アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

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セーヴァスに吹く風

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ヤハタの元に、第二王国騎士団壊滅の情報がもたらされたのは、数日経ってからだった。
「魔物の作ったと思われる柵が、峠の休憩所の手前に出現しました」  

「奴ら、ついに来たか……」
「それだけではありません。柵の槍先には、騎士団の首が並んで晒されていました」
報告を聞いた瞬間、空気がひどく重くなった。

ゴブリンたちは、焼け焦げにされた騎士の頭を無惨にも並べて嗤っていたのだ。
「そして、その中には、副騎士団長と、侯爵の姿も……」

「……そうか。報告しよう」
ヤハタは、胸の奥に冷たい鉛のような重みを抱えたまま、セーヴァス城へと足を向けた。

マリスフィア侯爵領を守る関所は、防衛陣地として作り替えられ、守衛も侯爵軍が参加していた。

「ヴェスバス様、救出から数日で、ここまでとはな……」
共和国との街道にも魔物が現れ、襲撃を逃れた村民が次々とセーヴァスへ流れ込んでいた。

まるで祭りでもあるかのように人で溢れかえっているが、その顔には笑顔のひとかけらもなかった。

城の執務室には、ヴェスバス公爵の指示を仰ぐ者たちが長い列を作っている。
「悪いが、至急の用だ」
「こら、順番を守れ!」
政務官から冷たい視線を浴び、老貴族には怒鳴られる。

「防衛部隊から緊急のご報告です! 許されよ!」
その言葉を聞いた瞬間、列の者たちは息を呑み、すっと道を開けた。

執務室には、公爵のほか、アルマダとオタルの姿もあった。
「何があった?」
短く問う声が、張りつめた空気を震わせる。
「……ご子息が亡くなられました。魔物に襲われ、第二王国騎士団は壊滅したと思われます」

一瞬、時が止まったかのようだった。
「そうか……王都からも、エドガーが帰還していないと連絡があったばかりだ。間違いないだろう。……馬鹿な子だ」

その声は静かだったが、沈んだ響きが胸に残る。
ヴェスバスは、息子に武の才も執政の才もないことを知っていた。それゆえ領内の貴族たちから支持を得られず、孤立していたことも。

それでも、血を分けた子である——。
「お悔やみ申し上げます。それで……」
ヤハタは、魔物の侵攻について淡々と報告を続けた。

「わかった。偵察軍を編成しよう。アルマダ、一緒に行ってくれるか?」
「すまん。前に話した王都からの船団が港に到着する。受け入れをしないといけない。お前にも立ち会って欲しいのだが」

「それでしたら、私が代わりに行きましょう」
王国冒険者副ギルド長のオタルが、静かに立ち上がった。

「すまんな。偵察が終わったら、討伐部隊を編成する。……仇は討たせてもらうよ」
ヴェスバスは、ほんの一瞬、寂しそうな顔をした。その表情に気づいた者はいたが、誰も口にはしなかった。


 獣人族を乗せた大船団の旗艦。
 王都からセーヴァス沖まで、彼らは長い海路を進んできた。大人数を最も早く安全に運ぶための方法だった。

「あー、やっと陸地が見えてきた。ねえ、あそこに見える小さい島は何?」
セレナが手をかざしてコールに尋ねた。
「あれですか? ああ、海賊島です。上陸することは禁止されています」

「なんで?」
「ネグラロサの決まりです。昔は、あの島が我らの本拠地だったこともあるんですよ」
「ふうん……あの島、普通じゃないね」
 風が一瞬止んだ。

 波間に揺れるその島は、まるで海そのものが息を潜め、見守っているかのようだった。
 船団はやがて、セーヴァスの港に入った。
「やっとついた。行くわよ!」

 高い船の甲板から、苦もなくセレナは埠頭に飛び降りた。
「ワオーン!」
ルナを先頭に、数十匹の狼が後に続く。

 船で体力を持て余していた狼たちは、甲板を駆け回り、埠頭に降りるとさらに興奮して走り回った。
「お待ちしておりました」
ケイオスが出迎える。

「お腹減ったぁ!」
 セレナは埠頭沿いの出店から漂う海鮮の香ばしい匂いに釘付けになった。

「出鱈目だな、セレナ!」
 アルマダが両手を組み仁王立ちして睨む。だが、セレナは前に遭遇した時のように怯えることはなかった。

「ふふふ、国民を連れてきたわ。歓迎してね、おじさん!」
 故郷への里帰りと、亡き一族の加護により、彼女はアルマダを凌ぐ力を手にしていた。

「ああ、お前強いな。久しぶりだ。俺より強いと感じられるやつは……」
 顔を引き攣らせ、アルマダは答えた。

「わかるの? さすがねー」
「セレナ様、出店は全てネグラロサ商会が運営しております。食べ放題で、エリシオン国民の歓迎をさせて頂きます」

 ケイオスが、二人の間に入って説明した。
「飯を食い終わったら、これからの話をする」
「えー。あとは任せるわ。あきらのところに先に帰るわ」

「駄目だ! 国民を護衛して国まで連れてこいとの、国王からのご命令だ」
「わかった。ルナ、そういうことだって。食事にしなさい」

「ワオーン!」
「ワオーン、ワオーン!」
 狼たちは、彼ら用の店に並び、骨付きの生肉をもらって食べ始めた。

 船からは、次々に獣人たちがタラップを降りてくる。
「悪いがここで入国審査だ」
「面倒なことやるのね?」

「ああ、だが必要なことだ。奴らの家財道具の引き取り交渉も王国と行わないといけない」

「任せたわ」
 セレナは、一足早く出店を回って楽しみ始めた。

 ハートフェルトとリアナが中心に、船の中で作ったリストを取り出し、審査を始めた。
 あのカフェの親子も列に並んでいる。

「エリシオン国民となることを誓います」
「おめでとう!」
 港に吹く潮風は、遠く峠を越え、血と煙の匂いを運んだ場所を通り過ぎ、遠く峠を越える。

 新しい国の夜明けを告げる風が、セーヴァスに満ちていた。
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