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ネスレの受難
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ネスレが、セドリックの剣を抜いて立ちはだかった。
「一般人に理由もなく剣を抜くとは、どういうつもりだ」
それは、王国王子の護衛に対する商人のセリフとは思えない。
「何を言う。お前こそ、こんな深夜に店を開けて何をしている?」
支店長は冷ややかな目を向け、吐き捨てるように答える。
「主人からの命令ですよ」
睨み合う二人の間を、何事もなかったかのように――牙狼を先頭に、獣人族と彼らを護衛する狼の群れが通り過ぎていく。
その威圧感に、セドリックは思わず腰を抜かした。
「うわぁぁ……」
「大丈夫ですか、王子」
ネスレが手を差し出す。しかしセドリックはその手を取らず、自ら立ち上がり、震える手で衣服の埃を払った。
それは、彼なりの見栄であり、誇りを守る最後の抵抗だった。
「あ、あれは……狼ではないか?」
「それ以外、何に見えるというのですか」
「それはわかっている!」
王子の叱責を受けながらも、ネスレはもう会話に集中していなかった。
牙狼が群れを率いて通り過ぎる瞬間、彼女は直感してしまったのだ――このままでは王子を守りきれない。
絶望が胸を締め付け、剣を鞘に戻す。
今ここで戦うのは無謀。もはや不戦を示すしかない。
「せっかくです。商会連合のお茶でも飲んで行ってください。ただ、今日はお客様が多く、落ち着かないかもしれませんが」
支店長が、態度を変えて誘ってきた。
「そうだな、喉が渇いた。少し寄らせてもらおうか」
――バカなのか、この王子は?
ネスレは内心で叫んだ。
彼の奇想天外な振る舞いは時に愛おしく、天才的だと尊敬する部分もある。だが、今回は違う。
好奇心に殺される――そう確信する。
金で解決するのか。それとも自分を差し出すか。
そんなもので済むはずがない。
ここは本当に、大陸一の治安を誇る王都なのか?
商会連合の店舗に入ると、支店長は王子を客として扱うそぶりすら見せない。
セドリックは王子であるにもかかわらず、敬意のかけらすら与えられなかった。
店の前には狼の群れが行儀よく並び、店員から出された干し肉と水を前にしている。
しかし、誰一匹として口をつけようとしない。
その光景は異様なまでに緊張感を孕んでいた。
「危ない……!」
ネスレが声を上げた。
村娘のような少女が、群れの先頭に立つ巨大な牙狼に近づいていくのだ。
だが、恐怖に足がすくみ、駆け寄ることすらできない。
少女はにこやかに笑い、牙狼の頭を撫でて言った。
「まだだ。まだ終わっていない。食べたら行け」
その一言で、空気が変わった。
群れの狼たちが一斉に立ち上がり、鋭い視線を彼女へと投げる。
だが少女は微動だにせず、ただ穏やかに言った。
「よし」
その一声で、牙狼は喉を鳴らし、干し肉に口をつけた。まるで飼い慣らされた犬のようだ。
それを合図に、群れの狼たちも食事を始める。
重苦しい空気が、ほんの少しだけほどけていった。
※
「こちらにどうぞ」セドリックとネスレは、応接室に通された。だが、何が起きてるか気になって立ち尽くしてしまう。
大きな店舗の中は、多くの獣人族が溢れていた。
「移動を開始しますよ。順番ですからね!馬車に乗ってください!」
ネグラロサの紋章の入った見たこともない大きな馬車隊がやって来て彼らを乗せていく。
ハートフェルトと呼ばれる男がリーダーのようだ。若い商人であることに驚いた。
「まだ、ご家族に会えていない方は、こちらへ」
「ああ、うちの子の一人が貴族に売られて、行方不明だと情報をもらった。場所は、王城の北側の貴族屋敷だが、匂い消しをして隠しているようだ!」
「うちの子もだ! 頼む!」
獣人族が押し寄せる受付には、リアナというエルフが規則を守らせててきぱきとこなしている。
