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眠れぬ王子
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王城内のセドリックの部屋。
「ですから、我が屋敷に押し入って、獣人族のメイドを勝手に奪って行ったのですよ!」
深夜に陳情にやってきた男。それは、王国の外交を担当する大臣職についているナツカ子爵だった。
「既に、王子はお休みになられた。明日出直して来てくれ!」
警備兵の立つ扉を突破した先にいた、ネスレ副騎士団長は、追い返そうとしていた。
「女のお前では話にならん。悠長なことを言っている場合じゃない。奴らはこの私を脅して来たんだぞ! その犯罪者を追跡した先には、王都中の獣人族がいたらしい。早く対応しないと暴動が起きるぞ!」
ナツカは金切り声をあげた。
狼の遠吠えが聞こえ、嫌な予感のしていたセドリックは、寝床に入ったものの寝付けずにいた。
「ナツカの声か。何か問題が発生したのか………」
結局、寝ることを諦めて、ネスレとナツカの言い争う隣室に顔を出した。
「何があったんだ?」
ナツカは同じ話を繰り返したが、セドリックは落ち着かせて、核心を聞き出した。
「つまり、商会連合が大金で獣人族を買って行ったと?」
「いや、あれは脅しです。せっかく手に入れたのに」
「だが、売ったんだろ?」
ナツカの言い分は通らない。売らずに誘拐されたのなら話は別だが。
「話はわかった。だが警備隊の仕事だ」
「王都の警備隊は、腰抜けばかりだ。動こうとしないんです」
「わかった。俺からも話をしておく」
だが、ナツカは納得せず、動こうとしない。舐められたものだ。
「それじゃあ、様子を見に行こう。ナツカ、その獣人族の集合場所に案内してくれ!」
「それなら、案内するまでもありません。商会連合の店舗ですよ」
さっきまで根を下ろしていたナツカが、急に立ち上がると、「深夜失礼した」と言い残して足早に去って行った。
「何なんだ、あいつ!」
ネスレは怒りで机を叩いた。
「これが今の王国の現状だよ。ちょっとした暴動よりも、王国の権威が低い」
亡きアストリアの権威と信奉は、十数年経過した今も続くのに、王国の威信は失墜の一途だ。
セドリックは小さく首を振った。
「だが、気になるな」
「騎士団を動かしますか?」
「いや、さっきも言ったが、それは警備隊の仕事だ。……だが、様子を見に行こう」
気楽な散歩のつもり。眠気が覚めてしまった若き王子は、そう言い聞かせた。
※
ネスレが馬車を回してくれた。御者も含め三人での出立である。
待っている間に、セドリックは警備隊の詰所に顔を出した。しかし夜勤のため、知っている役職者はいなかった。
「なんか、王都が騒がしいらしいな!」
セドリックに声をかけられて、休憩していた警備兵たちは慌てて起立した。
「はい。ですので守っております」
王城の周りの橋は上げられ、門は硬く閉じられている。――一体これで何を守るつもりなのだろう。
「そうか、少し出かけてくる。門を開けて、橋を降ろしてくれ」
警備兵たちは顔を見合わせ、逡巡した。一人が代表して言う。
「王都の門を守る名物門衛長が、牙狼に一瞬で倒されました。ですので出歩くのは危険かと……」
「それならば、民衆を守るために、お前たちも戦わないとな!」
「門衛長は、見逃されました。これは警告です。それと、歯向かわなければ何もしてきません……」
声は小刻みに震えていた。恐怖を必死に隠しているのがわかる。
「全くわからん。様子を見てくるだけだ」
押し切られて、橋は降ろされた。警備兵たちはこれ以上話すと「一緒に連れて行かれる」と思い黙秘した。
さらに彼らには既に別の情報が入っていたが、それも口を閉ざすしかなかった。
セドリック王子の馬車が出ていくと、すぐに橋は再び上げられた。
「あの王子、いい奴だからな。死んで欲しくないが……」
「俺たちは止めたぞ。それより、獣人族の不当逮捕がバレる方がやばくないか?」
「それは、俺たちの責任じゃない。俺たちは命令に従っただけだ」
怯えた警備兵たちは、吐き捨てるように言い合いながら詰所へ戻った。
※
「なんだ、この王都は祭りでもあったのか?」
並ぶ家々の窓に、白い旗が掲げられている。それは、王都の中心へ進むにつれ数を増していった。
だが普段なら深夜まで賑わう繁華街ですら、灯りは消え、人影はどこにもない。
「これはどうなっているんだ?」
セドリックの問いに、ネスレも御者も答えを持たなかった。
集団で移動する足音。狼の遠吠え。王都でありながら、まるで森の中に踏み込んだようだ。
ネスレは剣に手をかけ、低く言った。
「セドリック王子、危険です。帰りましょう」
馬は恐怖に怯え、優秀な御者が鞭を振るっても動かない。
「徒歩で行くしかないか?」
「本当に行くのですか?」
ネスレは覚悟を決めさせるために問い返した。
煌々と灯りのともる建物――商会連合の王都本店だろう。
大勢の話し声が溢れ出し、相当な人数が集まっているのがわかる。
「ナツカの言った通りか?」
だがそれだけではない。セドリックが暗視を用いると、道には生々しい血の痕が残っていた。
それでも彼は歩みを止めなかった。好奇心が恐怖を上回ったのだ。
「これは、セドリック王子。こんな深夜に、我が店に何のご用でしょうか?」
