アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

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ウエストグレン ※旅に出る

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 ハートフェルトはアズーリア村の緊急事態を伝えるため、まずダリオスの家を訪ねた。ウエストグレン、町の外れにある一軒家には独り身のダリオスが住んでいる。

 しかし、家は静まり返っており、彼は不在だった。

「何処に行ったんだろう?」やむなく、彼は立ち去った。

 次にケイオス商会を訪れ、出迎えたケイオに詳細を伝えた。ケイオスはすぐさま事態の深刻さを理解し、町長には大商会を通じて、冒険者ギルドにはハートフェルトが直接報告することに決まった。

 ハートフェルトがダリオスの行方を尋ねると、ケイオスは困惑した表情を浮かべ、
「昨日の夜から姿が見えない。見つけたら知らせてくれ」と逆に頼んできた。

「わかりました」

「まあ、いつものことだろう。師匠には困ったものだ」

 そう言いながらも、ケイオスの顔に浮かぶ不安の色が消えることはなかった。

 アキラたちに会ったことは言わなかった。特別な客であり、命の恩人でもある彼らをどう扱うべきか、ハートフェルト自身も迷っていたのだ。

 冒険者ギルドに向かい、受付で副ギルド長との面談を求めた。

「フェルが来るなんて珍しい。」 

 小柄なエルフの受付嬢リアナが親しげに話しかけてきた。

 彼女は副ギルド長の妹であり、町の小さなギルドでは受付も兼任している。

「ルーカス兄さんなら、2階のギルド長室にいるよ。今なら誰もいないはず。」

「ありがとう」

 ハートフェルトは感謝の言葉を告げ、小さな階段を駆け上がった。扉をノックし、来訪をつげた。

「ハートフェルトです。ご報告に参りました」

「どうぞ」

 優しい声が部屋から返ってきた。扉を開けると、美しい痩せた青年が書類仕事をしていた。ルーカス副ギルド長だ。

「どうしました? フェルが来るなんて、何か事件でも?」

「アズーリア村が魔物に襲撃されました」

「村や村人の被害は? どのような魔物だ?」

 ルーカスは、何かを予測していたようでもあり、慌てているような質問を投げかけた。

「建物は破壊され、村人は姿を消していました。魔物の姿も見当たりませんでしたが、オーガの可能性が高いです」

「どうしてオーガだと?」

 ルーカスは疑問の表情を浮かべた。フェルが魔物に詳しくないことを知っているためだ。

「すみません。大きな足跡と棍棒の跡があったので、違うかもしれません」

「情報提供ありがとう。だが、村を襲う魔物となると高レベルの冒険者が必要だ。冒険者ギルドとして、依頼があれば捜索や調査を行うが…」ルーカスは考え込んだ。

「しかし、アズーリア村は町からも近い。このまま放置するわけにはいかないのでは?」

「そうだな。町長には伝わっているのか?」

「ケイオス商会から大商会を通じて、連絡を入れてます」

「それならば心強い。この町の防衛兵だけでは手薄だからな」彼は一息つくと続けた。

「実はエルフの村からも、近隣の森に異変の気配ありとの連絡があった」

 村を捨てたエルフに、エルフの村から連絡が来ることはほとんどない。

 それだけに異常事態であることは明らかだった。伝書鳩で伝えられた書面には、ハイエルフからの情報とあった。

 閉鎖的で高慢だとされるハイエルフが伝えたことに、ルーカスは驚きを隠せなかった。

 実際に人間の村が襲われたことで、彼は事態の重大さをようやく理解した。田舎のギルドでこんな事態が起こるとは想定外で、若い彼には重責がのしかかっていた。

「それで、どうするつもりですか?」

 ハートフェルトが切り出す。

「町長に伝わっているなら、迅速に対応しなければならない。現在出しているクエストは全て即時中止し、王都や近隣のギルドに援軍を要請する」

「では、アズーリア村には?」

「高ランクの冒険者が必要だ。しかし、この町の防衛が最優先だ。リアナ、緊急事態だ!」

「何? 兄さん」

 リアナが部屋に駆け込むと、エルフの兄妹はすぐさま打ち合わせを始めた。
ハートフェルトの望む村への緊急派遣は後回しとなった。

 彼は、もう一つのするべきこと。アキラに頼まれた商品の手配に取り掛かった。

※※※

 山吹が兄の隠していたものを見つけたのは、自分の部屋の押し入れだった。女性用の化粧箱がひっそりと隠されており、長い間その存在に気づかなかった。

「こんなところに…」

 彼女は、誰にもいない部屋を見回して、ふぅっと息を吐いた。

 箱を開けると、中箱があり4桁のナンバーロックが施されている。兄らしい、少し過剰なくらい慎重な方法だった。

「こんな数字で…」

 兄の生年月日、自分の誕生日、あの人の記念日――いずれも違う。数字を並べる感覚が、どこか不気味な感じがした。

『アルカディア』――A(1)、R(18)、C(3)。つまり、1183。

かちゃりと、あっけなく鍵が開く音が響く。こんな簡単なら、あの人に見つかる。

 箱の中には、無造作に物が詰め込まれていた。おもちゃ、古いチケット、そして思いがけないもの――女性の写真集が一冊。


「馬鹿兄貴が…!」
顔を真っ赤にしながら、山吹は箱の中身を一つ一つ取り出し、無意識に次々と目を通す。その途中、幾つかの手紙の束を見つける。

一つの束は、あの人からのものだった。残りの二つの束の一つは、入院していた女の子からのものだとわかる。

「もてるじゃないか、あの野郎…!」

 そこに書かれていた住所を、携帯にメモをする。この街からだと、泊まりのツーリングになりそうだ。

 山吹は手紙を見つめながら、その重みを感じる。だが、目を引くのは、それだけではなかった。箱の底に触れると、さらに一冊のノートが出てきた。

表紙には、興味深いテーマが記されている。

「AIにおける仮想世界の構築…?」

 そのタイトルが、気になった。山吹はノートを手に取り、少しの間じっと見つめた。中身がどうであれ、これはただの遊びではないことが直感で分かった。

「後でじっくり見よう…」

 山吹はそのノートを、慎重にツーリングバッグにしまう。箱の中身を元に戻し、手紙もきちんと整理して、再び元の位置に箱を戻す。

「戻しておこう、誰かに見られる前に…」

 深呼吸を一つし、山吹は部屋を出る準備を整える。

 大学生の彼女は、時間の自由がきく。バイクに跨り、マンションを後にした。
  
 兄を探す旅にでる。
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