「わかりました。それは捜査に問題がありますね! ルナ! 場所はわかる?」
「ワオーン!」
さっきまで干し肉を食べて寝そべっていた牙狼がすっくと立ち上がり走り出す。狼たちと狼人族が後をついて走り出した。
「こちらですよ! あとは、エリオン様に任せます」
支店長は、お茶を持って来た少女に、「申し訳ございません」と言い、青い顔をしてリアナから地図を受け取ると、馬に乗って走り去った。
「何故、お茶汲みがセドリック王子よりも丁寧な口の聞き方と態度をされるんだ!」
ネスレは怒っていたが、扉を開けて驚いた。
そこには、ハイエルフの男が座っていた。
「あのお茶汲みは、きっと、このハイエルフの侍女だよ」セドリックはネスレに耳打ちした。
ハイエルフは、エリオンと名乗り、有名な北のハイエルフ村の村長の息子と名乗った。
「面会を申し込んでいたのですが、まさかこんな所でお会い出来て光栄です。噂に違わぬ勇敢な王子ですね」
不遜でないハイエルフの態度に、セドリックは感動した。エリオンは、ノクスに言われた通りの芝居をしている。
「そうでしたか! こちらこそ、光栄です」
エリオンの侍女と思われる、狼人族の少女が、お茶を淹れてくれた。
「どうぞ!」
ネスレが、その侍女の顔を覗き込んで驚いた。それは、さっきチラリと見た干し肉をあげていた村娘。
「頂きます」
セドリック王子は呑気に、出された茶菓子を食べている。
「美味しいですね」
「ありがとうございます。主人にも早く食べさせたいですね」侍女が礼を言った。
ネスレは無防備さに呆れ、その分、彼女は警戒心を高めた。ばれないように少しだけ意識を集中させた。
「毒なんて入れないわよ。そんな必要無いでしょ」
いつでも殺せると、蟻を見るよ口ぶりだった。幼い顔から、わざと一瞬だけ殺気を出した。
ネスレは、恐怖し震えながら、茶菓子に手を伸ばした。
だが、エリオンとセドリック王子は、彼女の口ぶりに反応した。
「セレナさんは、いつもこんな感じなんで気にしないで下さい」
「いえ、うちのネスレが誤解を招く態度をとってしまってすいません」
セレナと呼ばれる侍女がぎろりとエリオンを睨んだ。
「私が主人で、あなたは侍女ですよ」
「ふん」エリオンの言葉に、鼻を鳴らした。
「一般人に理由もなく剣を抜くとは、どういうつもりだ」
それは、王国王子の護衛に対する商人のセリフとは思えない。
「何を言う。お前こそ、こんな深夜に店を開けて何をしている?」
支店長は冷ややかな目を向け、吐き捨てるように答える。
「主人からの命令ですよ」
睨み合う二人の間を、何事もなかったかのように――牙狼を先頭に、獣人族と彼らを護衛する狼の群れが通り過ぎていく。
その威圧感に、セドリックは思わず腰を抜かした。
「うわぁぁ……」
「大丈夫ですか、王子」
ネスレが手を差し出す。しかしセドリックはその手を取らず、自ら立ち上がり、震える手で衣服の埃を払った。
それは、彼なりの見栄であり、誇りを守る最後の抵抗だった。
「あ、あれは……狼ではないか?」
「それ以外、何に見えるというのですか」
「それはわかっている!」
王子の叱責を受けながらも、ネスレはもう会話に集中していなかった。
牙狼が群れを率いて通り過ぎる瞬間、彼女は直感してしまったのだ――このままでは王子を守りきれない。
絶望が胸を締め付け、剣を鞘に戻す。
今ここで戦うのは無謀。もはや不戦を示すしかない。
「せっかくです。商会連合のお茶でも飲んで行ってください。ただ、今日はお客様が多く、落ち着かないかもしれませんが」
支店長が、態度を変えて誘ってきた。
「そうだな、喉が渇いた。少し寄らせてもらおうか」
――バカなのか、この王子は?
ネスレは内心で叫んだ。
彼の奇想天外な振る舞いは時に愛おしく、天才的だと尊敬する部分もある。だが、今回は違う。
好奇心に殺される――そう確信する。
金で解決するのか。それとも自分を差し出すか。
そんなもので済むはずがない。
ここは本当に、大陸一の治安を誇る王都なのか?
