126 / 137
沈む王国、進む船
しおりを挟むセレナは船の上にいた。
もちろん、難民を乗せた大船団の先頭だ。
「ハンマー、楽しいね!」
「はい……」
疲れ切った顔で答えるハンマーに、セレナは少し困ったように顔をしかめた。
「元気無いなぁ。もう!」
ぴょんぴょんと跳ねるように、セレナは船のマストにある見張り台へ駆け上がる。ルナも真似して続いた。
風を受け、「エリシオン国旗」が大河を下り、海に向かってゆっくり揺れる。
※
ナタクロス監獄の門の上。
セドリック王子、ネスレ、各部隊長がその様子を見ていた。
門の下には、集結した第三騎士団が、気の抜けたようにぼっと立っている。
彼らも最初は血気盛んだった。
だが、王都の惨状を目にした瞬間、戦意は消えた。
幾つかの貴族屋敷と奴隷商人の屋敷は、狼たちの襲撃を受け、死の惨劇の現場となっていた。
「酷いやられようだ……尊厳がない」
現場を目にした騎士団員や警備隊は、恐れ慄いた。
だが、その屋敷にいた女子供や一部の使用人は、傷一つなく無事だった。
「無差別殺人ではない……これが、彼女の言ってた懲罰なのか」
いつもの冷静なセドリックですら、動揺を隠せなかった。
騎士団は、ナタクロス監獄のある川へ重い足取りで移動した。
顔は全員青ざめ、歩く速度も鈍い。
ネスレも、いつもなら「気合いを入れろ」と鼓舞するはずだが、あえて沈黙。
形式的に追撃しているだけで、戦闘を仕掛ける騎士が出るのは望んでいなかった。
大型軍船が川に並び、大砲をこちらに向けている。
「あの大砲が本物で火を吹けば、王都は火の海になる」
船には、エリシオンの旗がはためいていた。
「あの大型船は、ネグラロサの船に間違いありません」
「知っている……奴ら、我が王国と蜜月関係のはずなのに。くそっ、裏切りやがって」
セドリックは悔しそうに土手の土を蹴った。
「王子、それは違います。奴らが蜜月だった相手は、昔から王国ではなく、アストリア様です」
「そうなのか? ではなぜエリシオンと手を組む……まさか、ヴァイオレット王女の亡命先なのか……」
兄や取り巻きが宰相フェニックスに王女殺害の罪を着せる計画を立てたが、事前に察知され失敗。王女もろとも逃亡した。その中にアゼリアがいた。
「はい。アゼリアは王女と共にいます。セレナ様は妹のことを知っていた。だから私たちは見逃されました」
「ああ、そういうことか……」
王国騎士団を乗せた渡し船は、白い旗を揚げてナタクロス監獄に着いた。
大陸最大の国家の騎士団にとって、味わったことのない屈辱だ。
だが、誰も口にせず下を向いていた。
「王国にも誇るべき海軍がある……今すぐに準備できないが」
誰かが呟く。だが、それでは意味がない。今は魔物との戦闘中だ。
※
ナタクロス監獄の門は破壊され、門番は雷で全員気絶。コリンズは見せしめのように死体を晒されていた。
門の上で翻る旗は、エリシオン国旗と白旗。
「まだだ。まだ降ろすな!」
ネスレは慌てて騎士団員の行動を止めた。
監獄では、牢屋に閉じ込められた(いや、閉じこもっていた)看守たちが解放された。
「助かりました。さすがセドリック王子様の第二王国騎士団です!」
「何があった?」
聞くまでもなく、制圧は一瞬で終わり、立ち向かった者は意識を刈り取られていた。
「良かったな……獣人族に危害を与えてなくて」
コリンズが、つまらぬ策を弄さず死んでくれたことを、セドリックはありがたく思った。
「はぁ……それで我々はどうしましょうか?」
看守たちの呑気さに、セドリックは苛立っていた。
『狼に牢に入れと言われ、無抵抗だったお前らが、あの軍船に攻撃を? 私が指示したら、お前たちは戦えるのか?』
だが言葉には出さなかった。
『ここを修理しろ。俺たちが攻撃する』と思われているのだろう。
※
セレナたちを乗せた船は、王都を流れる川を下り、海へと去って行った。
王都、王城。謁見の間。大臣以上が参加する緊急会議。
「エリシオンというハイエルフの国と和平を結びました。奴隷法に反した者たちは共同で摘発しました」
外務大臣ナツカが吠える。
「セドリック様、勝手に交渉をされて困りますぞ! 奴ら、この国で暴力行為をしておりますぞ! 我が一族も他の貴族や商人すら殺されておりますぞ! それを和平などとは」
「それらの者は法に違反していた。それに、獣人族への危害もありました」
セドリックは商会連合から提供された資料を示す。
「はっ、獣人ごときと我らの命を同じと言われるのか? 裁判にもかけずに。それと奴らはナタクロス監獄を壊し、コリンズを殺したんだぞ! 他の者はどう思われるのか?」
一部の貴族は賠償を求め反発した。だが大多数は下を向き、商会連合の圧力に従っていた。
「そうだ! 奴らにはそれなりの賠償を支払ってもらおう!」
「待て待て。南方とも西方とも連絡がつかない状態だ。魔物との戦闘中に、ハイエルフとことを構えるなど、正気の沙汰ではない」
アゼリアとネスレの父、四大侯爵の一つ、東部侯爵オルフィン侯爵が静かに言った。
0
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた
季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】
気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。
手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!?
傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。
罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚!
人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜
昼寝部
ファンタジー
2XXX年、X月。
俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。
そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。
その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。
俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。
これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる