アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

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牙狼の森攻防戦とルナの怒り

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セレナが感じ取った敵の数は二桁以上。一度に侵入してきた数としては、最大となる。

「奴ら、匂いを消している。ルナ、セレナ、油断するな!」彼女はいつにもなく本気の声を張り上げた。
「セレナ、マップ機能上での敵の反応は四十くらい居るぞ。場所を教える」アキラからの連絡が入る。

 新しいスキル「遠隔通信」を、全員で取得した。心配性のアキラが指示して、取らせたものだ。
「二箇所に別れて、河を上陸するようだ。その場に止まっている。迎え撃つつもりだ。背水の陣だ。気をつけろ!」

 セレナ達は、比較的近くて多くのオークがいる河の下流に向かう。
「アキラ、上流の敵はどうしよう?」
「数は少ないし、僕が向かうよ」
 アキラはアリアに事情を説明し、単独で向かうことにしたが……

 下流に到着すると、敵陣地が築かれていた。鋭利な木の杭で組まれた柵に、長く研ぎ澄まされた投げ槍を持つオークが待機している。
「自分から檻に入っているとは……」セレナは呆れ、やる気を失った。
「ノクス、一発、戦闘開始だ!」不意打ちを好まないセレナが、ノクスに敵陣に矢を射させる。
 セレナ達が正面から堂々と姿を現すと、オーク達に緊張が走った。

「鑑定!」セレナは、アキラから指示された新しいスキルを使う。
 オーク達が投げ槍を大量に放つが、ノクスの放つ風矢がその軌道を狂わせ、セレナ達の瞬発力で攻撃は当たらなかった。
 セレナは、近くに落ちた投げ槍をひょいと避け、投げ返すと、1匹のオークに命中した。

「ジャベリンスロー! これ、面白い! スキル取っちゃった!」落ちている槍を次々に投げ返す。

「また勝手に……。私は許可をもらってますから」ノクスは、新しく取得したスキル「土の矢」で、柵や盾を壊していく。敵の陣地が少しずつさらけ出されていく。

 静かな前哨戦は、突然終わりを告げた。
「我が名は、ガルム。猥雑で矮小な狼どもよ、お前達の行く末を見せてやろう!」1匹のオークが、高台に登り大声を出した。

 そして、彼は朽ち果てた狼の剥製を粗雑に袋から取り出し、見せつけた。

「ありえない」ノクスは呆然とする。

 ルナは怒りに駆られ、ガルムに向かって駆け出した。

「ルナ! 行くな! 罠だ!」セレナの制止も耳に入らず、牙狼は突進した。陣地の前にある深く広い落とし穴に、普段のルナならば絶対に落ちることはないが、見事に嵌ってしまう。怒りに我を忘れてしまったのだ。

「今だ! 投げ込め!」オーク達が一斉に槍や石を穴に投げ込んだ。「クゥン……」ルナの弱々しく傷ついた呻き声が響く。

「お前達! 一人も生きて帰れると思うなよ!」セレナの目が怒りで燃え上がるように鋭く光った。

「ノクス、船を焼け!」
「了解」
 ノクスの火矢と土矢が、正確無比に敵船を襲う。乾いた木材に火が移り、瞬く間に炎が広がった。数艘の船が燃え上がり、逃げ場を失ったオークたちが悲鳴を上げる。

「ガルムとか言ったか……楽に死ねると思うなよ」セレナは剣を高く掲げた。

 次の瞬間、空を覆う黒雲が轟き、稲妻が陣地を直撃する。雷撃は止まらず、連続して落ち続けた。
 オークたちの皮膚が焼け、陣地のあちこちで炎が上がる。セレナの「雷剣」は、オークの魔法防御すら容易く貫いていった。

 ノクスは戦況を見渡しながら、ルナの落ちた穴へと駆け寄る。
 ――そこには、驚くべき光景が広がっていた。
 ルナは無傷だった。

 自己治癒の力で体を緑色に淡く光らせ、まるで何事もなかったかのように立ち上がる。その足元には、彼女に刺さることなく落ちた大量の槍が転がっていた。
 ノクスに気づいたルナは、悪戯がばれた子供のように、にこりと微笑む。

「ワオーン!」

 一声吠えると、ルナは「跳躍」で穴を軽々と飛び越え、オークの陣地へ突進する。セレナの雷を纏う新スキル「雷狼」が発動し、蒼白い電撃がルナの体を包んだ。

 雷を帯びた狼が疾走し、閃光が迸る。オークたちは次々に感電し、黒焦げになって倒れていった。

 雷光の閃きと咆哮の中、ルナの牙狼爪が敵を引き裂いていく。
 オークたちの戦意は完全に崩壊した。

 ガルムも逃げようと背を向ける――だが、そこにセレナが立ちはだかる。

 彼女は剣を鞘に納め、静かに告げた。
「お前の相手は、私ではない!」

 そして、ルナへと顎をしゃくる。
「好きにしろ!」
 ルナがガルムを見据え、一歩踏み出した。

「ワオーン……」
 怒りの咆哮が響き渡った瞬間、ガルムの運命は決まった。

 セレナは背を向け、川を泳いで逃げようとするオークたちに容赦なく雷剣を振るう。
 暗闇の中、大河に雷が落ち続ける。

 ノクスも土の矢を放ち、岸へたどり着こうとする者を次々に沈めた。
 普段のセレナなら、逃亡者を許すことが多い。だが、この夜だけは違った。彼女の魔力が尽きるまで、戦いは……いや、無慈悲な攻撃は続いた。



 大河の対岸、別の場所で戦闘の様子を見守る二人がいた。
 ザルムとドルド。

「……あんな悪趣味なもの、誰が渡したんだ?」 ザルムは訝しげに言った。
 彼が渡した荷車には槍と柵しか載せていなかったはずだ。だが、あの狼の剥製は一体誰が持ってきたのだろうか?

「狼、いや、鬼め!」
 ザルムは言葉を呑み込んで、弟の悲惨な最期を目に焼き付けるように静かに見つめた。

「なるほど、これが狼の実力か」
 軍師トルドは冷静に語った。その顔には引き攣った笑顔が浮かんでいる。

「まあ、これでオークを差し出すことで和平の道が開けるかもしれませんね」


 一艘の船がオーガ領に戻ってきた。
 誰も漕いでいる者はおらず、まるで何者かの風に押されてきたかのようだった。
 船の中には、切り刻まれたオークが一匹横たわっていた。
 雷に打たれていないその体は、顔がぐちゃぐちゃに歪み、恐怖に満ちていた。そして両手と両足には無数の噛み跡が残っていた。
 
 楽に死ぬことなどなかった。
「見せしめか……」
 
その死体が、狼の怒りの証であることは一目で分かった。
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