商会連合の店舗に入ると、支店長は王子を客として扱うそぶりすら見せない。
セドリックは王子であるにもかかわらず、敬意のかけらすら与えられなかった。
店の前には狼の群れが行儀よく並び、店員から出された干し肉と水を前にしている。
しかし、誰一匹として口をつけようとしない。
その光景は異様なまでに緊張感を孕んでいた。
「危ない……!」
ネスレが声を上げた。
村娘のような少女が、群れの先頭に立つ巨大な牙狼に近づいていくのだ。
だが、恐怖に足がすくみ、駆け寄ることすらできない。
少女はにこやかに笑い、牙狼の頭を撫でて言った。
「まだだ。まだ終わっていない。食べたら行け」
その一言で、空気が変わった。
群れの狼たちが一斉に立ち上がり、鋭い視線を彼女へと投げる。
だが少女は微動だにせず、ただ穏やかに言った。
「よし」
その一声で、牙狼は喉を鳴らし、干し肉に口をつけた。まるで飼い慣らされた犬のようだ。
それを合図に、群れの狼たちも食事を始める。
重苦しい空気が、ほんの少しだけほどけていった。
※
「こちらにどうぞ」セドリックとネスレは、応接室に通された。だが、何が起きてるか気になって立ち尽くしてしまう。
大きな店舗の中は、多くの獣人族が溢れていた。
「移動を開始しますよ。順番ですからね!馬車に乗ってください!」
ネグラロサの紋章の入った見たこともない大きな馬車隊がやって来て彼らを乗せていく。
ハートフェルトと呼ばれる男がリーダーのようだ。若い商人であることに驚いた。
「まだ、ご家族に会えていない方は、こちらへ」
「ああ、うちの子の一人が貴族に売られて、行方不明だと情報をもらった。場所は、王城の北側の貴族屋敷だが、匂い消しをして隠しているようだ!」
「うちの子もだ! 頼む!」
獣人族が押し寄せる受付には、リアナというエルフが規則を守らせててきぱきとこなしている。
「わかりました。それは捜査に問題がありますね! ルナ! 場所はわかる?」
「ワオーン!」
さっきまで干し肉を食べて寝そべっていた牙狼がすっくと立ち上がり走り出す。狼たちと狼人族が後をついて走り出した。
「こちらですよ! あとは、エリオン様に任せます」
支店長は、お茶を持って来た少女に、「申し訳ございません」と言い、青い顔をしてリアナから地図を受け取ると、馬に乗って走り去った。
「何故、お茶汲みがセドリック王子よりも丁寧な口の聞き方と態度をされるんだ!」
ネスレは怒っていたが、扉を開けて驚いた。
そこには、ハイエルフの男が座っていた。
「あのお茶汲みは、きっと、このハイエルフの侍女だよ」セドリックはネスレに耳打ちした。
ハイエルフは、エリオンと名乗り、有名な北のハイエルフ村の村長の息子と名乗った。
「面会を申し込んでいたのですが、まさかこんな所でお会い出来て光栄です。噂に違わぬ勇敢な王子ですね」
不遜でないハイエルフの態度に、セドリックは感動した。エリオンは、ノクスに言われた通りの芝居をしている。
「そうでしたか! こちらこそ、光栄です」
エリオンの侍女と思われる、狼人族の少女が、お茶を淹れてくれた。
「どうぞ!」
ネスレが、その侍女の顔を覗き込んで驚いた。それは、さっきチラリと見た干し肉をあげていた村娘。
「頂きます」
セドリック王子は呑気に、出された茶菓子を食べている。
「美味しいですね」
「ありがとうございます。主人にも早く食べさせたいですね」侍女が礼を言った。
ネスレは無防備さに呆れ、その分、彼女は警戒心を高めた。ばれないように少しだけ意識を集中させた。
「毒なんて入れないわよ。そんな必要無いでしょ」
いつでも殺せると、蟻を見るよ口ぶりだった。幼い顔から、わざと一瞬だけ殺気を出した。
ネスレは、恐怖し震えながら、茶菓子に手を伸ばした。
だが、エリオンとセドリック王子は、彼女の口ぶりに反応した。
「セレナさんは、いつもこんな感じなんで気にしないで下さい」
「いえ、うちのネスレが誤解を招く態度をとってしまってすいません」
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