚きの表情を作る。その艦名とは――、

「四聖獣・青龍級突撃艦の三番艦――。”奇跡の不沈艦”……【迅龍じんりゅう】……よ」

 それが、ジオ達の新しい”我が家”の名前であった。
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