暗闇から声が響いた。
灯りに浮かび上がったのは、商会連合の支店長。いつもの理知的表情は姿を消して鋭い視線と海賊のような姿で、王子を見据えていた。
「ですから、我が屋敷に押し入って、獣人族のメイドを勝手に奪って行ったのですよ!」
深夜に陳情にやってきた男。それは、王国の外交を担当する大臣職についているナツカ子爵だった。
「既に、王子はお休みになられた。明日出直して来てくれ!」
警備兵の立つ扉を突破した先にいた、ネスレ副騎士団長は、追い返そうとしていた。
「女のお前では話にならん。悠長なことを言っている場合じゃない。奴らはこの私を脅して来たんだぞ! その犯罪者を追跡した先には、王都中の獣人族がいたらしい。早く対応しないと暴動が起きるぞ!」
ナツカは金切り声をあげた。
狼の遠吠えが聞こえ、嫌な予感のしていたセドリックは、寝床に入ったものの寝付けずにいた。
「ナツカの声か。何か問題が発生したのか………」
結局、寝ることを諦めて、ネスレとナツカの言い争う隣室に顔を出した。
「何があったんだ?」
ナツカは同じ話を繰り返したが、セドリックは落ち着かせて、核心を聞き出した。
「つまり、商会連合が大金で獣人族を買って行ったと?」
「いや、あれは脅しです。せっかく手に入れたのに」
「だが、売ったんだろ?」
ナツカの言い分は通らない。売らずに誘拐されたのなら話は別だが。
「話はわかった。だが警備隊の仕事だ」
「王都の警備隊は、腰抜けばかりだ。動こうとしないんです」
「わかった。俺からも話をしておく」
だが、ナツカは納得せず、動こうとしない。舐められたものだ。
「それじゃあ、様子を見に行こう。ナツカ、その獣人族の集合場所に案内してくれ!」
「それなら、案内するまでもありません。商会連合の店舗ですよ」
さっきまで根を下ろしていたナツカが、急に立ち上がると、「深夜失礼した」と言い残して足早に去って行った。
「何なんだ、あいつ!」
ネスレは怒りで机を叩いた。
「これが今の王国の現状だよ。ちょっとした暴動よりも、王国の権威が低い」
亡きアストリアの権威と信奉は、十数年経過した今も続くのに、王国の威信は失墜の一途だ。
セドリックは小さく首を振った。
「だが、気になるな」
「騎士団を動かしますか?」
「いや、さっきも言ったが、それは警備隊の仕事だ。……だが、様子を見に行こう」
気楽な散歩のつもり。眠気が覚めてしまった若き王子は、そう言い聞かせた。
※
ネスレが馬車を回してくれた。御者も含め三人での出立である。
待っている間に、セドリックは警備隊の詰所に顔を出した。しかし夜勤のため、知っている役職者はいなかった。
「なんか、王都が騒がしいらしいな!」
セドリックに声をかけられて、休憩していた警備兵たちは慌てて起立した。
「はい。ですので守っております」
王城の周りの橋は上げられ、門は硬く閉じられている。――一体これで何を守るつもりなのだろう。
「そうか、少し出かけてくる。門を開けて、橋を降ろしてくれ」
警備兵たちは顔を見合わせ、逡巡した。一人が代表して言う。
「王都の門を守る名物門衛長が、牙狼に一瞬で倒されました。ですので出歩くのは危険かと……」
「それならば、民衆を守るために、お前たちも戦わないとな!」
「門衛長は、見逃されました。これは警告です。それと、歯向かわなければ何もしてきません……」
声は小刻みに震えていた。恐怖を必死に隠しているのがわかる。
「全くわからん。様子を見てくるだけだ」
押し切られて、橋は降ろされた。警備兵たちはこれ以上話すと「一緒に連れて行かれる」と思い黙秘した。
さらに彼らには既に別の情報が入っていたが、それも口を閉ざすしかなかった。
セドリック王子の馬車が出ていくと、すぐに橋は再び上げられた。
「あの王子、いい奴だからな。死んで欲しくないが……」
「俺たちは止めたぞ。それより、獣人族の不当逮捕がバレる方がやばくないか?」
「それは、俺たちの責任じゃない。俺たちは命令に従っただけだ」
怯えた警備兵たちは、吐き捨てるように言い合いながら詰所へ戻った。
※
「なんだ、この王都は祭りでもあったのか?」
並ぶ家々の窓に、白い旗が掲げられている。それは、王都の中心へ進むにつれ数を増していった。
だが普段なら深夜まで賑わう繁華街ですら、灯りは消え、人影はどこにもない。
「これはどうなっているんだ?」
セドリックの問いに、ネスレも御者も答えを持たなかった。
集団で移動する足音。狼の遠吠え。王都でありながら、まるで森の中に踏み込んだようだ。
ネスレは剣に手をかけ、低く言った。
「セドリック王子、危険です。帰りましょう」
馬は恐怖に怯え、優秀な御者が鞭を振るっても動かない。
「徒歩で行くしかないか?」
「本当に行くのですか?」
ネスレは覚悟を決めさせるために問い返した。
煌々と灯りのともる建物――商会連合の王都本店だろう。
大勢の話し声が溢れ出し、相当な人数が集まっているのがわかる。
「ナツカの言った通りか?」
だがそれだけではない。セドリックが暗視を用いると、道には生々しい血の痕が残っていた。
それでも彼は歩みを止めなかった。好奇心が恐怖を上回ったのだ。
「これは、セドリック王子。こんな深夜に、我が店に何のご用でしょうか?」
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